複数の時間軸に向き合う組織でこそ、事業成長のスピードは速くなる──ダンボールワン統括・前川氏に訊く、ラクスルで培った事業家としての視点

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インタビュイー
前川 隆史

2010年に新卒で株式会社ドワンゴに入社し、マーケティング・事業管理を担当。2013年に株式会社カカクコムに転職し、食べログの事業開発・新規事業立ち上げに従事。2016年にラクスル株式会社に集客支援事業部PdMとして参画し、集客支援事業部長、タレントアクイジション部長(エンジニア採用責任者)、印刷事業部長を歴任。2021年に株式会社ダンボールワンへ出向し、2022年より執行役員に就任。現在はラクスル事業本部にてダンボールワン事業統括を務めている。

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事業リーダーとして、非連続な事業成長を指揮するBizDev。最近では「CxOへの登竜門」として、「20代〜30代のうちに圧倒的な実績を出したい」「いつかは自分で事業を興したい」と考える学生や若手ビジネスパーソンから、多くの注目を集めるようになってきた。

そんな中でも特に、ラクスルのBizDevは、一筋縄ではいかないロールだ。新規企画の立案、ビジネスモデルの構築、マーケティングやセールス、KPIの管理や組織のマネジメントまで、まさに1人の経営者並みの幅広いスキルとタフなオーナーシップが求められる。当然、その挑戦やキャリア形成は容易ではない。

先日公開した新代表・永見氏のインタビュー、新卒BizDevの代表格である執行役員・木下氏のインタビューで、同社のBizDevについて詳細が語られた。そして、印刷プラットフォーム事業の未来を創る存在として木下氏と肩を並べるのが、今回登場する前川隆史氏だ。

ラクスルで5億円→30億円の集客支援事業、125億円→150億円の印刷事業、50億円→100億円の梱包材事業と、異なるフェーズの複数の事業を牽引してきた同氏が、一体どのようなキャリアを歩んできたのか。同氏のキャリアストーリーを通して、「活躍するBizDevの思考法」を見出していこう。

  • TEXT BY MARIKO FUJITA
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
  • EDIT BY TAKUYA OHAMA
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ドワンゴと「食べログ」で学んだ、急成長組織の面白さと難しさ

前川氏のキャリアを一言で表現するなら「鮮やか」である。

2016年に集客支援事業部のプロダクトマネージャー(PdM)としてラクスルに参画し、BizDevのような振る舞いでわずか3年弱の間に売り上げ規模を5億円から約6倍の30億円へと拡大させる。その後「組織について学ぼう」と異動した人事部では、エンジニア採用のKPIとフローを抜本的に改革し、過去最高の採用実績を実現。こうしてコロナ禍で成長が鈍化しかけていた印刷プラットフォーム事業を立て直し、2021年からはダンボール・梱包材の受発注プラットフォーム事業を手掛けるダンボールワン事業部*を統括するという新たな挑戦に取り組んでいる。

*……ラクスル株式会社が株式会社ダンボールワンを2022年2月に完全子会社した後、2023年8月に吸収合併となり、現在はラクスル社内の一つの事業部となっている

前川ラクスルには多様なメンバーが揃っていますが、その中でも「前川のキャリアは珍しい」と言われることがありますね。

軽快な語り口が印象的。そんな前川氏が、組織の“急成長”をはじめて体感したのは、新卒で入社したドワンゴにおいてのことだった。

着うたサイトのマーケティング部門にてデジタルマーケティングの基礎を学んだのち、当時ドワンゴが力を入れ始めたライブストリーミング事業『ニコニコ生放送』の部署に異動。2年間で、20人ほどだった事業部は150人ほどの組織へと急成長。KPIの設定の仕方によって事業の伸び率が変わったり、人数が多くなる中で組織の密度を薄めない難易度の高さなど、急成長組織の面白さと難しさを感じたのだという。

しかし、当時のポジションは事業管理*。急成長組織の中にいながらも、直接的に事業やユーザーには触れられないもどかしさがあり、次第に「自分も手触り感のある事業をやりたい」という想いが強くなっていった。

