連載パナソニックが提唱するミッションドリブン 〜人生100年時代の新・キャリア戦略〜

「ミッションがビジネスを加速させる」
なぜ『知るカフェ』柿本は、設立3年でグローバル展開できたのか?

Sponsored
インタビュイー
柿本 祐輔
  • 株式会社エンリッション 代表取締役CEO 

同志社大学を卒業後、ワークスアプリケーションズに入社。営業職として約2年半従事した後、2013年7月「世界中の学生に選択肢を与え、人生を豊かに」というミッションを掲げて『知るカフェ』の運営会社であるエンリッションを設立。同年12月『知るカフェ』1号店を母校・同志社大学前に出店、2016年4月には初の海外店舗となるインド工科大学ハイデラバード店をオープンした。2019年4月現在、米国アイビーリーグやインドIITなどの海外店舗を含む31店舗(オープン予定含む)を展開し、約200社の企業がスポンサーとなっている。

河野 安里沙

同志社大学を卒業後、パナソニックに入社。マーケティング部門の経理に3年間従事した後、リクルートキャリアへ転職。人材採用関連事業の営業として約3年間従事した後、パナソニックの採用から日本の就職活動の在り方を変えたいとパナソニックにカムバックし現職。

関連タグ

ミッションドリブンを大切にする働き方を提唱するパナソニックが、スポンサー企業の1つとして名を連ねる『知るカフェ』。

『知るカフェ』を運営するエンリッションが掲げる「世界中の学生に選択肢を与え、人生を豊かに」というミッションに賛同した企業は、日系大手や外資企業などを中心に約200社。設立わずか6年で国内19店舗、インド最高学府 インド工科大学、アメリカのアイビーリーグ ハーバード大学店、イェール大学店、プリンストン大学店などグローバルにも圧倒的なスピードで展開している。

『知るカフェ』は、対象校の現役学生が実践型インターンシップとして運営をおこなっており、学生視点で学生が気軽に行きたくなるような工夫が凝らされている。1日2,500人以上の学生が利用し、大学1年生から将来のキャリアを考える機会と社会と触れ会うことができる環境を日本各地に、そしてグローバルにも提供しているのだ。

そんな『知るカフェ』を運営しているエンリッションの設立者 柿本氏にミッションへの想いや重要性についてパナソニック 河野氏が話を聞いた。

  • TEXT BY NAOKI MORIKAWA
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
SECTION
/

「もっと社会人と話したい、もっと社会について知りたい」という素直な気持ちが突き動かす行動力

26才でエンリッションを設立し、6年足らずで『知るカフェ』を国内外に30店舗以上展開している柿本氏。学生時代に芽生えたミッションを育み、圧倒的な行動量でビジネスを展開している。

その原動力は「世界中の学生に選択肢を与え、人生を豊かに」というミッション。実績だけを見れば、多くの人にとっては「自分とは違う才能と情熱の持ち主」と思ってしまうかもしれない。

当の本人は特別視されることに違和感を覚え、「自分の可能性を探り、選択肢を広げることができれば誰だってチャンスはある。私はそのチャンスに偶然恵まれただけ」と語る。

そして、より多くの学生がそのようなチャンスを得られるような世界にしたいという想いから『知るカフェ』はスタートした。

柿本大学に入学した頃は、テニスサークルとスノーボードサークルに入っている普通の大学生でした。特にスノーボードが好きでした。サークルで行くだけでなく、社会人の方に交じってよくスノーボードに連れて行ってもらっていました。

自分で言うのもなんですが、目上の人にかわいがってもらえる性格みたいで……。社会人の方々にとてもよくしていただきました。学生の頃って、ゼミやサークル、アルバイトなど学生同士の横のつながりは意識しなくても沢山ありますよね。

逆に、社会人との接点はなかなかありませんでしたから、ゲレンデに向かう車内で社会人の方たちが携わっている仕事について話すのを聞くことがとにかく面白くて刺激的でした。

柿本車内で大人たちが語る話は、「このトンネルってどんな風に出来ているか知ってる?こういうプロセスを踏んで、こんな苦労をしながら……」といった内容。それまで聞いたことがないようなリアルな仕事話が楽しくてしょうがなかったです。

「銀行員になった理由は……」、「出版業界をこういう風に変えていきたくて……」など、仕事内容の話だけでなく、仕事に取り組む社会人の想いを聞いていました。聞けば聞くほどもっと知りたくて、スノーボード以外でも「食事に連れて行ってください」と連絡し、話を聞く機会を増やしていきました。

