アリババ最高峰ポストを捨て、泥臭い「アジア進出支援」に狂う──SHOPLINE Japan・大山代表が仕掛ける越境ECの正体

大山 廣貴
  • SHOPLINE Japan株式会社 代表取締役社長 

1986年東京生まれ。私立武蔵高校、早稲田大学理工学部卒。2010年に商船三井入社。2016年8月から上海の中欧国際工商学院(China Europe International Business School [CEIBS])に留学。その後、「アリババ・グローバル・リーダーシップ・アカデミー(AGLA)」という阿里巴巴集団(アリババグループ)のグローバルエリート養成コースに採用され、アリババの物流部門・菜鳥(ツァイニャオ)に配属。外国人としてはほぼ最上位の職級「P8」に昇進し、日本事業のトップを務めた。2024年にシンガポール発のECソリューション企業SHOPLINE(ショップライン)の日本支社SHOPLINE Japan(東京・千代田)の代表取締役社長に就任。

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「電車を待つ時間も、タクシーを待つ1分30秒も、一切無駄にしない。音声メッセージで次々と指示を出し続けているんです」──BizDevメンバーの宮内氏は、SHOPLINE Japan代表・大山廣貴氏のことをそう語る。

その猛烈なスピード感の源流は、アリババ中国本社での経験だ。倍率300倍超のグローバルエリート養成コースを突破し、外国人として異例の最上位クラスまで昇り詰めた大山氏は、「入社説明会でいきなり『待っているのは地獄だ』と脅されました」と振り返る。それを聞いて、逆に燃え上がった男だ。しかし大山氏は、その「超絶待遇」のキャリアをあっさりと手放した。次に選んだ戦場は、日本の中小企業のアジア進出を泥臭く支援するという、一見地味な仕事だった。「日本の中小企業を根本から救いたい」──その言葉に、迷いはない。

SHOPLINEはシンガポールに本社を置き、世界60万店舗以上に導入されるアジア最大級のEC構築プラットフォーム。その日本法人として2024年4月に立ち上げたSHOPLINE Japanは、競合ひしめく国内EC市場での正面突破を選ばず、日本企業のアジア進出支援に特化することで、グローバル14拠点中最高成長率を記録しつつある。なぜ今、この支援なのか。そして、大山氏が「在籍してきた大企業より10倍自由だ」と言い切るこの組織で、若手BizDevはいかなる極限の打席を手にするのか。大山氏本人に迫った。

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国内ECの消耗戦を避け、アジア展開における「現地密着の実業」で圧倒的優位に立つ

SHOPLINE Japanはどんな課題に挑んでいる会社なのでしょうか?

大山一言で言うと、日本企業のアジア進出を、現地に深く入り込んで支援する会社です。

SHOPLINEはアジア最大級のEC構築プラットフォームで、台湾・香港・シンガポールなどに大規模な現地スタッフを抱えています。我々はそのインフラを活かして、サイト構築だけでなくKOL(Key Opinion Leader:特定分野で専門知識や高い実績を持ち、消費者の購買意思決定に強い影響力を持つインフルエンサー)の起用から広告運用、代理店マッチングまで一気通貫で提供できます。

「日本語が窓口で、アクションはディープにローカルで」──これが他にはできない我々の動き方です。

提供:SHOPLINE japan株式会社

大山この取材(3月末時点)の後にも、香港の化粧品代理店との商談が入っています。現地の代理店が我々のプラットフォームを使ってくれているので、コンサルティング費用を取らずにお客様と代理店をつなぎ、日本企業が外貨を稼ぐ支援をしています。

なぜ今、このタイミングなのでしょうか?

大山歴史的な円安で、日本企業が本気で外貨を稼がなければならないという切迫感が高まっているからではないかと思います。北米はトランプ政権で先行き不透明感があり、中東は地政学的リスクが高まっている。その中でアジアは比較的進出しやすい。台湾、香港、シンガポール、マレーシアといった地域では我々が各国で非常に強い市場シェアを持っていて、現地チームと深く連携できます。

正直に言うと、昨年前半までは国内の競合と真正面からぶつかり合おうとしていました。しかし、競合が多すぎて、国内での戦い方ではダメだと。アジア進出支援に軸足を移した瞬間、問い合わせが急増してビジネスが一気に拡大しました。今や、SHOPLINEのグローバル14拠点の中で日本市場が最も高い成長率を記録しています。

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アリババでの修羅場と家業閉業の原体験が、泥臭い実業への異常な熱量を生んでいる

