医療用ソフトウェア、ホログラム配信、農作業補助アプリ。注目のVR/ARスタートアップが登場──FastGrow Pitchレポート
「イノベーターの成長を支援し、未来社会を共創する」をミッションに掲げるFastGrowが、「この会社、将来大きなイノベーションを興しそうだ!」と注目するスタートアップをお呼びして、毎週木曜朝7時にオンライン開催する「FastGrow Pitch」。
登壇するスタートアップが目指すビジョンや事業内容、創業ストーリー、どんな仲間を探しているのかなどをピッチ形式で語るイベントだ。
本記事では、ピッチの模様をダイジェスト形式でお届けする。登壇したのは、Holoeyes株式会社、Holotch株式会社、株式会社Rootの3社(登壇順)だ。
- TEXT BY OHATA TOMOKO
- EDIT BY RYOTARO WASHIO
Holoeyes
人体本来の3次元情報をVRで再現する、医療向けソフトウェア
最初に登壇したのは、医療用画像処理ソフトウェア『Holoeyes MD』を開発・提供している、Holoeyes代表取締役の谷口直嗣氏。
『Holoeyes MD』は、人体の画像情報をコンピューターで3次元画像処理し、ヘッドマウントディスプレイで閲覧できるプログラムだ。主にVR空間内での術前シミュレーションに使用されている。
現実世界には存在しないものを、知覚させる「XR技術」を活用している背景について、谷口氏はこう述べた。
谷口これまでもCTスキャンの画像を3D画像に変換する技術は存在し、術前の確認作業などに活用されてきましたが、表示されるのはディスプレイの中。つまり、2次元空間内での表示だったわけです。しかし、我々の人体は3次元空間に存在し、手術も3次元空間で実施されるため、従来の画像との間にはどうしてもギャップが生じてしまう。そのギャップを埋めるために、XR技術を活用しています。
また『Holoeyes MD』のオプション機能として、VR空間内でカンファレンスを開催できる『Holoeyes VS』も提供している。複数人でVR空間内に3D表示される人体を見られるため、実際の患者を目の前にしたような、リアルな議論ができるようになる。「東京と大阪など、離れた場所にいるお医者さん同士がディスカッションすることも可能です」と谷口氏は語る。
また、これらの技術を活用し、医療教育用VRコンテンツ『Holoeyes Edu』も展開している。
谷口医学生や看護の学生などは本で解剖の勉強を行っていますが、あくまで2次元のため、立体的なイメージを持ちづらい。3Dモデルを活用することで、より現実的な人体をイメージしながら、勉強することが可能になります。
今後は、臨床で使用したデータを循環させ、さらなるシステムの開発に活用していきたいと語る。
谷口例えば、サービス提供する中で得られた臨床データを教育に活用することで、実例の学習が可能になります。さらに、お医者さんの手術を記録して、その手術の指針やスキルをデータ化し、流通させていきたいと考えています。
さらなる医療システムの構想を練っている同社。「開発マネージャー、プロジェクトマネージャーを募集しています。ご興味ある方は応募サイトからご連絡ください」と参加者に呼びかけた。
採用情報
Holotch
次世代コミュニケーションを提案する、ホログラム配信サービス
続いて登壇したのは、ホログラム配信サービス『Holotch』を開発・提供している、Holotch CEOの小池浩希氏。
冒頭で小池氏は、映画のワンシーンを交えて、ホログラムについて簡単に説明した。
小池映画『キングスマン』に、実際にその空間に存在する人物と、離れた場所にいる人物が会議をするシーンがあります。離れた場所にいる人物は、実体を持たない3DCGとしてその空間に現れ、会議に参加しているわけですが、この「実写の3DCG」こそがホログラムです。つまり、ホログラムとは、3次元空間内に表示された実写の3DCGだと理解していただければと思います。
『Holotch』は、実在する人物を撮影し、メタバース内にホログラムとして表示、動画としての配信を可能にするシステムだ。「Kinect」という3Dカメラ、もしくはこれからローンチ予定のiPhone用アプリで撮影((LiDAR搭載機種のみ対応))を実施。すると、バーチャル空間内にホログラムが表示され、その空間を撮影した動画を配信できる。撮影した動画を見るためにヘッドマウントディスプレイなどのデバイスは必要なく、パソコンやスマートフォンでの視聴が可能で、URLも簡単に共有できる。