河野偶然得た機会かもしれませんが、そんな機会に恵まれるなんて羨ましいです。

柿本本当に人の縁に恵まれていたと思います。社会人の人に話を聞いたことがきっかけで、世の中の会社や仕事というものへの興味が湧きました。さらに、社会人の方々ともっと対等に深い話をできるようになりたいという気持ちが相まって、興味を持った業界の企業サイトを見たり、会社案内の資料請求をしたりしました。

それでも物足りなくて、学内で行われていた就職活動生向けの合同説明会に参加していましたね(笑)。その当時、私はまだ大学1年生だったので、就職課の先生は「なぜ1年生が?」という感じで驚いていました。

河野それは先生も驚いて当然です(笑)。

柿本先々の就職活動で有利になるように、というような戦略的な気持ちなんてさらさらありませんでした。もっと仕事や会社について知りたい、という純粋な想いで行動していました。社会を知りたいという気持ちに学年なんて関係ないと思いませんか?

河野本当にその通りですね。

柿本さんは就職活動かどうかなんて全く意識することなく、大学1年生から日常的に社会人から仕事の話を聞き、もっと仕事について知りたいから企業サイトを調べ、さらに知りたいから説明会に行っていたということになりますね。

柿本そうですね。だから、「どのような就職活動をしていましたか?」とよく聞かれるのですが、答えに困ってしまいます。

SECTION
/

突如現れる「志望企業」と「一括エントリー」への違和感が『知るカフェ』の原点

柿本ここまでお話したとおり、いわゆる「就職活動」はしていないものの、私の人生のターニングポイントは同級生が就職活動を始めた時です。

実は、大学1年生の頃から就職活動には違和感は少なからず感じていました。ただ、その違和感が危機感に変わったのが大学3年生の時でした。

一斉に髪を黒く染め、黒いスーツを着て、「〇〇業界に興味あるんだよね」と話し始める同級生。さらには、《あなたの大学の先輩がエントリーしている企業一覧》や《あなたの大学のお友達は〇社エントリーしているよ!もっと頑張れ!》と、とにかくエントリーを煽る就職媒体の広告。それを見た時には衝撃が走りました。

「なぜ同級生は、名前を知っているからという理由だけで、エントリーするのか。なぜ、OB・OG訪問を義務みたいに行うのか」と。

河野大学1年生の時から、多くの大人と自然に交流し、仕事というものの本当の面白さや苦労を聞いてきた柿本さんにしてみれば当然の違和感ですよね。

柿本「こんな就職活動間違っている。自分のように大学1年生の頃から自然な形で、会社や仕事やそこで働く人の想いを知る機会を広げるべきだ」という危機意識にも似た気持ちを抱きました。

そこでひらめいたのが「あのスノーボードに向かう車内のような空間を作ればいいのでは」というアイディアです。『知るカフェ』のビジネスモデルの原点は、こうして生まれました。

河野私も柿本さんとほぼ同じ時期に就職活動をしていました。確かに、同じような違和感を抱いていましたが、その当時は仕方のないことだと自分を納得させ、就職活動という流れに流されていたように思います。

実際に柿本さんは『知るカフェ』のビジネスモデルを思いついてからどのような行動を起こしていかれたのですか?

柿本就職活動が抱えている課題を解決するアイディアを思いついた瞬間、大学のキャリアセンター(就職部)に駆け込んで想いを訴えていました。

当時のキャリアセンター長に「今の就職活動は間違っている。学年に関係なく企業や仕事について知るための機会を創りたいです」と掛け合いました。でも・・・「柿本くんの言うことはわかる。けれども、大学が主体になって実現するのは難しい」と、いとも簡単に却下されてしまいました。

今でこそ、1・2年生からキャリア教育を行う大学やサービスも増えてきましたが、この当時はそういった考え方が一般的ではなかったのでまあ無理もないですよね(笑)。

でも、キャリアセンターの方に却下されたこの瞬間に私のミッションが決まりました。「大学がやらないなら自分がやるしかない。日本の変な就職活動のスタイルは自分が変えてやる」と。

河野柿本さんのミッションが芽生え、自覚するきっかけを与えてくれたキャリアセンターの方には感謝ですね。『知るカフェ』の目的は「オンライン就活」から「オフライン就活」という流れを創りだすことと掲げていますが、「オフライン就活」について具体的に教えてください。

