連載ユナイテッド株式会社

「堅牢な指針と、柔軟な事業ポートフォリオで挑め」──ユナイテッド・金子氏に訊く、不確実な時代を生き抜くパーパス経営と3つのコア事業戦略とは

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インタビュイー
金子 陽三

慶應義塾大学総合政策学部卒業後、リーマン・ブラザーズ証券会社投資銀行本部にて金融機関の資金調達や事業法人のM&Aに従事。その後、米国シリコンバレーのVCドレーパー・フィッシャー・ジャーベットソンを経て、2002年、インキュベーション・オフィスを運営する株式会社アップステアーズを設立し代表取締役に就任。2004年に同社をネットエイジキャピタルパートナーズ株式会社(現ユナイテッド株式会社)へ売却。2007年、ngi group株式会社(現ユナイテッド株式会社)取締役兼執行役COO兼投資事業本部長を経て、2009年2月代表執行役社長に就任。2012年12月スパイアと合併、ユナイテッド株式会社代表取締役社長COOを経て、2022年4月より代表取締役 兼 執行役員に就任(現任)。

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経営の理念体系といえば、ミッションとビジョンが“名コンビ”であったのはもはや過去の話だ。ここ数年で、ベンチャーでも大企業でも、IT産業でもレガシー産業でも、といったように企業フェーズや業界を問わず、“パーパス”を経営理念に取り入れる企業が目立つ。

とはいえ、「なぜミッション・ビジョンではなく、あえて“パーパス”なのか」「“パーパス”を定めることで具体的にどんな変化が起こるのか」と疑問に思う読者も多いことであろう。

そこで今回、2022年4月に“パーパス”を策定し、それに併せて全社として注力する事業を新たに「投資」「教育」「人材マッチング」の3つに定める方向に舵を切ったユナイテッドに取材を実施。パーパス策定の舞台裏、つまりその背景や前後での変化に迫ったドキュメンタリーをお送りする。

登場するのは、複数代表体制を敷くユナイテッドにおいて、早川氏と並ぶもう1人の代表取締役 金子陽三氏。「教育事業」「人材マッチング事業」を管轄する同氏からパーパス経営の妙味を存分に語ってもらおう。

ユナイテッドの3つのコア事業の全貌を解き明かす、全10回に渡る本連載。前回までの4連載にて同社の「投資事業」を明らかにした。いよいよ本作からは、3つのコア事業の残り2つのピース、教育事業と人材マッチング事業について、その全貌を明らかにしていこう。

  • TEXT BY MAAYA OCHIAI
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
  • EDIT BY TAKUYA OHAMA
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産業と会社の成熟、これ以上の成長は“パーパス”なくして実現不可

2022年4月。“パーパス”を策定し、「投資」「教育」「人材マッチング」の3つの事業をコア事業と定めたユナイテッド。それによってユナイテッドがどのように進化したのかを理解するためには、その歴史を紐解き、パーパス策定が求められるに至った背景を理解する必要があるだろう。

2012年末、モーションビートとスパイアの合併により誕生したユナイテッド。それ以降、成長するインターネット産業と共に歩みを進め、勃興し続けるトレンドを逃すことなく成長を遂げてきた。

自社事業の運営と成長企業への投資事業をビジネスの中心に、アドテクノロジー、コンシューマー向けアプリ開発、メディア運営、ゲームなど、同社が手掛けた事業は多岐に渡る。そんな同社がなぜ、パーパスを必要としたのか。その背景にあるのが“市場環境の変化”であった。

金子 合併によりユナイテッド株式会社が成立したのが2012年末。これまで私たちは「日本を代表するインターネット企業になる」というビジョンのもと、ITの普及により生じるビジネスチャンスを逃すまいと、挑戦を続けてきました。

そこから、ちょうど10年。インターネット環境も成熟を迎えたことで、これまでのように「まず挑戦してみる、試行錯誤しながら正解を見つけていく」といったやり方だけが正しいマーケットではなくなりました。

