連載私がやめた3カ条

「熱い人」で上等。恥じらいなんて、クソくらえ──DataLabs田尻大介の「やめ3」

田尻 大介

新卒で宇宙航空研究開発機構(JAXA)に入社後、リモートセンシング(衛星データ)の利用普及事業に従事。その後有人宇宙関連部署に異動したのち、ドローンベンチャーに転職。三次元計測事業責任者や新規技術導入を担当。その後衛星ベンチャーにて、BtoB SaaSの事業開発担当として技術提案からクロージングまでを牽引。2020年7月にDataLabs株式会社を創業。

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起業家や事業家に「やめたこと」を聞き、その裏にあるビジネス哲学を探る連載企画「私がやめた三カ条」。略して「やめ3」。

今回のゲストは、点群データの自動3Dモデル化(BIM/CIM化)技術を基に、あらゆる建設業務を効率化するクラウドシステムの提供を行う、DataLabs株式会社 代表取締役社長、 田尻大介氏だ。

  • TEXT BY RINA AMAGAYA
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田尻氏とは──夢中になれることを、全力でやる。
少年のようなパッションで。

新卒でJAXA入社、ドローンベンチャーへの転職、そして衛星データを扱うベンチャーを経て、三次元モデルを活用した会社の起業……。そんな独特のキャリアを歩んできたのが、この田尻氏だ。

田尻最近、周りによく熱い人と言われることが多いです。自分が今楽しいと思っていることを、色んな人にとにかく伝えたい。今振り返ると、これまでのキャリアの中で打ってきた点と点たちが、線として繋がってきたなっていう感覚があります。

田尻氏は興味のあることにいつもまっしぐらで、周囲を巻き込んでいる。実際にその情熱的でフレンドリーな人柄に惹かれて、DataLabsへの入社を決めた社員も少なくないという。

そんな田尻氏の人柄やスタンス、そして起業までのキャリアには、多くの影響を与えたものがあるに違いない。

そこで今回は、田尻氏の起業までのストーリーを掘り下げ、どのような人物であるのかについて触れる。田尻氏が育んできた関心事やインスピレーション、そして周囲からの刺激によって形成された仕事観についてを探る。なにかきっとヒントがあるはずだ。

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「受け身」でいる自分をやめた

冒頭に、田尻氏は情熱的な人物であることに触れた。しかし、実は幼少期には引っ込み思案で、内向的な性格を持っていたそう。そんな田尻氏が変わるきっかけとなったのが、新卒で入社したJAXAでの社会人経験だった。

田尻前職のJAXAでは、国家機関との連携がメインだったため、成果が出るまで時間がかかることが多かったんです。どことなくもどかしさを感じていて、早くもっと発言権を持って、自分の力で仕事をスピーディーに推し進めていきたいという気持ちが徐々に強くなりました。

ベンチャー企業でなら、もっと主体的にスピード感を持って働けるかもしれない。そう考えて、環境をドラスティックに変えようと決意しました。

こうして、感覚的に違和感を覚えてしまっていた組織から抜け出し、若手であっても成果を出せば責任あるポジションを任せてもらえるであろう企業を探した。そうして入社した先がグローバルベンチャー、テラドローンだ。

ポジティブな意味での「カルチャーショック」を受けたと振り返る田尻氏。周りには、年齢に関係なく成果を出し、責任範囲を広げている同世代がいた。

特に「ロールモデルだ」と感じたのが、当時の国内事業統括責任者。社会人3年目にして、日本全国7支社の統括をするまでに至った「企業経営の麒麟児」だ。

田尻同い年なのに実質的に5つもの事業を運営しているような仕事の仕方をしていて、ショックを受けました。「こういう人の近くにいて、学び、挑戦し続けなければ」と焦りました。

当時、もっと主体的に仕事ができる環境に身を置きたいと考えていた田尻氏。そんな考えはまだまだ甘いものだと思い知った。がむしゃらに働き、成果を追い求め続ける挑戦を、まずは積んでいくこととなる。起業家・田尻がここから生まれていく。

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「熱血漢」と言われて、ネガティブに考えるのをやめた

前述した通り、昔は引っ込み思案だったという田尻氏。経営者である以上、自分の気持ちや方針をメンバーや社内外に十分に伝えるシーンが多いはず。なんなら熱くなることは、経営者の宿命とも言えるだろう。だが、それが一つの悩みだったという。

田尻最近になって、共同創業者や周囲の人たちから「熱い」と言われることが多くなってきたので、自分の自己認識とギャップがあると感じ、恥ずかしいと思っていました。

ある時ふと、「なぜ、自分は恥ずかしいのだろうか……?」と内省をするようになりました。そうして思い出したのは、幼少期からの記憶です。昔から、無関心な時はとにかく無関心、だけど一方で、興味のあるものについては誰よりも詳しく語っていた自分がいたんです。

