海外投資家の注目を集める
ケニアのスタートアップ環境「シリコン・サバンナ」の今

泉田 大輝
  • AF TECH 代表 

ケニアを拠点にアフリカのスタートアップ情報、最新のマーケット情報を配信する「AF TECH」を運営。アフリカ内のフィンテック、アグリテック、エドテックに注目。その中でも特にBOP層をターゲットにしたスタートアップをウォッチ。今年の8月に学生や起業家を対象とした実践型スタディツアーをケニアにて開催予定。

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  • TEXT BY DAIKI IZUMIDA
  • EDIT BY JUNYA MORI

アメリカを拠点に世界各地のスタートアップへ投資を行うPartech Venturesが発表したアフリカ年間投資額レポートによると、アフリカ内スタートアップへの投資額は年々増加傾向にある。

2017年はアフリカ内スタートアップに対し、5億6000万米ドルが投資されており、2015年の2億7700万米ドルと比べると、約102%の成長率となっている。

その中でも南アフリカに次いで、大躍進を遂げているのが「ケニア」だ。ケニアは東アフリカのシリコンバレーとして、今や「シリコン・サバンナ」と呼ばれている。

2017年の対ケニア内スタートアップへの投資額は1億4700万米ドルで、前年比58%の成長。成長が鈍化したナイジェリア(前年比4.7%成長)と比べて、大躍進を続けている。

今年3月には、ケニアの大統領Uhuru Kenyatta氏が、ケニアで開催された「EU-Africa Youth And Entrepreneurship Forum」に登壇し、「アフリカに理想的なビジネス環境を生み出し、若手起業家の持続的な成長を促すことができる環境創りをしていく」とスピーチを行った。

政府も新しいイノベーションの創出と起業家育成に向けてサポートを行う方向性にある。海外からの投資を呼び込む「アフリカのゲートウェイ」としてケニアが機能し始めているのだ。

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起業家と投資家のハブとして機能するケニアのインキュベーション施設

なぜ、ケニアは「シリコン・サバンナ」と呼ばれるようになったのか。

その背景には、インターネット普及率の高さとスタートアップの成長を支えるインキュベーション施設の存在が大きい。

ケニアのインターネット普及率は85%を超えており、南アフリカやエジプトといったアフリカ先進国諸国の中でも最も高い。

スタートアップを様々な側面でサポートするインキュベーション施設も増加傾向にあり、​ITを活用しサービスを提供するスタートアップにとって、アフリカ内ではこれほど良い環境はないと言える。

ケニアの大統領も訪問しているケニアを代表するインキュベーション施設「i Hub」は設立以来、ケニアで170ものスタートアップを輩出している。

インキュベーション施設が増えサポート体制が整いつつある状況下で、ケニアで起業を志す人が増えているのだ。

GoogleやMicrosoft、Facebookといった世界を代表する企業もこの「i Hub」のパートナーとして参画しており、イベントや講演を通じてケニアの起業家へのサポートを行っている。Facebookの創設者マーク・ザッカーバーグ氏が2016年に訪問し、i Hub内の起業家との交流、ミーティングを行っていたことも話題となった。

海外の投資家もインキュベーション施設を定期的に訪問し、投資先候補となるスタートアップを探している。

海外の投資家、IT企業の創設者がまず最初に訪問する先としてインキュベーション施設が選ばれている。

そこにケニアの起業家、投資家が集まっており、スタートアップに関する情報を効率的に収集できるハブとなっているからなのだ。

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オフィススペースの提供だけでないインキュベーション施設のサポート体制

ケニアの起業家、そして投資家が集まるインキュベーション施設は、具体的にどのような取り組みを行い現地のスタートアップのサポートを行っているのだろうか。

前述のi Hubを例に、ケニアのスタートアップに対して具体的にどのようなサポートが行われているのか紹介したい。

i Hubでは、起業家が事業に集中して事業に取り組むことができるように、スタンディングデスク、共有デスク、集中デスク、個室オフィススペースといったさまざまなタイプのオフィススペースが用意されている。

i Hub内共有スペース

i Hubのオフィススペースには、金融、農業、教育、ECといった多分野のスタートアップが入居しており、それぞれの分野で抱える課題を解決すべく日々奮闘している。

会議室も大小複数用意されており、企業内、外部の人も交えたミーティングに利用することができ、施設内にはカフェも併設されている。昨今日本でも流行りのコワーキングスペースにも引けを取らない充実した環境だ。

i Hubはオフィススペースの提供だけでなく、ブロックチェーン、ヘルスケアなどテーマを定めたミ―トアップや、VCの紹介、ソフトウェア開発のコンサルティング、人材採用サポート、アクセラレータープログラムといったさまざまな起業家サポート体制を整えている。この体制が単なるコワーキングスペースと一線を画す。

注目すべきはi Hubが実施するアクセラレータープログラムだ。

東アフリカから世界で戦えるスタートアップを輩出する
Traction Camp | Growing World Class Startups

i Hubは東アフリカのスタートアップの国際競争性を高めるために、東アフリカ各国のスタートアップが参加することができる、「Traction Camp」と呼ばれるアクセラレータープログラムを実施している。

世界銀行とパートナーシップを組み、海外、現地の専門家総勢32名のメンタリングのもと、半年間に渡ってスタートアップの成長を促進させるプログラムだ。東アフリカ内にとどまらず、世界に飛び出して活躍することを前提にプログラム提供されている。

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海外の投資家も注目をしているケニアのスタートアップ環境

前述のPartech Venturesはアフリカ内のアーリーステージのテックスタートアップに特化して投資を行う1億米ドル規模のファンドを設立した。

※世界銀行グループの世界金融公社は、今回のPartech Venturesによる1億米ドル規模のファンド設立は、サブサハラ・アフリカ内では最大規模のものだと発表している。

