コロナ禍で主力商品の売上7割減。
それでも全体売上は伸びたレンティオの「顧客至上主義」
毎年200%近くの成長を続けている、カメラや最新家電のレンタルサービス『Rentio』。商品ラインナップは1,500種類以上、月間注文者は1万人以上におよぶ。運営元のレンティオは、2020年2月に総額10億円の資金を調達している。
2020年度3月は、新型コロナウイルス感染症の影響でレジャー産業が縮小し、売上の7割を占めていたカメラレンタルの売上が3割以下に減少。しかし、それでも全体では、昨年対比で数十%以上の成長を遂げたという。
未曾有の不況下でも成長を続けられる理由について、代表取締役の三輪謙二朗氏はこう語る──「どこよりも借りやすく、返しやすいUXを追求した結果だと思います」。顧客至上主義を掲げて世界を席巻したAmazonさえ彷彿とさせる、レンティオの「UXを最重視する」経営哲学に迫る。
- TEXT BY KOUTA TAJIRI
- PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
- EDIT BY MASAKI KOIKE
UXが優れていないと、サービス拡充はできない
主力商品の売上が落ちても、全体としての売上を伸ばせた要因の一つが、商品ラインナップの拡充だ。掃除、キッチン、ベビー……新型コロナウイルス感染症の影響を受けにくい生活家電まで品揃えを広げることで、売上を底上げしたのだという。
品揃えの拡充は、どの企業も実施できるわけではない。商品数が増えればオペレーションが複雑化し、サービスの品質も下がりやすいからだ。
しかし、レンティオは違った。往復送料無料、返却時に必要なガムテープや着払い伝票・利用ガイドの同梱も徹底し、コンビニからも返却できる。カスタマーサポートは全員が正社員で、「電話やメール、チャットのレスの早さと丁寧さには自信があります」と三輪氏。
返却期日のリマインドも徹底しているという。自動でレンタル期間を延長したり、返却手続きを面倒にしたりすれば、短期的には売上は伸びるだろう。しかし、UXが悪ければ、結局はレビューの評価もリピート率も下がってしまう。それゆえレンティオは、中長期的な売上増を見越した正攻法を取っている。
三輪レンティオは、どこよりも借りやすく、返しやすいサービスであることを最重視しています。他のレンタルサービスでは考えられないほどに、UXの磨き込みを徹底している。
レンタルサービスは、新品の購入に比べて、サービスの品質が低い印象を抱かれがちです。少しでも製品の状態が悪かったり、サービス対応に丁寧さが欠けたりすると、「所詮、レンタルサービス」というネガティブな声に変わりやすい。
売上を優先するあまり、サービスの品質が下がっているレンタルサービスも見受けられます。だからこそレンティオでは、一貫して、短期的な売上よりもユーザー満足度を重視してきました。
従業員全員が「ユーザーに本質的な価値を届ける」ことを常に意識しているんです。
顧客の声を聴くからこそ、スピーディに改善できる
レンティオには、顧客の声を積極的にシェアするカルチャーがある。マーケティングやエンジニアといった、ユーザーと直に接しないメンバーにも、カスタマーサポートから共有している。
三輪カスタマーサポートが吸い上げたお客様の声をきっかけに、UX改善を重ねてきました。返却時に必要なガムテープを梱包したり、注文履歴からヤマト運輸に集荷を依頼できるようにしたり。
他のレンタルサービスと違って、サイト上から簡単にレンタル延長手続きを行える仕様にしたのも、お客様の声がきっかけでした。
一般的に、取り扱い製品が増えてオペレーションが複雑化すると、ユーザーの声に耳を傾けることが億劫になりがち。でも、レンティオは逆です。お客様の声を聴き続けているからこそ、スピーディーかつ顧客ニーズに沿った、サービス改善のサイクルが回せるんです。
きめ細かなカスタマーサポートを実現できる背景には、採用へのこだわりもあった。採用基準は「いい人であること」、以上である。「いい人」を言語化するなら、ウソをつかない、他人を蹴落とさない、他人を貶さない、お客様の喜びを自分のことのように喜べる……それらの社風にマッチする人しか採用しないと、三輪氏は言う。
また、オペレーションの柔軟さを保てているのは、共同創業者のエンジニア・神谷祐介氏の存在も大きかった。創業時は、ホワイトボードやExcelを活用して在庫を管理していた。しかし、日に日に増える発注や仕入れに、対応できなくなっていく。
そこで、神谷氏を中心にオペレーションのシステム化を推進。在庫管理だけでなく、会計・財務面も含めて可視化できるように、自社でシステムを構築したのだ。
“リスティング広告のクリック単価”を見て、アイデアを着想
そもそも、なぜ「レンタル」という事業領域を選んだのか。
三輪氏は、行政書士として会社を営んでいた父の影響で、学生時代から起業を漠然と志していた。大学卒業後は、経営者を多数輩出している楽天に入社。ECコンサルタントとして、出店者の売上拡大を支援した。
顧客が楽しそうにショップを運営する姿を見て、次第に「自分もEC事業を営んでみたい」と考えるようになり、自己資金300万円で起業に踏み切った。当時はスモールビジネスを営むつもりで、エクイティファイナンスは想定していなかったそうだ。
三輪創業時はレンタル事業だけでなく、楽天ショップやAmazonへの出店、海外への卸販売も展開していました。レンタル事業に一本化したのは、「レンタル」というキーワードでリスティング広告を出稿したのがきっかけです。
