連載ユナイテッド株式会社
「優秀さ」だけの事業家はコモディティ化する──33歳にしてユナイテッド取締役/キラメックス代表を兼務する樋口氏が感じる、これからの事業家に求められる「ユニークネス」とは
Sponsored社会の変革をリードし、事業を力強く築きあげる力を持つ若手人材の存在は、業界を問わず強く求められている。そして、まさにその若手人材に当てはまる読者の中には、「我こそが社会のニーズに応え、変革を担う存在となりたい」と熱意を燃やす者も多いのではないだろうか。
しかし現実的に見れば、脚光を浴びるほどの実績を重ねられるのは、稀有な才能を持ったごく一部の人材だけ──。そんな思い込みがわずかにでもあるのならば、この先を読んでほしい。
ユナイテッドは複数事業を展開する企業だが、それらの事業をけん引するメンバーにスポットライトをあてると、新卒わずか2〜3年目でそのポジションに就き、その後も意欲的に事業を育む姿が際立つ。
では、同社は超エース級の人材ばかりを集めた組織なのだろうか。それとも、若手人材の育成において、何か絶対の仕組みやノウハウを確立した組織なのだろうか。
ユナイテッドの3つのコア事業の全貌を解き明かす、全10回に渡る本連載。前回の7記事目では、同社のグループ会社の事業責任者を務める若手メンバー3名に取材を実施。彼らの体験を通じて、ユナイテッドの人材育成がどのように行われ、またその結果として同社の経営にどのような成果をもたらしているのかが明らかになった。
今回は、同社の若手にとっての“ロールモデル”である樋口 隆広氏が登場。同氏もまた、ユナイテッドに新卒入社からスタートし、今ではユナイテッドグループの教育事業を牽引するキラメックス株式会社の代表取締役 兼 ユナイテッド取締役を務めるほどの事業家に成長した人物だ。
本記事では、新卒入社から11年間にわたり事業経験を積み上げてきた樋口氏の視点から、ユナイテッドの人材育成とはどのようなものなのか、そして若手が活躍するために必要な力とは何なのかを紐解いていく。
「我こそは」という想いを胸に秘める若き読者は、そのためのヒントをこの記事から得られることだろう。
- TEXT BY YUKI YADORIGI
- PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
競争の激化が進むオンラインスクール市場。
求められたのは“経営者としての進化”した姿
前回の記事では、新卒2~3年目でグループ企業の事業責任者へ抜擢された小畑氏、星谷氏、中川氏の実体験から、ユナイテッドの再現性ある事業家人材の育て方、またその育成ロードマップをDay1から詳らかにした。
既に、将来ユナイテッドの経営を担う活躍が期待されている3名が、口を揃えてベンチマークとして名を挙げたのが、今回インタビューに登場するキラメックス代表取締役 兼 ユナイテッド取締役の樋口氏だ。
樋口氏も小畑氏、星谷氏、中川氏と同様に新卒でユナイテッドに入社。入社3年目までは広告事業でビジネス基礎力を身につけ、3年目でユナイテッドグループ・キラメックスの事業責任者に抜擢される。そこからもメキメキと実力を伸ばし、同社の事業責任者を経て2018年、キラメックスの代表に就任。さらに2022年からは若くして上場企業ユナイテッドの取締役を兼務している。ユナイテッドの、いや、多くのベンチャーで事業家を目指し活躍する若手人材にとって、この樋口氏のキャリアはまさに“ロールモデル”と言えるだろう。
実のところ、2019年にキラメックス代表取締役に就任して間もなかった樋口氏に対して、FastGrowはインタビューを実施したことがある。当時はまだ、経営者としても“駆け出し”であった樋口氏。それから3年の時を経て、キラメックス、そして樋口氏はどのような変化を遂げたのだろうか。
まずは、そのアップデートをキラメックスの事業という側面から見ていこう。
樋口キラメックスは、ユナイテッドグループ参画以前からデジタル人材の育成・輩出に取り組むオンラインスクール『テックアカデミー』を主事業とする企業です。具体的には、プログラミング、Webデザイン、マーケティング、統計学など50種類以上の多様なカリキュラムを提供することで、今後の社会で求められるスキルを重視したデジタル人材の育成・輩出を目的としています。
3年間の歩みで挙げられる変化は、事業展開を加速するためにビジネスモデルをBtoBにも展開したこと。それと、これまでオンラインスクールの提供にとどまっていた『テックアカデミー』に、受講生の就職支援や実務経験の提供といった「出口」としての実践経験を積んでいただく新サービスの提供を開始したことです。
