ヘルスケア企業がIT企業に、そしてIT企業がヘルスケア企業に!?──M&A加速でレッドオーシャンと化したこの領域、覇者になるのはどこだ!?

GAFAMを筆頭に、世界のビッグテック企業がヘルスケア領域に進出し始めている。

2020年の世界経済フォーラム・ダボス会議では、Googleの親会社であるAlphabetのCEOが、「向こう5年から10年の間に、ヘルスケア産業はAI(人工知能)を使うことで最大のポテンシャルを生む」と公言。

国内においても、近年では帝人やオリンパスといった大手企業が積極的にヘルスケア企業のM&Aを実施しており、今後もこうした潮流は国内外において拡大・加速していくことだろう。

もちろん、それは我々が日々注目するベンチャー/スタートアップにおいても言えること。中には、「実はあの企業がこんなM&Aを実施!?」というユニークな事例もあるかもしれない。今回は、そんなM&Aが活況なヘルスケア企業を題材に、非連続な事業成長を遂げる手段としてのM&Aについてインプットしていこう。

  • EDIT BY TAKUYA OHAMA
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あのメガベンチャーや、このスタートアップもM&Aで事業拡大!?

DeNAがヘルスケア事業を展開していることは周知の通りだが、2020年以降はM&Aにも乗り出した。中でも、2022年5月に発表された2社目のM&Aとなる、医療ICTベンチャー・アルムを約291億円で子会社化したことは、FastGrow読者においても印象に残っているのではないだろうか。

DeNAはヘルスケア事業において、持ち前のテクノロジーを活かしたヘルスビッグデータ戦略を取っており、様々なDXソリューションを展開するアルムをグループ企業として取り入れることで、よりテクノロジードリブンな事業展開を推進していく。

同社の既存事業であるゲームやスポーツに比べると、ヘルスケア事業はまだまだ仕込み期にあるものの、既に増収の傾向にあり、今後積極的に拡大成長させていくことは間違いないだろう。

また、ヘルスケア・スタートアップとしてはメドレーも知られている。 日本最大級の医療介護求人サイト『ジョブメドレー』の運営企業だ。同社も2022年9月に、医療従事者特化のコミュニティサービスを提供するTenxiaに対しM&Aを実行。「求人を探す」というシーン以外でも医療従事者と繋がることができるパイプラインを持つことで、よりターゲット解像度を高め、既存サービスの磨き込みに拍車をかけることができる。

その他、メドレーは2021年にオンライン介護動画研修事業などを手がけるメディパスの買収や、NTTドコモと共同でオンライン薬局を展開するミナカラを買収するなど、積極果敢なM&Aによって事業の拡大を図ってきている。

メドレー2022年12月期 通期決算説明資料より抜粋

こうした事例を見るに、急成長企業が必ずしも自社事業だけに頼って事業を拡大しているわけではなく、裏にはこうしたM&A戦略も功を奏しているということがお分かりいただけるだろう。

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創業4年でM&A初実施、創業8年目でグループ会社19社!?
破竹の勢いで急成長するヘルスケア・ベンチャー

M&Aと言えば、基本的には同国内におけるディールをイメージする読者が多いと思われるが、世界を股にかけたM&Aや事業展開を行うスタートアップも存在する。FastGrowでも過去3回にわたってインタビューを実施してきた、CUCだ。

同社は、医療機関の各種コンサルティングや医療サービスの新規開発など、幅広く事業展開を行う総合ヘルスケアベンチャー。設立から10年にも満たない中で、15社以上のグループ会社を抱えるほどの急成長企業だ。

そんなCUCも、先に挙げた急成長ベンチャーたちと同じく、M&Aを活用した事業成長を遂げている。同社は2014年の創業から僅か4年後に、指定訪問看護ステーションの運営や、リハビリ重視型デイサービスの運営、そして居宅介護支援事業所の運営などを行うソフィアメディを子会社化している。

その後も子会社の設立やM&Aを続け、創業8年目にしてグループ会社の数は当社を含めて19社となっている。下記の事業構造を見るに、こうしたグループ会社はCUCの基幹事業として、同社の事業成長においてなくてはならない存在となっていることが分かる。

CUCコーポレートサイト:『CUCグループ紹介』より抜粋

なぜそこまで精力的に子会社設立やM&Aを実施するのか?その答えは、CUCが挑む事業領域の「幅の広さ」や「奥行きの深さ」にある。その実態が気になるものは、下記の記事を読んでおきたい。

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スタートアップによる大手企業の事業買収や、ヘルスケア業界外からのM&A進出も

写真フィルムで知られる富士フイルムが、その技術を活かしてバイオ・医療・美容領域にピボットしたことは名高い。そんな富士フイルムのグループ会社で、放射性医薬品事業を展開する富士フイルム富山化学を2022年初頭に買収したのが、ペプチドリーム。知る人ぞ知る、東京大学発の創薬スタートアップだ。

ペプチドリームは2006年に創業し、2013年に現在の東京グロース市場に上場した。独自の創薬技術をもとに、国内外の大手製薬企業と共同研究を推進。創業初期の段階からすでに高いキャッシュ・フローを生み出すビジネスモデルを構築していたことで、界隈の注目を集めた。こうした、スタートアップによる大手企業の事業買収というユニークな事例も、今後ますます増えていくことだろう。

その他にも、凸版印刷が医療ビッグデータ活用を進めるICIを子会社化したり、中部電力が医療情報プラットフォームを扱うメディカルデータカードを子会社にするなど、冒頭に記したGAFAMの動きと同じく、「ヘルスケア業界外」からのM&A進出も活況だ。

今回は、ヘルスケア領域のM&A事例をもとにそのユニークな事業展開を紹介した。こうしたケースは既に他分野でも起きており、FastGrowでもお馴染みの『M&Aクラウド』が昨今急成長を見せていることからも、今後は大手企業〜ベンチャー/スタートアップを問わず、事業を加速させる上でM&Aが当たり前の手段として普及していくことだろう。

中でも、ヘルスケア領域といえばその市場の巨大さや、課題の緊急性が他分野のそれよりも圧倒的に大きく、高い。そんな環境下で、自社事業を伸ばすだけでなく、ポテンシャルやシナジーが見込める企業や事業を買収しながらダイナミックに事業推進ができるというのは、事業家人材にとってこの上ないチャレンジと言えるだろう。

果たして、ヘルスケアの未来を創るのはどの企業か──。

こちらの記事は2023年04月10日に公開しており、
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大浜 拓也

株式会社スモールクリエイター代表。2010年立教大学在学中にWeb制作、メディア事業にて起業し、キャリア・エンタメ系クライアントを中心に業務支援を行う。2017年からは併行して人材紹介会社の創業メンバーとしてIT企業の採用支援に従事。現在はIT・人材・エンタメをキーワードにクライアントWebメディアのプロデュースや制作運営を担っている。ロック好きでギター歴20年。

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