「20代起業家よ。“日本最強”の時代を思い出せ!」──“イーロン・マスク超え”に命を懸けるテラモーターズ徳重が説く、80年代の日本人起業家マインド

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徳重 徹

1970年生まれ山口県出身、九州大学工学部卒。住友海上火災保険株式会社(当時)にて商品企画・経営企画に従事。退社後、米Thunderbird経営大学院にてMBAを取得し、シリコンバレーにてコア技術ベンチャーの投資・ハンズオン支援を行う。2010年にEV事業を展開するテラモーターズを起業、アジアを中心に年間3万台のEVを販売する事業に育て上げる。その後、2016年にはドローン事業を展開するテラドローンを設立し、世界で勝てる事業の創出へ挑んでいる。著書に『「メイド・バイ・ジャパン」逆襲の戦略』(PHP研究所)千葉大学大学院融合科学研究科非常勤講師。

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「もっと世界に目を向けて戦える、日本人起業家が増えるべき」──。

とテラドローン代表取締役社長 兼 テラモーターズ 取締役会長・徳重 徹氏が語った前回の記事、「日本人には“蛮勇さ”が足りない!テラドローン徳重が体感した、世界で勝つ起業家の思考回路とは」。

それから約4年が経ち、徳重氏とテラグループはさらにその歩みを進めている。EV領域を主戦場とするテラモーターズはEV三輪事業にてインド市場のトップシェアを獲得。そしてドローン領域のテラドローンは世界No.1のドローン企業として評価されるまでに成長を遂げた。さらに堅調な既存事業に加え、2021年には建築業界のDXを手掛けるテラDXソリューションズを設立、そして2022年にはテラモーターズにて四輪向けEV充電サービス『Terra Charge』という新規事業を立ち上げたのだ。

世界を股にかけ、よりダイナミックに事業を加速させるテラグループの勢いを支えるのは、やはりこの男・徳重氏。その成長速度に関して、自身でも「僕は現在52歳ですが、僕の成長曲線は45歳からが一番成長している」と語るほどだ。

前回の取材から4年の時を経て、今の徳重氏にはどんな世界が見えているのだろうか。ユニコーンに王手をかけるテラグループの、事業創造に対する哲学を紐解きながら、グローバル最前線で勝負を挑む徳重氏の生き様に触れていこう。

  • TEXT BY MAAYA OCHIAI
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
  • EDIT BY TAKUYA OHAMA
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失われたのは“蛮勇さ”。
世界一の経済大国から陥落した日本の現状

テラグループの創設者である徳重氏。彼の起業家としてのスピリット、その大胆な経営手腕は度々話題を呼び、“並の起業家ではない”ことは多くのFastGrow読者の知るところであろう。また、上述した実績もさることながら、テラドローン取締役の関 鉄平氏や、テラモーターズ取締役兼COOの中川 耕輔氏をはじめとする、世界水準の若手事業家を育てあげたことでも注目を集めている。

そんな徳重氏が今回の取材において幾度にわたり強調していたのが、昨今の日本における若手ビジネスパーソンの“視座の低さ”である。特にベンチャー・スタートアップ界隈においては「起業家の視座の高さこそが、事業成長の早さと確度を決める」とはよく言われること。 徳重氏がこのように警鐘を鳴らす理由は、2000年代以降における、日本企業のプレゼンス低下にあった。

徳重 まず伝えたいことは、日本の起業家にはもっと視座を高く持って欲しいということ。より具体的に言えば、「30年前の日本人が持っていた起業家マインドを取り戻して欲しい」と考えています。

30年前、つまり1990年頃、当時僕は大学生だったんですが、日本はまさに“世界最強”でした。これは1989年の世界企業の時価総額ランキングですが、ご覧の通り日本の企業が上位を独占しています。

FastGrowの過去記事より引用

徳重簡単に言うと、僕はその頃の日本の空気感や雰囲気を取り戻したいんです。世の中が、経済が、そして事業がどんどん伸びていく前のめりな感じ。例えるなら、勝負に負けていても、修羅場でも恐れずに飛び込んでいくような心意気ですね。

これに対して、今の日本はどうでしょう。世界の中で完全に負けていますね。今でも覚えているのは、2000年頃、僕が「何やらサムスンという面白い企業がある」と周りに話すと、みんなが口を揃えて馬鹿にしたんです。そう、当時ソニーとサムスンを比較するなんて失礼な話だったんですね。だけど今はどうか。「ソニーが最高益で復活!」などと言われたりしていますが、現実としてサムスンに時価総額で3倍の差をつけられていますよね。