その背景にあるのが、やはりコロナ禍でした。私たちの事業運営方針にも色濃く影響しました。というのも、これまで他社と比較してユニークな強みとして打ち出せたオンライン完結という価値提供が、急速に一般化したのです。この時代においては、「どのような体験を受講生に提供できるか」が事業成長の鍵となりました。
また、それにより受講生のニーズの変化も実感しています。コロナ禍以前は「IT企業への就職」を目標とする受講生が大半でした。しかし、昨今は「副業」や「空いた時間を学習に充てる」といったニーズが増えつつあります。その分、受講生数が急増したことは、我々の事業にとってはポジティブに捉えられることかもしれません。
2022年4月、ユナイテッドは「意志の力を最大化し、社会の善進を加速する。」というパーパスを掲げた。同時に、「投資」「教育」「人材マッチング」の3つのコア事業の連携を強化し、シナジーを創出する戦略を打ち出したことは過去の記事でも紹介した通り。そのうちの「教育」事業を牽引するのがキラメックスである。
そんなキラメックスが挑むのは、時代の変化で追い風を受ける一方、競争の激化が進むオンラインスクール市場。同社は『テックアカデミー』の学習体験に対し、どのような付加価値をつけることで競合との差別化を図っていくのだろうか。
樋口多くのオンラインスクールは、一方向型の授業を提供しています。これは教室で行われる授業をオンライン化したもので、いわばUIを変更したに過ぎません。
一方、私たちのサービスは双方向型であることが強みです。受講生の疑問に一つ一つ講師が丁寧に答えていくので、受講生の理解の深度を深めたり、学びの継続率を高めたりといった、質の高いサービス提供が実現しています。
また、講師全員が通過率10%の選考に合格した現役エンジニアで構成されています。そのため、学習だけでなく、受講生限定の副業支援事業における実務面でのサポートを受けられることも『テックアカデミー』の特長です。現役のプロがマンツーマンで支援にあたることで、そんな講師の姿を通じて自分の未来をイメージしながら学べることも、サービス利用継続率の向上の一因となっています。
樋口また、今年度に入って、ChatGPTを代表とする大規模言語モデルの本質を学び、Generative AIを実務で活かすことができる人材を育成するための「はじめてのプロンプトエンジニアリングコース」の開講もリリースしています。
これまでに培ってきたコースをベースにサービスのレベルを上げていくことはもちろんですが、変化の激しいテクノロジー領域において、その変化に応じた事業やサービスの展開も進めています。
ここ数ヶ月で、あらゆる業界のビジネスシーンでGenerative AIが加速度的に浸透し始めており、この流れは今後も止まることなく、ソフトウェア開発や日常業務などにおいて、これまでの常識が大きく変化するパラダイムシフトが起きると考えています。
これまではテクノロジーを学び・使いこなすことができる技術者とそうでない人の差は開いていく一方でしたが、Generative AIの活用によりその差を大幅に縮めることができるようになってきます。
技術者以外の多くの方が大規模言語モデルの本質を理解した上でGenerative AIを活用し、実務の効率化・生産性の向上などの成功体験を積み重ねることは、テクノロジーの活用をこれまで以上にポジティブに捉え、新しい選択肢や可能性が広がるきっかけとなり、これから急速に発展していくAI技術及びそれに伴い変化する環境・社会経済に適応しやすくなることでしょう。
双方向型の学習システムと、現役のプロを中心とした講師群。そして、新たなテクノロジーへの対応。これらの要素だけでも強力な事業展開が期待できるが、樋口氏は「キラメックスのゴールへの達成率は、まだ1%にも満たない」と付け加える。
では、樋口氏が見据える次なるステップはどのようなものなのだろうか。樋口氏自身が同社の経営を通じて得られた変化と、その先にある事業の展望を紐解く。
3年間で、「グループ全体の価値向上」や「市場全体の活性化」などマクロな経営者視点を獲得
以前のインタビュー記事で経営者としての自身の歩みを振り返り、若くして困難を乗り越えていった経験を披瀝した樋口氏。その3年後となる現在、経営者としてはどのような変化があったのだろうか。「経営者としてのスタンスは変わらない」と前置きした上で、樋口氏はユナイテッドグループ全体の変化から話を始めた。
樋口ユナイテッドでは先にも述べた通り2022年4月に「意志の力を最大化し、社会の善進を加速する。」というパーパスを新たに掲げました。このパーパスの策定により、キラメックスとしてはこれまで以上に個人と社会(機会)との結びつきについて意識するようになりました。
というのも、これまでは個人の成長に力点が置かれていましたが、成長を促すだけではなく、成長した個人をどの様に社会と接続させていくかについてより一層考え、機会づくりに取り組みました。