「現代に即した会社としての指針が必要だ」──と、今後も継続的に成長していくための支柱をしっかりとつくる必要があったんです。そこで1年かけて経営陣で議論を重ね、ちょうど設立10年を節目にパーパスを策定したんです。

策定されたパーパスは「意志の力を最大化し、社会の善進を加速する。」というもの。ここにたどり着くまで、役員陣の間ではどんな議論があったのだろうか。

金子一度原点に立ち返って、「私たちは何がしたいのか」ということを自問自答してみたんです。そもそもユナイテッドは「〇〇という特定の事業がやりたい」と集まってできた会社ではありません。どちらかといえば、「色んな事業をやっていきたい」「一つの事業に縛られないからこそ価値がある」と思って集まってきている人が多いんです。これは、会社設立の経緯からもわかる通り、経営陣も同様です。

「私たちがワクワクする瞬間ってなんだろう」、もしくは、「社会に価値を与えられていると思える瞬間ってなんだろう」と思考を巡らせました。

これらの問いを突き詰めていくと、何かに対して人がチャレンジしている瞬間、その人たちの自己実現を応援したりする瞬間、あるいは自己実現に向かって頑張っている人がそのプロセスを通じて成長している瞬間を「見届ける」ことが、ユナイテッドにとって「もっとも熱くなれること」ではないかと思ったんです。

自分たちが心の底からワクワクすることこそ、自分たちの存在意義「パーパス」に相応しいということだ。そして、同社のパーパスに込められた想いはこれだけではない。社会に価値を還元していくためには、他にも考えなければならないことがあった。

金子私たちは長らくインターネット業界に身を置いているため、ここ10〜20年の市場の変化を最も間近で見ることができていると思っています。その中で、特にここ数年はその変化のスピードが加速度的に早くなってきていると感じていました。

変化が早いとなると、良くも悪くもこれまでよりも世の中の先行きが見えづらくなりますよね。なので、その不安からどうしても「自己実現のために」と言いながらも短期的な目線に陥ってしまったり、「自分のことばかりを中心に考えるような世の中になってしまっているのでは?」という課題意識がありました。

しかし、自己実現をする過程でこそ、人は自信を持てるようになります。そして、自信を持てるようになるからこそ、心の余裕が生まれ、さらに他者を思いやれるようになるのではとも思うんです。

そこで、ユナイテッドが個人の自己実現を応援することで、その人がさらに他の人の自己実現を応援できる、そういう善意のサイクルがきちんと回る世の中を目指したいと考えるようになったんです。そして、それは個人が関わる企業や事業にも同じことが言えます。

個人の自己実現を応援し、その波を社会全体に波及させる。こうしたエコシステムの構築を目指し、パーパスが定められたのだ。ちなみに、ユナイテッドには元々ミッション・ビジョンが存在していたわけであるが、これらの再策定ではなく、なぜあえて「パーパスの策定」に踏み切ったのだろうか?

金子先ほども話した通り、ユナイテッドは設立されてから10年が経ち、新しいステージに入っていかなければならない状況です。そんな時にミッションやビジョンの“焼き直し”になってしまうと、組織としてのステージをもう一段引き上げるのは難しいんじゃないかと考えたんです。

そこで、ミッション・ビジョンよりもさらに上位の概念であるパーパスを新たに策定することで、この先10年、20年、30年にわたるユナイテッドの存在意義を決めていきたいと思いました。

「意志ある人に、知恵と機会を。意志ある事業に、資金とノウハウを。そして、両者が出会い、互いの成長が、さらなる成長を生む。成長の連鎖で、社会を満たしていく。」これはパーパスの策定に合わせて、定められたステートメントである。

ここからも読み取れる通り、「意志ある人」「意志ある事業」のチャレンジを支援することで、利他的な意思が生まれるようになる。そんなより良い循環が社会に起きることを祈願し、メンバー全員が「何をすべきか」の指針を明確にしたのである。