*損益管理、社内システム(営業・販売・企画)の保守・改善など

そんな前川氏が外部に新たなチャレンジの機会を求めようと、門戸を叩いたのが、『食べログ』を展開するカカクコムだった。その理由は、当時の食べログはユーザー数こそ急速に成長していたものの、マネタイズに関してはまさにこれからというタイミング。まだ事業部の組織も小さく、多くの機会が得られるのではないかと考えたからだ。

最初の2年間ほどは、『食べログ』の飲食店向けサービスの開発やパートナー企業とのアライアンス企画に従事し、食べログのマネタイズ促進に貢献。そして2015年には、念願の新規事業『食べログ ワンコインランチ』を立ち上げる。

前川当時、『ランチパスポート』という本がすごく流行っていましたよね?特定の地域内でランチサービスを提供している飲食店を掲載した小冊子で、掲載店にこれを持参すると、ランチの割引サービスが受けられるというものです。それを見て「食べログのアセットを活用すれば、圧勝できるんじゃないか?」と思って。500円の月額料金を課金してもらうことで、掲載店舗の限定ランチを安く食べられるという新サービスを企画して提案したところ、やらせていただけることになったんです。

はじめての事業開発だったが、前川氏の見立ては見事にあたり、『食べログ ワンコインランチ』は予想以上の成長を見せた。しかし、この順調な成長こそが、前川氏がカカクコムを去るきっかけとなる。

前川売上がかなり伸びてきた段階で、会社から「事業部の機能を分解して、マーケティング以外の機能を既存事業部に渡していきたい」という話がありました。会社としては「0→1フェーズは終わったから、体制を変えて1→10フェーズに備えよう」という認識だったんだと思います。

しかし、売上が伸びたのはパートナー企業とのアライアンスやマーケティングがたまたま時流に乗ったから。サービス自体にはまだまだ課題や、やりたいことが多く、0→1フェーズをやりきった感はまったくありませんでした。「このまま、事業部の機能を分解して、次のフェーズに進むことが本当に正しいのだろうか」というもどかしさを感じました。あとはやっぱり、事業を立ち上げていくプロセスがすごく刺激的で。「もう一度あのフェーズに挑戦してみたい」という気持ちもありました。

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何よりも重要なのは「顧客価値を磨ききること」

自分の中にある違和感を無視しない。経営層が何と言おうと、自分なりの考え方を持つ。前川氏のキャリアの選択のエピソードは、ラクスルBizDevの流儀として語られてきた「思考の独立性」*にまさに通じるものがある。そんな前川氏が、次なる挑戦の舞台にラクスルを選んだのは、ある種の必然だったと言えるだろう。

*誰かに言われて、簡単に意見が変わるなら、それは当事者意識が足りていない。誰よりも顧客に向き合い、解像度を高め、考え抜けるかどうか

前川氏が入社した2016年、ラクスルの会社規模は約50名。印刷EC事業が第一の柱として立ち上がり、ポスティングや折り込みチラシのサービスを手掛ける集客支援事業が第二の事業として生まれ始めた頃で、前川氏が求めていた「立ち上げ間もないフェーズの面白さ」がちょうど体感できるタイミングだった。

また、『食べログ』時代に感じていた「オンライン完結しない事業の面白さ」があることも、転職先を選ぶ上での基準の1つになったという。

前川ドワンゴではオンライン上で完結するサービスを手がけていたのですが、『食べログ』のような飲食店向けのサービスになると、オンラインだけでは解決できないこともたくさんあるなと気づきまして。この「オンラインでは解決できない領域」にこそ、飲食店の課題の本質があるような感覚がありました。

また、飲食店からいただくサービスへのフィードバックを通じて、「1人の顧客に向き合ってサービスをつくることで、多くの顧客の課題解決に貢献できている」という感覚を得ることができ、「これはSMB向けtoBサービスならではの面白さだな」と感じていたところでした。

ただ、当時のラクスルのメンバーは今ほどメディアに出ていたわけではなく、前川氏は、「どのような人たちなんだろう…。お堅いカルチャーだったらどうしよう…」という不安もあったと当時を振り返る。しかし、面接で安井一浩氏(現ペライチCEO)と会うと、ラクスルには印刷業界外の経験を活かして活躍している人材が多いという話を聞き、不安はすぐさま吹き飛んだ。他にも、現ラクスル会長の松本恭攝氏や現CEOの永見世央氏、そして安井氏らがフラットに事業経営についてディスカッションしている様子に強く心を惹かれ、入社を決意する。