それが、キラメックスの使命を実現する上で重要なことは言うまでも無いですが、ユナイテッドグループのパーパスの体現、またグループ全体の企業価値を高めていくことにつながってくると思っています。
例えば、『テックアカデミー』の受講生が、『テックアカデミー』の講師をはじめプロ人材と共に実案件の受託制作・開発に携われる『テックアカデミーワークス』を通じて実践の場を得るという流れは、個人の成長と社会との接続を実現する重要な取り組みです。
やはりプログラミング・Webデザイン教育ツールは競合の多い領域でもある。事実、「プログラミングスクールで勉強しても、実際にIT企業に転職するために十分なスキルを身につけたり、フリーランスや個人事業主として案件を獲得してアウトプットできたりするケースは少ない」といった声も散見されるところ。つまり、“学習”と“自立”の間には大きな隔たりがあるのが現状の実態だ。
これに対し、キラメックスでは「個人の成長」と「人材の機会とのマッチング」が密接につながることでシナジーを生み出し、差別化を図っている。その解の一つとなるのが樋口氏の語った『テックアカデミーワークス』だ。
『テックアカデミー』の受講生は、『テックアカデミーワークス』で実践経験を積む。スクールで学ぶだけでなく、同時に実践経験の機会を提供することで、滑らかにキャリアシフトの実現が可能となるのだ。
樋口今後は、「人材マッチング事業」の中で得られたフィードバックを受けて、「教育事業」で新たなコンテンツを生み出すといった動きも多くなってくるかもしれません。
こうした可能性は、ユナイテッドグループが新たな方針を打ち出したことで、キラメックスの教育事業が一層成長していくための選択肢が増えたとも言い換えられます。
私たちの提供価値はユーザー、企業それぞれで分けられます。まず受講生であるユーザーに対しては「今までの『テックアカデミー』よりもさらに成長できる」と感じていただきたいと考えています。
そして企業に対しては、「『テックアカデミー』が社会に送り出す人材のスキルが一層高まっている」と評価していただけることを目指します。そして、このいずれにも共通しているのは、「人材のレベルが上がること」です。
私たちは、実務経験の有無こそが人材レベルの質を左右すると考えています。そのため、教育事業と人材マッチング事業の連携を強化するユナイテッドの事業構想は、人材レベルの底上げをするためにも重要な役割を果たしているんです。
また、これら2つの事業を同時に行うことでもたらされる利点は、「教育事業」→「人材マッチング事業」の一方向に限った話ではない。
「人材マッチング事業」を行う中で、本当に世の中で求められるスキルが何なのか、どういう能力が求められるのかを蓄積することができる。この知見を「教育事業」でカリキュラムに落とし込むことで、双方向性にシナジーが期待できるのだ。
キラメックス単体の事業成長のみならず、グループ全社の価値向上についても思考を巡らす樋口氏の姿は、既に早川氏や金子氏といったベテラン経営陣と並び、ユナイテッド本体の取締役としての風格を纏いつつある。
そんな樋口氏だからこそ、“一段上の視座”でキラメックスが挑むオンラインスクール市場の課題を捉えることができるようになったという。
樋口私自身がこの3年で変化したことは、オンラインスクール市場全体の成長について考えるようになったことです。
というのも、私たちが扱うプログラミングスクールやデジタルスキル教育の領域は、市場としてはまだ小さいという現状があります。その中で少ないパイの奪い合い、つまり私たちキラメックスのみが成長を目指しても、ユーザーの奪い合いが起こり、やがて市場に限界が訪れてしまいます。例えば、リスティング広告の単価を高騰させて、タクシー広告やテレビCMに注力するようなことを市場にいるプレイヤー全員でやっていても、ユーザーや市場にとって、実際なんの意味もありません。
そのため、我々はオンラインスクール市場のトップランナーとして、新たな価値創出を目指していかなければと自負しています。
オンラインスクールの入口を広げるためにはどんなユーザーに働きかけていくべきなのか、また、市場そのものを大きくするためにはどんな価値を提供するのか。そういった課題を念頭に入れつつ、市場全体を盛り上げていく必要があると考えています。
業界のトップランナーとして市場全体を盛り上げていくべく、直近で樋口氏が注目しているのが「リスキリング」だという。リスキリングとは、時代の変化に伴って生じる業務に適応するため、ビジネスパーソンがスキル・知識を習得することを指す言葉だ。オンラインスクールを通じてプログラミングスキルを習得できるキラメックスの事業は、まさにリスキリングのための場を提供しているとも言えるだろう。
