独自性と一般性、バリューにどう盛り込む?ワイルドサイド、遊び心、チームワーク……急成長ベンチャーのバリュー読み比べVol.1

2022年10月、LayerX代表取締役CEOの福島良典氏のnote「企業文化に投資する」が話題を呼んだ。その中で触れられた一節、「LayerXの企業文化は?」を覚えているだろうか?そこで、バリュー(行動指針)が掲げられ、「すべてこの行動指針に集約されます」と説明されている。

そう、バリューとはすなわち、企業文化なのである。だが、事業内容やビジネスモデル、そして経営陣について比較してみることはあっても、バリューを具体的に見比べる機会はあまりない。

そこで、急成長を遂げているスタートアップ5社を独自に選定し、そのバリューを見比べる企画の第一弾を実施。各企業の魅力やこだわりについて、その言葉選びやジャンルといった観点で、読者それぞれにとって面白い学びがあること、必至だ。

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今も「ワイルドサイド」を歩き続け、「カッコイイ」を意識──SmartHR

日本のSaaS企業と言えば、真っ先に名が挙がるであろうSmartHR。そのバリューにはまさに、参考とすべき力強くユニークな言葉が並んでいる。

※ちなみに、ミッション、ビジョン、バリューの関係性がこの記事で明確に紹介されているので参照されたい

「カッコイイ」あるいは「ワイルドサイド」といったカタカナの言葉がまず、目立つ。いずれも非常に定性的で、解釈や強度が分かれそうな言葉だ。それをあえて掲げているところに、創業者の宮田氏をはじめとしたメンバーの想いが透けて見えるようだ。

そしてもう一つのカタカナ、「ズレ」。このバリューだけが後に追加されたものであることが、宮田氏の2020年のブログにて語られている。そこで強調されているのが、「大企業病」だ。

認識のズレから起きる小さないさかい

解消できていない認識のズレが、諦めや、反感の元になっている

──宮田氏の2020年のブログ「SmartHR社の「バリュー」を1つ増やしました」から引用

充足性や必要性を常に検討し、企業フェーズに合わせて新たなバリューを構築したり全体を変更したりすることが不可欠であると、よくわかる事例だ。

この新バリューに基づいてか、社内でのバリュー浸透・実践のための取り組みは今もなお、旺盛だ。新たに始まった取り組みとして、ボードメンバーがラジオ感覚で社内向けに発信する音声コンテンツがあり、ちょうど最近のテーマが「ワイルドサイドを歩こう」の捉え方・考え方だったという。

また、「人が欲しいと思うものをつくろう」をFastGrow取材陣が強く感じたエピソードもある。記事においても触れているのだが、取材において何度も「どれだけ顧客に価値を提供できるか」という言葉に触れられていた。

またこれからも、バリューの変化や取り組みの刷新が続いていくのだろう。まずはSmartHRの事例を知りたい、そんな声が今後も続いていくように思う。

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ワイワイガヤガヤではない。
真剣な“アソビゴコロ”が生む、退職者ゼロ──Asobica

スタートアップといえば、メンバーの入れ替わりは激しい。そんなイメージを持つ人もまだ日本においては少なくないだろう。だが、スタートアップやベンチャー企業でキャリアを積むことが少しずつ一般的になる中で、長く勤め続ける人も増えてきている。

その裏側には、経営陣や組織開発チームの大変な努力がある。代表例として、2年半もの間、退職者が一人も出ていないというAsobicaのバリューを次に見てみよう。

同社に聞いてみると、カギとなるのは5つ目のバリュー、「Asobigokoro(アソビゴコロ)」とのこと。

まず全体を眺めてみると、スタートアップらしい、勢いと力強さを感じる言葉が並ぶ。先に挙げたSmartHRの「早いほうがカッコイイ」や「最善のプランCを見つける」といった部分とは特に共通点が見られる。

そんな中で異彩を放つ、5つ目のローマ字の並び。副題に社名が使われていること自体にもアソビココロを感じる。

このバリューの説明には、こうある。「前向きに、かつ楽しく働ける状態を自ら作り出す」「周囲も巻き込んで、一緒に楽しむ」と。ただし「ワイワイガヤガヤと仕事をしよう、というわけでは決してない」と強調する。

