「アジアのファッションブランドを日本から世界へ」
リクルートで海外勤務を経験した25歳女性CEO NERDUNIT松岡
2011年、サンフランシスコで産声を上げたストリート系ブランド「NERDUNIT(ナードユニット)」は、現在、本社の置かれているマレーシアを筆頭に、台湾やイギリス、イタリアなど世界10か国で展開中だ。
2017年5月、10か国目の進出先として加わった日本でCEOを務めるのは、若干25歳の松岡那苗(ななえ)氏。就任前はリクルートでの海外勤務に加え、外資系ハイブランドのeコマースに関わるなど誰もが羨む経歴を持つ彼女が、ストリート系ブランドと接点を持った理由とは?
- TEXT BY REIKO MATSUMOTO
ファッションを若い世代でもう一度盛り上げたい
学生時代からファッション業界志望だったんでしょうか?
松岡いいえ、ファッション業界へ入ることはうっすらと希望として抱いていましたが、1社目に入るということは考えておりませんでした。就活時に受けたのは外資系投資銀行の一社だけです。
純粋にお金を稼がなきゃいけない状態だったことと、女性として金融最前線での仕事ができる経験は今後に活かせるのではと感じていたこともあり、外資系投資銀行を選びました。
でも、いざ内定をいただき、「4年生のうちにニューヨークの本社風景を見たい」と直訴して渡米させていただいたところ、自分の望むキャリアであるのかがだんだんわからなくなってきたんです。
そんなとき、在学中に知り合った当時リクルートの採用責任者とお話ししていたら、「英語を活かしたいなら、リクルートがこれから海外に大々的に出て行くかもしれないからぴったりだと思う」と話をいただいて進路を変えました。
リクルート入社後は海外展開をおこなうグローバル事業開発グループに所属して、3か月目からマニラ勤務になりました。現地では教育関連の新規事業に携わっていたんですが、フィリピン事業部の立ち上げメンバーの中で女性は私だけでした。
アジアで一番危ないと言われていたマニラに「行って来い」のノリだったので、やはり素敵な会社に入ったなと。軽く人体実験でしょ、みたいな。(笑)
女性・男性という軸で選んではいないと思いますが、マニラのように精神面のみならず体力面でも強さが必要な場所に、私を実験台として送っていただけて、とても嬉しかったのを覚えています。
仕事はそれなりにハードだったし、Wi-Fiがつながりにくいとか英語で人をコントロールしないといけないとか想定していた以上のストレスはありました。でも、新規事業立ち上げのタイミングだったので、なんでも自分でできる環境があり、声も通りやすく、先輩にも恵まれたため、自分の成長につながりましたね。
「英語」「ファッション」「マーケティング」の3軸を全て極めるということ
英語を使ってビジネスしたいとずっと思っていたんですか?
松岡英語でビジネスすることが得意だとわかっていたので、語学力を活かせるところで働こうと思っていました。
高校生のころからトータルで4年間くらい海外に住んでいるのですが、ほとんどが海外インターンなどの仕事のために渡航していて、ニューヨークでマーケティングしたり、ドイツでアプリ開発のサポートをしたり、ファッション関係のライター業務を行っていたんです。
とにかくお金がなかったので、常に「いかにしてお金を生み出すか」を考えていたんですけど、当時の自分が持っていた「稼ぐためのツール」は英語しかなかったと思っています。
そこで様々な業種を経験するうち、自分は「英語」「ファッション」「マーケティング」の3軸を掛け合わせることで、自分らしさを作ろうと考えました。
リクルートからファッションの世界に移った理由はなんだったんですか?