樋口最近ではリスキリングがある種のバズワードとして注目されていますが、実際リスキリングを支援する施策が世の中全体に普及しているかと言えば、現状はまだスタートラインにも立っていないと思っています。
ただ、こうした潮流を国が主導していること自体はポジティブに捉えられるので、私たちがしっかりゴール設定し、何を目指してリスキリングするかを、企業やユーザーに伝えていくことが重要だと考えています。
キラメックス単体の事業成長のみならず、グループ全社の価値向上、さらにオンラインスクール市場全体の成長についても目を向ける樋口氏。しかし、そんな同氏のユナイテッド新卒入社初日は、「同期との差に、劣等感に襲われた」という。
なぜこれほどまでに成長できたのか。次章からは、樋口氏のユナイテッドでの経歴を辿ることでその所以を解き明かしたい。
同期との差に、劣等感に襲われた入社初日。
しかし、当時から既に“視座”は代表クラス
「とにかく成長できる環境に身を置きたい」。そんな想いを胸にユナイテッドの扉を叩いた樋口氏。多角的に事業を展開するユナイテッドの社風に惹かれ、既に新卒の募集は終わっていたものの、「面接してほしい」と自ら郵便を送ったほどの熱狂ぶりだった。しかし、入社初日に待っていたのは「劣等感」だったという。
樋口同期のみんなが、聞いたことがない広告関連の横文字を使って話していました。何も知らない自分に劣等感を覚えたと同時に、「絶対に負けたくない。誰よりも成長したい」という想いがこみ上げました。
自分は突然良いアイデアが浮かぶような天才でもなかったので、まずは誰よりも仕事の量をこなしました。やや時代錯誤かもしれませんが、「量質転化の法則」とも言うように、“質”にこだわる前にまずは足元のことをとにかく”一つでも多く”実行・実践していました。
また、誰よりもクライアントと話すことを心掛けていました。社内外問わず多くの人に会い、自分の知識の幅を広げていったんです。
徐々に仕事の質にもこだわるようになり、常に先輩の仕事を観察して「自分との違いは何か?」「どうすれば差を埋められるのか?」とばかり考えていました。忙しい先輩を無理矢理捕まえては、壁打ちを依頼することも多かったです(笑)。
先輩に壁打ちを依頼する際に大事にしていたことは、「自分の意志をはっきり伝えていくこと」かもしれません。主張をすることで自分を追い込む。また主張するからこそ、フィードバックももらえますからね。
よく「なぜそんなに頑張れたのですか?」と聞かれますが、とにかく負けず嫌いだったんです。同期で一番になったら、次は「先輩と肩を並べたい」と思うようになり、その次は「役員と肩を並べたい」と野望を抱く…そんな風に、どんどんと目線が上がっていきました。
入社当初、同期の優秀さに気圧されるも、「誰にも負けたくない」という想いを胸に目覚ましい成長を見せ続けた樋口氏。そんな樋口氏に、ついに千載一遇のチャンスが訪れる。金子氏から、新規事業の立ち上げを任されたのだ。
そう、その新規事業こそ「キラメックスのM&A」であった。
樋口実は先輩や役員陣にも、積極的に「新規事業をやりたい」とアピールし続けていました。ユナイテッドは自分の意志さえあれば、いくらでも成長のチャンスを与えてくれる環境なので。
大風呂敷を広げたものの、文字通りゼロからのスタート。最初のミッションは、手段を問わず「やるべきことを決める」ことでした。業務提携や買収も含め、100案ほどのビジネスアイデアを絞り出し、試行錯誤を重ね、最終的に3案まで絞った選択肢から行き着いたのが「キラメックスのM&A」だったんです。
企業買収案件ともなれば樋口氏のみならず全社として数億円規模のリスクを取ることになる。ユナイテッド経営陣が樋口氏にかけるプレッシャーも、決して軽いものではなかっただろう。しかし、それ以上に「このチャンスを逃した場合の、自身の挑戦という機会損失の方が怖かった」と樋口氏は懐古する。
そんな中、金子氏や役員陣からも背中を押された。最終的には「自分のやりたいことをやりなよ。最後の最後は、自分の意志が大事だから」という言葉がフックとなり、樋口氏はキラメックスと共にこれからの時代の教育を作り上げる決意ができたのだ。
当然、当時のユナイテッドにとって教育事業に参入するのは初めて。しかし、そんな中でも樋口氏の挑戦を後押しした理由こそ、ユナイテッドに色濃く根付く“意志ある人”には挑戦の機会を与えることを厭わないカルチャーだ。もちろん、樋口氏が「キラメックスのM&A」に挑戦した当時は、今のように「パーパス」という形でそのカルチャーは明文化はされていなかった。しかし、当時から“意志ある人”の挑戦を後押しするカルチャーは今まで脈々と受け継がれている。
思い返せば、過去の記事でも同社のアサイン時の判断基準が金子氏の口から語られていた。そう、リベイスの事業統括を任せる若手候補を探していた時のエピソードだ。
