連載Reapra Ventures Summit

【宇佐美×吉田×諸藤】
CEOこそ身に着けるべき「エフェクチュエーション」とは?

登壇者
宇佐美 進典
  • 株式会社VOYAGE GROUP 代表取締役社長兼CEO 

1996年、早稲田大学商学部を卒業後、トーマツコンサルティング(株)(現デロイトトーマツコンサルティング)に入社。大手金融機関の業務改善プロジェクトやシステム化プロジェクトにコンサルタントとして従事。その後ソフトウェアベンチャー企業への転職を経て独立を決意し、1999年に(株)アクシブドットコム(現当社)を創業。取締役COOに就任後、2002年には代表取締役社長兼CEOに就任。2005年には、(株)サイバーエージェントの取締役に就任。メディア部門副統括、技術部門担当役員として、既存事業の立て直しやアメーバの成長に携わり、幅広く経営の実務を経験。2010年からは、当社の成長にフルコミットし、現在に至る。

吉田 浩一郎

東京学芸大学卒業。パイオニア、リード エグジビション ジャパンを経て、株式会社ドリコム 執行役員として東証マザーズ上場を経験した後、独立。アジアを中心に海外へ事業展開し、日本と海外を行き来する中でインターネットを活用した時間と場所にこだわらない働き方に着目、2011年11月、株式会社クラウドワークスを創業。クラウドソーシングサービス「クラウドワークス」を立ち上げ、日本最大級のプラットフォームに成長させる。

諸藤 周平

株式会社エス・エム・エス(東証一部上場)の創業者であり、11年間にわたり代表取締役社長として同社の東証一部上場、アジア展開など成長を牽引。同社退任後2014年より、シンガポールにて、REAPRA PTE. LTD.を創業。東南アジアおよび日本を中心に、数多くのビジネスを立ち上げる事業グループを形成すると同時に、投資活動および独自のハンズオン支援をおこなう。個人としても創業フェーズの企業に投資し多くの起業家を支援している。1977年生まれ。九州大学経済学部卒業。

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優れたCEOには、自らの手で未来を創り出していく力が求められる。エフェクチュエーションとは「未来は予測されるものではなく、行為者の戦略それ自体によって、構築されるもの」という前提に立ち、行動を起点にステークホルダーを巻き込み、予測不可能な未来を紡ぎ出すアプローチで、REAPRA Venturesが独自に定義する【理想的な起業家精神】の中で、最も重要視されている要素のうちの1つである。

変化が激しく未来予測が難しい領域でビジネスを成功させるために、いかにしてエフェクチュエーションを身につけていけばいいのか。エフェクチュアルであることを推奨してきたREAPRAグループが8月23日に開催したREAPRA Ventures Summit (RVS)で、その要諦に迫るべく、気鋭のCEO3名による自身と組織でのエフェクチュエーションの体現についてセッションが行われた。

  • TEXT BY MASAKI KOIKE
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あえて未来予測をしない思考様式「エフェクチュエーション」

「エフェクチュエーション」という思考様式は、近年のアントレプレナーシップ研究において注目されているトピックのひとつだ。

ノーベル経済学者Herbert Simon(ハーバート・サイモン)教授に師事したインド人経営学者Saras Sarasvathy(サラス・サラスバシー)が、理論として体系化した。未来は予測できるという前提に立ち、分析的にものごとに取り組む「コーゼーション」と対極に位置する。

「経営者のエフェクチュアルを高め、エフェクチュアルさを組織に反映させる、Mission/Vision をオペレーションまで落とし込んだ成長組織のマネジメント」と題し行われたRVSでのCEOセッションは、株式会社VOYAGE GROUP CEOの宇佐美進典氏、株式会社クラドワークスCEOの吉田浩一郎氏を招いて行われた。

モデレーターは、シンガポールを拠点とし東南アジア・日本を中心に事業投資を行うREAPRA PTE. LTD. グループCEOの諸藤周平氏。

アドテクノロジーやクラウドソーシングという変化の激しい領域で未来を創造し続ける二人が、エフェクチュエーションを身につけ、活かしてきたプロセスを紐解いた。

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学生結婚をきっかけに、「決められたレールを走る」生き方を捨てた

まず、二人のエフェクチュエーションの源流を探るべく、それぞれが社会人になるまでの原体験からトークは始まった。

宇佐美氏のエフェクチュエーションの原点は、19歳でした学生結婚にあったという。当時(1990年代)、学生結婚は今以上に珍しい選択だった。その時点で、「決められたレールの上を走って生きる道」を捨てたそうだ。

宇佐美計画を立てた上で動くのではなく、まず行動してから考えて動いていく生き方がはじまりました。そして、イレギュラーな道を選んだにも関わらず、案外問題なく卒業も就職もできてしまったんですよね。妻とは今も円満ですし(笑)。

自分で道を切り拓いて進んでいく生き方もそこまでリスキーではないと、実体験を通して学んだんです。今思うとあの学生結婚が、エフェクチュエーション的な生き様の出発点だったと思います。

諸藤その経験があったから、その後もあえてエフェクチュエーション的な生き方を選ばれたのでしょうか?それとも、エフェクチュエーションではない生き方に、戻れなくなってしまったのでしょうか?