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“教育”で新時代に必要な人材を育成し、“人材マッチング”で活躍の場を提供

パーパス策定に伴い、教育事業、人材マッチング事業、投資事業という3つの事業をコア事業と定義した同社。なぜこの3つでなければならなかったのだろうか?金子氏はパーパスとそれぞれの事業の接続について明らかにした。

金子ユナイテッドは上場企業として継続的に成長していかなければいけない立場です。なので、事業としてトレンドを追うことも重要ですが、そこに乗っかるだけというような事業経営の仕方ではパーパスを定めた意味がないと考えました。そこで、これまでユナイテッドが蓄積してきた経営資源、アセットを冷静に考えると、この3つのコア事業が適切だなと思ったんですね。

「投資事業」はユナイテッドの事業の主軸で実績も豊富です。また、パーパスの「意志ある事業に、資金とノウハウを」という部分にも合致していますよね。

また、「教育事業」に関してもこれまで事業を運営してきた経験がありましたし、「意志ある人に、知恵と機会を。」という部分にも合致しています。

そしてこの2つの事業をさらに活かすため、いわば掛橋のような存在として「人材マッチング事業」を定めたという具合です。

「教育事業」により意志ある人に“知恵”を提供し、「人材マッチング事業」を通じて、その人々に“機会”を与える。そして、「投資事業」を通じて意志ある事業に資金とノウハウを提供するとともに、意志ある人の活躍機会も提供する。この3つの事業が循環することで、成長が加速し、社会をより豊かにしていくことができるのだ。

「投資事業」に関してはこれまでの連載により、その実情が明らかとなってきた。しかし、「教育事業」と「人材マッチング事業」はまだベールに包まれたまま。そこで、ここからはこの2つの事業についても触れていきたい。

まず語られたのが、「教育事業」。これを牽引するのがグループ会社のキラメックスが提供している『テックアカデミー』だ。プログラミング、Webデザイン、マーケティング、統計など50種類以上の多様なカリキュラムを提供することで、今後の社会で求められるスキルを重視したデジタル人材の育成・輩出に取り組んでいる。

とはいえ、プログラミング・Webデザイン教育ツールは競合の多い領域でもある。事実、「プログラミングスクールで勉強しても、実際にIT企業に転職するために十分なスキルを身につけたり、フリーランスや個人事業主として案件を獲得してアウトプットできるケースは少ない」といった声も散見されるところ。つまり、“学習”と“自立”の間には大きな隔たりがあるのが現状の実態だ。

これに対し、ユナイテッドの「教育事業」では差別化の観点から独自の取り組みを行っている。そして、これが次章で詳しく紹介する「人材マッチング事業」との接続となるのだ。

金子「キャリアチェンジしたい」、「副業やフリーランスとしてスキルを高めながら稼ぎたい」と考えている人は多いですが、やはり、今の世の中ではプログラミングを勉強しても、実務未経験ではプログラマーとしてすぐに稼いでいくのは困難です。

そこで、『テックアカデミー』の受講生には、人材マッチング事業に位置付けされている『テックアカデミーワークス』で実践経験を積んでいただく機会を提供しています。

スクールで学ぶだけでなく、しっかりと「出口」としての実践経験を積むことで、滑らかにキャリアシフトやトランスフォーメーションを実現してもらうというのがユナイテッドの「教育事業」の特徴なんです。

またこれら2つの事業を同時に行うことでもたらされる利点は、「教育事業」→「人材マッチング事業」の一方向に限った話ではない。

「人材マッチング事業」を行う中で、本当に世の中で求められるスキルが何なのか、どういう能力が求められるのかを蓄積することができる。この知見を「教育事業」でカリキュラムに落とし込むことで、双方向性にシナジーが期待できるのだ。まさにユナイテッドが重要視する“循環”を体現しているモデルだ。