当時、買収後に事業責任者候補として事業に取り組んでもらう若手候補として、脇谷ともう一人のメンバーに声をかけたんです。「こういう機会があるんだけど、チャレンジしてみる?」と。すると脇谷は「ぜひ自分にやらせてください」と即答してくれました。
もう一人、別で声をかけたメンバーは脇谷よりもデザイン領域に詳しかったのですが、自身の描くキャリアパスとの兼ね合いで「コミットできるか分からない」という反応でして。
領域に詳しい人よりも意志ある人を選ぶのがユナイテッドのアサイン時における決定方針なので、それなら脇谷に任せようと考えました。“どちらが適正か”ではなく、あくまで“意志”が判断基準です。他人から言われてやるのではなく、自分でやると決めることが大事。そのほうが、結果的に事業に対する本人のコミットメントも高くなり、成長スピードも早いですからね。
樋口ユナイテッドの役員陣と話していると、難しいことでも「できるんじゃないか」と安心感を覚えます。彼らは客観的なアドバイザーではなく、自分ごと化して「共に乗り越えよう」と同じ目線に立ち、話をしてくれるからだと思います。
キラメックスのグループ入り後、M&Aが加速したこともあり、子会社の経営陣を集めた事業進捗の報告会が毎週のように設けられていたんです。
そこでの会話の内容がとにかく濃かった。実を言うと、当時の自分は「なんで皆こんなに自分の会社じゃないことに、ここまでコミットして発言するんだろう?」と思う瞬間もありましたが(笑)。まだ自分の目線がすごく低く、経営者として未熟だったのだと思います。
毎週の様に喧々諤々、議論が進む中で、自分の会社の成長に繋がることも多々ありましたし、「自分が他の会社に意見する立場」だからこそ気づくことも多かったです。
このようにグループ会社の代表同士でアドバイスをしあう際も、相手の会社を本気で成長させようとしているのを感じるので、説得力がありますね。仲間のチャレンジや困難について本気で考えてくれるのは、ユナイテッドならではのカルチャーですね。
一見“外れ値”のように思えるほど煌びやかなキャリアを歩んできた樋口氏も、入社当時から同期の中で突き抜けていたわけでは無い。いや寧ろ優秀な同期の背中を追いかけるところからのスタートであった。
しかし、持ち前の負けず嫌いさと行動力があったにしろ、その躍進の裏には、ユナイテッド経営陣の心強いサポートと、“前進できる失敗”を推奨するカルチャーが存在していたのだ。
その後、キラメックスの経営企画室室長として2年間を過ごした樋口氏。当時代表を務めていた前任者から「『次世代の教育を自分たちの手で作るんだ』という強い想いで、これからのキラメックスをよろしく」と直接バトンを渡されたという。
樋口代表になったからといって、責任が重くなった感覚はありませんでした。以前から代表のつもりで働いていたので(笑)。
代表だから組織のことを考えるとか、代表じゃないから考えないとか、ポジションによって責任や仕事の範囲を変えることは好きではありません。
私がキラメックスの代表、ユナイテッドの取締役と言うポジションに抜擢されたのも、ただ粛々と、事業成長にコミットし続けてきただけなんです。目の前の仕事で結果を出し続けることこそが「大きな仕事」への近道だと思います。
「ポジションが人を育てる」とは言うものの、それは必ずしも「ポジションがなければ成長しない」という意味ではない。樋口氏のように、職位に拘らず、ただひたすら目の前の仕事に打ち込み、そこで結果を追い求める姿勢があれば、自ずとポジションは後からついてくるものだろう。
そして、樋口氏は現在の職位に辿り着いた現在でも毎週欠かさず振り返りのメモを書いて残していると言う。事業を伸ばすための打ち手など、思いついた時点ですぐさまメモに残し、その数は数百個にも及ぶという。
樋口各事業の成長や会社の方針といった重要な意思決定を考える際には、毎度必ずメモを振り返って、色々な視点で可能性や機会、ユーザーの課題などを考えます。その中から実際に新たな事業のきっかけになるような“気づき”が得られています。
事業の成長につながる“キーアクション”というものは、言わずもがなその“タイミング”も重要になってきます。その重要性に気づいたタイミングでは必ずしも優先度が高くなくても、別の機会においてはすごく意味のあるアクションであることもしばしば。
常に感じたことを記録することで、“未来の自分への提案”を“自ら”できるんです。
現状に甘んずることなく、常に事業の成長のために、挑戦することをやめない樋口氏。確かにその存在は、次世代を担う若手のロールモデルになって然るべき、と言えるのではないだろうか。だが、そんな樋口氏も昨年のユナイテッド取締役就任には「迷いがあった」と本音を明かした。果たして、その理由とは?
