生物多様性のビッグデータ化、不動産仲介DX、マンガ家の創作支援を掲げるスタートアップが集結──FastGrow Pitchレポート
「イノベーターの成長を支援し、未来社会を共創する」をミッションに掲げるFastGrowが、「この会社、将来大きなイノベーション興しそうだ!」と注目するスタートアップをお呼びして、毎週木曜朝7時にオンライン開催する「FastGrow Pitch」。
登壇するスタートアップが目指すビジョンや事業内容、創業ストーリー、どんな仲間を探しているのかなどをピッチ形式で語るイベントだ。
本記事では、ピッチの模様をダイジェスト形式でお届けする。登壇したのは、株式会社バイオーム、株式会社Housmart、コミックスマート株式会社の3社(登壇順)だ。
- TEXT BY OHATA TOMOKO
- EDIT BY HARUKA MUKAI
株式会社バイオーム
生物多様性の保全を、ビジネスの当たり前にする
最初に登壇したのは、バイオーム代表取締役の藤木庄五郎氏。同社は「生物多様性の保全が人々の利益につながる社会をつくる」をビジョンに掲げ、世界中の生物や環境にまつわる状況のビッグデータ化や、データを活かした環境ビジネスに取り組んでいる。
主要なサービスは、“いきもの”コレクションアプリBiome(バイオーム)』だ。
Biomeでは、生物の写真をアプリで撮影すると、名前や特徴などが自動で表示される。生物の名前判定には、バイオームが独自に開発したAIが活用されている。国内92,000種の生物を特定できるアルゴリズムで、特許も取得しているという。
撮った写真は、アプリ上の図鑑に保存し、その生物について他のユーザーと情報交換することもできる。また、期間内に特定の生物を発見・投稿し、クリアを目指す「クエスト」など、ゲーム要素を備えた機能もある。
現在、24万人以上のユーザーに利用され、毎年約100万個体の生物のデータが集まる。外来種の生息や気候変動による分布の変化など、次々と新しい発見も出てきているそうだ。
「日本最大級の生物データベース」を活用し、行政や企業、自治体、大学などとも積極的に連携している。生物や環境の実態把握や環境問題への理解促進、地方の観光振興など、多様な目的のプロジェクトを行っている。
藤木2020年には、JRと連携して『バイオームランド』というイベントを実施しました。東日本、西日本、九州それぞれの場所で50個ほどの『クエスト』を企画し、色んな生物を探してもらいました。
3ヶ月でおよそ20万個体の生物が投稿され、1万2000種類もの生物が発見されました。単一の生物調査で発見された個体数としては国内でも最大級だと思います
Biomeやクライアントとの協働を通して、バイオームは「生物多様性市場」をつくろうとしている。「環境保全がお金になる状態へのシフト」が、生物や環境を守るために不可欠だと、藤木氏は考えるからだ。
藤木現在、100万種類の生物が絶滅の危機にあり、100年以内には50%の生物が絶滅するかもしれないと言われています。いわば“大量絶滅”の時代においても、環境保全は進まない。それどころか商業的な理由で環境が破壊されている。
だからこそ、環境破壊ではなく、環境保全がお金になる社会へのパラダイム・シフトが必要だと考えています。バイオームでは、そのためのビジネスや市場を創造していきたいです。
今後は、集めたビッグデータを活かして、生態系の動向をシミュレーションする「生態系管理システム」なども開発していく予定だ。「新しい社会の生物インフラをつくっていきたいです」と、藤木氏はピッチを締めくくった。
株式会社Housmart
独自データベース開発で、不動産業界の非効率を解消
続いて登壇したのは、Housmart代表取締役の針山昌幸氏。同社は「住を自由に」をミッションに掲げ、テクノロジーとデザイン、不動産の専門知識をかけ合わせた事業を展開する。
2019年4月にリリースしたのが、不動産仲介会社向けの営業支援システム『プロポクラウド』だ。顧客の希望条件に合わせた物件情報やマンション売却に関するコンテンツを自動でメール配信、また開封状況などからニーズや検討状況を把握し物件の提案や購買のフォローに活かすことなどができる。
不動産では顧客が成約にいたるまでの期間が、半年から1年以上が一般的だそうだ。その間常に、営業担当者が一人ひとりのニーズや検討状況を把握し、必要に応じてフォローのコミュニケーションを図ることを求められるが、これは容易ではない。『プロポクラウド』は、そうした営業担当の負担を減らし、「顧客との長期的な関係構築を支援する」と語る。
針山氏が不動産領域で起業した背景には、幼い頃の体験がある。
針山小学3年生のとき、両親が家を購入し、アパートから一軒家に引っ越しをしたんです。「飛び跳ねても下の階の人から怒られない!」と非常に嬉しくて。子どもながらに、住む家と幸せの結びつきを実感したんです。
「人が幸せになる、後悔しない不動産選び」を実現したい思いから、新卒で不動産会社に入社。しかし、そこで不動産業界に大きな課題があると気づく。
