連載ユナイテッド株式会社

V字回復の裏に、ユナイテッドあり──数多のVCが「No」を出す中、大躍進したバイオフィリア。その苦悩と成長の軌跡

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インタビュイー
谷口 実玖

2020年4月よりユナイテッドに入社し、投資事業本部に配属。在宅医療支援、オンライン診療、発達障がい児支援事業といった医療関連分野の他、キャリアコーチング、アート、ハンドメイドといったwell beingをサポートするToC事業、web3関連領域等への投資を手掛ける。その他、EdTech、フェムテック、インフルエンサーマーケティング等の領域で事業を展開する投資先支援に携わる。

岩橋 洸太

1989年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、SMBC日興証券にて未上場企業の上場準備、支援業務(公開引受業務)に従事。退社後2017 年株式会社バイオフィリアを創業。ペット領域で複数事業を立ち上げ、2019年6月にフレッシュドッグフードブランド「ココグルメ」を開発・提供。元保護猫3頭と暮らしている。

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首の皮一枚つながった──。そんなヒリヒリとした体験を、起業家なら一度や二度と言わず味わうものではないだろうか。特段、ファイナンスにおいては「冷や汗の連続だった…」と語る起業家は多い。今回取り上げるのは、まさにそのファイナンスにおいて万事休すの状態に瀕したスタートアップと、そこに投資を決定し、ハンズオン支援を続ける投資家の物語だ。

そのスタートアップとは、獣医師監修の手づくりドッグフード『CoCo Gourmet(以下:ココグルメ)』をD2Cで展開するバイオフィリア。現在、“上場”という二文字を見据えて急成長している。このバイオフィリアの命運を分けた投資家が、ベンチャー投資のエキスパート、ユナイテッドである。

全10回にわたって、ユナイテッドの投資事例から紐解く同社の“投資家としてのユニークネス”や、各事業で活躍するメンバー事例を通じた“人材の豊富さ”をお伝えする本連載。前回は、スポーツ・エンタメ領域でファンビジネスを展開するスタートアップ、ventusへの豊富なサポート体制を取り上げ、投資家ユナイテッドと起業家との間で固く結ばれたパートナーシップを紹介した。

そして第2回目となる今回は、引き続きユナイテッドによるハンズオン支援の事例紹介はもちろんのこと、同社が投資を決定する際の独自の視点も取り上げていくべく、ユナイテッドの若手キャピタリスト・谷口 実玖氏と、バイオフィリア代表・岩橋 洸太氏をお招きした。投資後の事業支援だけでなく、投資前のファイナンス観点でも、起業家にとって大変参考になる話が詰まっているだろう。

  • TEXT BY MISATO HAYASAKA
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
  • EDIT BY TAKUYA OHAMA
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「会社が潰れる...」。
絶体絶命のタイミングで出会った“最後の投資家”

早速だが、本記事の肝となるバイオフィリアユナイテッドの出会い、投資決定に至るまでのエピソードを見ていこう。バイオフィリア代表の岩橋氏は、一つひとつの言葉を丁寧に選びながら、苦しかった過去の出来事を振り返った。

岩橋 2017年の設立から2年は、現在のペットフード事業とは異なるペット関連の事業に取り組んでいました。例えば動物の殺処分を解決するためのメディアサービスを筆頭に、5つほど事業を手がけていたんです。しかし、どれもことごとく失敗。一時は会社の資金が3万円を切るような状況でした。なぜなら、事業立ち上げの勘所が分からぬまま、遮二無二取り組んでいたからだと今では捉えています。

証券会社と起業家の両方を経験している今だからこそ分かるのですが、投資の観点と事業・経営の観点は共通している部分もあれど、全く異なる力学が働いている部分もあると感じます。

動物への深い愛を持って立ち上げた事業だったが、その情熱とは裏腹に伸び悩んだ。5つの事業が連続して失敗となれば、弱音を吐きたくなる起業家もいるだろう。しかし、岩橋氏は諦めなかった。失敗のたびに事業成功に必要なエッセンスを吸収し、その結果として、勝ち筋を見出したのだ。