また、大好きだったNBAの大スター、コービー・ブライアントさんが事故死したとき、悲しみの感情を妻に対して思い切りぶつけ、延々と聞かせてしまったこともありました。今思えば、妻は引いていたなと感じるのですが(笑)、それくらいに、一度スイッチが入ると、止まらない部分があるのは事実です。

つまり私は、自分の考えや想いを、周りのみんなに伝えたいという欲求が強いのだと気づきました。それを、「暑苦しい」と言われているようで恥ずかしかったのですが、今では長所だと理解するようになっています。

田尻氏は、熱くなることをネガティブに思っていた理由と、熱くなることの本質を自分なりに分析。今、このように思考をポジティブに転換できるようになったのは、憧れの経営者の一人でもあるビズリーチ創業者の南宗一郎氏(現ビジョナル代表取締役社長)の影響があると明かす。

田尻あの南さんでさえ、昔は人前に立って何かをすることが恐かったらしいんです。「突き抜けるまで問い続けろ」という、南さんの起業ストーリーを追ったノンフィクションに書いてあり、何度も読み返しています。

そんな過去を乗り越えて、堂々とした経営者になっているという点に、自分と重なる部分を感じ、「頑張ろう」と読むたびに思わされています。

こうした「熱さ」があったからこそ、DataLabsの事業が生まれたとも感じられる。特に三次元データの活用のように、新しいテクノロジー領域では事例のないことを事業化させるには、熱量と根気が不可欠なはずだからだ。

田尻これまでのキャリアを通じて、リモートセンシングデータの活用のポテンシャルを強く感じていたので、「他の人がやらないなら自分でやるぞ」という想いは、誰にも負けませんね。

JAXAのときは無我夢中でやっていただけでしたが、今となってはSynspectiveでの経験も踏まえ、衛星のことを聞かれても答えられますし、点群データもテラドローンでやっていたのでその活用における顧客の潜在課題・ニーズに精通している自負があります。自分の中ではようやく、点と点が線で繋がったという実感が、最近得られています。

紆余曲折はあっただろうが、田尻氏は自分が会社を起こせるタイミングで幅広い知見を得て、それを大いに活かして事業を展開している。

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「専門領域がない=不利」と捉えるのをやめた

そんな田尻氏が、「熱さ」ともう一つ、悩んでいたのが、意外にも「専門領域のなさ」だ。ここまでに触れたキャリアの話ではむしろ、技術面の知見に溢れているように感じた読者もいるだろう。どういうことなのだろうか?

田尻衛星データや点群データの解析アルゴリズムなどを構築できる技量は、僕にはありません。せいぜい、既存のソフトを使って処理することしかできないんです。担当していたのはプリセールスや技術営業が多かったため、「自分は専門家である」という意識を強く持てず、中途半端な存在だと感じてしまっていました。

しかしここでも、南氏の金言に助けられた田尻氏。考え方は180°変わった。先ほども出た『「突き抜けるまで問い続けろ』の中で、「ビズリーチ創業 門外漢だから見えた勝機」という章がある。南氏も、HR業界についての専門知識があったわけではないにもかかわらず、ビズリーチという非常に大きな企業・事業をつくり上げることができたわけなのだ。

田尻この「門外漢だから見えた勝機」という話には、強い共感を覚え、奮い立たされます。うちには、CTOをはじめとして、非常に高度な技術を有するエンジニアが揃っており、私が持っていない専門知識を存分に発揮してくれています。そのため、私が専門知識を持っている必要性はないんです。このことに腹落ちするまで、なかなか時間がかかってしまいました。

最後に、取材に同席した広報室の山田薫氏も、田尻氏についてこのように語ってくれた。

山田熱心でフレンドリーな社長の人柄に惹かれて入社を決めた社員も多く、意見を言いやすい社風を作ってくれていると感じています。熱さとアンラーニング力が大きな特徴で、こうした取材でこの部分が多く出るのは嬉しいですね。

なるほど、現在は経営者として、メンバーたちがより主体的に働ける環境を提供するだけでなく、それぞれの専門領域を持つメンバーを信頼し、企業経営を行っているのだろう。

田尻氏にとって、若手の頃に感じた「組織環境への違和感」は大きな教訓となっているはず。

過去の経験から学び、それを活かしてメンバーたちがより主体的に働ける環境をつくり出す。それを愚直に実践していくことが、組織の成長にきっとつながっていく。さらなる挑戦が楽しみだ。

こちらの記事は2023年03月29日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

雨谷 里奈

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