事業家人材を目指したくば、常にコンフォートゾーンから抜け出せ
2022年6月の株主総会にて取締役に就任し、これまでの連載でも登場した早川氏や、金子氏のようなベテランメンバーと並び役員という大役を任命された樋口氏。しかし、その抜擢の裏には一握の迷いが存在していた。
樋口ユナイテッドの取締役として果たすべき責任について考えたとき、正直、私にはまだ早いと感じていました。いずれはそのタイミングが訪れることを想像してはいましたが、声がかかった当時は、まだキラメックスの事業に集中するべき時期だと考えていたからです。
一方で、常に早めのタイミングでストレッチした機会を与えるのは、ユナイテッドらしい判断だとも感じます。パーパス策定やコア事業を打ち出したタイミングで取締役に就任できたことは、いま振り返れば、私にとって大きな意味を持つことでした。
そんな迷いを払拭したのが、樋口氏の座右でもあり、キラメックスの行動指針(バリュー)の一つにもなっている「コンフォートゾーンを抜け出そう」という自戒であった。
樋口私がこれまでのキャリアで常々意識してきたのが「コンフォートゾーンから抜け出し続けること」でした。
私自身、キラメックスの買収や代表取締役就任、そして先に挙げたユナイテッドの取締役就任などを通じ、そのときどきのコンフォートゾーンを抜け出しながらここまで進んできたと感じています。
もちろん、ユナイテッドとしても働くメンバーに対し意図的にこうした変化を与えていこうと考えている会社なので、コンフォートゾーンから抜け出す機会が必然的に多くなる環境です。
ただし、ユナイテッドはそうした挑戦の機会をメンバーに与えて、ただ放置するわけではありません。いわば打者がバットを振りやすいようなサポートを、ほどよい距離感でしてくれるイメージです。また、どうしたらホームランを打てるか共に考えてくれます。
もちろん、こうした環境があれば必ず成長するわけではありません。環境があっても当人が意識しなければ成長はないと思います。自分の行動を振り返った時に、「悪い意味で成功体験を引きずっていないか?」「変化を起こせていないのではないか?」と自戒しながら行動しています。
常々そういった意識を持つことが大切だと考えているからこそ、キメラックスの行動指針(バリュー)のひとつに「コンフォートゾーンから抜け出そう」というメッセージを採用したんです。
コンフォートゾーンから抜け出し続けること。それは、「子会社代表抜擢」「取締役就任」といった目に見える大きなチャンスのみを指しているわけではない。樋口氏は、日ごろから社内で行われるディスカッションを例に挙げ、日々の中でユナイテッドが与えてくれる気付きについて補足する。
樋口個人的に助かっていることとして、経営陣とのディスカッションの際、常に“反対意見”を出してくれることが挙げられます。「違う」と頭ごなしに否定するのではなく、あえて対極の意見をぶつけることで、思考を広げる手助けをしてくれるんです。
私の場合は教育事業がとても好きですし、ユナイテッドグループの中では自分が一番教育について考えているという自負があります。その想いが強いからこそ、視野が狭くなってしまうこともあるので、意見を通じて無意識にとらわれていた枠を外してくれるのがありがたいです。
思い返せば、前回の記事にて、ユナイテッド・グループのカソークにて事業責任者を務める中川氏も、上司や経営陣との会話についてこのように語っていた。
上長はあくまで、“壁打ち相手”です。
自分自身で“課題”を設定し、それに対する施策を考える。その上で、上長に壁打ちを行い、自分が見えていなかった視点からフィードバックやフォローをしてもらうんです。
つまり、「与えられた指示に従う」、「上長が考えた施策を実行する」のではなく、常に自分起点でオーナーシップをもち、クライアントの課題に向き合うことが求められるんです。
このように、ユナイテッドグループに通ずる経営陣の人材育成への姿勢が、樋口氏をはじめとした若手の躍進をサポートしているのである。