1990年までは日本の企業が世界の時価総額ランキングトップ5を独占していた──。そう、まさに当時日本は世界最強の経済大国だったのだ。しかし、1991年から始まるバブル崩壊以降、日本の経済は長らく停滞することになる。

現在の日本で時価総額TOPを誇るトヨタ自動車でさえ、世界規模で見れば40位にまでその地位を落とした。そんななか、同じ自動車メーカーで現在世界No.1の時価総額を誇るのは、イーロン・マスク氏がCEOを務めるTeslaだ。その時価総額はなんと約130兆円(2022年9月時点)であり、トヨタに約4倍の差をつけるほどの“圧勝”ぶりである。

自身でも「イーロン・マスク氏をベンチマークしている」と表明し、奇しくも彼と同じEV事業に挑む徳重氏。彼はこの状況にある種の“怒り”を感じる一方で、日本が再び“強い国”に舞い戻ると確信している。その理由を問うと、「日本人が本来持ち合わせるポテンシャルは、世界で活躍する一流の事業家と比べてもなんら遜色がないからです」と徳重氏は答えた。

徳重僕が事業家として奮闘する原動力には、この日本の状況に対する“怒り”みたいなところもあります。「僕が日本最強の時代を知る最後の起業家である」という自負こそが、「世界で勝てる新産業を創出する」というミッションを生み出したと思っています。

仮に、日本が世界と比べて、事業開発や経営手腕の観点で劣っているのであれば仕方がないでしょう。でも、僕は日本人がこれらの能力で世界に対し劣っているとは一切思っていません。実際に、昭和の名経営者たちは世界一を獲れたわけですから。もちろん、一部天才もいるのでしょうが、海外の起業家だからといってすべてが日本人より優れているわけではない。むしろ、海外のレベルを肌で感じるほど、ほとんどの日本人は負けていないと確信しています。

にも関わらず、日本がここまで衰退してしまった理由として、一橋大学の名誉教授・野中 誠二郎氏が挙げる“過剰な計画崇拝”、“過剰な分析主義”、“過剰な法令遵守”の三つがあると思います。加えて、日本に根付いてしまった過度な減点主義が、建設的な議論を阻みチャレンジ精神を削いでいる。

もちろん、「計画やコンプライアンスを軽視しろ」と言いたい訳ではありません。ただし、“行き過ぎ”が閉塞感を産み、可能性を根絶やしにしてしまうのも事実。もし、イーロン・マスク氏が日本で会社を経営していたら、仮にあれだけの成果を残していても即刻クビですよね(笑)。

そんななか、1980年代の日本企業は、いわゆるベンチャー企業然とした、非常にバイタリティある組織だったんです。大企業の経営者がどんどんメディアに出て、言いたいことを好き放題に言い放っていた世界でした。京セラ、JAL再生の立役者・稲盛 和夫さんだって、当時は“インテリヤクザ”なんて言われていましたし、元住友銀行の頭取にして経団連の副会長にまで上り詰めた磯田 一郎さんも『修羅場に飛び込め』と彼の著書で訴えています。

磯田一郎の“向こう傷”を恐れるな!

著者 上之郷 利昭
出版 三笠書房(1989/11/1)

徳重そんなアグレッシブな歴史があるからこそ、日本の起業家にはもっとチャレンジして欲しい、視座を高く持って欲しい、蛮勇であって欲しいと願っているんです。近年流行りのバーティカルSaaSがダメというつもりはありませんが、どうしてもニッチな領域を攻めることになるので、スモールIPOになってしまいがちなんです。

もし、「真に社会にインパクトを与えたい」「1980年代のように世界でトップを獲りたい」と本気で思う若者がいるのであれば、日本の価値基準に囚われず、グローバルな視野で、そして何より次世代のインフラをつくれるような環境に飛び込んで欲しいと思っています。そのためにも、まずは僕が先陣を切って道を示す必要があるんです。

熱量高くメッセージを発する徳重氏。しかし、同氏はここ数年海外を拠点に活動していたことから、日本メディアへの露出機会は少なく、「もしや事業も、起業家としても失速してしまったのでは......」と感じていた読者も少なからず存在していたのではなかろうか。だが、その懸念はすぐさま払拭される。彼が発するエネルギー、熱量の高さといった、“内側にたぎる想い”、そして起業家としての視座の高さに触れると、今なお健在......いや、前回のインタビューよりさらにアップデートされていたことが明らかとなった。

そんな徳重氏が率いるテラグループは、彼の想いが如実に体現されている組織だという。特に若手に懸ける期待度、そして先に挙げた元住友銀行の頭取・磯田氏も「成長に欠かせない」と語った“修羅場体験”の豊富さには、取材陣も驚きの連続だった。