大山さんはアリババ中国本社で最上位クラスまで昇り詰めた経歴をお持ちです。当時の環境と、そこで得たものを教えてください。

大山当時、入社前説明会でいきなり「何も期待するな、待っているのは地獄だ」と言われました(笑)。それで逆に強烈に燃え上がったんですよ。実際に入ったら本当に修羅場でして…。入社3ヶ月で全くパフォーマンスが出せず、カフェで人事部から「今この場で何を変えるか宣言しろ」と徹底的に詰められました。そこで中国語だけで猛烈に仕事をすると宣言し、背水の陣でサバイブしたんです。

しかも当時、アリババの中国本社で唯一の日本人でした。外資の本社で働くというのは、外資の日本法人で働くこととはまったく違います。言語の壁はもちろん、意思決定のスピード、文化的な前提、何もかもが違う環境の中で、自分なりのやり方を見つけていくしかなかった。あの圧倒的な競争と修羅場が、今の自分のスピード感のベースになっています。

そのアリババでのキャリアを手放し、SHOPLINE Japanに飛び込んだのはなぜですか?

大山コロナ禍で、祖父の代から続く実家の店を閉めざるを得なくなったんです。優れた商品を持ちながら、売り方がわからない。そういう日本の中小企業の苦しさを、自分が身をもって経験してしまいました。その瞬間から「日本の中小企業を根本から救いたい」という思いが離れなくなりました。

表面的に手伝うだけじゃ意味がない。現地に深く入り込んで、実際に売れる仕組みを一緒に作る。それをやり切るためには、アリババで叩き込まれた、極限のプレッシャーの中で結果を出す経験が必要で、だからこそ私がやるべきだと思っています。自分が経験した痛みを、次の人には経験させたくないという想いです。

仕事に対して徹底的にストイックでありながら、月1回のランチ会やアフタヌーンティー制度を自ら主導してケーキを振る舞うとメンバーから伺いました。

大山仕事の基準は極めて高く要求しますが、チームのメンバーは家族だと思っています。アーリーステージの外資系企業の日本法人に、リスクを取って飛び込んでくれるメンバーのキャリアと人生を、絶対に豊かにするという強烈な責任感を持っています。だからこそ、修羅場も愛情として渡せると思っています。

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「大企業の10倍自由」な環境で、入社直後の若手に事業を動かす全裁量を託す

とはいえ、外資系企業というと「決められたプロダクトをひたすら売るだけ」という印象を持つ読者もいると思います。SHOPLINE Japanの実態はどうですか?

大山私はかつて商船三井やアリババの中国本社にいましたが、率直に言って、今のSHOPLINE Japanの方が以前いた大企業より大分自由に動けます。

大企業が1だとしたら、こちらは10ぐらいある。シンガポール本社でありながらレポートラインは台湾(※日本チームの報告・承認ラインが台湾拠点)で、日本の商習慣を非常に尊重してくれています。

契約書やローカルの取り決めに対しても、極めてアジャイルに対応してくれます。アリババぐらい大きくなると、お客様との契約でフレキシブルに動けないことも多かった。ですが、SHOPLINE Japanでは、現場の判断でどんどん動けます。週1回か隔週で本社の経営層とのミーティングに出席して、戦略のディスカッションも直接できる。例えば、「代理店経由の販売モデルはうまくいかない、直接営業に切り替えよう」──そんな事業戦略の根幹を覆すような提案すら、若手が本社経営層に直接ぶつけられる環境です。

大山さん自身は、SHOPLINE Japanという場所で何を実現しようとしているのでしょうか?

大山うちに入ったメンバーには、まず「パスポートを今すぐ取ってください」と言います(笑)。

まずは速攻で海外出張に行ってもらって、英語力に不安があっても本社の経営層とのミーティングに容赦なく放り込む。お客様の一次情報をヒアリングして、台湾側のエンジニアに直接レポートし、開発フィードバックまで一気通貫で関わる。単なる営業じゃなく、事業を自分で前に進めている手触り感が強烈にある環境を作りたいんです。

語学はテクノロジーでカバーできます。でも「日本の素晴らしい商品をアジアに届けたい」という熱量だけは、自分の中から生まれるしかない。会社に関わってくれるメンバーのキャリアと人生を豊かにする──それが私の使命です。日本の誇るべき商品が台湾で、香港で、東南アジアで爆発的に売れていく瞬間を、自分たちの手で泥臭く作り出したい。それだけです。

FastGrowの見解

アリババの最高峰ポストを捨て泥臭い実業に挑む大山氏の熱量と、若手BizDevの成長こそが事業を牽引するという強い信念はたしかに凄まじい。だが、国内ECの消耗戦を避け「日本企業のアジア進出支援」に特化する独自の戦略は、果たして本当に持続的な勝利を結実させるのだろうか。現地密着のサポートがいかにして強固な競合優位性へと昇華されるのか。その戦略の真価と「勝てる構造」については、さらに深く解剖していく必要がありそうだ。

こちらの記事は2026年04月24日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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