岩橋 「今度こそうまくいく…!」という覚悟のもと次に立ち上げたのが、犬専用の手づくりドッグフード『ココグルメ』でした。これまでの失敗経験からの学びを愚直に積み重ねてきた結果、ついにお客さまのニーズを掴むことができ、事業は順調に伸びていったんです。

バイオフィリアの会社説明資料から引用

ようやく軌道に乗った事業。だが、胸を撫で下ろすことはできなかった。

岩橋少しずつ事業は伸びていたものの、当時の売上は現在の10分の1程度。固定費の回収さえ、ままならない状態でした。当然、シードで調達した資金は日に日に目減りしていきましたね…。

ペットフード事業に手応えを感じつつも、刻一刻と足元に迫り来る資金ショートという危機。シリーズAにふさわしいレベルのトラクションにまでは到達しきれていなかった同社は、なんとか事業を前進させるため、プレシリーズAラウンドの資金調達に奔走する。しかし、4ヶ月にわたって様々な投資家に交渉を持ちかけるものの、答えは一貫して「No」だった。そう、ユナイテッドがリード投資家として投資を決意してくれるまでは──。

株式会社バイオフィリア 代表取締役CEO 岩橋 洸太氏

岩橋もはや可能性のある投資家は全社周り切ったんじゃないかという状況でした。もちろん投資を見送られた理由は様々ありましたが、一言に“バイオフィリアの事業コンセプトが受け入れられていなかった”ことに尽きるでしょう。

具体的には、競合がペットフード事業だけでなく、複数のサービスを展開していたり、メディア事業と両立したりする中、当時の弊社のように“一本足打法”で手づくりドッグフード事業“のみ”を展開する企業は存在していなかったんです。

そのため、投資家からは「メディアもやるべきだ」「1つの事業じゃ不安定だから、複数事業立ち上げては?」といった事業コンセプトの転換を求める意見が多く、なかなか投資までには至りませんでした。また、そもそも「ドックフードの市場がニッチすぎて、成長する確信が持てない」といった市場に対する懸念の声もありましたね。

数十社にも及ぶ投資家から支援を見送られる中、最後に残ったのがユナイテッドだったという。一縷の望みに賭ける岩橋氏。担当キャピタリストは投資に前向きな状況で、ユナイテッド代表取締役の金子 陽三氏(当時の投資事業管掌取締役)との面談日を迎える。「緊張に押し潰されそうでした…」と岩橋氏は当時の胸の内を明らかにする。しかし、待ち受けていたのは彼の運命を大きく変える、“最高のパートナー”との出会いであった。

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事業家目線に立つ。
「こんな投資家、他にはいない」

これまで何度も投資を断られてきた岩橋氏。そして、そのうち多くの投資家が口を揃えてバイオフィリアの事業コンセプトに否定的な見方を示していた。もちろん、投資家も口を揃えて「投資を見送るのは辛い」と語る。しかし、自分がつくり上げてきた事業を、真っ向から否定される起業家が最も辛い立場であることは想像に難くない。

会社の存続がかかったプレッシャーの中、ユナイテッドのデューデリジェンスを受けながら面談を終えた岩橋氏は、金子氏の表情を見てようやく安堵の息を吐いた。

岩橋 おそらく、プロの投資家からしたら、当時のバイオフィリアの事業状況に思うところがあるのは当然でしょう。しかし、ユナイテッドさんはバイオフィリアの事業コンセプトを“否定する”のではなく、“今ある強みを伸ばすためにはどうすべきか”という点に徹底的に向き合ってくれました。

岩橋「サービスラインナップを広げるのではなく、今ある数字をもっと強くしていこう」「ユーザーのLTVを増やすためにはこんなことをしよう」「製品の価格はこの方が良いんじゃないかな?」と、ユナイテッドさんとのディスカッションを通して、まさに今後実行しようと考えていた戦術がブラッシュアップされる感覚を持ちました。「こんなにも、起業家と目線を合わせてくれる投資家がいるのか…!」と感動を覚えたくらいです。

ユナイテッドは3つのコア事業の1つとして投資事業を掲げており、独立系VCと同様にキャピタルゲインを主目的としている。そのため、もちろん投資判断の際には、その企業が将来的に成長するポテンシャルがあるかどうかを厳しく見極めていることは言うまでもない。