宇佐美どちらかといえば、当時は後者のように考えていましたね。選択肢が絞られたことで、結果的に自分の行く末に迷わなくなった面はあると思います。

対して吉田氏は、文武両道な幼馴染の存在に、大きく影響を受けたという。富士ゼロックス創業者・小林陽太郎氏の「見える道と見えない道があったら私は見えない道に行く」という言葉のように、とにかく「答えのないもの」の追究に没頭する少年時代を過ごしていたと語る。

吉田僕も明確にエフェクチュエーションを意識してきたわけではないのですが、諸藤さんのおかげでそういった傾向が整理・言語化された気がします(笑)。

記憶を遡ると、幼稚園の頃からの幼馴染が、とにかく勉強でもスポーツでも、圧倒的な実績を出しているのを横目に見ていました。彼との対比から、わかりやすい答えのある領域で戦っていくのは、幼心にも無理だと思うようになりましたね。

吉田むしろ、宇宙、宗教、漫画、生命の起源といった、答えがないものに興味があったんです。学生時代も、ボウリングやストリートゲームにのめり込んだり、宮藤官九郎やゴスペラーズと一緒に演劇に没頭したり、とにかく王道と呼べる勉強やスポーツ以外のことばかりしていました。

ボウリングで240点という高得点を出せたこともありましたが、当たり前にハイスコアを出し続けられないことには所詮アマチュア。プロフェッショナルのレベルの高さを感じました。

また、最初は王道ではないがゆえに認められなかった宮藤官九郎やゴスペラーズが、諦めず続けていくうちに現在のように認められるようになった様を見て、やり続けることの重要性も痛感しましたね。

さらに、教育環境の影響もあり、未来から逆算して考える習慣は持たずに生きてきたという。

吉田僕の父親は、小学生の時にそろばんで類い稀な才能を発揮し、そのままの流れで京都大学の経済学部に進学した経歴を持っています。9人兄弟の中で、大学に行ったのは父親だけ。

しかし、レアケースであったがゆえに家庭内にロールモデルがなく、父はその後も特にやりたいことを見つけることはできなかったそうです。僕は、そんな父親に育てられたので、未来について教育されることがほとんどなかったんです。

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目の前の仕事で一番になって、突き抜けることだけ考えた若手時代

続いて、普段は経営者として表舞台に立つ二人が、就職活動や社会人生活での知られざるエピソードを明した。

宇佐美氏は、新卒でデロイト トーマツ コンサルティング合同会社に入社。4年ほど働いた後、知人づてでスタートアップにジョインし、起業も経験した。しかし、納得のいくような成果は出せなかった。

宇佐美もともと起業の意志はありましたが、まずはスキルを身につけようと思ってコンサルティング会社に入りました。年数を重ねるうちに、仕事に慣れて給料も増えていきましたが、「レールに乗った生き方をしていてはだめだ」と違和感も抱くようになっていました。

知人のスタートアップによく考えず飛び込んだ結果、社風や事業内容がしっくり来ず、またもや悶々としてしまって。次は以前からあたためていたサービスアイデアを提案して1億円の助成金がもらえそうな話があったので、会社を辞めて起業しました。

宇佐美しかし、この起業も失敗に終わりました。いざはじまると開発に携わる企業間で助成金の奪い合いになって……。結局、資金をもらってプロダクトを作っただけで、達成感が全然なかった。その失敗を通して、起業には資金やプロダクトではなく、一緒に働くメンバーが大事だと学びましたね。

とはいえ当時の僕に人を呼び込む力はなく、今後の身の振り方について迷っていました。そのタイミングで、株式会社アクシブドットコム(現VOYAGE GROUP)の創業者に誘われ、COOとして参画することにしたんです。

一方で吉田氏は、学生時代に熱中していた演劇を辞めたことをきっかけに、「やりたいことではなく、向いていることをやろう」と考えが変わり、営業職として生きていくことを決意したという。

吉田学生時代に立ち上げた劇団で、契約のミスから多額の借金を背負って仲間割れするというトラブルを起こしてしまいました。そのとき、「やりたいことをやって人に迷惑をかけてしまったから、やりたいことではなく向いていることをやろう」と思い、演劇を辞めようと決意したんです。

自分に向いていることは何かを先輩たちに聞いてまわったところ、「営業が向いている」と言われたので、営業職としてパイオニアに入社しました。大好きだった演劇を辞めてまで、営業という未知の領域に時間を使うことにしたからには、一日も休まずに人の倍働こうと思っていました。実際、がむしゃらに取り組み、トップ営業マンになることができたんです。

諸藤もともと興味がなかった営業に取り組むことに、自分の中でどういった意味付けをされていたのでしょうか?