柿本今の就職活動はネット上のコミュニケーションに偏りすぎているため、リアルで自然なオフラインでの交流が不足していると感じていました。

ネットを使って情報収集したり、オンラインでコミュニケーションを取ったりすることも必要ですがリアルなコミュニケーションでしか経験できないことも沢山あります。

将来のキャリアのことを考えていない状態であっても、大学生活の中で気軽に立ち寄れて、企業や社会人と交流できる場さえあれば、自然とそこで実施されている企業と出会うイベントに参加してみたり、隣の席から仕事の話が聞こえてきたりする中で、キャリアに対する興味が沸いたりするかもしれないですよね。

「学生が日々通う大学の近くで、カフェのように気軽に立ち寄りたくなる空間があって、電源やWi-fiが自由に使えるようになっていて、飲み物も無料で提供できたなら、きっと多くの人が集まる場になるだろう」と、大学3年生の時には、現在の『知るカフェ』に限りなく近いイメージを描いていました。

この世界観に共感してくれる企業がスポンサーになってくれれば実現は可能なはず、というビジネスプランの原型も併せて考えていました。

河野ここまでのビジネスプランの構想までありながらこのタイミングで起業しなかったのは、どんな理由からでしょうか?

柿本知るカフェの構想については社会人の先輩や経営者の方など約100名の方にお話しました。その度に様々なアドバイスをいただきましたし、皆さん口を揃えて「それはやるべきだ」と言ってくださいました。

ですが同時に、「実際のビジネスは口で言うほど甘くない」ということも教えていただきました。その当時、私自身は大学3年生でしたから、実際に社会に出て働いた経験を持っていたわけでもありません。ですから、最終的に「ミッションを達成するために必要な能力を逆算し、まずはその能力を最短で得られる会社に就職しよう」と決心しました。

遠回りに聞こえるかもしれませんが、絶対にミッションを達成させたかったので、「とりあえず起業しよう」とは思わなかったですね。

SECTION
/

「修行としての2年間」と決めたからこその「営業しかやりたくないです」宣言

実は、大学3年生になったばかりの柿本氏は、自身の志向性や大学1年生から積み重ねてきた企業分析の結果などから、総合商社への志望度が高まっていた。だが、明確なミッションとその達成のための道筋が固まったからには、「就職はあくまでもミッション達成のための成長の場」ということになる。

もちろん総合商社も修行の場として有力な候補と思えたが、様々な先輩に相談をした結果、より成長に適した企業としてワークスアプリケーションズが浮上してきた。

その世代の優秀層が集い、賞金と内定パスを競い合うという独自のインターンシップを通じ、ゼロイチで物事を創造する能力を問うていく採用を行っている同社の存在はすでに有名であった。

柿本ワークスアプリケーションズの場合、インターンシップに参加できたとしても、そのカリキュラムの中で厳しくふるいをかけられていく点でも知られていました。

実際に多くの起業家精神の持ち主がエントリーしていましたし、そういうパワフルな同期に囲まれる環境は理想的でした。私もまた、ここでパス(内定)を取り、入社後に実務で鍛えていけば、起業するために必要となる能力、特に「問題解決能力」が備わると思っていました。

河野柿本さんにとっては、起業するためにご自身に足りないのは「問題解決能力」だった。だから、その力を得られる会社がワークスアプリケーションズだったということですね。ちなみに面接のとき、起業を見据えての就職だということは伝えられていたのでしょうか?

柿本はい。もちろんです。「2年で結果出して、辞めます」と正直に伝えていました。だって、そのために就職するのですから。

河野そこまで言い切れるなんて、ご自身の中に強いミッションへの想いがあったからでしょうね。そんな強い想いや真正面から向かってくる素直な姿にきっと面接官も心打たれたのですね。

配属先を決定する場面でも、前代未聞なことをされたと聞いています。

柿本そうですね。当時の配属先の決め方はドラフト会議形式でした。会議室にそれぞれの部門のマネジャーがずらっと座っていて、その会議室に新入社員が一人ずつ入っていきます。そこで、新入社員が自分の部署に必要であればマネジャーが手を挙げるというスタイル。新入社員からすれば「誰からも手が挙がらなかったらどうしよう」という不安でいっぱいになります。だから、みんな配属希望の紙にはまんべんなく各部署への希望度を記入します。