小池従来のビデオ通話ツールでは、小さな画面に体の一部のみを表示してコミュニケーションを取らなければなりませんが、ホログラムであれば、身体全体やその動きを見ながらコミュニケーションが取れる。つまり、現実世界のコミュニケーションをバーチャル空間で再現できるんです。
ホログラム配信サービスが求められる領域は、医療、スポーツ、エンタメ、広告など。中でも、Holotchには広告と医療領域から多く問い合わせが寄せられていると語る。
最後に、小池氏がホログラムを活用したサービスに着目した背景について語った。
小池日本で映画を制作していた2014年に、VRなどの映像表現を拡張する新たな技術と出会いました。そこから人生の方向性をピボットし、カナダでホログラム技術開発のスタートアップを起業するも失敗。その後、日本に帰国したものの諦めきれず、2019年8月にHolotchを創業しました。
「プロダクトに興味のある方やチームに参加したい方がいれば、ぜひご連絡ください」と語り、ピッチを締めくくった。
Root
ハンズフリーで操作可能な、スマートグラス向け農作業補助アプリ
最後に登壇したのは、Root代表取締役の岸圭介氏。同社は、スマートグラス向けAR農作業補助アプリ『Agri-AR』、スマート体験農園システム『ROOT FARM』を開発・運営している。
岸氏は農業現場で働きながら、農業にまつわる複数のシステム開発を手掛けている。人手不足や生産性の低下など、農業現場が抱える様々な課題を、スマートグラスを活用したAR農作業補助アプリによって解決することを目指している。
岸『Agri-AR』への実装を進めている機能は大きく3つ。まずは、機械作業の補助線を引くための「AR直線表示」。通常は人の手によって直線を引いているのですが、この作業には時間も手間もかかる。そこで、『Agri-AR』によって効率化してもらいたいと考えています。
2つ目は「農作物のサイズ計測・判定」です。スマートグラスに農作物をかざすだけで、自動的に農作物のサイズ判定ができるようになります。
そして3つ目は、農機を運転する際の「最適ルートガイド」です。以前の所有者が後継者不足などの理由から手放した土地を耕すために、引き継ぎがないままいきなり農機を運転するケースがありますが、こういった場合、最適なルートが分からず非効率な作業になってしまうことが多いんです。最適なルートを自動で導き出すことによって、農作業をサポートできればと思っています。
また、農業と人々のつながりを取り戻すべく、スマート体験農園システム『ROOT FARM』も開発している。
岸身近に畑があるような環境が減り、農業に取り組むための物理的なハードルが高くなっています。また、農業は気軽に楽しむものではないといった心理的なハードルもあるように感じています。
一方で、農業の世界では、作物を生産して販売するだけでは収益を向上させづらい。そのため、いかに「農作物を販売する」以外の方法で売上を得るかが課題になります。
その両方の課題を解決すべく、物理的なハードルを超えた体験サービスを考えました。
『ROOT FARM』は、神奈川県南足柄市で運営している農園の状況をデジタルで体験できるサービスだ。専用アプリを開くと、VR畑ツアーや農作物の収穫シミュレーションなど、農業を身近に感じられる様々な機能が備わっている。会員になると、旬の野菜を収穫する農業体験を楽しめるだけでなく、新鮮なお米や野菜などの購入が可能になる。
「デジタルとリアルをつなげ、新たな体験農園のあり方を提案しています」と紹介し、岸氏はピッチを締めくくった。
今後も毎週木曜朝7時の「FastGrow Pitch」では、注目スタートアップが登壇し、自ら事業や組織について語る機会をお届けしていく。ぜひチェックしてほしい。
こちらの記事は2022年02月17日に公開しており、
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執筆
大畑 朋子
1999年、神奈川県出身。2020年11月よりinquireに所属し、編集アシスタント業務を担当。株式会社INFINITY AGENTSにて、SNSマーケティングを行う。関心はビジネス、キャリアなど。
編集
鷲尾 諒太郎
1990年生、富山県出身。早稲田大学文化構想学部卒。新卒で株式会社リクルートジョブズに入社し、新卒採用などを担当。株式会社Loco Partnersを経て、フリーランスとして独立。複数の企業の採用支援などを行いながら、ライター・編集者としても活動。興味範囲は音楽や映画などのカルチャーや思想・哲学など。趣味ははしご酒と銭湯巡り。
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