松岡父と母がファッション業界の人間なので、もともとファッション自体には興味がありました。生まれた時から着せ替え人形のような毎日でしたから。(笑)自然とファッションは身近なものだったなと思います。
ただ、ファッションは生物(なまもの)といわれるように、ハイブランドであっても、稼げないときは稼げません。ファッションは儲からないものなのかもしれない、という考えが昔から身についていたように感じます。だからはじめ外銀に走ったんだろうなと。でも、やっぱり血筋には抗えなかったという感じでしょうか。
ファッション業界に身をおくことを決意したもう一つの理由は、父とのファッションに対する意見の違いがありました。「触って確かめることができない売り方なんてありえない」という父に対し、「ハイブランドでデジタルを極めるから見ててほしい」と宣言したのです。
とはいえ、欧州の企業はなかなか枠が空かない上に、外資系だと特に、空いたかと思ったらすぐに埋まってしまう。なので、当時ついていただいていたヘッドハンターに「(採用枠に)空きが出たらすぐに応募したい」と希望を長年伝えていたのです。
それでも3年は待たないといけないだろうと覚悟していたのですが、たまたまリクルート入社から1年が経ったころ、欧州系ハイブランドに枠が空いたのですぐさま挙手しました。
その会社は世界のトップブランドの6割くらいを扱っているブランド帝国なのですが、入社後は、各ブランドの資本形成がわかるようになっただけでなく、次にどこが変わるだとか、どんなトレンドが来そうかといった業界全体の動きも見えるようになりました。
わたしはeコマースの担当で、ブランドのオンラインブティックや百貨店のEC立ち上げに携わっていたため、この経験によって、「WEB上でいかにブランドを魅力的にみせるか」などもしっかり学ぶことができました。
ファッション先進国としてアジアを日本から引っ張っていきたい
そこからストリート系ファッションブランドのJapan CEOに就任した経緯が気になります。
松岡前職時代から、「アジアのストリートブランドを世界へ輩出したい」と思っていたんです。アジア人って世界のみんなが思っている以上にキレイに英語を話すし頭もいいし、ファッションアワードでの受賞者も多い。
「発展途上国=先進国で生まれたブランドの生産国」というイメージは未だ根強いですが、そんな中で日本はファッション先進国として世界に受け入れられているので、アジアを引っ張っていけるのって日本しかいないなって。
自分なら、日本のストリートシーンは長く追っていた点もあり、その一役を担えるのではないかなと考えていました。
そこで、アジアや中東の70ブランドくらいに「日本展開に興味ないですか?」と自分で直接連絡をとったところ、8割くらいのブランドから返事がきたんです。どこのブランドにとっても、「英語で意思疎通ができ、オンラインでブランドを展開できる能力がある人を探していた」という同じ回答でした。
またアジアのブランドはどのブランドも非常に平均年齢が若く、私の年齢も関係なく、日本ヘッドという重要なポジションを与えていただけたのかと思います。
結局、返事をくれたブランドから5ブランドだけ選び、そのすべての日本展開を請け負いました。でもあるとき、後にCEOを務めることになるNERDUNIT(ナードユニット)が跳ねたんです。
販売前から非常に強い人気が出てきました。それで他のブランドを中途半端に手伝う形になることは避けるためにも、自分はナードユニットだけに集中することにしました。
3年先は考えず、目の前だけを見て進み続けたい
CEOに就任されてからは、ポップアップストアの立ち上げやアーティストとのコラボなど積極的に活動を加速させていますね。
松岡日本立ち上げから4か月で、渋谷・原宿と一番狙っていた出店エリアを抑えられた感覚はあります。来年には東京でも直営店立ち上げ、大阪でのポップアップもすでに決まっています。
広告のモデルには、アンダーグラウンドシーンのダンサーやアーティスト、スポーツをやっている人などを起用しているのですが、ブランドよりもインフルエンサーの印象が強いとブランド自体にファンがつきにくいので、これから一緒に世界に出ていきたいという人と共にブランドを育てるようにしています。
特に、日本を機にもう一度(ナードユニット誕生の地である)アメリカでバズを起こしたいと思っているので、まずは日本のストリートシーンに浸透させることで世界を目指したいんです。
そのために日々どんな目標を立てているのでしょうか?
松岡基本的には、一か月先に意識を集中させています。3年先や5年先のプランを立てるのは3ヶ月に1度程度。
あとは常に直近だけ見て着実に進めるようにしています。常に将来は不安ですし、先を見たくなる自分の欲求を抑えて、目の前のことを着実にやる。それを繰り返すことで、ブランドも正しい意味で大きくなっていくのだと信じています。
前だけをみて100%毎日を頑張る。単純ですが、これを繰り返すことの難しさを毎日痛感しながら、でも日々自分に言い聞かせて、大きな目標を達成するようにしています。
こちらの記事は2017年09月29日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
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執筆
松本 玲子
連載未来を創るFastGrower
14記事 | 最終更新 2018.07.17おすすめの関連記事
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