倒産の淵から1コンバージョンに狂信。「スマートな成長などいらない」──マイナスから売上20億への執念のロード【エックスラボ代表・藤氏】
「世界を変える」などという耳障りの良いビジョンは一切語らない。
株式会社エックスラボ代表、藤 勝行氏。29歳での自己破産という原体験は、美談などではない。売上がなければ何も守れないという絶望であり、それが彼を「1コンバージョン」へと狂信的に執着させるトリガーとなった。その執念は、激戦区であるデジタルマーケティング市場で年商20億円規模へ急成長を遂げる基盤となり、さらに競合が参入しづらい「セミナーDX」というニッチ領域を独占する冷徹なハックへと昇華されている。
あえて1.5億円を投じる自社プロダクトの開発全権を、26歳の未経験者に一任する狂気の意思決定。トレンドを追ってスマートに失敗を避ける優秀層へのアンチテーゼとも言える、圧倒的なホームランのみを狙う藤氏の狂気を解剖する。
巨額の負債という絶望を経て、コンバージョン狂へ
起業の動機が「個人的な借金の返済」だったと伺いました。
藤29歳で会社を倒産させ、自己破産を経験しました。その際、金融機関以外に個人的にお金を出してくださった方々がいたんです。応援して頂いた方たちに、別の形で恩返しをしたいという想いで立ち上げたのがエックスラボです。その時の支援者たちには様々な形でご恩を返していますので、今も良好な関係を築けています。
華やかなビジョンではなく、「負債の返済」という事実が現在の経営にどう影響しているのでしょうか。
藤私はエリート街道ではなく、倒産というマイナスからスタートした経営者です。必死に駆け抜け、34歳で負債をゼロにすることができました。どん底の時、かつての顧客から「何でもいいから君の商品を買う」と言われた経験があります。この絶望を知っているからこそ、売上が立たなければいかなる事業計画も意味を持たず、何も守れないという冷徹な事実が骨の髄まで染み付いています。
その絶望があるからこそ、マーケティングを武器に選んだのですね。
藤会社を潰した時、自前の集客力さえあれば回避できたと痛感しました。私の父は腕の良い職人でしたが、セールスとは無縁でその価値が埋もれていました。伝え方の苦手な企業を救い、自分たちを守るための最強の盾が、マーケティングだったんです。
その原体験は、現在の事業や組織にどう接続しているのでしょうか。
藤1コンバージョンに対する異常なまでの重みと喜びが、創業時から1ミリも変わっていないということです。集客に切実に悩む企業に対し、試行錯誤の末に結果を出す。スマートに事業を語るのではなく、泥にまみれて成果をもぎ取る。この数字への狂信的な執着こそが、我々が事業を継続し、成長させる唯一の理由です。
消耗戦の完全回避。「セミナーDX」の冷徹なハック
エックスラボは、激戦区であるデジタルマーケティング市場で、年商20億円規模まで成長させていますね。
藤デジタルマーケティングの会社なんて山ほどあって、何の戦略もなしにやれば間違いなく埋もれます。需要はあるが供給も多すぎる、典型的なレッドオーシャンです。競合他社と同じ土俵で正面から戦うのは避けるべきです。需要が高くて供給が少ない領域を狙わなければ、あっという間に代替可能な存在になりますから。
その勝てるポジションとして見出したのが、セミナーベース事業ですね。
藤そうです。エックスラボはセミナーやウェビナーの集客支援に特化しました。一般的なマーケティングは月に数百万円の予算が動きますが、セミナーは毎日開催されるものではありません。月に数回程度です。広告費がそこまで消化されないため、競合が参入しにくく、ライバルが生まれにくい。ここが、戦わずして勝てる構造的な隙間を突いたニッチなポジションでした。
労働集約的なデジタルマーケティングで戦ってきたからこそ、この領域を「自動化(DX)」することに執着していると。
藤その通りです。マーケティングは泥臭い地上戦ですが、だからこそ可能な限り自動化し、合理化したいんです。セミナーは営業や採用などあらゆるビジネスシーンで使われます。これを『WebinarBase』という自社SaaSで自動化できれば、労働集約型からストック収益型へ劇的にシフトできる。泥臭さを知るからこそ、自動化への執念は誰よりも強いです。