徳重氏が例として挙げただけでも、数億円を1ヶ月で溶かしたメンバー、2度のPMIに失敗したものの現在は執行役員として活躍するメンバー、2週間で100名規模の記者会見のセットを依頼されたメンバー、などなどいるようだが......。次章よりいよいよ、そんなテラグループの現況や若手の奮闘について見ていこう。

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僕がイーロン・マスクになれなかった理由、それは“クレイジーさ”の不足

徳重氏が最も注力している事業、それがテラモーターズの運営するEV事業だ。この事業、実はスタートしたのは2010年。ここ数年で日本においても電気自動車の需要が高まりを見せている中、約12年も前からこの市場に張っていたのだ。

ちなみに今年、Tesla CEOのイーロン・マスク氏が、世界長者番付において、前年まで4年連続1位だったアマゾンの創業者、ジェフ・ベゾスを抜いてトップを飾ったことは記憶に新しい。そんな世界最高峰の起業家が、最初の電気自動車『TESLA Roadster』を販売開始したのはなんと2008年のこと(04年にTeslaに投資し、08年にCEOとなって本格参戦)。

徳重氏もベンチマークするイーロン・マスクですら、機を掴み取るのに10年以上の歳月を要したのがこのEV領域なのだ。先見の明を持つ優れた起業家であっても、テクノロジーの成熟度と市場が急拡大するタイミングを掴むことは難しい。徳重氏もそのことを理解しながら、その上で事業開発において最も重要視している点が“当たりを見つけること”だと言う。

徳重僕は起業家として成果を挙げるためには、“世の中の潮目を読み、事業の当たりを見抜くことがすべて”だと思っています。そこが間違っているとどんなに優秀な人が取り組んでも結果は出ません。

人やお金を集めること、または会社の価値を高めることよりも、スケールする事業を見極めることこそが最も難しい。起業家にとっては世の中の大きな流れを読むことが最も重要なのです。

徳重氏がイーロン・マスク氏と同様に早期からEV事業に参入したのは、もちろんそこに勝算があったから。ドメインの選定やその後の展開、施策を行う中で「『たまたま当たった』ではダメだ」と念を押す。

徳重たまたま当たるって、リスクがありますから。新規事業はチャレンジ精神も大切ですが、蓋然性も非常に重要です。かつ、スモールIPOではなくユニコーンを狙えるような事業に挑むべき。今われわれが行っているEV、ドローン、建設DXではその可能性がかなり高くなってきています。

テラモーターズが最初に開発したのはEV二輪だった。目指していたのは「Teslaの二輪バージョンをアジアで」というもの。発売当初はスマホで動くスクーターの斬新さから国内外問わず注目を集めたことからも、「見ていたビッグトレンド自体は間違っていなかった」と徳重氏は振り返る。一方で、ベンチマークしていたTeslaのような、爆発的な成長を実現できなかった理由について、このように分析している。

徳重2010年当時、Teslaのように本格的にEVで四輪を実現するって本当に“クレイジー”なことだったんですよ。当時の技術や実現可能性を考えると、あり得ない、あまりにも無謀に見えるレベルでした。でもその後、色々なマクロ要因も相まって、マーケットが追いついた。僕はその可能性にフルベットできなかったし、潮目を見抜けなかったんです。そこにこそ、僕がイーロン・マスクになれなかった要因があったかと思います。

テラモーターズはインドでEV二輪を展開していく中で確かな手ごたえを感じつつも、競合の増加で差別化に苦労していた。そこで、Teslaが果敢な挑戦の末にEV四輪で覇権を獲得できた事実を踏まえ、徳重氏も大胆にEVの“三輪市場”に参入することを決意したのだ。

そこでテラモーターズが目をつけたのが、EV二輪事業を運営する中で土地勘を養い、かつEVの“三輪市場”の拡大が見込めるインド市場であった。インド都市部において『オートリキシャ』と呼ばれる自動三輪車の乗合タクシーは、通勤・通学手段の約2割を占めるほど庶民にとって重要な交通手段であった。しかし、大気汚染をはじめとした環境問題が深刻化したことで、政府も2015年からEV購入者に対する補助金給付など、EV生産早期普及策(FAME)を導入し、国策を挙げて国内自動車のEV化を推し進めていたのである。当然、『オートリキシャ』にもEV化の波が押し寄せていた。

インドのEV『オートリキシャ』市場の成長を予感したテラモーターズは、このチャンスを逃すまいと、2014年に参入を決意し、翌2015年9月には北部に位置するハリヤナ州で販売を開始。その後、市場規模が大きい西のベンガル州などを起点に徐々にその販売実績を伸ばしてきたのである。