大企業だろうがスタートアップだろうが、仕事というのはそのほとんどが地味なものだ。単純だったり泥臭かったりする作業がしばらく続くことも少なくない。そんな場面でも、捉え方や取り組み方に工夫を凝らすことで、「前向きで楽しい場面に変えよう」という共通認識を、Asobicaでは大事にしているのだという。

「スタートアップならではのしんどい瞬間やつらい時期も、当然ある。そんな時にこそ、バリューがあるから乗り越えられるようにしたい。未来に向けてワクワクしながら働き続けられるようにしたい」。こんな想いが込められている。

より詳しい取り組みや実践現場について気になったら、ぜひこれらの記事を覗いてみてほしい。

【バリューについて議論してみた vol.1】Asobigokoroあるプロとは、社内全体でバリューについて語りました。

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「利他主義」を突き詰め、ガイドラインに落とし込む──LIFULL senior

国内最大規模の不動産・住宅情報サービス「LIFULL HOME’S」を基盤に、多事業展開を進めるLIFULLグループ。「利他主義」を掲げる社是は、「LIFULLの社会的存在理由であり、究極の行動原則です」と述べられる。つまりスタートアップ文脈で表現するならば、同社のミッションであり、バリューを司るものでもあるのだ。

バリューのように使われている「ガイドライン」は6つに分かれ、以下のようにまとめられている。

真理を探求し続ける

革進の核になる

一点の曇りもなく行動する

プロフェッショナルとして期待を超える

真のチームワークを築く

すべてのステークホルダーを重んじる

──LIFULLコーポレートサイト「企業理念」から引用

「プロフェッショナルとして期待を超える」は、SmartHRやAsobicaでも掲げられているものとの共通点として見える。また、「チームワーク」もAsobicaとの共通点が感じられる。だがそれ以外は、LIFULLグループならではのユニークなものとなっている。

もちろん、メイン事業である先述の不動産・住宅情報サービス事業は、利他主義およびこのガイドラインがあったからこそ拡大してきたものである。現在10以上のグループ企業を抱えるほどに事業展開が進んできた背景においても同様に、この社是が大きな力を発揮してきた。

それが特に力強く実践されているグループ会社LIFULL seniorの事例を見てみよう。現代表取締役の泉雅人氏が数年前に進めたビジョンの刷新。「シニアの暮らしに関わる全ての人々が笑顔あふれる社会の仕組みを創る」から、「老後の不安をゼロにする」へと、シンプルかつ壮大なものにした。

ここで感じられるのが、ガイドラインにある「真理を探究し続ける」そして「革進の核になる」だ。「笑顔あふれる社会の仕組み」を探求し続け、「不安ゼロ」という真理を見つけた。あるいは、「老後の不安」という大きな視野で取り組むことで「革進の核」への道を見出した。そんな解釈ができる。

「“儲かりそうだから”スタートしたのではなく、課題が大きく、困っている人が多いから始めた」。泉氏がFastGrowの取材にて語った通り、LIFULL senior設立の背景に“利他主義”がそもそも組み込まれている。だからこそ、同社に集うメンバーには利他主義を掲げるメンバーが実に多い。

それを象徴するような事例を一つご紹介しよう。同社プロダクト開発部のマネージャー林 瑞穂氏への取材にて語られた、コロナ禍でのエピソードだ。

新型コロナウイルス感染症の流行に際して、介護を取り巻く環境というものは大きく変化せざるをえない状況であった。これまで現地で行っていた介護施設の見学ができない。介護施設で暮らしている家族とは容易に面会できない。健康維持や友人との交流目的で利用していたデイサービスに通えない。このように、高齢者にとっても、そしてLIFULL seniorのメンバーにとっても前代未聞、まさに未曾有の危機に瀕していたのだ。

そんな苦しい状況においても、ひとたび林氏が「何をすれば良いのか分からないけど、一旦集まってできることを考えませんか」と社内に向けて有志の呼びかけを行ったところ、なんとその当日中に十数人のメンバーが集まり、新たな施策について闊達な議論が行われたのだという。

さらにその数日後には、顧客へのアンケートや情報発信を行なったり、LIFULL seniorの相談員がオンラインで立ち会って見学ポイントをアドバイスしたりといった具合にかなりのスピードで取り組みが実行されていったのだ。

「困っている人々のために、少しでも早く、何かできることはないか」。まさに同社の「利他主義」、そして「真のチームワーク」が無ければ乗り越えることができなかった窮地であろう。