よって、当然のことながらユナイテッドが岩橋氏と初めて面談をした時点では、まだ本格的に投資判断を下すまでには至っていない。それでも事業の伸びしろをフラットにディスカッションするユナイテッドの“事業家目線”というポリシーに、倒産の危機にあった岩橋氏の心が救われたことは事実であろう。

担当キャピタリストとも毎回、非常に前向き且つ本質を突くディスカッションができ、今後のバイオフィリアの事業成長に向けた協議が進められた。そしてその末に、ユナイテッドはバイオフィリアへの投資を決意するのであった。

とはいえ、まだ安心できたわけではない。一般的にスタートアップの資金調達において、リード投資家の存在は必要不可欠である。「このスタートアップの成功を信じていて、他の投資家がなんと言おうと投資します」と最初に名乗り出る投資家の存在が、後に続くフォローオン投資家に与える影響は非常に大きい。リード投資家が持つ実力やブランド、その評判次第で、後に続く投資家の数も質も大きく変化するからである。その点、ユナイテッドはどうだろうか?

なんと、これまで誰も見向きもしなかったバイオフィリアに、ユナイテッドがプレシリーズAでリード投資家としてコミットを表明したことにより、他の投資家からも続々と投資判断が下されていったのである。

岩橋ユナイテッドさんと出会えていなかったら、あの時点でバイオフィリアは潰れていたかもしれません。しかも、ユナイテッドさんは常に僕らと同じ事業家目線でいてくれる存在でした。そんな投資家がリードで入ってくれたことには、本当に「救われた…」という想いと、深い安心感がありましたね。

決して諦めなかった起業家と、ポテンシャルを見抜いた投資家。両者の物語は、ここから始まった──。

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「市場、事業、経営者いずれも良し」。
バイオフィリアのポテンシャルを見抜いた、ユナイテッド投資事業本部

他の投資家たちから一辺倒に投資を断られていたバイオフィリアのポテンシャルに、いち早く気づき投資決定したユナイテッド。もちろん、ユナイテッド社内では慎重かつスピーディに投資判断の議論が行われていた。その過程とは、如何なるものであったのだろうか。ユナイテッドの投資事業本部が見出したバイオフィリアのポテンシャルは、“市場”・“事業”・“経営者”という3つの観点であった。

まずは、ユナイテッドが勝算を見込んだバイオフィリアの市場にスポットライトを当てよう。バイオフィリアは、2017年の創業以来、「動物の幸せから人の幸せを」という企業理念を掲げ、ペット関連事業を展開してきた。この市場は実のところ非常に堅実な成長を遂げている。特段、コロナ禍にあった2020年は、その伸びが顕著だ。テレワークにより新たにペットを飼ったり、ペットと過ごす時間が増えたことが主な理由と考えられている(経済産業省)。

また、ペット産業の成長に影響を及ぼしているのは、“ペットの捉え方”に対する価値観の変化もあると、岩橋氏は述べる。

岩橋元々、人間にとってペットとは、番犬という言葉が示すように防犯的な存在から始まりました。そこから、国内では1980年代後半から第一次ペットブームが起き、ペットとは癒しの存在、大事な存在として扱われるようになっていきました。そして現在は、ペットも“家族”だと認識されるように。この傾向のもと、フォーカスされるようになったのがペットフードなんです。

「“家族”には、栄養たっぷりのご飯を食べてもらいたい」。そのニーズに応えたのが、『ココグルメ』だ。冷凍で届くドッグフードを解凍するだけで、手料理のような一品に仕上がる。原料にもこだわっており、なんと“人間も食べられる”というから驚きだ。

上記のように着実に成長するペット産業の成長に目をつけたバイオフィリア。ユナイテッドは、他の投資家がその市場のポテンシャルを過小評価する中、足元の堅調な数字の推移を元に、確かなポテンシャルを見出した。

実際に現在、『ココグルメ』の会員数は10万人を突破。また年商は約14億円と競合の倍以上の売上を誇り、まさに名実ともに国内トップシェアの地位を獲得するブランドにまで成長を遂げた。