そして現在では年間売上台数は2万台を超え、年間売上は20〜30億円、年間売上成長率20〜30%を維持するなど、名実ともにインドでトップシェアの座に上りつめた。しかし、徳重氏はこのインドでの成功に対して1ミリ足りとも満足してはいなかった。

徳重他人から賞賛されようが、僕はこんなレベルでは全く満足していません。よく「上場しないんですか?」と聞かれますが、はっきり言って売上や利益水準だけでみれば、上場できるレベルにはいると思います。そしてEV事業は時流も相まってそれなりの市場評価も受けられるでしょう。

でも、僕たちはこんなところを目指していたわけじゃないんです。なぜなら、目標はユニコーンだからです。今よりも“10倍以上の企業価値にする”、そのことだけをずっと考え続けています。

決して偶然には頼らず、先見性と緻密な分析から世界の大きな流れを読み解く。そして、市場が加熱する前より投資を行うことで、機が熟す前に勝負をつける。イーロン・マスク氏にも共通する事業開発の手腕だが、実現するのはそう容易いものではない。

新規事業なんて1勝9敗が当たり前の世界──。ユニクロ創業者の柳井正氏が記した『一勝九敗』は今でも徳重氏の愛読書だという。徳重氏がこう語るのは、インドで成功を納めるまでにその他の国々で会社が傾きかけるほどの失敗も経験したからだ。その話は後ほど詳しく紹介するとして、次章からはいよいよ徳重氏が今まさに手がけている新規事業の話に軸足を移していこう。

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市場撤退こそが最大のリスク。
新規事業「EV充電インフラ」は既にユニコーン王手か

既にEVの世界販売数はHV(ハイブリッド車)を超え、巨大市場を形成している。また、大局的に見ればこの市場の成長は始まったばかりであろう。一方で、EVの充電インフラはまだまだ世界的に課題が山積み。Teslaの本拠地であるアメリカにおいても、EV車の急速充電が可能な直流充電ステーションの施設数はわずか6.000カ所しか存在していない。同国のガソリン車用の給油スタンドが15万カ所も存在していることからも、まだ圧倒的に“数”が足りていないのだ。そして、この充電ステーションの“数”に対する課題は日本でも同様なのである。

そこでテラモーターズが2022年から手がける新規事業こそ、EV充電インフラサービスを展開する『TERRA CHARGE』というわけだ。常に時代の一歩、二歩先を見据え、市場自体を自らで切り開いてきたテラグループに相応しい事業と言えよう。そんな同社がこの事業に踏み切った背景には、前述した「Teslaほどの企業になれなかった悔しさがある」と徳重氏は語る。

徳重前提として、この事業は大チャンスなんですよ。例えばですが、台湾に電動スクーターなどのEV二輪のスマートバッテリーを提供するgogoroという会社があるんですが、既に上場していて、大赤字ではありますが、時価総額は2,000億円ほどあります。

Teslaやgogoroといった企業は、一見早すぎるともいえるタイミングでの積極投資やインフラ整備で、一躍シェアを獲得し市場を席巻した。しかし僕の場合、過去のEV二輪事業では足元の売上と利益に固執し過ぎたと少し反省しています。

事実、gogoro然り、いま世界で上場しているEV充電インフラを提供する企業は足元の売り上げも、利益率も高くないものの、時価総額は優に1,000億円を超えています。

徳重そんな魅力的な市場ですが、テラモーターズが得意とする日本、インド、東南アジアではまだガラ空きなんです。ここを“テラモーターズ”が獲るんです。それはもうユニコーンどころの騒ぎではないですよ。

過去の類似事例を挙げると分かりやすいと思います。タクシー配車サービスを展開する企業が、それぞれの地域で驚異的な成長を遂げた事例。つまり、アメリカではUber、中国はDiDi、インドはOla、東南アジアはGrabというようにね。それぞれの地域で生活のインフラとなるサービスがローカライズの末、独自に成長を遂げたんです。

なるほど、EV需要の拡大という明確なトレンドが発生している日本、東南アジア、インドにおいて、EV充電のインフラは未成熟。これらの市場を獲ることができれば、ユニコーンどころではない企業価値になる可能性が高い。まさに大チャンスが訪れているということか。

そこで、日本でEV充電のインフラを整備すべく徳重氏が狙いを定めたのが、なんと分譲マンション。2022年3月29日、同社の記者会見に訪れた取材陣の度肝を抜いたのが、その投資戦略にある。なんと「既設マンションには初期コスト無料(テラモーターズが負担)で充電設備を設置する」というのだ。