ですが私の場合、起業までに身に付けたい力である「問題解決能力」は、ワークスアプリケーションズの営業職でこそ身に付くと思っていたので、営業配属でなければワークスアプリケーションズに入社した意味すらなくなってしまいます。ですから350名いる同期の中で唯一、配属希望を営業職のみで提出しました。そして、同期の中で1番最初に配属先が決まりました。もちろん、配属先は営業でした。

河野就職はミッションを達成するための修行であり、ミッション達成への強い想いがあったからこそ、振り切った主張をすることができたし、たぶんその熱も伝わって希望が通ったのでしょうね。

柿本私のある意味、要領の良さも見抜き、私が抱いているミッションやキャリアビジョンについても理解してくれた上で採用を決めてくれたワークスアプリケーションズには、本当に感謝をしています。

SECTION
/

ミッション実現のため、退職断行

そうは言っても、営業職に就いてから2年後、「本当に辞める」と言い出した時には上司らと議論になった。それもそのはず、その直前にワークスアプリケーションズの歴史に残るような大規模案件を獲得した柿本氏は、社内表彰が決定したばかりだったからだ。

柿本当然ですよね(笑)。「こんな大きな案件を取ってきて、皆の前で表彰が決まり、周囲からとても期待されていたのに何を言い出すんだ」となるのが普通です。実を言えば、私自身もちょっと心が揺れていました。

「ミッション達成のための修行のためだ」と思えばこそ人一倍頑張れましたし、おかげで成果を上げることもできましたが、そうなれば当然やりがいを感じてくるわけです。せっかく手にした案件ですから、もちろん自分で担当もしたい。その反面、「この案件が実際に動き始めたら、仕事が楽しくなって数年間は辞められなくなってしまう」と思ってもいました。

河野最終的に社内表彰を待たずして退職されたのですよね?「辞めずに残って、この案件を完遂していたら…」と後悔したことはありませんでしたか?

柿本はい。後悔したことはありません。似たような岐路に立っている人がいれば、「自分の気持ちに正直になって決めればいいのでは?」と伝えます。

私の場合は、自分自身が本当に創りたいのは「1・2年生からキャリアについて考えられる場をつくること」だと決断を迫られて再確認できましたし、退職したことによって自身のミッションに対する想いをより強く持つことができました。

私は確固たるミッションを持っていたことによってワークスアプリケーションズで働くという選択ができ、成長するという機会も得られたし、実際にこの2年間、誰よりも勉強し、努力し、成果も出せました。

河野結局、自分が選んだ道を正解にするために、努力と行動をするしかないですよね。

柿本そう思います。だから、退職後も努力と行動をし続けました。

すぐに母校である同志社大学の近所に良い物件を見つけ、契約しました。もちろん資金のアテなんてなかったです。十分な資金を確保してから物件を契約する、といった当たり前の手順を無視して行動するあたりからしても決してスマートじゃないわけです、私は(笑)。

十分な資金もなかったのに、いつまでも物件をホールドしておくことはできませんから、大慌てでスポンサー探しをスタートしました。結局600社に訪問したり電話をしたりして、ようやく25社から支援を得られることになり、最低限必要な開店資金を用意しました。

ギリギリの資金状態でしたので、開店直前まで創業メンバー3人でカフェの壁を塗っていました。アルバイトを雇うという発想も浮かばないぐらい忙しかったですし、当初は私自身がエプロンを巻いてコーヒーを淹れ、学生さんを迎え入れていました。

オープン直前まで、内装工事を行う『知るカフェ』1号店 同志社大学前店
提供:株式会社エンリッション

SECTION
/

全く実績がなくとも25社の企業から支援を得られたのは「確固たるミッションがあったから」

河野たった1人で600社訪問したのでしょうか?

柿本いえいえ、さすがにそこまでの体力も時間もありません(笑)。オープンに先立って2名の創業メンバーも営業活動に参加してくれました。ただ、結果として支援してくれたスポンサー企業25社中24社は私が獲得したものでした。

河野すごい。やはり当初の狙い通り、ワークスアプリケーションズの営業部隊で鍛えた成果でしょうか? 柿本さんと他のメンバーの方の差は何だったのでしょうか?