「優秀さ」は肝ではない。
「やる人は伸びる。やらない人は伸びない」、以上だ
前回記事やこれまでの連載で描いてきたユナイテッドの人材育成を振り返ると、未経験新卒からわずか2〜3年で事業責任者を務める若手の活躍が目覚ましい。そこにはある種の再現性があるように見えるが、ユナイテッドではなぜこのような事業家キャリアを歩む人材が絶えないのか。
その秘密をFastGrowは「グループ企業を含めた経営アセットをフル活用できる環境」と、「経営陣の人材育成への姿勢とコミットメント」に見た。一方で、「特別優秀な若手人材を初めから集めているのだろう?」という読者の疑問はまだまだ拭えないやもしれない。
そんな読者に向けて樋口氏は、「結局のところ、自分自身や若手メンバーらの活躍の要因は、“個人の優秀さ”ではない」と断言してみせた。
樋口先に話した通り、私はIT業界のことをよくわからないままキャリアをスタートしましたし、周りに比べて自分が優秀だったとは思いません。いや、むしろできない方でした。
ここまでの成長や獲得してきた機会について、何が要因だったかと問われれば、結局のところ“優秀さ”なんてものよりも「やるか、やらないか」しかないと感じています。
もちろん事業を伸ばす確率や精度を高めるための努力は必要ですが、最終的にはやってみないとわからない。だからこそ、ポジティブにコミットする姿勢を貫き、やり続けることが何より重要です。とはいえ、やり続ける日々を振り返れば、良いことばかりではありません。まるでジェットコースターのように、良いことと悪いことが日々繰り返し訪れます。
中でも特に悔しいのは、ユーザーに満足いくものを届けられなかったと痛感する瞬間です。例えば、「テックアカデミーを利用しても、当初思っていた成長ができなかった」「もう少し違った勉強方法だと思っていた」などなど、多種多様なユーザーの希望に応えきれていないケースも時には出てきます。
もちろん辛いと感じることもありますが、ユーザーと真摯に向き合い、改善をひとつずつ積み重ねていく意識を持って、今までやり続けてきました。
単に「起業したい」ではなく「本気で事業をやり抜きたい」と思う心が、こうした日々を乗り越えるための原動力になっています。事業やユーザーと本気で向き合い続けられる人は、世の中が言う「優秀な人」ではなくても、事業家としてキャリアを積んでいける機会を掴むことができると思います。
やるか、やらないか。やると決めたら、やり抜く。樋口氏が自身の経験を振り返りながら語った成長の秘密は、極めてシンプルなものだった。一方で、誰もがそのシンプルな力を携えてビジネスに臨めるかと言えば、やはり難しいだろう。まだ挑戦の一歩を踏み出していない若手人材の中に眠るもの……いわば“筋の良さ”は、どういった素養から見極められるのだろうか。
樋口「やり続けること」と類似しますが、どんなことであってもとことんコミットできる人は強いと思います。何か事業をやると決めたとき、その事業を誰よりも好きになれる人は、先ほど話したやり抜く力を持てるでしょう。
事業やサービスに対する意志や愛情が強ければ強いほど、事業について考え抜くことができます。そこから生まれる発想やこだわりが事業をより良くしていくでしょうし、上手くいかないときにもがく力にもなると思います。
これらはすべて、私自身が経験してきたからこそ言えることです。私のようなプロセスを踏んでくれたら、人としても事業家としても、きっと成長していくことができるでしょう。ですから今後ユナイテッドにジョインする人とは、ここまで話したように徹底的に事業を考え抜く、好きになる経験を共に歩んでいけたらいいな、と思っています。
あくまで若手と同じ目線に立ち、愛情を注ぎながら事業と向き合うことの大切さを説く樋口氏。その言葉の節々からは、自身の経験から得られた想いを次世代へと継いでいく姿勢が垣間見えた。
“優秀さ”は既にコモディティ化した?