吉田とくにしていなかったです。先ほどもお話したように、未来から逆算して考えるタイプではなかったので、ただただ目の前の仕事で一番になって突き抜けることだけ考えていました。

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“人”を最優先し、いつまでも挑戦を怠らない。経営者として身につけるべきエフェクチュエーション

最後に、経営者としていかにしてエフェクチュエーションを磨いてきたかに話は及んだ。

宇佐美氏は、2001年にアクシブドットコムが株式会社サイバーエージェントに子会社化されたことが、結果として経営者としての器を広げるきっかけになったと語る。

宇佐美もともとはCOOということもあり、オペレーションを改善・整備していくことが得意でした。サイバーエージェントの子会社になり、2005年から2009年までは役員も勤めたのですが、そこで藤田晋さんの経営を目の当たりにし、色々と考えさせられました。

サイバーエージェントは1998年に創業しましたが、1999年創業のアクシブドットコムと1年しか社歴が変わらないにも関わらず、なぜ会社の成長規模にここまで歴然とした差があるのだろうと。

そしてだんだんと、組織をつくる力や採用力に明確な違いがあるとわかってきました。2002年当時のサイバーエージェントは、すごく生意気な言い方をするとその当時の僕から見て戦略が不透明に見えたんですね。とても優秀な人たちがいてモチベーション高くやってはいるんだけれども、明確な事業戦略はなくて、どちらかというと現場のオペレーションが強い感じに見えました。

でも、取締役としてサイバーエージェントの経営に携わる中で、藤田さんには一見明確な事業戦略がないようで、実はそれより上のレイヤーに「より良い人を採用し、インターネットで事業を成功させる」という大戦略があったんです。

優秀な人を採用して伸びるマーケットを任せさえすれば、自ずと事業は成長していく。そういったエフェクチュエーションを感じる経営姿勢を、藤田さんから直接学べたのは大きかったですね。

その後、サイバーエージェントで学んだことを活かし、社員に経営理念を浸透させることに取り組んだ。

宇佐美以前は、経営理念やミッション・ビジョンが社員に浸透していませんでした。そこで、2005年頃に経営理念をリセットし、メンバーを巻き込んで再定義したんです。

メンバーのアイデアベースで、全社で共有できる価値観「CREED」を創り上げました。各キーワードの説明文も、それぞれの出してくれた言葉で構成した結果、メンバーが経営理念に当事者意識を持ってくれるようになりました。

吉田氏は、ヤフー株式会社執行役員の小澤隆生氏、サイバーエージェントCEOの藤田晋氏のメンタリングを受けていくなかで、経営者としてのエフェクチュエーションを身につけていったという。

吉田クラウドワークスの創業期は、小澤さんから「ビジネスは最初のセッティングが命だ」とアドバイスをいただき、実際にその教えに従うことでかなりうまくいきました。「クラウドソーシング」という新しくて潜在層の多い市場を狙うのではなく、大きな顕在市場である「受託制作」を狙えと。

そこで納品の速さ、リーズナブルさ、成果の質などで、圧倒的な高いバリューを発揮すればスケールできると言われたんです。そして、実際にその通りになりました。

吉田 鋭い予測に基づいた戦略を重視する小澤さんとは対照的に、上場前後にメンタリングしていただいた藤田さんには、周りの期待を大きく上回る、あっと驚くことに挑戦し続ける大切さを教わりました。その教えを受け、上場後も小さくまとまるのではなく、積極的に新施策を打ったり、既存の仕事を他のメンバーに任せたりしていく、まさにエフェクチュエーション的な動き方をしていましたね。

二人のお話を伺うと、エフェクチュエーションは、一部の選ばれし人だけが身につけられる特殊能力の類ではないことがわかる。泥臭くても、今取り組むべきことに対し、150%の成果を出そうと努力し続け、周囲の人を巻き込んでいく。それこそがエフェクチュエーションといえるのではないだろうか。

そして、愚直に戦略を遂行し続ける努力を怠らなかった人だけが、ビジネスをスケールさせられるのであろう。求められるのは、鮮やかな未来予測ではなく、ひたむきな挑戦と試行錯誤の繰り返しなのだ。

こちらの記事は2018年10月17日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

小池 真幸

編集者・ライター(モメンタム・ホース所属)。『CAIXA』副編集長、『FastGrow』編集パートナー、グロービス・キャピタル・パートナーズ編集パートナーなど。 関心領域:イノベーション論、メディア論、情報社会論、アカデミズム論、政治思想、社会思想などを行き来。

デスクチェック

長谷川 賢人

1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。

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