日本を代表する一大事業を築き上げた「利他主義」という社是と、それに基づいたガイドライン。それは、新規事業においても同じかそれ以上に効力を発揮し、次なる社会変革をかたちづくろうとしている。更なるエピソードの表出が楽しみだ。

より詳しい現場を知りたければ、ぜひこれらの記事を参照されたい。

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「全員が起業家精神を持つ」のが当たり前──Relic

VALUEとしては一つの文で、「大切にしている価値観」として5箇条を掲げるのが、Relicだ。

そのVALUEは、「挑戦する⼈と企業の共創パートナーとして最⾼のプロフェッショナル×テクノロジーを提供する」というもの。Relicという企業、そして属する一人ひとりが、どのような価値提供を行うのかをわかりやすく示している。

具体的には、どのように進めるのか?それを表したのが、こちらのRelic-ism(大切にしている価値観)だ。

ResponsibilityやLean、Co-Creationは既出の企業のバリューと共通点を感じるところで、スタートアップらしさが垣間見える。あえて非上場を貫き、短期的な数値目標ではなく、中長期的なビジョンの実現にコミットできるRelicにおいても、こうした点は重要視している。

そんな中でもユニークなのが、Entrepreneurshipだろう。Intorepreneurship(社内起業精神)ではなく、あくまでアントレプレナーシップすなわち起業家精神を、一人ひとりが価値観として大切にしているわけなのだ。ここには、Relicのスローガンと事業特性がよく表れている。

そして、「次の5年間のスローガン」として掲げているのが、「事業を創り、事業を創る人を創る 挑戦者より、挑戦する 独創的に、共創する」だ。注目してほしいのが、「事業を創り、事業を創る人を創る」という部分。

同社のメインの事業をひとことで言えば新規事業コンサルティングではあるものの、外からアドバイスをするだけでは決してない。クライアント企業に入り込み、種探しからリサーチ、立ち上げの推進、グロース戦略の策定と実行まで、自らが手を動かし続ける。しかも同時にそんなメンバーたちが、Relic社内でもほかに新規事業を立ち上げてもいるのだ。この2023年にはスタートアップスタジオ事業も始まり、Relic社内からRelicの支援を受けて起業するメンバーまで現れた。

このように、イントレプレナー兼アントレプレナーのように活動していくのが、Relicのメンバー一人ひとりなのだ。

次々とリリースされる事業展開で、価値観が非常にわかりやすく体現されている。このアグレッシブな動きに、学ぶ点は少なくないだろう。

同社についての記事はこちら

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「事業・組織のミッション」と、「メンバーの人生におけるミッション」をアラインさせる──SEPTA

多くの企業の組織カルチャーについて取材してきたが、その中でも、SEPTAほど、「会社の目指す先」と、「働くメンバーが人生において目指す先」を合致させようとしているスタートアップは、珍しい。

世の中を見渡せば、1on1や目標設定・管理の施策を通じて、メンバー個々のキャリアパスを共に考える姿勢を持った会社はいくつも存在する。しかし、それはあくまで組織へのエンゲージメントを高めるための“手段”といった背景が殆どではないだろうか。

SEPTAは「もっと強い動機のもと、徹底して取り組んでいる」と繰り返し語っている

具体的には、「会社のミッション」と「個人のミッション」に高い親和性があるかを密に確認し合い、親和性が高い状態であれば協働し、そうでない場合は活動を別にするといった稀有なスタイルを取っている。

どういうことか?さっそく同社のバリューを見てみよう。

「クリティカルシンキング」や「プロフェッショナリズム」が、他社との共通項として見える点がまず、印象的だ。また、Relicと近い部分として「起業家精神の発揮」も見られる。SEPTAの取締役であり組織運用にも携わる東山氏は、この起業家精神にひもづく「全ては自分事に」を、ことさら強調する。

全ては自分事に:起業家精神の発揮

「組織(または事業)と個人のミッションの摺り合わせを定期的に行い、"主体的に行動できる"よう努めています。 個人でのストレッチオペレーションの実践が、組織(または事業)の成長へ繋がります。」

(──SEPTAコーポレートサイト「企業情報」から引用)