ここで「教育事業」と「人材マッチング事業」の繋がりが徐々に垣間見えてきたところで、次章ではより後者に着目していきたい。

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ニーズが多様化する企業や社会に対し、バラエティ豊かな事業ポートフォリオで挑む

ユナイテッドの「人材マッチング事業」の強みを一言でいうとすれば、“提供できる人材やサービスの多様性”であろう。ある特定職種において人材と企業をマッチングさせるという領域特化型のモデルではない。

それを象徴するのが、ユナイテッドの人材マッチング事業におけるポートフォリオだ。

人材マッチング事業のポートフォリオ

・オンラインプログラミングスクール『テックアカデミー』卒業生と企業のマッチングを行う『テックアカデミーワークス』を運営するキラメックス
・デザイナー特化型のクラウドマッチングサービス『JOOi』を運営するリベイス
・ジョブ型複業人材マッチング事業『ハッシュミー』と即戦力人材シェアリング事業『即戦力くん』を運営するココドル
・ダイレクトリクルーティング媒体のスカウト代行サービス『offerBrain』を運営するイノープ
・副業・転職マッチングプラットフォーム『Kasooku』を運営するカソーク。

これらは全てユナイテッドがポートフォリオを拡充するためにM&Aした企業である。

また、単に人材をマッチングさせるだけでなく、受託型としてまずはユナイテッドもしくはグループ会社がフロントに立ち案件を引き受けた後、それを上記の各サービスが抱えているプロフェッショナル人材に依頼するというスキームも提供している。もちろん、そのサービスの提供先はユナイテッドの投資先であるケースもある。無駄のない、シナジーでしかない事業展開だ。

なぜここまでバラエティ豊かに「人材マッチング事業」のポートフォリオを広げているのだろうか?

金子長く投資事業を行ってきたからこそわかることなんですが、その企業の成長フェーズ、もしくはコアとする事業の形態によって、どんなスキル、採用形式でその人的リソースを調達したいかが全く異なるんです。

例えば、「一時的に人的リソースが不足しているから…」と業務委託を求めていた企業が、その翌年には「事業が伸びたので正社員を複数名採用したい」なんてことはざらにありますからね。

私たちは、「どんな企業の、どんなフェーズのニーズであっても最適な形で人材を提供できるようにしたい」との想いから、多岐に渡る教育と人材マッチング事業を行っているんです。

また、このように様々な領域のプロフェッショナル人材を自社で抱え込む体制を構築することにより、「投資事業」のハンズオン支援においても幅広い支援ができるという相乗効果も期待できます。

そう、先ほど「教育事業」について説明する際に「人材マッチング事業」が必要不可欠だったように、「人材マッチング事業」も「投資事業」へと繋がっているわけだ。

金子氏も「人材マッチング事業」と「投資事業」の接続については特に拘っていると強調した。

金子「投資事業」においては、UVS(ユナイテッドベンチャーサクセスの略)という投資先支援組織があります。投資先企業の成長戦略を一緒に考えるのみならず、具体的な実行の部分まで一気通貫で支援するチームを組成しています。

その際、例えば、SNS運用をしたり、特定業態向けのセールスチームを組成したりする必要が出てくるわけですが、時にはUVSが持っていない知見もあるんです。このような場面で、まさに人材マッチング事業にある人材プールを活用することで、投資先のハンズオン支援に繋げることもできるんですよね。

投資先の成長に資する人材を多く抱え、その人材を投資先に提供していく。これが他社には成し得ない、ユナイテッド「投資事業」のハンズオン支援におけるユニークネスの一つだと思っています。

ただし、スケーラビリティの観点から各事業の最大化を目指すのであれば、必ずしも「教育事業」「人材マッチング事業」の出口(対象)は投資先に限ったものではありません。「投資先企業のように、成長しようとしている企業」であれば、積極的に人材を提供しています。

これからの日本の企業変革や新規事業立ち上げなどに求められる人材像には共通する部分が多いです。なので、「教育事業」によって優秀な人材を輩出し、「マッチング事業」によって、投資先に限らず人材を提供していくことが日本の社会に求められていると考えています。