テラモーターズ・EV充電のサービス概要

初年度は数億円程度の予算を見込み、全国で1,000棟程度のマンションへの設置を進めることを計画中だという。インフラを無料で提供し、その後、利用者からの従量課金でマネタイズを行うこのビジネスモデルは、当然ながら損益分岐点を超えるのに長い時間を要するだろう。しかし、EVの需要が確実に増加していく今後、まずはこの“面取り”こそが必要なのだ。

市場が拡大することは自明、既に海外ではユニコーンを輩出している領域だけに「競合が日本に参入する可能性を楽観視していないか」との声も聞こえてきそうなところ。しかし、ここで徳重氏は「テラがこれまで海外事業展開で培ってきた経験、そして組織のカルチャーやケイパビリティが活きるフィールドである」と強い自信とともに、その展望をあらわにしてくれた。

徳重私が日本に狙いを定めた理由、それは住居環境にあります。ローカライズが難しいんです。例えば欧米では戸建てが中心ですが、日本の場合、共同住宅が多いですよね。特に現在の分譲マンションにおいては、住民のEV保有率が低く、なかなかマンションオーナーがインフラ整備に踏み切るのは難しい。『TERRA CHARGE』は、この課題を突破するためのソリューションなんです。

仮に、分譲マンションに10年契約で設置して、最初は1世帯の利用だったとしても、次の年にEV保有が3世帯増えたらその人たちも『TERRA CHARGE』を利用しますよね。10年間、EV使用世帯が増えていけば、広告宣伝費0円でも、自然に『TERRA CHARGE』ユーザーも増えるという仕組みです。それがわかっているから、最初は大きな赤字だったとしてもやるべきだ、こうしたビジネスこそが社会を変えるインフラになるはずだ、という決断を下したんです。

このように、いずれ必ず訪れる未来のため、「誰かがやらなければならないことを自分たちがやっている」と主張する徳重氏。そしてそれらを“なぜテラがやるべきなのか”について話を続けた。

徳重世にはまだ無いインフラをいちからつくり上げるには、相当な経験とケイパビリティを要します。テラには、EV二輪事業にてインド市場を0から開拓した現場力、高いテクノロジーと組織に根付いたスピード感と実行力、さらには資金力という必要な要素が全て揃っていたんです。この点で一番イメージしやすいのが、ソフトバンクだと思います。

2001年頃、日本でまだまだインターネット高速回線が普及していなかった時代に、孫さんは巨額の投資を行い、無料かつものすごいスピードでモデム(ADSLモデム『Yahoo! BB』)を日本全国にばら撒きましたよね。当時ソフトバンクは後発だったにも関わらず、一気に市場を席巻しました。私は今、あれに似たことをやっているんです。

ややもすると、大胆すぎるほどの徳重氏の事業創造スタイル。しかし、チャレンジングに事業を展開をする一方で、自らを「堅実経営をする経営者」と評価している点が面白い。

徳重外から見ると攻めまくっているように見えるかもしれませんが、実はかなり保守的な経営をしています。チャレンジすることやリスクを取ることは大事ですが、会社をつぶさないことが何より一番大事。

僕たちは2010年からEV事業をしています。当時、アジアでも同業者が50社や60社いましたが、そのほとんどが淘汰されていきました。先ほど、「EV二輪事業では足元の売上と利益に固執し過ぎた」と述べましたが、そのおかげでテラは今日まで激しい競争に耐え抜くことができたとも言えます。

つまり僕たちは、最後まで生き残った。会社さえ生き残っていれば、次の潮目が変わるタイミングにも立ち会うことができます。それが今なんです。

市場から退場を余儀なくされること、それこそが最大の機会損失であることが示唆された徳重氏からのメッセージ。その大胆な経営手腕にスポットライトが当たりがちであるが、彼の経営者としての凄みは、このリスクコントロールに対する絶妙な采配にあるのだろう。そのことは、取材を敢行したテラモーターズ社のオフィスが、未だに格安のシェアオフィスを利用していることからも伺い知れる。

ここまで、徳重氏が起業家として事業をつくり上げていく思考回路を紐解いてきた。日本を代表する起業家としてグローバル最前線でしのぎを削る徳重氏、その発言の節々には「自分が日本を建て直すリーダーとして先陣を切る」という気概が感じられる。

そして次に徳重氏の口から語られたのは、日本の若手ビジネスパーソンに懸ける想いと、世界で戦える事業家の心得であった。

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億単位の資金を溶かしても、絶対に見捨てない。
起業家スピリットさえあれば若手には何度でも挑戦の機会を

自らもまだまだ現場の最前線で泥臭く事業づくりに励んでいると豪語する徳重氏。一方で、「ペイパルマフィアに負けないテラマフィアをつくりたい」と語る徳重氏は後続育成にも抜かりはない。関氏や中川氏といった次世代の起業家を育て上げてきた育成哲学を振り返り、経営者としての在り方を積極的に継承しているのだ。そこでもっとも大事にしているのが“修羅場経験”だという。