柿本それは、「想いの強さ」ですね。もちろん、ワークスアプリケーションズで過ごした2年間で得た働き方、仕事に向き合う姿勢は大いに役立ちました。けれど、営業テクニックの違いだけではこのような成果は得られません。設立当初はまだカフェの空間すらなく、実績も、知名度もありませんでした。

自分が唯一持っているものと言えば、「世界中の学生に選択肢を与え、人生を豊かに」というミッションへの強い想いだけです。

人を動かすのに最終的に必要なのは、話術とか営業テクニックではなく「想いへの共感」だと思います。大学在学中に芽生えたミッションを追い続け、どんな時もブレずに追い続けてきたものだからこそ、想いの強さが相手に伝わり、実績ゼロの若造の事業プランに名だたる大企業が協力を申し出てくださいました。

創業メンバーの2人ももちろん頑張ってくれていて、私が描くミッションを代弁してくれてもいましたが、やはり言葉に「想い」がどれだけ乗っているのかで聞く側への響き方は変わってきます。それをこの結果が示しているのだと思っています。

河野テクニックではなく、「想い」こそが大切であるというお話ですね。実際、どのようなお話を企業にされたのでしょうか?

柿本私が企業を訪問して語った内容というのは、カッコいいビジネスプレゼンのようなものではありません。ひたすらミッションに対する想いを説明し、「大学1・2年生をはじめとするすべての学生に選択肢や可能性が広がる機会を届けたい」などと伝えていくのみです。

当然、提案をしていく中で「これは当社にとって何のメリットがあるのか?」というような質問を受けることもありました。セオリー通りの営業トークならば「こういう機能を用意して、その結果、御社にもこういう付加価値が……」という答えを用意すべきなのかもしれません。

ですが、その当時はカフェ自体もまだなく、何も始まっていないわけですから、何ひとつ保証はできませんでした。それに、私としては「機能面や効果」に反応し期待する企業ではなく、「想い」そのものに共感し、応援してくださる企業と出会いたかった。そういった企業でないと私の描く『知るカフェ』は実現しないと思っていました。

直近の状況でみると『知るカフェ』を利用してくださる学生の42%が1・2年生です。あえて「就活のため」と機能や対象者を絞り込まず「すべての学生への機会提供」というコンセプトを貫いた成果だとも思います。

この「想い」に共感してスポンサーをしてくださる企業もいまでは約200社になりました。これから、もっともっとこの「想い」に共感してくださる企業を増やしていきたいです。

SECTION
/

『知るカフェ』構想時からグローバル展開を当たり前に見据えて

河野国内だけでなく、実は、グローバル展開の早さにも驚かされています。このあたりはミッションドリブンというよりも、戦略あってのことだったのでしょうか?

柿本むしろ、めちゃめちゃミッションドリブンだからこそです(笑)。

私のミッションは最初から「世界中の学生に」というものだったので、国内でミッションを説明するケースでも当たり前に「世界中の」という言葉を使っていました。ですから海外出店のチャンスは起業時から狙っていました。

もちろん国が変われば学生が置かれている環境や、企業との接点もそれぞれ異なってきますが、逆に共通していたポイントも見えてきました。

例えば国や地域が違っても、学生たちは自由な空間で社会人とふれ合える環境を望んでおり、『知るカフェ』が実現したい世界観に共感してくれる企業や大学がちゃんとあった、という点です。こうした共通点にこそ大切な意味や価値があると思います。

国内1号店オープンから3年後には、海外店舗1号店としてインド工科大学 ハイデラバード店をオープンしました。周囲からは「超ハイスピードなグローバル化」みたいに言われますが、「世界」が相手であるという視野は起業前からあったので、私自身としては自然なスピード、流れだと捉えています。

インド工科大学店
提供:株式会社エンリッション

河野もうここまで聞くと、柿本さんのことが「天性と本能のミッションドライバー」のように感じてしまいそうになります(笑)。

いくらミッションがあるからとはいえ、「各国それぞれの事情の違い」が事業展開の大きな障壁になるようなことはなかったのですか?

柿本先ほども少し触れましたが、「事情が違う」というよりも「根底ではどこの国も共通の課題と想い」を持っているんです。真っ先に思い浮かぶのがオックスフォード大学の方と話した時のことです。

お話を伺うと、学生が知り合う企業はイギリスの企業ばかりになりがちだそうで、他の国の企業、例えば米国企業らと接触する機会を持てないでいるのだと教えてくれました。

でも、『知るカフェ』がオープンして、米国企業がスポンサーになって活用してくれたなら、学生たちの視野が広がる。

イギリス以外の様々な国の企業が、今どんなことを考えているのか。それを学生時代に肌で感じ取る機会ができたなら、1人ひとりの学生のキャリアに関わる考え方が変わるかもしれないし、大学で勉強したり、研究したりする内容さえ変わるかもしれない。そうなるのなら、実に素晴らしいことだと言ってくださいました。