また、バイオフィリアは、自社でメーカー機能を持ちつつ、企画、製造、マーケティング、カスタマーサポート、販売まで一貫したビジネスモデルを創業初期から確立。この点を、ユナイテッドは高く評価した。実際、ユナイテッド投資本部のメンバーとして、現在バイオフィリアの支援に当たる谷口氏も「マーケティングやプロモーションに土地勘のあるユナイテッドだからこそ、解像度高く、バイオフィリアの事業ポテンシャルを評価できた」と語る。

ユナイテッド株式会社 投資事業本部 キャピタリスト 谷口 実玖氏

谷口バイオフィリアの事業ポテンシャルに関しては、金子や井上を始め、投資事業本部の中で様々な議論がなされました。その中で、長年にわたる広告事業の実績があり、デジタルマーケティングのプロフェッショナルである我々だからこそ、バイオフィリアのポテンシャルに気づき、その事業成長にも深く貢献できると感じたんです。

他にも、バイオフィリアの組織面におけるポテンシャルも、投資を決意した理由としては大きかったです。というのも、弊社が投資したタイミングではメンバーも5人程度で、事業の伸びに対して明らかに人が少なかった。むしろ、「この人数でこれだけの事業規模にまで成長させている岩橋さん、すごい(笑)」とすら思った次第です。

その点、弊社は自社事業においても、小規模からの組織拡大をいくつも経験してきたので、採用や組織の役割分担といった点も、岩橋さんと共に議論していけるだろうと考えました。

市場、事業、経営者、それぞれの要素を細部まで覗くとそのポテンシャルは十分。しかし、いくらプロの投資家と言えどもそのポテンシャルを見抜くのは容易ではない。ユナイテッドには、自社事業の運営において培われた見識があったからこそ、バイオフィリアが持つ、成長する企業としての“基礎体力”に気づくことができたのだ。

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バイオフィリア躍進の裏に、若きキャピタリストの存在あり

無事、ユナイテッドをリード投資家に迎え、ラウンドはクローズ。しかし、バイオフィリアにとってはまだまだ事業を伸ばしていくための課題が山積みの状態。ようやくスタート地点に立ったに過ぎないのだ。そして程なくして、ユナイテッドの伴走支援が始まった。

バイオフィリアの支援を担うキャピタリストは2名。前回登場したユナイテッド投資事業本部 本部長・井上 怜氏。そしてもう一人、今回の物語で第2の主人公でもある谷口氏だ。

谷口氏は、大阪大学卒業後、2020年4月にユナイテッドへ新卒入社。その後の配属で投資事業本部に所属となった若手キャピタリストである。そう、何を隠そう、バイオフィリア躍進の裏には若きキャピタリストの存在があった。ここからは、ユナイテッドが行うハンズオン支援を、キャピタリストの具体的な支援に焦点を当てながら紐解いていきたい。

「最初は右も左も分からなかった」、と当時を振り返る谷口氏だが、その冷静な語り口からは聡明さが滲む。そんな彼女の魅力は、熱い野心に溢れているところだ。

谷口バイオフィリアさんは私にとって初めての投資先で、お付き合いのある企業の中でも、一番長く関わらせていただいている企業です。私自身、元々BtoC事業に興味があり、かつ自宅で猫も飼っているので、特にペット事業には強い関心がありました。そこで、上司である井上がバイオフィリアさんの担当をするという話を聞いて、「私も担当したいです!絶対アサインしてください!」と無理やりお願いしたんです(笑)。

自ら志願し、バイオフィリアの担当を手繰り寄せた谷口氏。若手の意志を尊重するユナイテッドのカルチャーが垣間見れる。しかも、ただ若手をビジネスの大河に放流するのではなく、本部長クラスのキャピタリストがバックアップしているというのだから、心強い。谷口氏は井上氏の背中を追いかけながら、持ち前の熱量を発揮して成長を遂げていった。

新卒だからといって、決して侮ってはいけない。ここで、岩橋氏が語ってくれた、谷口氏との印象的なエピソードを紹介しよう。

岩橋谷口さんには、犬向けの『ココグルメ』とは別に、現在仕込んでいる猫向けの『ミャオグルメ』の訴求方法について的確なアドバイスをいただきました。

猫の舌は、天然のキャットフードの味よりも、添加物にまみれた化学調味料の味付けを求めてしまうもの。しかし、人間と同じく健康に良くないものばかり摂取していたら、先々どうなるかはお察しの通りですよね。その点を察した谷口さんは、「ユーザーのお客さまには、『“猫が好むキャットフード”ではなく、“猫の健康を守るキャットフード”を選びましょう!』といった訴求をした方が良いのでは」と意見をくださったんです。顧客目線に立ったその真っ当なアドバイスに、僕自身ハッとさせられたことを覚えています。