教育事業同様、人材マッチング事業も、競合は多い領域であり、日々プレイヤーが増えている現実がある。しかし、同社は「成長企業に対する理解の深さ」「投資先で活躍しうる人材のインサイトの深さ」を磨き込むことで、差別化を続けているのだ。

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“パーパス”が事業のグリップ力を高める。
相互に共鳴しあうコア事業の全貌

そんなユナイテッドといえば、これまで教育事業のみならず、業界を問わずM&Aを重ねてきた。もちろんグループインした会社がすべてがうまくいってきたわけではない。力及ばず撤退を余儀なくされた事業も少なからずはある。

鋭い読者の中には、同社のM&Aの基準やM&A後の成長について疑問を覚える人もいるのではないだろうか。不躾ながら、そう問いかけると金子氏は「そこがまさにパーパスとコア事業を定めることによって得られた妙味だ」と強調した。

金子これまでは、インターネットビジネスという枠組みの中において、ビジネスチャンスがあれば積極的にトライするというスタンスで事業をしてきたので、そのチャンスを活かせなかった場合は適宜撤退するという経営判断をしていました。

ただ、今はパーパスとそれに則った3つのコア事業があるので、「ただ単にチャンスがあるかないか」ではなく、3つのコア事業ポートフォリオのバランスを見ながら、それぞれが果たすべき役割を考慮した経営判断をしています。

イメージとしては、“スイミー戦略”とでも名付けましょうか(笑)。例えば「ある会社や事業がうまくいかなくても、ダメージは最小限にできる。かつ、優秀な人材が確保できていれば、他の事業の成長に貢献してもらうチャンスがあるよね」といったように、事業ポートフォリオに対する考え方がガラッと変わりました。

当然、P/L的な成長は追い求めますが、3つそれぞれのコア事業の強みと、それらの接続を考え、複数のマネタイズポイントを持って経営判断できる状態になっているので、事業のグリップ力は明らかに上がっていると思います。

積極的なM&Aにより「教育事業」「人材マッチング事業」のポートフォリオを拡充。それが「投資事業」の成果にダイレクトに還元され、コア事業全体の成長に繋がる。このようなコア事業同士のシナジーや循環を通じて社会の善進を加速させていくのがユナイテッドの狙いだ。

しかし、そうでありながらM&Aを行った企業とは一定の距離感を“あえて”保っているという。その狙いとは如何に──。

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「あえて吸収合併はしない」。
意志ある若手に経営者の視座を

ユナイテッドのM&Aは吸収合併ではなく、株式譲渡による買収を行い、ある程度の独立性を担保した状態でグループインさせている。その理由としてすぐに思いつくのは、グループ会社の「経営の自由度」であろう。しかし、ユナイテッドの場合は少しだけ違った視点からそのメリットを捉えている。それが「若手の育成」という観点だ。

金子もし吸収合併したり、例え子会社であったとしても、ユナイテッドの経営陣がグループ会社の経営に口を出しすぎると、ユナイテッドからその会社にジョインする人材は、「自分の会社」という当事者意識を持って取り組める度合いが低くなりますよね。イメージとしては、いち事業部のマネージャーと変わらないです。

一方、独立性を担保した状態であれば、「自分の会社」としてきちんと採算を合わせて、事業が回る体制をつくらなければならないという責任やプレッシャーと戦うことになる。このような環境でこそ、人は成長していくと考えています。

以前ある会社をM&Aした際に代表が辞められたので、ユナイテッドから若手を1〜2名抜擢してPMIを遂行してもらったことがありました。そんな状況だと、そこからは自分たちで事業を切り盛りするしかないので、必死でやらざるを得ないんですよね。すると、徐々に若手たちの視座が上がってくるんですよ。