その「戦わずして勝つ」事業戦略を牽引するためには、どのような人材が必要になるのでしょうか。採用市場においても同じ戦略を展開しているのですか。
藤人材市場でも全く同じです。正面から戦えば、成長環境や規模を武器にする大手の人材系企業に決勝戦で負けてしまいます。だからこそ、真っ向勝負を完全に避け、特定の層にだけ深く刺さるメッセージを研ぎ澄ます。全員に好かれる必要はなく、我々の泥臭さや本質的な成長環境に共鳴する人材だけを一本釣りする戦略を取っています。
AIやSaaSなど、華やかなドメインや最新トレンドに惹かれる若手も多いはずです。そうした層にはどのようにカウンターを当てるのでしょうか。
藤カウンター?当てませんよ。SaaSがもてはやされたり、AIが流行ったりと、トレンドには必ず浮き沈みがあります。表面的な面白さで選ぶ人は、そちらへ行けばいい。我々が求めるのは、トレンドに左右されず、困難な状況に自ら飛び込んでいける人間です。玄人好みのシンプルなTシャツとジーパンのような(笑)、本質を磨き続けます。
未経験者への1.5億円ベット。打率を捨てる狂気
自社SaaS『WebinarBase』の開発責任者に、未経験の若手を抜擢したと聞きました。
藤1億5,000万円を投じた重要プロダクトですが、当時26歳のメンバーに全権を任せました。デザインをやりたいと言っていた彼女を開発責任者に据え、その下にいるのも20代前半の2人です。彼女たち3人のチームで、ベトナムのオフショア開発陣約20名をマネジメントし、ゼロから開発を推進してきました。
SaaSの死が叫ばれる市況で、1.5億円の重要プロジェクトを未経験者に任せるのは、常軌を逸したリスクに思えます。
藤経営者仲間ともよく「打率を意識すべきか、ホームランを意識すべきか」という議論になります。経験者を雇えば打率は高くなりますが、人材育成の観点では、思い切って任せ、失敗を恐れずに挑戦させる「ホームラン」を狙うべきだと考えています。過去、経験者のプライドによる損失も見てきました。権限を完全に委譲した時にしか、事業の大きな跳躍は生まれません。
スキルではなく、どのような定性的基準で彼女にベットしたのですか。
藤彼女が極めてネガティブで心配性だったからです。
ポジティブで「明日なんとかなる」と考える人間は、バグのチェックを怠ります。彼女は心配だからこそ徹底的にチェックし、周囲の意見を聞く。そして何より、行動するネガティブ気質でした。彼女のそのひたむきさが、周囲の「助けてあげなきゃ」という引力を生み、チーム全体を動かしたんです。
スキルや要領の良さではなく、そうした泥臭い「ひたむきさ」こそが、圧倒的なホームランを生むと。
藤ええ。要領良くスマートに成長しようとする人間は、最終的に壁を越えられません。地頭の良さは前提として、私が最も重視するのは真摯さ、ひたむきさ、愚直さです。ビジネスで本当に圧倒的な成果を出すのは、泥にまみれて愚直にやり抜ける人間だけです。だからこそ、表面的な成長速度を追うのではなく、困難に自ら飛び込める彼らと本質的な事業成長を成し遂げる道のりこそが、私にとっての正解なんです。
FastGrowの見解
倒産からのリスタート。この原体験は、お涙頂戴の美談ではない。売上がなければ何も守れないという絶望を知るがゆえに、1コンバージョンとホームランのみに執着する狂気の根源だ。「セミナーDX」によるニッチトップ戦略も、未経験者に1.5億円をベットする狂気も、すべてはこの絶望から生み出された極めて合理的な刃である。スマートにトレンドを追い、失敗を避ける優秀な読者たちへ問いたい。あなたに、この狂気と対峙する覚悟はあるか。
こちらの記事は2026年05月07日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
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