誰よりも、サービスやそこに関わるステークホルダーのことを考えていたからこそ見えた洞察が、新たな訴求アイデアを導き出した。岩橋氏が語る谷口氏の支援内容は、非常に細やかだった。例えば、谷口氏が自身で飼っている猫をモニターにし、バイオフィリアが提供するキャットフードの食いつきを動画に収めて共有。その他、同社のフードパッケージの梱包具合を改善するようフィードバックしたりと、“バイオフィリアに最も近いユーザー”として、文字通り伴走しながら製品をつくり上げていった。

新卒でキャピタリストとして活躍するのは、当然ながら容易なことではない。ややもすると、「事業、経営経験のない新卒がキャピタリストなんて、一体何ができるんだ…?」と思う読者もいるだろう。しかし、そんなことは谷口氏も承知の上。“何も持たない”からこそ、「できることは全てやる」という気概で挑むことで、投資先の事業に貢献し、起業家からの信頼をも勝ち取ることができたのだ。

谷口近年、新卒キャピタリストの募集が増えてきたとはいえ、業界的にはまだまだ珍しい存在だと思います。だからこそ、私の特徴は、“特徴がないこと”だと思うんです。何かの領域のエキスパートではないからこそ、ゼロベースでフラットに自分がやるべきことを導き出し、愚直に取り組めるのだと思っています。

得意も苦手もないからこそ、すべてに食らいつく。そして時には自らもユーザー側に立ち、製品へのフィードバックをとことん行う。このように、起業家支援のために全力疾走してきた若手キャピタリストの存在が、ユーザーに愛されるバイオフィリアのサービスづくりの一助を担ったのである。

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起業家の“吸収力”×若手キャピタリストの“愚直さ”が、事業成長を加速する

ここまで、バイオフィリアの事業や、ユナイテッドのキャピタリスト紹介をしてきたが、バイオフィリア代表・岩橋氏の人物像が気になるという読者もいるだろう。

岩橋氏は、幼少期から動物を飼っていた。顔を綻ばせながら「動物が大好きだ」と語る岩橋氏からは、動物へのピュアな愛情が溢れ出ている。しかし、大切な家族として尊重されるべき存在でありながら、殺処分や虐待といった目を覆いたくなるニュースも昨今では後を立たない。岩橋氏は、これらの動物にまつわる社会課題を解決し、動物と人が共存できる社会づくりを目指した。そして、バイオフィリアを立ち上げたのだ。

同社の創業を迎えるまでの岩橋氏は、証券会社に勤めるサラリーマン。上場準備支援業務に従事し、メイン担当者としてIPO3件、市場変更1件を経験。経営を担う者として十分な基礎を築いてきたように映るが、「ユナイテッドさんと出会った頃の自分は経営者としてまだまだ未熟だった」と本音を漏らす。

岩橋前職ではマネジャー経験がなく、プレイヤーとしてのスキルしかなかったので、マネジメントや株主との折衝も得意ではありませんでした。さらに、経営者としての姿勢、心構えも十分に持てていなかったんです。

キャピタリストの谷口氏は、その言葉を受けて、「こんなに年下の私が言うのもどうかと思うんですけど…、岩橋さんに会うたびに、経営者として成長されている姿に、私は感動したんです」という。

谷口ユナイテッドが投資してから初の株主定例の時です。岩橋さんによる会の進行が少し緩い感じで。「ピシッと進めてくださいね」と参加者から指摘が入ってしまうほどでした。当初5人程度で始まった株主定例が、今では15人程の大きな会になっているのですが、今の岩橋さんはバシッと全体を仕切っています。当時のように株主から“指摘される”のではなく、株主に“意見を求める”ような形で巻き込んでいて、「岩橋さんすごいな、変わったな」と純粋に思っています。最初の頃と比べると別人のようです。

おそらくですが、それって立場が上とか下とか関係なく、適切なアドバイスを適切に吸収されているからだと思うんです。この“吸収力”こそが岩橋さんの強みだと私は感じています。