例えば、BtoBビジネスでは基本的に休日にリードは来ないので、「今月は連休が多くて嫌ですね」という発言をするようになる。決してブラックに働くことを推奨しているわけではありませんし、休日はしっかり休んでもらっていますが、それでもこうしたマインドは会社を経営していく上で非常に重要なスタンスです。

補足しておくと、「独立性が担保されている」ことは「ほったらかし」を意味するわけではない。ユナイテッドでは、金子氏をはじめとした経験豊富な先輩事業家によるサポート体制が敷かれている。

M&Aを実行するために、財務・法務・ビジネスデューデリジェンスの実施、買収後の事業計画の策定、社内決議を進めるための各種プロセスの進行、そして買収後の定例会議や経営合宿......などなど。これらをあくまで若手主体で行いながら、必要に応じて金子氏がサポートしているのだ。

金子氏も「若手の成長のためであれば、積極的にリスクテイクしていきますよ」と語気を強める。

金子もちろんP/Lの管理には関与しますが、例えば、業務委託採用やプロモーション予算の変更など、その他の意思決定はなるべく若手に任せています。

成長はどれだけ多くの失敗を経験したかに掛かっているので、ある程度のリスクであればあえて失敗を見越して、本人に「何とかしないとやばい…!」と感じてもらう環境をつくり出すことを意識していますね(笑)。

ここまで失敗も織り込み済みで、若手の成長環境を提供できるのは、ユナイテッド経営陣の「この失敗によりこれくらいの損失が発生するだろう」という鋭いリスクマネジメント感覚のおかげであろう。さらには、グループ会社含めた組織体制というケイパビリティも忘れてはいけない。こうした、若手が「安心して失敗できる環境」が整備されている様を知ると、ユナイテッドの若手メンバーが爆発的に成長する所以が理解できる。

ユナイテッドほどの規模と実績のある企業、しかも上場しているとあらば、「失敗のリスクある若手に大きな仕事は任せられないのでは?」と懸念を抱く方も多いだろう。しかし、ユナイテッドは現在も、どんどん事業ポートフォリオを拡充すべく、グループ企業を増やし続けている。

つまり、構造的に「若手の事業リーダーを増やしていくことを前提としたモデル」を敷いているのだ。これを知れば、同社がいかに成長機会に溢れた会社であるかが納得いただけるのではないだろうか。

それにしても、なぜユナイテッドはリスクを負ってまで、若手に機会を与え続けているのだろうか。

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失敗は早いほどいい。
入社2年目で招かれる運命の抜擢MTG!?

金子新卒の方だと2年目の終わりごろですかね、僕から突然呼ばれて「こういうことやってみない?」と声がかかる仕組みになっています(笑)

そこでディスカッションの上、M&Aプロジェクトの責任者などにアサインされるんです。

なんと、前章にて語られたグループ会社のM&AやPMIに関わるプロジェクトは、新卒2年目という早さで抜擢されるらしい。

過去の取材にて「新卒一年目からキャピタリストになれるキャリアパス」の存在を知った取材陣は、またしても同社の若手の抜擢スタンスに驚かされることとなる。金子氏はユナイテッドに新卒入社したメンバーのキャリアパスについて語り始めた。

金子ユナイテッドに入社したメンバーは、主に投資先企業の成長に向けたハンズオン支援やグループ会社の事業開発を行う「DXソリューション本部」へ配属されます。

その後、2年目から3年目にかけて、新しくM&Aを行ったグループ会社のPMIから事業グロース、新規事業創出などを担ってもらっています。もちろん、本人の希望次第では当初の配属先でチームリーダーなどの上位ポジションを目指していくキャリアも選択可能です。

自分で事業をハンドリングする機会が2年目で訪れるのはかなり早いタイミングだろう。ユナイテッドがこのようなキャリアパスを用意しているのは、「事業のハンドリングをすることはあくまでもスタート地点」という考え方があるからだ。ここに、ユナイテッドの人材育成への価値観が凝縮されている。