もちろん、展開する地域、その大学に応じたバリューの提供やビジョンの構築が必要になるケースはありますが、その国に合わせて根本となるミッションを変えることは一切しません。ブレずに世界中の学生や大学に共通の課題に対する想い(=ミッション)をストレートに伝えることで、むしろ各々の事情を超えた深い共感が得られたのだと思います。

(左)インド工科大学 デザイ学長
提供:株式会社エンリッション

この経験を通じ、「学生に未来の可能性を広げる機会を提供し、より豊かな人生を歩んでほしい」という気持ちが世界共通の「想い」なのだと、柿本氏は確信できるようになった。

「ミッションをローカライズしてブレた伝え方をしていたら、こんなに共感を得られていなかったでしょうね」と柿本氏は笑う。

SECTION
/

「これ、誰も解決してないな」と感じる課題がミッション発見の糸口

ミッションには徹底的にこだわり、決してブレることなく動く。ただし、自由で自然な広がりや変化については、むしろ歓迎し、柔軟に受け容れるというのも柿本流のようだ。短期間で30店舗以上を展開するまでに成長している要因は、店舗ごとに異なる内装デザインにも表れている。

いわゆる外食産業としての既存のカフェチェーン経営ならば、効率性を重視し似通った外観・内観・設備を持たせるのが常識になっているが、それとは明らかに異なるのだ。

柿本ミッションが共通ならばカフェの様子も統一されていくだろうと思う方がいるかもしれませんが、そこは違います。国によって、どころか、同じ国内でも店舗によって異なるのです。

例えば、東大や京大の店舗では1人で勉強をしている学生が多いので1人で勉強に集中しやすいカウンター席を増やしました。一方、この早稲田大学前店(この日の取材場所)の場合は、複数名でおしゃべりや議論を楽しむ学生が多かったので、テーブル席中心の店舗にしています。

また、アメリカのアイビーリーグ周辺では、訪れる学生の全員がPCを開いて論文を書いているので、1人用の勉強スペースのみで構成されています。

私たちのミッションを形にしようというのなら、やっぱりその大学に通う学生、その地域で長く過ごす人たちの志向やスタイルに合う空間にすべきだと考えて店舗を設計しています。

内装デザイン(上)慶應義塾大学前店(下)大阪大学前店
提供:株式会社エンリッション

河野かつての柿本さんのように、学生たちがこの『知るカフェ』で自らのミッションと出会うきっかけは広がっていると思います。

ただ、「ミッションなんてそう簡単に見つかるのかな」とか「見つかったとしても、柿本さんのようにうまく進展するとは限らないよな」などと考える人も大勢いそうです。

柿本ミッションを確立するための私なりの方法論は、社会的課題から入っていくというものです。社会的課題と言っても大げさなものではなく、例えば普段あたりまえに生活していてふと違和感を抱く瞬間があると思います。

その瞬間を見逃さずに過ごしていく中で、「これ、誰も解決してないよな」と思えるものがあれば、それでいいのではないでしょうか。

私の見つけたミッションが多くの方に共感してもらえたのは、「今の日本の就職活動って何か変だよな」という違和感を多くの方が潜在的には感じていて、それを言語化したことで共感を生めたからだと思います。

一方で、「誰もがみな自身のミッションを語れるようにならなくてもいいでしょ」とも思います。

私のように、ジッとしていられないくらい突き動かされるようなものが見つかった人は起業をすればいいわけですが、それがまだ無いからといって落ち込む必要は全くありません。

SECTION
/

業界でも事業でもなく、「2軸の人の魅力」で就職先を選べ

河野では、個人的なミッションがまだ見つけられず、起業を志しているわけでもない人がキャリアや仕事を考える時には、何を決め手にすればいいのでしょうか?