未来のスターに求められるのはユニークネスだ
ここまで、優秀な若手人材を数多く輩出するユナイテッドグループの中でも“ロールモデル”とされる樋口氏が、人一倍の成長を成し遂げた秘密を紐解いてきた。
しかし、取材の終盤に樋口氏はこの記事を読む若手に対して「これまでの(自分が経験してきた)やり方を真似するだけでは、差別化しづらい時代がやってくる」と警鐘をならす。
樋口人材育成に限らず、あらゆる物事のコモディティ化が進んでいると感じています。最終的なゴールに向かうプロセスの最適化が進むことは、もちろん人材レベルを高めることにもつながってきます。
例えば、野球の大谷選手は「打つ」と「投げる」に対する最適化を徹底し、どちらの役割も担うことが野球界のニーズに合致したからこそ、世界レベルのスターになったのだと思います。あらゆる領域で最適化された答えが見えていれば、それだけ“優秀”な人材も増えていくでしょう。
こうした人材市場の中でひときわ輝くためには、“優秀”さのほかに“ユニークさ”も必要になってきます。私の場合は、教育事業に対する異常なほどの「愛情」や「想い」といったものがユニークさだと自負しています。
自分のスキル・知識にどんなユニークさを組み合わせるかは人それぞれだと思いますが、それが最適化できない、何かをやり続ける「愛情」や「意志」といった想いであることが重要です。
単に優秀な人材ではなく、何かに対して強い想いを持つ人材こそが時代を率いていく。樋口氏が語るそうした展望は、どうやらユナイテッドグループのパーパスとも繋がっているようだ。
樋口「意志の力を最大化し、社会の善進を加速する。」というパーパスには、まさにユナイテッドグループの経営陣の想いがこめられています。その一人である私自身も、決して元々事業づくりが得意なタイプではありませんでした。他の経営陣も同じく、新卒時代から事業づくりに取り組んでいたわけではありません。
それでもここまでやり続けてきた実績があり、そこで得られた実体験があるからこそ、自分たちが歩んできた道を次の世代へと継いでいきたい、次の世代を引き上げたいという想いを強く抱いています。
ユナイテッドがリスクを負いつつも若手の挑戦機会を重視しているのは、こうした経験や想いが根底にあるからなんです。
メンバー一人ひとりの“意志の力”を最大化する。若手人材が次々と活躍するユナイテッドの環境を解き明かす答えは、冒頭で紹介したパーパスにあったのだ。
そして、「自分たちが歩んできた道を次の世代へと継いでいきたい、次の世代を引き上げたい」という樋口氏の強い想いは、金子氏が若手育成に懸ける想いをあらわにしたインタビューでも共通して語られているものだ。
僕や代表取締役の早川、取締役の山下などは、若い頃、勃興するIT業界のどさくさに紛れて(笑)、いろいろな経験をさせてもらえて、業界や諸先輩方に育ててもらった感覚があります。
ところが、今はIT業界もかなり成熟してきて、自分で事業にチャレンジできる余地が減ってきているように思うんです。なので、挑戦の機会をユナイテッドでは創り続けたいと考えています。
早川氏や金子氏から渡されたバトンは、確かに樋口氏にパスされ、そして今では前回のインタビュイー3名のような若手事業家たちに着々と受け継がれつつある。
何かに対して熱く燃える想いさえあれば、誰もがこのユナイテッドの環境から羽ばたくチャンスがある。次に彼らの意志を受け継ぎ、次世代を象徴する事業家となるのは、今これを読んだあなた自身かもしれない。
本連載もいよいよクライマックスに差し掛かってきた。これまで、ユナイテッドが新卒から若手事業家を連続的に輩出し続けられる所以を紐解いてきた。しかし、当然の如く、同社のこれまでの事業拡大の裏には中途入社で活躍する者たちの存在がある。
9記事目となる次回は、中途入社にて活躍する3名をインタビュー。それぞれ、ベイン・アンド・カンパニー、アクセンチュア、アビームコンサルティングといった戦略コンサルティングファームで活躍していたメンバーは、なぜ次の挑戦場所としてユナイテッドを選んだのか?
ユナイテッドがプロフェッショナル人材にとっても魅力的な事業開発環境である所以をお送りしたい。
こちらの記事は2023年04月20日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
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連載ユナイテッド株式会社
執筆
宿木 雪樹
写真
藤田 慎一郎
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