前川氏のラクスルでの最初の仕事は、フェーズの面白さを感じていた集客支援事業部のプロダクトマネージャー(PdM)。与えられたミッションは、「プロダクトを通じて、事業をただ成長させること」と、全てが自由だった。意気揚々と、まずは自身に土地勘があり、サービス内で課題がいくつも見つけられた「UIの改善」に注力し始めた前川氏だったが、溢れるやる気とは裏腹に、思うような成果が得られない。

入社して3ヶ月が経ち、焦りを感じ始める日々の中、前川氏に1つ目の気づきを得る機会が訪れる。

前川安井との壁打ちの中で「顧客が商品を買う理由に、もっと目を向けてみてもいいかもね」と言われ、ハッとしました。

顧客に改めて向き合い、UI改善以外にもいろいろな施策をやり始めた結果、UIを改善することよりも、「1日でも早くチラシを配ること、1円でも安く顧客の集客成果に貢献すること」の方が、明らかに顧客にとっては重要で、はるかに顧客からのポジティブな反応が得られることがわかりました。

これは「UIを磨くことが重要ではない」ということではありません。ただ、顧客価値に何が最も貢献するのかは、事業のフェーズによって異なります。当時の集客支援事業は、まだまだ本質的な顧客価値をつくり上げていくような事業立ち上げの段階。そのようなタイミングでは、サービスとしての価値を確固たるものにすることが重要だったのです。

当時の自分は、顧客価値起点ではなく、「自分にできそうな、なんとなくよさそうなこと」をやっていたに過ぎなかったのです。顧客価値を起点としないアクションでは変革など起こせない、ということを学びました。

まずは顧客価値を磨ききること。BizDevとしての立ち居振る舞いがインストールされた最初の経験だということもできるかもしれない。

向き合うべきテーマに向き合わず、手っ取り早く変えやすい部分を変えても、成果は得られない。そんな気づきを得て力強く前進し始めた前川氏に、安井氏がかけた言葉は「けっこう早く気づきましたね」とのこと。そう、安井氏はおそらく答えがわかっていた上で、あえて前川氏には自ら答えを導き出す機会を提供すべく、それを伝えなかったのだ。まさに、ラクスルが事業家輩出企業たるゆえんが垣間見えるエピソードである。

その後、前川氏はCSやサプライチェーンのマネジメントにまで管掌範囲を拡大。今後の事業計画について合意がとれた段階で、安井氏より事業部長を引き継いだ。プロダクトマネージャーから事業部長に至るまで、入社からわずか一年弱。前川氏の“ハンパない”成長スピードを、感じていただけるだろうか。

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3年弱で5億円から30億円への急成長、組織の重要性を痛感し人事畑へ

もちろん、成長したのは前川氏本人だけではない。入社当初、5億円ほどだった売上は、3年弱で6倍の約30億円に、6人ほどだったチームは40人程の立派な事業部に。前川氏が入社して以来、集客支援事業はまさに“破竹の勢い”で成長した。

しかしもちろん、すべてが完璧だったわけではない。ドワンゴ時代、「食べログ」時代と同様、またしても急成長する組織の難しさにぶつかり、「反省も多かった」と、前川氏は当時を振り返る。

前川事業はすごい勢いで伸びていきましたが、そこに対応しきる組織を構築できていたかというと、「うまくいかなかったな」という反省の方が大きいですね。

たとえば、事業のフェーズが変わってくると、論点がより複雑化していき、チームやメンバーに求められることが変わってきます。また、チームの人数が増えることで、従来のコミュニケーション方法では機能しなくなったり、といった事態が起こります。6人くらいのチームであれば、自然にお互いの情報共有ができていましたが、40人だとそうもいかなくなる。そのあたりのコミュニケーションの設計の仕方や、メンバーへの役割の渡し方について、もっといいやり方があったんじゃないかと思います。

