アグリゲート左今
「農業を高収益化し“おいしい野菜”の作り手を増やす」
規格外野菜を販売する自社ブランド青果店を持つアグリゲート。
創業者の左今には、食農分野の高収益プラットフォームを創るという壮大なミッションを支える原体験が存在した。
第一次産業ハッカソン 第三部 株式会社アグリメディア
- 第一部「1兆円市場なのにビッグプレイヤー不在。“お花屋さん”に残る非効率とは?」
株式会社exflora - 第二部「旅行先で食べたあの魚を、東京でも食べられる世の中へ」
株式会社フーディソン - 第三部「農業は行き詰まっている。だからチャンスなんだ。」
株式会社アグリメディア - 第四部「農業を高収益化し「おいしい野菜」の作り手を増やす」
株式会社アグリゲート
3割もの野菜が消費されずに廃棄される
代表取締役の左今がアグリゲートの創業に踏み切った理由は2つだ。1つ目は、大学時代に日本縦断していた際、「都市に対して何を売ればいいかわからない、高齢化が進みこれから先自分たち農家がやっていけるのかもわからない」という不安を抱えた農家の人々を目の当たりにしたこと。
2つ目は、共働きやDINKSなど都市部のライフスタイルが多様化した結果、外食やコンビニ食が中心となり、不健康な食事を毎日繰り返している人が急速に増えている事実を知ったことだ。
農家の悩みを解消しつつ、都市部の人々にも「食を通した喜びをもう一度届けたい」という想いの下、アグリゲートは創業された。
左今2009年に創業してから4年間、ほぼ一人でスモールビジネスを手掛けていました。2013年に旬八青果店を立ち上げてから軌道に乗り、現在は売上数億円程度まで成長しています。
“旬八青果店”とはアグリゲートが運営する八百屋ブランドの名称だ。そこで売られている野菜や果物は、見かけこそ綺麗とは言い難いものもあるが、味は良く、安さにも定評がある。

その秘密は規格外野菜。折れ曲がってしまったきゅうり、葉に色がついてしまったブロッコリーなど、傷がついたり形が綺麗ではないという理由だけで商品として出荷できない野菜のことだ。
農家ではこれまでそういった規格外野菜は自宅に持って帰って食べたり、周囲の農家に配ったりしていたが、それでも余る場合は捨ててしまうこともある。
左今は、この廃棄されてしまう野菜を収益化することができれば農家の経営を助けられるのではないか、と考えた。
左今3兆円といわれる青果市場において年間3割程度、額にして約9,000億円が廃棄されている。その内の1割だけでも販売できたとすると900億円にもなる。
店員が自信をもてる商品だけを販売
規格外野菜を安く仕入れたとして、本当に売れるのかー
そこにもアグリゲートの工夫がある。味も価格も、店員が説明できるものしか販売しないのだ。
『旬八青果店』に到着した野菜は、まず店員が味見をする。その感想をダンボールに書き記し商品に添えた後、「自信をもってお客さんに勧められる」価格を店員自ら設定する。

写真:エキュート品川旬八マルシェ 旬八青果店 Facebookページ
仕入れてきた野菜をただ売るだけでなく、どんな味がしたか、どんな食べ方ならおいしいかなどを顧客にプレゼンしながら接客するのがアグリゲート流だ。
農家の現実にフィットしたIT化を推進
直接農家に出向く仕入れ手法や、野菜の魅力を顧客に伝えることに重きを置いた店舗経営を体験したおかげで、農家の現場を知らない他の企業では気づくことができない、農家の方が受け入れやすい業務改善方法を思いつくことができる。
左今例えば生産者の方は高齢者の方が多く、業務管理にもアナログな部分が依然として大きく残っています。そのような方々に対していきなり高度なIT活用は不可能。我々は現場を見ているからこそ、無理のない、現実的なIT化を進めていきます。例えば、これまで手書きで書いていた納品伝票の写真を、まずはLINEで送信しデジタルで一元管理できるようにする、といったところからスマホの活用を試みました。
納品書や請求書の管理といった煩雑で時間のかかる作業から農家の人々を開放し、良い作物を作ることに労力を投下して欲しいというのが左今の願いだ。

さらに、そのようなデータを蓄積し続ければ「今月きゅうりは黒字」というように生産物単位での収支や適切な卸値も把握できるようになり、採算性を意識した農家経営も加速できる。
流通・販売領域もカバーし食農業界を高収益化する
創業から6年が経過し、『旬八青果店』も10店舗を数えるようになった同社はいま、第二創業と呼べるフェーズに差し掛かっている。農作物の生産者と直接関わる生産領域に加えて、流通領域、販売領域でも事業を立ち上げている最中だ。
青果の流通は、配送車の積載容量を大きく下回ったまま運送するといった課題が多く存在し、効率的とは言い難く、必要な配送エリアに最安値で届けることができていない。
そこで左今は、地方から東京への配送車の空きスペースに自分たちが仕入れる青果を積み込んでもらい配送する手法を適用し、配送費を抑えることに成功した。
現在ではこの手法を他の青果店の仕入れにも適用し、地域ごとの配送効率化を狙っている。配送車の積載量のうち、10t程度の大きな枠をアグリゲートが事前に確保。その産地から近接エリアに配送される野菜を集め、たった1台の車で目的エリアに全ての野菜を運搬する仕組みを構築しようという訳だ。
販売領域では、『旬八青果店 大崎店』で成功した、野菜がたっぷり入った500円の弁当販売の大ヒットをヒントに、2017年3月、弁当販売を一歩進めた惣菜店『旬八キッチン』を天王洲にオープンした。
今後はこの惣菜店をセントラルキッチンに据え、“旬八青果店”全店舗で弁当販売を行う計画もある。「社員が30人前後の少数しかいない現状では、オペレーションが膨大かつ煩雑な外食まで一気に進出せず、まずは内食領域で足場固めを行う」
生産・流通・販売といった分野以外にも、社内教育の一環であり、農や食に関する知識を教える『旬八大学』は社外の方にも開放。また、自治体や各農業関連団体へも地域産品のPR手法に関するコンサルティングを行うなど、活動領域は多岐にわたる。
2026年には、食農業界における高収益事業を実現するインフラとなり、プラットフォーム事業も展開することを目指すアグリゲート。
左今もっと多くの都市部の消費者の方に良質な青果を届けるためにも、農家の日々のちょっとした業務を改善する仕組みをどんどん作って行くつもりです。
こちらの記事は2017年06月08日に公開しており、
記載されている情報が異なる場合がございます。
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