まさに冒頭に記した内容そのものだ。メッセージをもう少しわかりやすく表現すると、「SEPTAという器の中で、同社が持つアセットを存分に活用し、自由に事業活動をしてもらいたい」という具合だろう。

事業開発現場において、この姿勢が顕著に表れた事例がある。創業事業に対し、この2つのミッションの重なり具合が足りないと判断するや、新規事業としてこの点をより満たす内容のサービス展開を始めている。(新規事業の一端はコチラの記事に詳しい)

「なぜそこまで働くメンバーのために?」と感じる読者が99%だろう。その答えは、SEPTAがミッションに掲げる、新しい組織の在り方にみることができる。

その考え方が、バリューでも少し触れられている「ハイ・シナジーコミュニティ」。

個人のミッション達成が、組織やコミュニティのミッション達成に紐付き、その波及で別の異なるステークホルダー個人のミッション達成にも好影響を及ぼす。そんな好循環サイクルを、SEPTA発で、社会全体に実装しようとしているのだ。そのための仕組みとして、バリューが大きな存在感を発揮している。

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真の「強豪」とは、質実剛健である──ソルブレイン

甲子園の強豪校──。

2022年後半、満を持してFastGrowに登場し、“グロースマーケティング*”なる新概念を持って注目を集めた、ソルブレインの異名である。

*ソルブレイン独自のソリューションであり、「顧客の“バリューチェーン全体”をデータで可視化し、ボトルネックを見極め、改善を行うといった一連の取り組み」を指す。

その名が示す通り、新卒中途を問わず、メンバー一人ひとりがタフな修羅場をくぐり抜け、プロフェッショナルとしてクライアントの持続的な事業成長にコミットしている組織だ。

このグロースマーケティングの全貌や、各メンバーがどのようにグロースマーケティングを実践して価値提供しているのかは、ソルブレイン代表・櫻庭氏の単独記事や、メンバー鼎談記事から詳しくつかむことができる。

今回は、そんなプロフェッショナルチームに浸透しているバリューにスポットを当て、同社が強豪校たるゆえんを探っていこう。

どうだろう?読者の中にはこのように感じた者もいるのではないだろうか。

「いや、書いてあること普通だな」と──。

確かにその通りかもしれない。この記事でここまでに紹介したように、どの企業も、社風を表現するような独特の言葉遊びや新しい世界観を取り込んでいる。そんな部分にこそ興味を持つ者もいるだろう。

しかし、ビジネスのプロフェッショナルとして、顧客の持続的な事業成長のみを追い求めるソルブレインにとって、華美な装飾など不要。Simple is the bestなのだと言わんばかりの、質実剛健なバリュー。その裏側を探っていこう。

イメージしてみてほしい。アニメや漫画の世界においても「強豪」と言えば、クールで生傷の絶えない、ストイックなチームを想起しないだろうか?それをそのままビジネスの世界に置き換えた、そう同社は説明する。

とはいえ、それだけでは同社の“凄さ”は読者に伝わらない。

一見するとありきたりにも見えるバリューのもとで、ソルブレインのメンバーたちがどれほどプロフェッショナルとして事業にコミットしているのか、その一端をお見せしよう。

例えば、同社は「成果報酬型」で顧客の持続的な事業成長に取り組んでいる。昨今主流のSaaSに代表される定額課金モデルとは明確に異なるわけだ。“背水の陣”とも言える圧倒的な当事者意識を持って、事業を推進していると話す。

他にも例をあげると、ソルブレインのメンバーたちは、顧客の事業成長におけるボトルネックとあらば、一時的にソルブレインの利益が削られようとも聖域なき判断をくだす。

こうした我が身を削るリスクを負ってまで、顧客の売上・利益にコミットする様は、プロフェッショナル以外の何者でもないだろう。

人によっては、「なぜそこまでする必要が?」と感じるかもしれない。

しかし、変化や挑戦を避けて一時的な成果を優先した結果、“持続的な成長”という企業本来の目的を達成できないのでは本末転倒だ。顧客が真に"価値"を感じるものを提供し続ける。プロのビジネスパーソンとはこういうものだ。

「ソルブレインでは、これが当たり前なんです」。

そう語る代表・櫻庭氏の通り、同社ではわざわざキャッチーな言葉や高尚なフレーズを掲げる必要などなく、高水準なビジネス・マインドが当たり前のように組織に浸透しているのだ。

こちらの記事は2023年03月03日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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