また、自分自身のキャパシティも足りていませんでした。例えば短期事業運営にとらわれすぎて、中長期の施策が進められていなかったり、逆に中長期施策を言い訳に、短期事業運営を危うくさせたり、など、なんでも自分でやろうとして全てが中途半端になっていたことも多くありました。

最終的には、サプライチェーンの改革にフォーカスをすることで、対象地域の拡大・納期の短縮・原価の削減が実現でき、事業を伸ばすことができたのですが、いま振り返ってみると、もしも同時に、マーケティング・プロダクト・CSといった他の領域に対しても、自分以外のリーダーを立てるというような、同時並行で課題設定と施策遂行ができるような体制づくりができていれば、より大きな成長をつくれていたと思っています。

それまでの自分は、メンバーと一緒に今を頑張ることにしか意識がいっておらず、事業の未来を創るための組織創りについての意識が足りていないことを痛感させられました。

とはいえ、どれだけ頭で理解していたとしても、それだけではそう簡単に解決できないのが、人と組織の課題である。

事業と組織は表裏一体。長期で組織のことを考えられる事業家になりたい──。そう考えていた頃に、会社から、全社課題であるエンジニア採用のチーム立ち上げを担ってくれないか、と相談が舞い込む。これまで人事領域の経験はまったくないが、これは組織人事の視点を持つよい機会になるかもしれない、とこの話を快諾した前川氏。採用のこともエンジニアのこともほとんど何もわからない中で、まったく新しい領域への挑戦だ。

それでも前川氏が動じずにいられたのは、「解くべき問いを正しく立てること」こそが肝であるとわかっていたからである。

前川最初は「エンジニアの採用数が足りていない」と相談をもらったのですが、まずは「本当に採用数が重要なのか」を整理することから始めました。

議論を進めていく中でわかったのは、「そもそも、事業のニーズに対して、開発のアウトプット量が足りない」ということです。その場合、解決手段は必ずしも採用だけとは限りません。例えば、社内エンジニアメンバーの成長や、退職率の低下も、開発アウトプット量に貢献します。また、採用数を増やしても、シニアメンバーとジュニアメンバーの構成比率が適正でないと、開発のアウトプット量は増加しません。

そこで、人材の平均グレードと社員数の掛け算で定義した「開発戦闘力」という指標をつくり、シニアメンバーを採用して組織の器を大きくしたり、社内メンバーが離職せずに活き活きと活躍して昇格したりすることに、人事組織のインセンティブが向かうように制度設計を最初に始めました。ハイグレードな人材を採用すれば高得点、メンバーが昇格すれば加点、離職すれば減点、といった組織として進みたい方向を適切に評価することが大事だと考えたのです。

方針が固まってからは、採用単価のことは一旦忘れて、とにかく行動量を増やした。何が当たるかわからないうちは、いろいろ試してみる。これもまた、前川氏がラクスルに入社して得た教訓の1つである。

行動量を増やしたことで、応募数は大幅に伸びた。ところが、その割に二次面談に進む人があまり増えない。がむしゃらに動いた結果、ミスマッチなリードを増やしてしまっただけだった。そこで今度は、二次面談に進んだ人がどのようなチャネルから応募していたのかを検証してみると、ある程度チャネルが限られていることがわかった。有力なチャネルに集中的にリソースを投下することで、最終面談に進む人の割合が徐々に増えていった。

内定を出せる人の数が増えていくと、今度は「内定承諾率があまり高くない」という新たな課題が出てきた。これまで内定を辞退した人に一人ひとり連絡をとり、「なぜうちではダメだったのか」とヒアリングをしていくと、採用プロセスにおいて、きちんと関係性を温め切れていなかったことがわかってきた。もう一度、採用プロセス全体のコミュニケーションを隈なく点検し、改善を加えていく──。そんな地道な検証を繰り返すこと半年間、その“時”は突如として訪れた。

前川最初の半年間はまったく成果が得られませんでした。わざわざ「エンジニア採用チーム」を立ち上げたにも関わらず、何も成果が出せていないわけですから、正直恥ずかしくはありました。ただ、「自分がやっていることは正しい」と信じることはできていました。そうすると、7ヶ月目ぐらいのタイミングで“爆発”が起きました。結果として通年で、平均グレード・人数ともに、過去最高の実績を得ることができたんです。