Partech Venturesは投資検討先として、ケニアを重要投資国としてとらえている。

ケニアでは農業やインフラ、金融といった分野でBOP層(※)向けにサービスを展開するスタートアップが増えており、成功事例も多い。

※BOP層:一般に年間所得が購買力平価(PPP)ベースで3,000ドル以下の開発途上国 の低所得階層

数十億、数百億円単位で資金調達を実施しているスタートアップも存在しているのだ。

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BOP層向けにサービスを展開するケニアで注目のスタートアップ

数十億の資金調達を実施しているケニアのスタートアップの中でも筆者が注目するケニアのスタートアップを2つ紹介したい。

農産物流通プラットフォームTwiga Foods社

Twiga Foods

Twiga Foodsは農家から質の高い農産物を一括で購入し、キオスクという小規模小売店向けに農産物を販売。ケニアのGDPの約25%を占めると言われている農業分野からのスタートアップだ。

バナナの卸販売から始めたTwiga Foodsは2018年現在、合計2億房以上のバナナを販売し、顧客数は2,600人に達する。現在はバナナの他にも、トマト、玉ねぎ、ジャガイモを取り扱う。

2013年の創業で、今までで総額1340万米ドルの資金調達を実施している。さらに、2018年5月には、IBMと戦略的提携を行い、IBMのブロックチェーン技術を活用した少額融資(マイクロローン)サービスを開始すると発表。

彼ら自身が顧客に少額融資を提供することで、その貸し出したお金で自社の野菜を購入してもらう。顧客との関係性の構築、及びサービスのリピーター化を目的としている。

実際、Twiga FoodsとIBMが期間限定で導入した少額融資サービステストでは、少額融資を受けたベンダーからのオーダー量は30%増、ベンダーの収益は6%増と発表している。

無電化地域にエコな光を提供するM-KOPA社

M-KOPAは、ケニアの急速な経済成長と反した通常の生活とはかけ離れた水準で生活する無電化地域に住むBOP層向けに、家庭用太陽光発電システムの割賦販売を行っている。

M-KOPAの太陽光発電システムによって電気のある暮らし
M-KOPA 4 in Action | M-KOPA Corporate

顧客は契約時に約3400円の手付け金を支払うことで太陽光発電システムを利用することができ、明かりのある暮らしを送ることができるようになる。

顧客は毎日約54円を1年間支払えば完済する仕組みとなっており、これが貧困層向けのサービスであるにも関わらず爆発的に普及した理由だ。

2017年4月時点で50万世帯にM-KOPAの太陽光発電システムが導入されている。

通常の販売方法ではなく、割賦販売という仕組みをつくり、無電化地域に住む人でも購入できる価格帯に工夫されている。

2018年5月現在で、総額1億6180万米ドルの資金調達を実施しており、日本の三井物産もM-KOPAに出資を行っている。

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ケニアのインキュベーション施設から始まるエコシステム

大きな成長を遂げ、アフリカ内では特出した高い成長率を誇るケニア。

しかし、都市以外を中心に生活レベルの向上の問題や課題はまだまだ多い。そしてケニア国内のユーザーの大多数はそういったBOP層の人々である。

ケニアでは、その高いインターネット普及率や環境を活かし、そして昨今のインキュベーション施設や投資家の出現、そして政府の助成により、各分野の課題を解決するサービスを提供するスタートアップが登場する傾向は引き続き揺るがないだろう。

ケニアではスタートアップがそれぞれの分野で課題を解決し、BOP層の人達へ便利かつ持続可能な生活をもたらすことで将来的に国の消費力の底上げを促進していく流れに向かおうとしている。

ケニアは国としても、さらに大きく成長していくことは間違いないだろう。

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AF TECHと共にケニアの起業家と交流しビジネス事例を学ぶことができるツアー

ケニアでビジネス視察×インターンの実践型スタディツアー | AF TECH |アフリカのスタートアップを中心としたビジネスニュースをお届け!

アフリカのスタートアップ、最新のマーケット情報を配信するメディア「AF TECH」では、世界が注目するケニアで実践型のスタディツアーを今夏開催!

上記で紹介した、東アフリカを代表するインキュベーション施設である「i Hub」をはじめ、同じくインキュベーション施設である「Nairobi Garage」にも訪問。現地の起業家との交流、ディスカッションの機会を提供します。

また、ケニアの農産業分野でサービス展開をするスタートアップ「AmoebaX」社での新規事業立案インターン・ワークショップにも参加していただきます。

ケニアのスタートアップ環境を肌で感じ、インターンを通して実践的なスキルを学ぶことができるプログラムとなっています。

こちらの記事は2018年06月12日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

泉田 大輝

ケニアを拠点にアフリカのスタートアップ情報、最新のマーケット情報を配信する「AF TECH」を運営。アフリカ内のフィンテック、アグリテック、エドテックに注目。その中でも特にBOP層をターゲットにしたスタートアップをウォッチ。今年の8月に学生や起業家を対象とした実践型スタディツアーをケニアにて開催予定。

1987年生まれ、岐阜県出身。大学卒業後、2011年よりフリーランスのライターとして活動。スタートアップやテクノロジー、R&D、新規事業開発などの取材執筆を行う傍ら、ベンチャーの情報発信に編集パートナーとして伴走。2015年に株式会社インクワイアを設立。スタートアップから大手企業まで数々の企業を編集の力で支援している。NPO法人soar副代表、IDENTITY共同創業者、FastGrow CCOなど。

デスクチェック

長谷川 賢人

1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。

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