数百円が相場と言われるクリック単価が、8円ほどだったんです。「レンタルはブルーオーシャンなのでは?」と思い、レンタル事業に広告費を集中させると、一気に伸びた。「これは勝てる」と、アクセルを踏む決意をしました。
「toCで、UXを磨き込んだサービスを展開すれば勝機はある」と考えた三輪氏。当時、レンタルサービスの多くはtoB領域。ほとんどは電話やFAXの注文で、Webに対応したものも少なかった。
そして、toCの中で「カメラ・家電」にフォーカスした背景にも、たしかな戦略があった。
三輪レンタルビジネスは利益が出づらい。10万円で仕入れたものを、1回1万円で11回貸し出して、ようやく利益を出せる。
ですから、ニーズが一年中あり、耐久性と資産価値が高いものでないと採算が合いません。そう考えると、カメラや家電製品が最適だと考えました。万一、レンタルのニーズがなくなっても、中古品として高い値がつきますしね。
ターニングポイントとなった、ANRIからの資金調達
2015年9月、三輪氏に転機が訪れる。独立系VCのANRIから、出資を打診されたのだ。ANRI代表の佐俣アンリ氏は、三輪氏と面識はなかったが、共通の知人を介し、SNSでコンタクトを取ってきたという。
佐俣氏はもともとカメラが好きで、シェアリングエコノミーやECという領域にも可能性を感じていた。「UI / UXを磨き込めばレンタルサービス領域での勝機はある」「購入前に製品を試してみたいというニーズは今後さらに増えていく」と佐俣氏は読んでおり、その認識は三輪氏とも一致。レンタル用の製品購入が必須で、多額のキャッシュが必要なビジネスモデルだったことも相まって、三輪氏は投資を承諾した。
当初は引き続きスモールビジネスを営み続けるつもりだったが、佐俣氏の紹介で、自身より年下の起業家たちと会う機会を得たことで、考えが変わる。IPOはもちろん、日本の未来について真剣に議論している光景を目の当たりにしたからだ。志の高い起業家たちに刺激を受け、三輪氏も本気で大型イグジットを目指すようになった。
三輪氏はまず、ANRIから調達した資金のほとんどを、在庫の拡充に投資。出資を受けてから約1年で、月商1,000万円を達成した。2016年10月には、在庫のうち約9割が稼働している事実を武器に、さらに1億円強の資金調達も実施した。「在庫を増やせば増やすほど、売上も伸びていく」と示すことで、投資家から多額の資金を調達できるようになったのだ。
そうして事業は加速し、月額制レンタルやベビーカーの「乗り換え放題」、新品販売に近しい「もらえるレンタル」など、新しいプランを続々と発表。2019年9月には、レンタル後の商品をそのまま購入できるサービスも開始した。
2020年2月には、累計注文件数が20万件を突破。実績が評価され、総額10億円の資金調達を完了している。
「レンタルが当たり前の世界」を目指して
大型イグジットの先に、三輪氏が構想するのは「誰もが当たり前のようにレンタルサービスを利用する世界」だ。実現に向け、現在は「ユーザーやメーカーとWin-Winの関係」を構築しようとしている。
三輪メーカーと提携し、メーカーサイトに「レンタルして試せます」というリンクを貼ってもらうケースを増やしています。
現状、料金は決して安くありません。でも、「お試し」を通じて購入者が増えれば、メーカー側のメリットも大きくなると思うんです。そうすれば、レンタル件数を増やすために、料金を引き下げてもらうことも可能となるでしょう。
ユーザーとメーカーのみならず、三輪氏は「社員」の満足度にも気を配る。
三輪おかげさまで『Rentio』内の商品の平均評価は、5点中4.8。サービスへの評価の高さは、社員が自信を持ってサービスを提供できることにもつながっています。TwitterやInstagramに投稿されている評判を見て、モチベーションを高めている社員も多いです。
もちろん、残業の少なさや給与の安定性にも気を配っています。でも、働きやすさだけでは不十分だと思うんです。評判の良いサービスに携われるほうが、社員のエンゲージメントも高まるはずです。
楽天のECコンサル時代、顧客対応を蔑ろにしてユーザーレビューの評点を下げているケースを数多く見てきたそうだ。顧客満足度が低いサービスは、価格を下げることで瞬間的に売上を伸ばすことはできても、継続的に成長することは難しい。
不要な「所有」を減らし、価値ある「体験」を増やすために、三輪氏は今日もUXを磨き続ける。
こちらの記事は2020年06月18日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
執筆
田尻 亨太
編集者・ライター。HR業界で求人広告の制作に従事した後、クラウドソーシング会社のディレクター、デジタルマーケティング会社の編集者を経てフリーランスに。経営者や従業員のリアルを等身大で伝えるコンテンツをつくるために試行錯誤中。
写真
藤田 慎一郎
編集
小池 真幸
編集者・ライター(モメンタム・ホース所属)。『CAIXA』副編集長、『FastGrow』編集パートナー、グロービス・キャピタル・パートナーズ編集パートナーなど。 関心領域:イノベーション論、メディア論、情報社会論、アカデミズム論、政治思想、社会思想などを行き来。
1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。
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