やるべきことを整理して、やることが決まったらそれを愚直にやって、そうすると次にやるべきことがわかって……というプロセスを繰り返し続けただけなのですが、ポイントは「フォーカスすること」と「周囲の力を借りること」です。

まずは何か1つにフォーカスをしてみて、その指標を変えてみることで、何が変わるのかを検証する。一つひとつの解像度を高めていく方が、いろんなことを同時に改善しようとするよりも、結果的に速く前に進めるんじゃないかと思います。

そしてフォーカスするために、周囲との役割分担を明確にする。採用でいえば、人事メンバーやエンジニアリングマネージャーやCTO、そして外部のパートナーたちと、都度役割分担を更新していきながら、自分自身が今、一番向き合うべき1つにフォーカスしやすい環境を創ることを大切にしていました。

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もう一度アーリーフェーズをやりたいという想いからダンボールワンへ

課題を抱えていた人事領域においても見事成果を残した前川氏は、おそらく「ピンチヒッター」と社内に認知されていたのだろう。2020年に入り、事業にコロナ禍の影響が出始めると、ラクスルの第一の事業の柱である印刷事業について「コロナ禍で成長が鈍化しているので、事業部長として一度テコ入れしてくれないか」という相談が入り、事業部に戻り、印刷事業部長の任につくと、1年後に印刷事業の成長率をV字回復させることに成功した。

前川まずは足元を整えるのがキーだと思ったので、商品開発全般とマーケティング全般を見直すことにしました。

商品開発については、バラバラといろんなことをやってしまっているような状態だったので、注力するものを1つに決めてそれにドカンと張ろうというふうに軌道修正を行いました。

マーケティングに関しては、他の施策とリソースが被っていて開発を含めた施策が進められていなかったので、マーケティングにもきちんと開発リソースを割くことができるように、専用のリソースを渡して整理しました。

こんがらがっている状況を整理し、やるべきことを一つひとつ着実にこなしていく。その手腕は、誰が見ても「鮮やか」と形容する以外にないだろう。しかし、外部からの評価とは裏腹に、当の本人は「自分はまだ、価値を発揮しきれていないんじゃないか…」という危機感を抱いていたという。

前川印刷プラットフォーム事業全体は、私が入ったときには既にけっこう大きな事業だったんですが、もう少し若いフェーズの事業の方が、より自分の価値を発揮できるんじゃないかという感覚がありました。ある程度形になっているものをさらに磨きこんでいくことよりも、まだわちゃわちゃしているところから仕組みややり方をつくっていくことの方が、得意なんじゃないかなと。

そんなモヤモヤを抱え始めていたある日、木下氏との会話の中で俄然興味を惹かれたのが、ダンボール・梱包材の受発注プラットフォーム「ダンボールワン」。現在はラクスルに吸収合併されているが、当時はラクスルの子会社であり、出向してBuy&Build*を推進していたのが木下氏だった。

*……ラクスル流のM&A・PMI。詳しくは代表永見氏のインタビュー木下氏のインタビューを参照してほしい

もしかしたら「ダンボール」「梱包材」と聞いて、「なんだか地味だ」と感じた読者の方もいるかもしれない。しかし、前川氏の目には、ダンボールワンがこの上なく可能性に満ちた事業として映っていたという。

前川まず、KPIの設計とその中身がめちゃくちゃ綺麗で驚きました。ダンボールなどの梱包材は、ECをやっている事業者であれば必ず使うものですし、よほどのことがない限り、基本的には継続利用していただける。つまり、お客様の定着率が非常に高く、古参から新規まで、ユーザー層がバランスよく分布しているんです。これは投資余地が非常に高い事業だなと感じました。

また、集客からウェブサイト上の体験設計、資材の輸入や生産管理、在庫管理や配送の仕方の設計など、やれることの範囲が広いのも魅力に感じたポイントです。すべての工程に少しずつ改善を加えていくだけでも、掛け算でかなり大きな価値が生まれるんじゃないかと思いました。BizDevとして、非常にやりがいのありそうな事業だなと。

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活躍するBizDevに求められる「複数の時間軸の管理」とは