谷口氏のコメントを受けて、少し前の岩橋氏の発言を思い出す。谷口氏が提案した猫用のキャットフードの訴求案を、岩橋氏は素直に受け取り、次に活かしたエピソードだ。

起業家とキャピタリスト間の信頼関係は、健全な事業運営の下支えとなることは言うまでもない。例え、自分よりもビジネス経験の浅い若手キャピタリストの意見であっても、事業成長の糧になると判断すれば積極的に取り入れていく。社会人歴や年齢など関係ないのだ。この岩橋氏の“吸収力”と、前述した谷口氏の“愚直さ”があったからこそ、バイオフィリアの事業が加速していったことは間違いないだろう。

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プレシリーズAでは無風、シリーズAでは投資依頼が殺到。
調達額一億円の上乗せを果たしたリード投資家の手腕

ここまで、九死に一生を得るような資金調達を実現したバイオフィリアのストーリーと、谷口氏、岩橋氏の人物像に迫った。続いては、ユナイテッドからバイオフィリアへ、実際にどういったハンズオン支援が行われてきたのかを見ていきたい。まずは谷口氏からは、ユナイテッド独自の支援の強みが語られた。

谷口ユナイテッドは事業会社であるため、自社で人材マッチング事業や広告事業など幅広い事業を手がけています。そのため、採用支援からLP制作に至るまで、多岐にわたるサポートが可能です。さらに、現在はコンサルチームと我々キャピタリストが一体となって、一定期間、投資先の戦略策定から実行まで一気通貫で事業成長にガッツリとコミットする形での支援も行っています。

ユナイテッド決算説明資料より引用

谷口事業成長のためにどのKPIをコアとしてを見るべきか、そのKPIをどう伸ばしていくべきかといったことを、とことんフォローしていくんです。コンサルチームとキャピタリストがここまで連携している投資家は、私が知っている中ではほとんどありません。

たしかに、コンサルチームの叡智を集められるというのは、大変心強い。その一方で、「事業に深く介入されるとなると、投資家の思惑に引っ張られないか」と不安に感じる起業家・起業家予備軍もいるかもしれない。そこはご安心あれ。前回の取材のゲストである、ventus代表・梅澤氏のコメントを引用しよう。

井上さんは、「もっとこうすべきだ」と押し付けるようなことを一切しない方です。僕はどちらかというと自分で意思決定して物事を進めていきたいタイプなので、その点はとてもありがたいです。答えを押し付けるのではなく、気づきを与えてくれるというスタンスで向き合ってくれます。

これは井上氏に限った支援スタンスではなく、ユナイテッド全体に浸透するカルチャーであると捉えてもらって構わない。加えて注目すべきは、ユナイテッドのリード投資家としての、投資先におけるファイナンスへの貢献度合いである。

リード投資家は多くの場合、スタートアップが次のラウンドに進むために最も手を貸す存在とされている。シリーズAラウンドの調達においても幾多の困難に見舞われたと岩橋氏は語るが、それを上回るユナイテッドの献身的なサポートにより、シリーズAはプレシリーズAと合わせて5.6億円と、想定よりも一億円多い金額での着地となった。

前回のプレシリーズAラウンドでは、当初あらゆる投資家から見向きもされなかったバイオフィリアの可能性を見出し、投資とフォロー支援を重ねた。結果、バイオフィリアの事業はV字回復を遂げ、その後のシリーズAにおいてDIMENSION、SBIインベンストメントといった名だたるVCの賛同を得たのだ。

そして、その裏には次のラウンドにて新たな投資家をしっかりと巻き込むべく、ファイナンス面のサポート、そしてVC同士の連携強化などを推し進めたユナイテッドの存在があった。また、ユナイテッド自身も追加投資を決断していることからも、“起業家にとことん寄り添う”という同社の初志貫徹した支援スタイルが見てとれるだろう。

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“全員、キャピタリスト”。
誰もが投資実行から支援までを担う組織体制