金子パーパスにある「意志ある人」とは、決してお客様だけを指してはいません。ユナイテッドで働くメンバーの「意志の力」も非常に重要視しています。

ユナイテッドで働くみんなの意志の力を最大化することを考えていくと、社会人としての基礎体力をつけた段階で、早期に“意志の力を高められる環境”に身を置いてもらうことが重要だと考えているんです。

新卒入社からわずか2〜3年足らずで、1つの会社の事業を責任者として担うことに対して、当然ながら実力不足な感は否めないだろう。しかし、初めからメンバーの「意志の力を最大化させる」という観点に立ち返ると、経験はなるべく早く積むべきだという考えから納得はできる。

金子僕や代表取締役の早川、取締役の山下などは、若い頃、勃興するIT業界のどさくさに紛れて(笑)、いろいろな経験をさせてもらえて、業界や諸先輩方に育ててもらった感覚があります。

ところが、今はIT業界もかなり成熟してきて、自分で事業にチャレンジできる余地が減ってきているように思うんです。なので、挑戦の機会をユナイテッドでは創り続けたいと考えています。

理屈としては理解できる。しかしそれでも、「正直、2年目は早すぎるのでは…?」と取材陣は思わず口にしてしまった。

金子そうですよね、うん、私もめちゃくちゃ早いと思います(笑)。まだ事業の右も左もわからないメンバーに対して手取り足取り教えなければならないので、相応の大変さはあります。

でも、そもそも経験あるマチュアな経営者でも必ずしもうまくいくわけではないことなので、意外と吸収力の高い若手がやったほうが事業と一緒に成長できて「結果、大成功した」なんてこともあるんです。

また、「とにかく3年やってみろ」と世間ではよく言いますが、この変化の早い時代で、3年も我慢するのはある種リスクだと思うんですよね。ですから、ユナイテッドに来てくれた方にはなるべく早く、実際にやってもらっているんです。

パーパスを定めたからには、経営陣も若手の育成に対して相応の覚悟を持つべき。だからこそ、こうした若手抜擢のキャリアパスを社内でも明言するようになりました。

具体的には、25歳で事業立ち上げやPMIに携わる、あるいは投資事業におけるキャピタリストとなる。その後、30歳頃までには、ユナイテッド全体の経営に携わる人材へと成長していって欲しい、といったようにです。

広く「事業リーダーになれる機会がある」とだけ標榜するのではなく、時間軸を明確にしたキャリアパスを具体的に示し始めたのも、パーパス策定が影響しているという。そう、今回のパーパス策定によって変わったのは事業だけでなく、若手の育成に懸ける想いも変化したのだ。

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「起業するよりもユナイテッドでやった方が面白い」。そのために経営者がすべきこと

若手の成長を願い、そのための支援や投資は厭わないユナイテッド。しかし、20代半ばでM&AやPMIを経験した若手であれば、更なるチャレンジを求めて自ら起業を志すのではないか。せっかく手塩にかけて育てた人材が流出してしまうことに対して、ユナイテッドの経営陣はどのように考えているのだろうか。

金子「意志ある人」の一歩目はなるべく早く支援してあげたほうがいいのではないかと考えています。

例えばですが、明確な意志がない状態でユナイテッドに入ってきたメンバーが、いろいろ事業や投資を経験する中で、意志の力を高め、その中身を具体化させていく。その上で次のチャレンジを志したなら「パーパスが実現された」と胸を張って言えるでしょう。応援しない理由はないですよね。

それを新規事業としてユナイテッドの中でやってもらえるなら嬉しいですが、起業することになっても、例えばユナイテッドから出資をするといった形でチャレンジを後押ししていきたいです。

実際にユナイテッドに集まる人材の多くは、経営陣も含めて最初から“明確に特定の領域、特定の事業がやりたいという意志”があったわけではないという。それよりも、ユナイテッドの多様な事業ポートフォリオや成長できる環境に魅力を感じたメンバーが集まっているのだ。