話を聞けば聞くほど事業に魅力を感じ、2021年にダンボールワンに出向。ラクスルに入社して6年、4度目の新たな挑戦だった。

そんな前川氏が、普段から最も意識しているのは、「短期と中長期の2つの時間軸を管理する」ことだという。

前川短期の事業運営が成り立たないと何もできません。集客支援事業をやっていたときには、自分で抱え込みすぎていたという反省が大きかった。なので、自分のマインドシェアを割かなくても事業が成り立つような体制をいち早くつくることには、かなり力を入れています。

たとえば、事業運営を掌握してくれるチームをつくったり、「ここさえ見ておけば大丈夫」というダッシュボードをつくったり、短期業績に寄与する施策テーマを設定して、そのテーマに向き合うチームをつくったり、といったことですね。

その上で、短期が回るようになったら、中長期のことにできるだけ自分のマインドシェアを割いていく。これもやはりラクスルで鍛えられたことだと思います。やっぱり数字の引力はすごく強いので、普通は短期のことにマインドを引っ張られてしまうんですけど、ラクスルでは「短期での改善だけではなくて、長期的に非連続に成長しよう」というカルチャーがあって。

「3年後、5年後どうするんですか?」と繰り返し問われる中で、自分もだんだん長期の時間軸で事業を捉えられるようになったと思います。

そのためダンボールワンでも、まずは短期の事業が回る体制づくりから着手した。今日の売上はいくらだったのか、今月はどのくらい利益が出せているのか。そうした数字もよくわからないところから数字を見える化し、小さなトラブルに対して全員が総がかりで対応している全員野球のような状態だった組織を整理して、最近ではようやく中長期の事業展開が考えられるような組織になってきたわけだ。

そこで、前川氏の今後の事業ビジョンについて聞いてみると、短期では「既存顧客の継続やアップセルの拡大」、中期では「紙袋やパッケージなどの商材拡大による新規顧客層の獲得」、長期では「より大きな規模の企業に向けたサービス開発による新規顧客層の獲得」という3つのビジョンが語られた。

前川まずは、お客様の梱包に関わる予算を100%預けていただけるような存在になりたいと思っています。今のダンボールワンのお客様は、ダンボールは当社のECで購入してくれているものの、その他のテープや緩衝材は全然違うECサイトや店舗で購入しており、実はうちで使っている金額の3倍くらいの予算を持っていることがわかっています。そうしたお客様の梱包に関わる予算を、まるっと獲得していきたい。

そのためには、単に商品をたくさん並べるのではなく、お客様のニーズを正しく理解した上でソリューションを提示するような、対面セールスでやられていることをオンライン上のプロダクトとしてやっていく必要があると思っていて。お客様のニーズと商品の特徴を正しく捉え、それを提示できるようなサービスにしていきたいと思っています。そのためには、データの持ち方も根本から見直す必要がありそうですね。

もう一つは、企業規模という意味でも、EC事業者以外という意味でも、対象顧客領域を広げていきたいと考えています。たとえば、紙袋やパッケージなど、ダンボールのように継続的に使われ続けるような商材を取り扱っていくことで、リアル小売店のようなところにも対象顧客を拡張していきたい。その上で、一定以上の規模の企業様にも価値を発揮できるようなサービスをつくっていきたいですね。

この打ち出しからもわかるように、ダンボールワンは「ダンボール企業」ではなくあくまで「梱包材プラットフォーム企業」だ(提供:ラクスル株式会社)

木下氏も語ったように、ダンボールワンの事業は売上トップラインが年間100億円に達しようとしているフェーズだ。次のマイルストーンとされているのが300億円。これまでの延長で到達できるような単純な話ではない、と読者のみなさんも想像しているところだろう。

そのために前川氏らが描いているのが、先に挙げた3つのビジョンである。だが、ビジョンを掲げるだけでは、何一つ前に進まない。まさに、「BizDev・前川」の腕が試されていくところなのだ。

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ラクスルとの経営統合で、ダンボールワンは新たなステージへ

2023年8月、子会社だったダンボールワンはラクスルと経営統合をすることとなり、事業のマイルストーンが更新されるだけでなく、組織のかたちも新たなステージへと突入した。