徳重何より修羅場をいかにくぐり抜けるか、これにかかっていると思います。それを通じて、信念や執念は強くなるし、市場から退場しないためのリスク感覚も学べます。

そしてそれらを一度や二度ではなく、何度も体験する。そうして場数を踏むうちに事業経営に関して大概のことは対応できるようになるんです。

テラグループでは、まさに修羅場のような体験を何度でも味わえる。いわば“道場”のような場所だ。この “テラ道場”で得られるものは、“グローバル事業の場数経験”と“世界トップレベルの高い視座”にある。

取材時に徳重氏が共有したメモ

この図はその“テラ道場”にて、徳重氏がメンバー宛に直筆で記したイノベーションの思考法だ。これはほんの一例に過ぎないが、徳重氏は、メンバーへの事業開発思考のインプットに始まり、提案資料の添削や、打ち合わせや営業プレゼンへのFB、アイデアの壁打ちなどまで、自ら現場で後続の指導にあたっている。

また、徳重氏の指導は現場だけにとどまることはない。世界各国に点在するテラグループのリーダー陣に対しては、ある程度事業を任せられるようになるまで、目安3か月の間は毎日欠かさずオンラインにて壁打ちを行うという。時差もある中、毎日ヨーロッパのメンバーのために朝5時から、インドのメンバーのために夕方6時からといった具合にだ。これらのことから、徳重氏が“場数を与えて放置”、ではなく自ら“やって見せる”ことを重視していることが読み取れるだろう。

徳重これはテラドローンの話なんですが、今年2022年3月に80億円の調達をしたんです。調達の目的は、ベルギーの大手ドローン運行管理サービス・プロバイダーであるUniflyを買収するためだったんですが、そこでかなり色んな無茶をしたんです。

これまでテラドローンはUniflyの株式を17%しか持っておらず、他にも多数の株主がいる中、いきなり51%を取得しにかかり買収までに至りました。また当初Uniflyのバリュエーションは70億と試算されていたので、残りを取得するのに30億円は必要かなと考えていたんです。ですが、実際は15億円で買収したんですよ(笑)。

当時一緒にやっていたヨーロッパの事業責任者をしている植野も、それなりの経験と能力を持つ人間なんですが、「流石にこんなの無理だ...」と投げやりになってしまっていたんですね。植野もロジカルで賢い人間なので、どうしても破壊的な、イノベーション思考がまだ足りていなかったんです。

そこで僕が実際に現場へ出て、15億円での買収を決めてしまいました。それを真横で見てもらう。すると口でどうこう説明するよりも多くを伝えられますし、何より勝手に不可能と決めつけていた視座を引き上げられる。一見無理そうに見えることでも「やってみればできたじゃん」という背中を見せること、植野自身に成功体験を積ませることができました。

植野といえば、実は過去に大失敗を犯しておりまして。ドローン事業をインドで展開したいと志願してきたので、テラドローンのインド支社であるTerra Drone Indiaの設立を任せたんですよ。そこで初年度に立てた15億円という売上目標に対して、結果5千万円の着地だったなんてこともありました(笑)。

徳重ちなみに僕もフィリピンで事業を展開した際に痛い経験をしています。あるプロジェクトにおいて10億円規模の入札を獲得し、6ヶ月かけてプロトタイプを開発していた矢先、明確な理由も伝えられずそのプロジェクトが頓挫するといったことがありました。

この経験を通じて、新興国は甘くないということは肌身に染みて理解しているつもりです。なので、植野の件も先ほどの話までは全然いいんです。ただ、その後がまずかった。Terra Drone Indiaの経営陣のうちの一人が明らかにダメだった。でも植野は解雇することなく、「さらに1億円を追加投資してほしい」と申し出てきました。僕も今振り返ると甘かったなと思いますが、基本的にメンバーのことは信じていますので、追加投資に応じました。結果、3ヶ月の間にその1億円の資金を溶かしまして......(笑)。

普通ならそこで、「何やってんだ」と見限る組織が多いと思うんですが、僕は当人にリベンジする意思さえあれば、絶対に見捨てません。そこから僕もすぐさまフォローに入り、植野もその後、前述したベルギーでのUnifly買収で大きく成長し、今では自分の父親ほどの年齢のUnifly経営陣相手にPMIをこなす、スーパーマンとなっています。