柿本会社の掲げるミッションを見てはどうでしょうか。企業に属して働くのであれば、その会社のミッションというものは知っておくべきです。

会社の掲げるミッションに共感し、そのミッションに想いを乗せられるのであれば、自分自身のミッションが明確になっていなくても充分。

さらに、その会社で働くメンバーもミッションに共感し、想いをのせて働いている人たちが集まっている集団であれば、きっと大きなやりがいを持って働けるはずです。

パナソニックは売上高8兆円、従業員数27万人という大きな会社ですが、本当に1人ひとりが「A Better Life, A Better World」というミッションの実現に向けて活動されていますよね。 そんな会社、珍しいと思います。

河野パナソニックの中にいると当たり前の環境に感じますが、外から見ると確かにそうですよね。

それともうひとつ、学生によく聞かれる質問があります。「様々な会社説明会にも行って、たくさんの社会人の話も聞いた。たしかに選択肢は広がったけれども、そこから1つ選ばなければいけない。何を基準に選べばよいでしょうか?」というものです。

これについての柿本さんの意見を教えてください。

柿本なるほど。あくまで私の意見ですが、「誰と働きたいか」という想いを大切にしてはどうでしょうか。そして、「誰と」というのにも2つ軸があります。

1つは経営者、創業者です。私自身の場合は、「●●社の●●CEOではなく、ワークスアプリケーションズの牧野さん(正幸氏。同社創業社長)と働きたい」になりました。牧野さんがこの会社でやろうとしているミッションを、この人とともに追いかけたいと思ったからです。他のどの創業者や経営者よりもそう思えました。

もう1つの「誰と」は「同期」です。「マジでこいつらには負けるわ」と思える同期と一緒に働けるかどうかが大切です。私はこの2軸だけで、ファーストキャリアは決めていいと思っています。

逆にこの2軸の「誰と」という部分で納得できなかったら、どんな業種だろうが、どういう事業だろうが、入社すべきではありません。『知るカフェ』で働いてくれている学生スタッフに相談されたときにはそのように答えています。

河野就職活動で学生が一番多く接する「人事担当者が魅力的だから」という理由はよく聞きますがそれではダメでしょうか?

柿本それは完全に間違っています。だって、人事担当者はいつ異動になってもおかしくない存在じゃないですか。それに比べて創業者や同期はほとんどの場合変わりませんから、その変わらない存在に対してポジティブになれるかどうかであれば、外部環境によって選択軸が揺らいでしまう心配はないと思います。

SECTION
/

起業家にとってのミッションは、ビジネススピードを格段に上げる旗印

河野改めて教えていただきたいのですが、経営者にとってミッションとはどのような存在でしょうか?

柿本ミッションは、ビジネスそのものの成長スピードを格段にあげてくれる旗印ですね。会社を経営する以上、一緒に頑張ってくれる仲間を集めなければいけない局面もあるし、応援してくださる方から資金面などで後押ししていただく局面もある。

そうした場面でミッションが存在していなかった場合、やっぱり事が進んでいくスピードは遅くなってしまうし、進むべき方向がブレてしまいます。

例えば、エンリッションは私たちのミッションに共感してくださっている投資家の方が大勢、支援してくださっています。だからこそ、会社の進むべき方向性についてもミッションを見据えて助言いただけています。そして、私たちのミッションに強く共鳴し、ミッションを実践してくれている仲間として絶対に忘れてはいけないのが、世界中の『知るカフェ』の店舗で働いてくれている450名以上の学生スタッフです。

これらの学生スタッフ全員が、ミッション実現のための行動指針である「世界の学生の人生を豊かにし感銘を与えるための5つの言葉」を日々、体現しながら働いてくれるからこそ、今の『知るカフェ』があると思っています。

最初は私1人でしたが、創業時には3人となり、ミッションに対する強い想いと行動を起こし続けた結果、今では、世界中で500名以上がミッションに共鳴してくれて仲間になってくれました。そして、その1人ひとりの仲間の行動によって、『知るカフェ』のミッションがさらに多くの人に伝播しています。

本当に、メンバー1人ひとりにお礼が言いたいほど感謝の念しかありません。

柿本そして、何よりもそんな仲間が働く『知るカフェ』は、スタッフの想いや挑戦を叶えられる場所でなくてはならないと思っています。

『知るカフェ』で働いているスタッフ自身が未来の可能性を広げる機会を得て、より豊かな人生を歩んでいなければ、『知るカフェ』に来てくれている学生のみなさんに同様の機会を提供し、より豊かな人生を歩んでもらうことなんて実現できませんよね。

だからこそ、学生スタッフ自身が各店舗での新しい取り組みを企画・実行できる仕組みも確立し、スタッフの「〇〇したい!」という想いを実行できる機会をつくっています。その結果、接客スタイルや店舗で行う施策は、店舗ごとにカラーが異なっているのです。

『知るカフェ』のミッションに共鳴したメンバーたち
提供:株式会社エンリッション

河野経営陣やメンバーのミッションへのコミットメントが圧倒的に強くて、それによって経営をドライブしている企業のほうが、良い人材も、良い仕事も自然に集まる。

緻密な戦略を駆使するよりも、結果的に事業の成長スピードや企業の認知度向上のスピードが早くなることもあるよ、ということでしょうか?