現在の事業部の人数は約60人。そう聞くと、「もうあまりポジションが空いてないんじゃないか?」と思う読者もいるかもしれないが、実はまったくそんなことはない。前川氏は「むしろ足りていない。特に、BizDevこそが足りていない」と、組織の状況について語る。

前川ダンボールワン事業では、コールセンターなどの顧客対応や、サプライヤーとの日々のやりとりといったオペレーションを担当しているチームが社内に存在しています。また、エンジニアやデザイナーに加えて、SCMやMDといった専門職のメンバーもいるので、いわゆるBizDevのメンバーは私を含めて数人しかいません。また、その多くは若手のため、現時点で部門責任を負っているのは、以前取材していただいた藤谷と私のみで、2人でかなり多くの役割を兼務している状況で……採用強化はいまの切実な課題です。

また、ラクスルと一緒になったことで、さまざまな可能性が新たに生まれています。たとえばサプライ周りでは、ラクスルと倉庫や配送の仕組みを共有できるんじゃないかという議論をしています。物量が増えることで、できることの柔軟性も上がっていくので、ダンボールワン単体では数年後でなければたどり着けなかった場所に、一足飛びにたどり着けるようなことも全然あると思っています。

また、もう1つ大きいのが、ラクスルにあるさまざまな知識やアセットをもっと多く借りられるようになったことです。ラクスルのエンジニアやデザイナーの力を借りることもできますし、最近ではラクスルのデータサイエンティストチームと協働したりもしています。これも、ダンボールワン単体だったら、そもそも採用から始めなければいけなかったところなので、できることの可能性が広がっていると感じますね。

新しい分野に挑戦するたびに成長し、BizDevとして大きな成果を残してきた前川氏。最後に、そんな前川氏から、働く環境としてのラクスルの魅力について語ってもらった。

前川ラクスルは、中期経営計画とかはしっかり議論してつくる会社なんですが、そこで経営層と合意がとれたら、あとは割と放っといてくれます。もちろん、レポーティングはしますし、壁打ちをしたり、サポートをしてくれることは多々あるんですが、あーしろ、こーしろと言われることはあまりなくて、こちらがファイティングポーズをとっている間は、基本的に任せてくれる。なので、「自分の事業」という感じがかなり強いと感じます。

永見が強調しているように、いま改めて、新規事業の創出やM&Aを積極的に行っていくフェーズになっています。ポストもどんどん出てきているので、経営や事業、起業などに対する興味を強く持っているなら、何はともあれラクスルのBizDevキャリアに飛び込んでみるのがベストな選択肢だと思いますね。

上場した上で、非連続的な成長に向けた挑戦を緩めることのないラクスル。まさに、いつまでもスタートアップな環境だと言えよう。いや、これこそ新時代の新たなスタンダードになるスタートアップの姿なのかもしれない。

いわゆるメガベンチャーとも、コングロマリット企業とも違う。さまざまなフェーズの企業・事業をそのグループ内にいくつも抱え、その数自体を内製・買収の合わせ技で非連続的に増やしていく。そうして急速に増えていく事業機会の中で、単なる経営ではなくそれぞれに非連続成長を生み出す“Build”に取り組むBizDevを増やしていく。このスパイラルによって、ラクスルという企業全体が大きな社会的・経済的インパクトを生み出す。

そんな未来に向けて今、BizDevの採用をさらに加速させているわけだ。迷ったり、「2~3年後に」と温存したり、そんなことを言っている場合ではない。少しでも「気になる」と思ったら、すぐにアクションを起こす、それこそがBizDevや経営者として大成していくための第一歩になるはずだ。

こちらの記事は2023年12月26日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

藤田マリ子

写真

藤田 慎一郎

編集

大浜 拓也

株式会社スモールクリエイター代表。2010年立教大学在学中にWeb制作、メディア事業にて起業し、キャリア・エンタメ系クライアントを中心に業務支援を行う。2017年からは併行して人材紹介会社の創業メンバーとしてIT企業の採用支援に従事。現在はIT・人材・エンタメをキーワードにクライアントWebメディアのプロデュースや制作運営を担っている。ロック好きでギター歴20年。

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