そして今、テラグループの経営陣の関(テラドローン取締役)や神取(テラドローン執行役員)も植野と同じくらいの“修羅場体験”を5〜6回経験しています。

このように“修羅場体験”を何度も体験し、本当に失敗しそうな場面では徳重氏が自ら背中を見せて後続に事業のつくり方を伝えていくスタイルによって、テラグループではどんな事態でも乗り越えられる経営者が確かに育っているのだ。

そしてその根底には、徳重氏自身が失敗を重ねるなかで含蓄してきた“ある価値観”が存在している。

徳重本人から戦うスピリットが消えない限り、何度でもやり直して成功を掴むチャンスがあると確信しています。僕自身が、そして過去の偉人たちがそうだったように、ひどい失敗を重ね自信をなくしても、「また立ち上がりたい、絶対にリベンジしたい」という気持ちがあれば、必ず修羅場体験は乗り越えることができます。そういう人には何度も場を与えて、諦めずに成功体験を得られるようにしています。

近年、日本では優秀な人材がどんどんメガベンチャーに行っていますよね?その流れはもちろんポジティブに捉えていますが、正直、世界で戦えるほどの事業ってあんまり生まれていないじゃないですか。

これはやはり、本来必要な力と、その環境で得られる経験とに乖離があるからだと思います。新規事業の“当たりを見つける力”、つまり社会の潮目を読む・ユニコーンクラスになりうる事業ドメインを見つける部分と、既存事業を成長させるオペレーションエクスペリエンスな部分では、求められる素養が明確に違うんです。

この“当たりを見つける力”は、実際に“当たりを見つけられる人の近く”でとにかく場数を踏み、失敗を重ね、そして成功体験を積むことでしか養うことができません。この経験は中々、メガベンチャーでは得ることができません。当てられる人材がそもそも、一部の経営メンバーにしか存在していないので。

近年は若者の意識が、「事業をつくるために〇〇というスキルを獲得したい」というスキルセットにより過ぎているように感じます。しかし本当に事業づくりで大事なことは圧倒的にマインドセットや、社会の潮目を見抜く眼を養うことです。テラグループでは実践で徹底的に鍛えてもらいたいと思ってます。

徳重氏の圧倒的な視座の高さと実力を間近で体感し、植野氏のように“修羅場体験”を何度もくぐり抜けることで、世界でも通用する事業家が育つというわけだ。

そして何より、冒頭でもご紹介した通り、テラモーターズきっての新規事業であるEV充電インフラ『TERRA CHARGE』は徳重氏が最前線でその指揮を執る。そして今、その徳重氏自ら、仲間を集めているのだ。

徳重『TERRA CHARGE』ほどのポテンシャルがある事業をついこの前までは3人、そして今は15人という人数でやってます。上場も視野に入れているので、すぐに100人に行くと思います。今、飛び込んできてくださる方はその創業期に入れるチャンスです。

そして事業を成長させると同時に、僕も現場に出て徹底的に皆さんの成長に向き合いたい。そして植野のように、僕や世界トップレベルの起業家を真横で見て、自分とのレベルの差を体感して欲しい。そう考えています。

「ユニコーン企業をつくりたい」、そんな意欲溢れる若手ビジネスパーソンにとって、もはやこのチャンスに対してこれ以上多くを語る必要はないだろう。

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人脈、PMFの経験、資金力の“三種の神器”が手に入る。
世界で戦える起業家がテラモーターズから生まれるワケ

テラは創業期より一貫して、スタートアップに精通している者から見ても「スタートアップでありながら、まるで大手商社のようなダイナミックさで事業を行ってきた」と評価されてきた。それもそのはず、そもそもユニコーンたり得る領域の選定から始め、最初からグローバル展開しか考慮していなかったからである。徳重氏の圧倒的に高い視座はどこから生まれるのだろうか?その理由は、ベンチマークする存在の大きさにある。

徳重イーロン・マスクは、僕よりももっとすごい次元で3つ・4つ事業を展開していますよね。0→1フェーズでは事業の当たりを見つけて組織化し、優秀な人をつけてお金を持ってくる。そして拡大フェーズでは組織のカルチャーと、具体の事業施策を磨き込んでいく。このように新規事業のつくり方には一連のフレームワークがありますし、この流れはイーロン・マスクも同じです。

今51歳の僕はこれまでいろいろな失敗をしてきましたが、46歳ぐらいからようやく事業の勘所がわかってきました。まだまだイーロンマスクとはレベルが違いますが、そうした相手でもベンチマークして目指すことこそが大事だと思います。

たとえば、プロとしてJリーグに入ってもヨーロッパに行ったらレベルが全然違います。でも、やるなら「そういう世界でやりたくないですか?」という話です。だからこそ、雲の上の存在であっても、世界トップレベルをベンチマークする必要があるんです。イーロンマスクに比べたら僕なんてひよこレベルだと思っていますが、今でもそこに挑み続けています。