ユナイテッドのキャピタリストとして、投資先の代表である岩橋氏と対談する席にも関わらず、堂々たる受け答え。「まだまだ、勉強中の身ですが…」と謙遜しつつも、その目からはキャピタリストとしての誇りを感じさせる。取材陣は、ユナイテッドの教育方針に何か秘訣があるのかもしれないと、谷口氏にいくつか質問を投げかけると、興味深いエピソードが返ってきた。

谷口ユナイテッドのコーポレートサイトをご覧いただいたら分かると思うのですが、全員が“キャピタリスト”という肩書きなんですね。入社直後に、当時の投資事業の管掌役員であった金子に無邪気に聞いてみたんです。「他のVCのように“アソシエイト”や“シニアアソシエイト”といった肩書きをつくらないんですか?」と。

すると金子からは「“全員、キャピタリスト”、その方が良いんだよ」という言葉が返ってきまして。「例えばアソシエイトはパートナーに案件を繋ぐ存在だけれど、ユナイテッドでは投資事業のメンバー全員が、自分の責任のもと意志をもって投資する。だからアソシエイトといったポジションは存在しないし、メンバー間に上下関係も必要ないんだ」とのことでした。それを聞いて私は「なるほど!」と腹落ちしたんです。

全員が、キャピタリスト。1年目であろうが、投資の実行から支援まで、一気通貫で携わっていく。「自分は一人前なのだ」という意識が、谷口氏に力強く植え付けられたのだろう。ユナイテッドでは、実際に全キャピタリストが自ら投資先を見極め、投資および支援を実行する前提で起業家とやりとりする。これこそが同社のユニークなポリシー。そこには遠慮など無用。プロフェッショナルとしての意識が、谷口氏のポテンシャルを引き上げたのだ。

谷口ユナイテッドの投資委員会は、取締役が全員参加する場か、代表取締役社長であり投資事業の管掌役員でもある早川と、井上が参加する場で行われます。そのような場で、キャピタリストが起案者として自分の投資したいと想える会社や事業や、投資すべき理由も直接説明する機会があります。“裁量権”と言ってしまえばありきたりになってしまいますが、責任感ある仕事を任せてもらっているなという実感があります。

続けて谷口氏は、「キャピタリストの道に進んだのは100%正解だった」と素直な感想を述べる。

谷口キャピタリストって、これだけ勉強すれば良いということがなく、どこまでも深ぼれるし、どこまでも広げられる仕事だと思うんです。だから最初は、何から手をつけて良いのか分からなくて、迷いも不安もいっぱいでした。

けれど、見方を変えれば、“変化に強い仕事”だなと思っています。あらゆる領域においてアンテナ高く、広く深く学んでいけるので、時代や市場の変化があったとしてもいくらでも変化・対応していけると思うんです。なので、「この道が自分にとっては正解だったんだ」と、今は確信を持てています。

起業家やベテランキャピタリストといった、自分より何倍もビジネス経験が豊富なメンバーに囲まれながら、必死に食らいついてきた谷口氏。彼女の成長ぶりを、岩橋氏も直に感じ取っていたという。

岩橋ユナイテッドさんに投資いただいた初期の頃の弊社の株主定例では、谷口さんはどこか発言を躊躇されている印象でした。その場には井上さんもいらっしゃるし、周囲は経験豊富な株主ばかり。「ビジネスも、キャピタリストとしても未経験の立場だから、何を話せば良いのか分からない…」と思っていたのかもしれませんし、その気持ちはよく分かります。

でも今は、僕らバイオフィリアの助けになるような発言をどんどんしてくれる。本当に「ありがたいな」と思っています。

谷口今後はそのように思っていただける場面を増やせるように、より頑張ります!

恥じらいながら笑みを浮かべる谷口氏だが、心から嬉しそうであった。「起業家の力になりたい」という原動力が、しっかりと実を結んでいることが岩橋氏のコメントからも見えてくる。谷口氏の成長はこれからも止まることがないだろう。

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「この先、創業時と同じ手法は通用しない」。
求めるは、組織や事業を知るユナイテッドの力

ここまで、バイオフィリアの過去と現在を追ってきたが、最後に気になるのは未来の話。同社の今後の展望を、岩橋氏に訊いた。その答えは一見すると壮大だが、「バイオフィリアであれば、きっと実現するだろう」と取材陣が確信できるものだった。

