MITで溺れた、仮説検証の「中毒性」を求めて──Asterminds・本多代表の純粋なる実証実験
AIが開発などの実行を代替する時代において、新規事業のボトルネックは人間の「構想力」へと移行した。この構想力の拡張に挑むのが、AIヒアリングエージェント『InTake』を提供するAsterminds株式会社だ。コンサルタントやプロジェクト担当者が数ヶ月かけて行っていた数百名から数千名規模の業務ヒアリングをAIが代行し、現場の一次情報を短期間で収集・整理して意思決定の力へと変える。同社代表の本多真二郎氏は、三菱商事での盤石なキャリアを手放し、不確実な起業の道を選んだ。彼を突き動かしているのは、AIの進化に置いていかれる恐怖と、不確実性を乗りこなす楽しみだ。
「AIが個々の苦手を補完する時代において、人に求められるのは欠落への怒りではなく、AIに代替されない個性と、事業をドライブする推進力である」──。
そう確信し、限られた手札で勝てる仕組み作りに没頭する本多氏の脳内構造を探る。
不確実性を乗りこなす楽しみ。三菱商事を飛び出させた、仮説検証の手応え
三菱商事でのDX推進やコンサルティング出向というキャリアを手放してまで、なぜ未踏の起業という道を選んだのでしょうか。
本多AIの進化スピードに完全に置いていかれるという危機感です。業務ヒアリングというものは、それ自体がアウトプットを生むわけではなく、前提知識を収集するだけで数ヶ月という時間とコストを浪費しています。AIがこの実行力のボトルネックを破壊し始めている中で、自分が最前線でプロダクトを開発する側にいなければ、一生乗り遅れると確信したんです。
「今起業しなければ、一生できない」──。そんな切迫感で飛び出しました。
最前線でプロダクトを開発したいという思いの裏には、自ら事業を創ることへのある種の「中毒性」への渇望があったと伺っています。その感覚はいつ生まれたのですか。
本多MITへ留学していた2023年です。自らビジネス英語学習アプリを開発し運用していたのですが、最初は全くダウンロード数が伸びませんでした。しかし、発音判定機能の追加など、ごく小さな仮説を立てて実行した結果、ダイレクトに数字が跳ね上がった。自分の仮説が市場に当たり、ユーザーが喜ぶ結果が即座に見える。この不確実性を乗りこなす楽しみに、もう一度浸りたかったのです。
既存の巨大な組織の中で仕組みを作るのではなく、ゼロからイチを生み出す場を外部に求めたのはなぜですか。
本多巨大なインフラの中でのツール開発と、何もない状態からイチを生み出し、世の中に直接受け入れられるかどうかを問うのとでは、得られる熱狂の質が全く異なるからです。自分の仮説が市場にどう刺さるかという勝負に身を置き、プロダクトが顧客にヒットした時のたまらなく楽しい感覚を味わうこと。それこそが私が外部に求めたものでした。
「欠落」に怒るより、「補完」と「仕組み化」に意識を向けよ
スタートアップの創業期には、想定外のトラブルやメンバーに対する「怒り」や「苛立ち」が伴うのが常です。しかし、本多さんは仕事においてそうした負の感情を一切持たないと。
本多AIが個々の苦手を補完してくれる時代、人に問われるのはAIでも代替できない個性と、事業をドライブする推進力です。欠落に怒るより、補完と仕組み化に意識を向けた方が合理的だと考えています。
人は皆、何かしら優秀な武器を持っています。だからこそ、相手の能力の欠落に対しても「この人はこれが苦手なんだな」と事実として受け止めるだけです。他者に過度な干渉をせず、その人がやりたいことをやればいい。それぞれの専門性を生かしてどう勝つかという仕組み作りにしか興味がありません。
ブランドやお金といった成功の指標にも一切の執着がないと伺っています。自己顕示欲を手放した精神状態の中で、本多さんを強烈に突き動かすものは何なのでしょうか。
本多自分たちが作っている事業内容や、プロダクトの中身そのものです。ブランドものには全く興味がありませんし、純粋に好きなチームで、面白いことをやるのが一番楽しい。人にタスクを割り振ったり教えたりするのは実は苦手なのですが、みんなが自立して専門性を持ち、少人数でも大きなものに勝てる「仕組み」を作ることに対しては強い関心を持っています。
その「限られた手札で工夫して勝つ」ことへの執着は、過去のどのような原体験に紐づいているのでしょうか。
本多高校時代の弱小野球部での経験ですね。強豪校で決められた通りにプレイするよりも、弱いチームで「どう勝つか」を考える方が圧倒的に面白い。当時はプレイングマネージャーとして自分でサインを出し、プレイもしていました。少ないリソースをどう組み合わせれば格上に勝てるのか。この仕組みで勝つ楽しさが、今の組織創りや事業展開の原動力になっています。
コンサルティングの立場で伴走。1週間で数百名の声を浴び「構想力」を拡張
創業直後から、あえて自らコンサルティングの立ち位置で現場に入り込むというGo-to-market戦略をとった真意を教えてください。
本多我々の製品をただ渡すのではなく、我々自身が中に入ってヒアリングの実行や分析を請け負う形をとりました。つまり、コンサルティングとして入り込みつつ、内部では自社のAIを極限まで使い倒すことで、顧客のコストを抑え、我々自身は実弾の検証を一気に進めることができたのです。数日や1週間の単位で数百名規模のインタビューをAIで集め、生の声を浴び続けるのは純粋に面白い体験でした。
その異常な速度で集められた「無数の声」は、最終的にどのようなプロダクトの思想へと繋がっていくのでしょうか。
本多当事者意識の範囲の拡張です。当事者意識の範囲が広い人こそがいい経営者だと考えています。
老若男女問わず人がAIに情報をインプットしてくれることで、目の前の顧客だけでなく、その対面にある業界、さらには国の産業全体に対してまで当事者意識を広げることができる。AIを使って現場の暗黙知を形式知化し、人間が本来持つ「構想力」を後押しする事業なのです。
人間の構想力を拡張していくにあたり、開発体制や顧客との関係性において、絶対に妥協できないスタンスは何ですか。
本多圧倒的なスピードと、熱量の共有でしょうか。機能改善は1週間以内で回し、開発も営業も全ての業務にAIを組み込む。そのスピードを前提とした上で、我々が提示する「こういう未来があるのではないか」という仮説に対し、共にワクワクしてくれるクライアントとだけ付き合う。この熱量が伝播することこそが、未知の市場をこじ開ける武器になると信じています。
FastGrowの見解
自分の仮説で世界が動く「中毒性」への渇望と、制約だらけのチームで工夫して勝つことへの純粋な熱狂。人間関係の摩擦やブランドといった不要な執着を排除し、ただ一直線に事業創りという実証実験にのめり込む。この冷徹なまでの合理性と、純度の高い熱量の同居こそが、彼が未知の市場を切り拓く最大の武器だ。
しかし、AIによって人間の暗黙知を形式知化し「構想力」を拡張していくという彼の壮大な野望は、今回の対話だけでは底が知れない。本多 真二郎という強烈な個性が率いるAstermindsの挑戦は、まだほんの序章に過ぎない。彼らが次にどのような仮説で世界を揺さぶるのか。我々は今後も、彼が仕掛けるこの途方もない実証実験の行く末を注視せずにはいられない。
こちらの記事は2026年05月12日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
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