51歳になっても起業家としてこれまで以上の成長を続ける徳重氏。最後に、そんな彼が、そして、テラグループが実現したい未来の展望について聞いた。すると、ここでもまた冒頭より終始一貫して繰り広げられた「日本を再び強い国へ」という徳重氏の信条が伝わってきた。

徳重まずはテラモーターズ、そしてテラグループが世界で勝てる新産業を創出する。そしてその先に実現したいこととして、ペイパルマフィアならぬ“テラマフィア”を輩出していきたい。テラグループに入社した社員には皆、信託SOを付与しているので、上場した暁には数億円レベルのキャピタルゲインを元手に自分で事業をつくり、僕がしてきた事業よりも高いところを目指してほしい。

僕は山口県出身で高杉 晋作が大好きなんですが、この思想は「現代の松下村塾をつくりたい」という僕の願いでもあります。若くエネルギーに満ちた人たちが集まって、切磋琢磨するコミュニティ。例えば、松下村塾の中では新人だった伊藤 博文が、そこで学んだ経験を活かし明治維新をきっかけにその後の日本を大きく前進させた。そんな世界観に近いですね。

そして、まとめにはなりますが、そんな“現代版・松下村塾”であるテラモーターズで、若い人にぜひ得て欲しい経験が3つあるんです。1つ目は、“人脈の大切さ”です。これは僕が与えられるものと、コミュニティで得られるものの2つがあります。

前者は例えば、EVの新規事業において、大手自動車メーカーの元副社長から「応援したい」と細やかにご連絡をいただいています。他にも、ここでは挙げられませんが錚々たる顔ぶれの方々にご支援のお話をいただいているんです。大きなことを成し遂げたいと考えた時には、こうした“熟練の大人たちからの支援”が時に必要不可欠です。

そして後者のコミュニティで得られるもの、それはテラの若い経営陣を筆頭に世界トップ水準に鍛え上げられた同僚との繋がりです。一度、志をともにした仲間と、次は自分たちで一からチャレンジして欲しいなと思っています。

2つ目が、PMFを実際に達成させること。これは本当に甘くなくて、実際に経験してみないと実感できないものです。失敗することももちろん多い。でもテラグループなら、何度もチャレンジして、何度も失敗できる。今ではテラドローンのCOOを務める関ですら5、6回のチャレンジと失敗を繰り返すことで事業の精度が上がり、自信をつけてきました。(詳細はこの記事を参照)

3つ目が、起業時の資金の大事さ。実際のところこれが大きい。10倍、20倍の成長を目指す大きな事業をつくろうと思ったら、絶対に資金が必要です。そしてそれが社会を、そして世界を変えるほどのインパクトを及ぼすものなのであれば、壮大なスケールかつ一定の時間が必要なんです。

そこで、必要となる資金をVCばかりに頼ってしまうと、どうしても早期上場が求められたり、資金が減ることを恐れリスクを取らなくなる。結果、スモールIPOの思考に行き着いてしまうことが多いんです。

徳重その点テラグループは、全てのメンバーにSOを渡しますので、ユニコーンになって上場したらメンバーも少なくても1−2億円の種銭が得られる。すると、VCから調達する必要もないので、制限なく大きな勝負が“初めから”できるんです。

人脈の尊さ、PMFの難しさ、起業資金の重要さ。徳重氏の経験や、これまでのテラグループが培った潤沢なアセットから学びとれる三つの要素を糧に、グローバル規模の事業開発や経営を経験する。そして、徳重氏が再三強調しているように視座の高さやマインドセットまで身につけることができれば、まさしく伊藤 博文のような“維新級”のインパクトある事業を生み出す起業家が、日本から生まれてくるかもしれない。

例え、テラモーターズが手掛ける事業領域への関心がなくてもこの絶好の機会を逃して良いものだろうか。ぜひこのテラグループでしか味わえない環境を“上手く利用し”、自己を成長させ、そして世界へ羽ばたく起業家が増えることをFastGrowとしても願ってやまない。さすれば、日本の夜明けは近いだろう──。

こちらの記事は2022年10月20日に公開しており、
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執筆

落合 真彩

写真

藤田 慎一郎

編集

大浜 拓也

株式会社スモールクリエイター代表。2010年立教大学在学中にWeb制作、メディア事業にて起業し、キャリア・エンタメ系クライアントを中心に業務支援を行う。2017年からは併行して人材紹介会社の創業メンバーとしてIT企業の採用支援に従事。現在はIT・人材・エンタメをキーワードにクライアントWebメディアのプロデュースや制作運営を担っている。ロック好きでギター歴20年。

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