そんなメンバーがユナイテッドでの経験から“自らの意志”を萌芽させ、次のチャレンジに進むことを否定することは、パーパスつまり会社の存在意義自体を否定してしまうこととなる。だからこそ、会社は「意志ある人」の挑戦を手放しで応援してくれるというわけだ。

とはいえ、もちろん経営陣も、優秀な人材がユナイテッドで長く活躍していくれるような努力は欠かさない。

金子そもそも、経営者目線でいえば、「起業するよりもユナイテッドでやった方が面白い」と思ってもらうことが大事ですからね。そのために、株式報酬などのインセンティブ設定が、グループ会社の経営陣にも、キャピタリストにもUVSにも用意されています。

事実、多様な事業ポートフォリオ、成長できる環境、そして魅力的なインセンティブに惹かれて、「起業ではなくあえてユナイテッドで」とジョインしてくるベテランメンバーも多いという。

金子今年の9月ぐらいに入社してくれた40歳くらいのマチュアなメンバーがいるのですが、ものすごく精力的に、かつ楽しそうに仕事してくれて。すごい想いのこもった社内ブログを書いてくれてます(笑)。

彼は、人材マッチング事業におけるグループ会社の成長支援をやってくれています。マーケティング観点、システム観点など、全体感を見ながらどうそれぞれの事業をアップデートすれば、全社としてのバリューチェーンが最大化されるか、という非常に重要な部分を実行してくれています。

前職では外資系の会社でプロフェッショナル人材として活躍していたという彼に「なんでユナイテッドでそんなに楽しそうに仕事してくれているの?」と聞いてみたんです。

すると「自身の専門性を活かしながら、リアリティを持って自分で実行までできる。かつそれを、どれか一つの事業、一つの分野のプロフェッショナルではなく、複数の領域に渡って臨機応変に変えていかなければならない。このスピード感が楽しいです」と答えてくれました。とても嬉しく、頼もしいメッセージですよね。

プロフェッショナル人材が専門性を活かすことができる業務としてまず想起されるのはコンサルティング業務であろう。しかし、どうしてもコンサルティング業務では、一つの専門分野に傾倒してしまう恐れもあり、また“手触り感”は感じづらい。とはいえ、単一事業のみを運営する事業会社では、分野が狭まってしまう。

そんな中ユナイテッドでは、自身の専門性を活かしつつも、複数の領域にて手触り感を持って事業に携わることができるのだ。

「事業を創っているというリアリティは欲しいが、どれか一つの分野に搾りたくない」。

金子氏の言葉を借りると「良い意味で欲張りな人」がユナイテッドには多いのだという。事実、コンサルティング業界からユナイテッドにジョインしたのち活躍しているメンバーは多い。

もちろん、これは新卒、第二新卒の若手メンバーにも当てはまる。「“今”やりたい事業はないが、新規事業創出やM&A/PMIを通して色々な事業の運営経験を積みたい」「若くしてグループ会社の経営に関わり、普通の会社員とは一線を画す経験やインセンティブを得たい」。そんな欲張りで生意気な若者の挑戦こそ、ユナイテッドは待ち望んでいるのだ。

全10回に渡る本連載もようやくここで折り返しとなる。次回は、実際に入社2年目からM&Aのプロジェクトにアサインされ、現在既にグループ会社の経営に携わっている若手メンバーが登場。本記事でも再三語られたユナイテッドの若手育成に懸ける“本気度”が伝わることだろう。

こちらの記事は2023年02月02日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

落合 真彩

写真

藤田 慎一郎

編集

大浜 拓也

株式会社スモールクリエイター代表。2010年立教大学在学中にWeb制作、メディア事業にて起業し、キャリア・エンタメ系クライアントを中心に業務支援を行う。2017年からは併行して人材紹介会社の創業メンバーとしてIT企業の採用支援に従事。現在はIT・人材・エンタメをキーワードにクライアントWebメディアのプロデュースや制作運営を担っている。ロック好きでギター歴20年。

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