岩橋現在注力している事業をグローバルブランドにしていきたいと思っています。グローバル化への道のりには、既存のECのみならず新たに店舗展開も必要ですし、マーケティングの強化も必須要件です。これまでとは大きく事業フェーズが変わっていくでしょう。

『ココグルメ』は共同創業者と2名体制の時に始めて伸ばしてきましたが、今はもうバイオフィリアもふた桁を超えた組織。なので、今後『ミャオグルメ』を展開する際は当時と同じ手法は通用しない。なので、組織として事業をグロースさせるための知見やアドバイスも、ぜひユナイテッドさんからご支援いただきたいです。

岩橋氏の言葉に信頼が置けるのは、起業家としてのブレない信念、事業への高い熱量があることはもちろん、同社を支える強力な投資家がいるからだ。

岩橋ユナイテッドさんをはじめ、投資家さんたちのご支援によって、今は心の持ちようが変わったんですよね。「バイオフィリアのメンバーだけじゃない。“支えてくれる仲間”がたくさんいる」と思えるんです。

ユナイテッドのハンズオン支援は、たしかに手厚い。投資先への事業貢献度は間違いなく大きい。だが、我々はもう1つの重要な要素を見逃したくない。それは、“そばでずっと支え続ける”という、起業家のメンタルへの貢献だ。ユナイテッドの存在は、いつも岩橋氏を勇気づけ、またチャレンジ精神を刺激しているのだ。

谷口現在、バイオフィリアさんは売り上げも右肩上がりで、上場というワードも見えてきています。次なるフェーズに進んでいくところです。

『ココグルメ』が順調な伸びを見せる中、猫のキャットフード『ミャオグルメ』についても引き続き、事業成長を促せるよう仮説検証していきます。そこは過去の知見やコンサルチームとの連携など、弊社のアセットを全て使いながら、どのように伸ばしていくべきかを検討して、バイオフィリアさんのお力になっていきたいですね。

また、今後は店舗出店やマーケティングなどで、新たな課題も続出するはず。ユナイテッドが長年の投資事業によって蓄積してきたデータベースには、バイオフィリアさんと似た事例も多くあります。なので、どの領域の企業がどのくらいの数字で伸びたのか、といったことを日々研究しています。これらのデータをうまく活用することで、バイオフィリアさんの事業成長にさらに貢献していきたいと思っています。

谷口氏のコメントには、投資先へのまっすぐな想いが溢れ出ていた。これからも、ユナイテッドによるバイオフィリアのハンズオン支援は続いていく。ビジネスの話題には不釣り合いな表現かもしれないが、ユナイテッドの支援は、“真心”を感じる支援だと取材陣は思った。グローバル化、上場への道のりを温かく、力強くサポートしていくのだろう。

今回は、ユナイテッドのハンズオン支援の実例と、いざ投資を決定する際の独自の視点や目利きについて垣間見ることができた。そして、その現場で奔走する若手キャピタリスト・谷口氏の活躍も読者の印象に残ったのではないだろうか。

次回はそんな谷口氏に加え、ユナイテッドにおける他の若手キャピタリストらも集め、本記事では語られなかった同社の人材育成環境や、若手キャピタリストでも存分に起業家に伴走できる、その強固な支援体制について網羅的に紐解いていく。次回の取材を通じ、「確かに、ユナイテッドはもはやVCでもCVCでもない」と納得してもらえることを期待したい。乞うご期待。

こちらの記事は2022年10月31日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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スタートアップ人事/広報を経て、フリーランスライターへ。ビジネス系のインタビュー記事や複数企業の採用広報業務に携わる。原稿に対する感想として多いのは、「文章があったかい」。インタビュイーの心の奥底にある情熱、やさしさを丁寧に表現することを心がけている。旅人の一面もあり、沖縄・タイ・スペインなど国内外を転々とする生活を送る。

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藤田 慎一郎

編集

大浜 拓也

株式会社スモールクリエイター代表。2010年立教大学在学中にWeb制作、メディア事業にて起業し、キャリア・エンタメ系クライアントを中心に業務支援を行う。2017年からは併行して人材紹介会社の創業メンバーとしてIT企業の採用支援に従事。現在はIT・人材・エンタメをキーワードにクライアントWebメディアのプロデュースや制作運営を担っている。ロック好きでギター歴20年。

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