針山不動産業界には、物件情報が統一された形で保存されているデータベースがありません。ポータルサイトに物件情報は掲載されていますが、管理は各サイトごとに行われていますし、売買が決まると情報が削除されてしまう。過去の物件情報が蓄積していかないわけです。
参照する過去のデータが少ないため、お客様は値段の適正値が判断しづらく、不動産仲介業者も情報収集に時間がかかっていました。
データをめぐる非効率を解決するために。Housmartではオープンデータや提携企業から得たデータを、扱いやすい形に処理・加工し、独自データベースを開発。『プロボクラウド』や一般向け不動産プラットフォーム『カウル』に活用している。
2020年1月に3億円の資金調達を実施、売上を伸ばしている。「ありがたいことに人手が足りない状況です。カスタマーサクセスやマーケティングなどさまざまなポジションで募集を行っていますので、ぜひお声がけください」と針山氏は呼びかけた。
採用情報
コミックスマート株式会社
インターネット発の優れたマンガ作品づくりを目指し、
マンガ家の育成・支援およびマンガ配信サービスの充実に取り組む
最後に登壇したのは、コミックスマート取締役の岡田健史氏。
コミックスマートは、株式会社セプテーニ・ホールディングスの子会社として2013年に創業された。
「マンガ家の職業価値を向上させ、子供達の憧れの職業にする」をミッションに掲げており、マンガ・アニメなどIP(知的財産)開発やクリエイター支援、マンガアプリ『GANMA!』の運営、クライアント企業向けのコンテンツプロデュースを手がけている。
IP開発領域では、契約している作家と自社の編集担当でオリジナルコンテンツを制作している。『Route M』と呼ばれるマンガ家支援プログラムを通して「クリエイターが創作に集中するためのヒト・モノ・カネ」のサポートを行う。
岡田従来の出版社ではページ単価で原稿料が支払われることが多かった。一方、我々は連載が決まったタイミングで月額報酬をお支払いしています。マンガ業界のなかでも比較的珍しい取り組みができているのかなと思います。
マンガアプリ『GANMA!』では、『Route M』から生まれたコンテンツを含め、王道バトルやラブコメディー、SF、ギャグ、4コマなどさまざまなジャンルのマンガが毎日配信される。連載中の作品は無料で読むことができ、月額680円のサブスクリプションに登録すると、連載中・完結済のGANMA!オリジナルマンガに限らず、GANMA!セレクションによる充実した完結マンガラインナップを広告なしで楽しめる。
読むだけにとどまらず、コメントやイラスト投稿などのインタラクティブなコミュニケーションをするための機能も提供する。「コンテンツ+コミュニティ+メディアプラットフォームの混合モデル」と形容する。
岡田読者同士の掛け合いなどもマンガを読むためにGANMA!を開くきっかけのひとつであったりと、GANMA!は高いユーザーエンゲージメントに支えられています。
コンテンツプロデュースにおいては、クラウドファンディングや電子書籍、動画など世の中のニーズにあった形でIPを展開し、また、マンガやアニメコンテンツによって、企業のマーケティング課題の解決に取り組んでいる。
今後もIP開発力を高めながら、to C向けにはアプリのサブスクリプションやグッズ販売、to B向けには広告や映像などのコンテンツプロデュースで、収益を伸ばしていきたいと語る。
「インターネット発のエンタメビジネスの拡張や事業理念に共感いただき、サービスの広告展開や事業連携に興味ある方は是非ご連絡ください」と岡田氏は呼びかけた。
採用情報
第35回目となったこの日は、生物多様性や不動産業界のDX、クリエイター支援など多様なビジョンを掲げる企業が登壇した。
今後も毎週木曜朝7時の「FastGrow Pitch」では、注目スタートアップが登壇し、自ら事業や組織について語る機会をお届けしていく。ぜひチェックしてほしい。
こちらの記事は2021年03月25日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
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執筆
大畑 朋子
1999年、神奈川県出身。2020年11月よりinquireに所属し、編集アシスタント業務を担当。株式会社INFINITY AGENTSにて、SNSマーケティングを行う。関心はビジネス、キャリアなど。
inquire所属の編集者・ライター。関心領域はメディアビジネスとジャーナリズム。ソフトウェアの翻訳アルバイトを経て、テクノロジーやソーシャルビジネスに関するメディアに携わる。教育系ベンチャーでオウンドメディア施策を担当した後、独立。趣味はTBSラジオとハロプロ
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