柿本その通りです。私はかなりミッションドリブンな人間です。営業活動でも何でも、相手にミッションを伝えて共感してもらうことを大切にしています。

例えば、もしも隣にそうではない人、つまり「とにかく売上をあげることを最優先の目的にしている人」がいたとして、そういう人が後付けのミッションを語ったとします。

でも、そういう本気度のようなものは相手側には伝わってしまうもので、不思議とミッションへの想いが強い方が圧倒的に共感してもらいやすい。実際に、今までに何度もそういう経験をしてきました。

SECTION
/

難しく考えすぎず、毎日1つだけ昨日と違うことをやってみよう

河野ミッションドリブンに働くことによって得られた、その他の良い影響もありましたか?

柿本それはもう人それぞれだとは思いますが、私の場合は「褒められること=感謝されること」です (笑)。褒められるということは、その人から期待されている、世の中から必要とされている、ということだと思いませんか?

私の場合、1日最低5回は褒められます。「これは本当に必要だね」とか「俺が就職する頃にこのカフェあったら最高だったな」とか。そういう褒め言葉を毎日いただけると、ストレートにモチベーションが上がります。

「俺は世界に貢献している!」みたいなドヤ感ではなく、すごく素直に嬉しいし、明日も社会のために頑張ろうと思える。

人生100年時代と言われる社会の中で長い時間を社会人としてせっかく働いていくのであれば、「人に感謝されることをしている」ということが、何より大切だと私は思っていますし、ミッションがあることでより、「生きがい・働きがい」を持てるようになりました。

最後に、あらためて多くの学生やビジネスパーソンに伝えたい、ミッションに関するメッセージを語ってもらった。

柿本先ほどもお話したように、全員が全員、仕事をする上で確固たるミッションを掲げる必要はありません。

これだと思えるミッションを掲げられれば、その達成の手段として起業をしてもいいでしょうし、非常に近いミッションを軸に活動している企業と出会えたならば、その一員になって共感しながら大いに活躍していくのも良いでしょう。

でも、そうじゃない人たちにも「こういう大人でありたいな」とか「こういう風に生きていきたいな」という「想い」のようなものを持つことを絶対に大切にしてほしいです。

そうした「想い」を満たすための道筋も、人それぞれで良いと私は思っています。最近の社会の風潮じゃないですけれども、「どうすれば最短か」、「何が正解か」みたいに焦る必要なんてありません。

それこそ『知るカフェ』が空間として目指しているように、自分の人生を考える上での選択肢をとにかく広げていけばいい。

そのためにも、まずは「昨日やらなかった行動」を毎日1つ起こしてみることから始めてみてはどうでしょうか。難しく戦略的に考えることよりも、「ちょっと違うことをやってみる」、「普段会わないタイプの人と会ってみる」ことのほうが、ずっと大事だと思いますよ。

わからないからといって、難しく考えなくていい。毎日1つ「違うこと」を試し続ける。そして見えてくる「こんな大人になれたらな」という「想い」が、ミッションの火種。

その火種を毎日少しずつ鮮明にして、膨らませた時、「ミッションドリブンな働き方」が実現できるはず。それが「生きがい」をもって、イキイキと働くことにつながるのではないか──。

自身のミッション実現に向け、「生きがい」をもって楽しそうに話す柿本氏は、そんなことを教えてくれた。

こちらの記事は2019年04月11日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

次の記事

記事を共有する
記事をいいねする

執筆

森川 直樹

写真

藤田 慎一郎

デスクチェック

西川 ジョニー 雄介

モバイルファクトリーに新卒入社。2012年12月、社員数3名のアッションに入社。A/BテストツールVWOを活用したWebコンサル事業を立ち上げ、同ツール開発インド企業との国内独占提携を実現。15年7月よりスローガンに参画後は、学生向けセミナー講師、外資コンサル特化の就活メディアFactLogicの立ち上げを行う。17年2月よりFastGrowを構想し、現在は事業責任者兼編集長を務める。その事業の一環として、テクノロジー領域で活躍中の起業家・経営層と、若手経営人材をつなぐコミュニティマネジャーとしても活動中

おすすめの関連記事

会員登録/ログインすると
以下の機能を利用することが可能です。

新規会員登録/ログイン