【図解】ラクスル、SmartHR、PKSHAのビジネス構造を考察──連載『あのスタートアップのビジネスを図解してみた』第1回
2022年末ごろから、日本でも目にするようになってきた「コンパウンドスタートアップ」という言葉。そのキャッチーな字面と、壮大なビジョンを想起させる語感に、興味をそそられるビジネスパーソンは少なくないようだ。
といっても、実際に複数の事業/プロダクトを的確に展開していくのは至難の業。「選択と集中」あるいは「シンプルイズベスト」といった考え方のもと、「まずは単独事業をしっかりグロースさせるべき」という意見を聞く機会も決して減ってはいない。
だがFastGrowとしては、やはり「コンパウンドスタートアップ」を目指す存在が増えてほしい。より大きな夢を見られるような環境を、日本のスタートアップエコシステムにも増やしたい。そこで、複数の事業やプロダクトを抱え、複雑な様相を呈するようになってきたスタートアップの構造を、図解して考察していく。そんな連載がこの『あのスタートアップのビジネスを図解してみた』だ。
初回で扱うのは3社。「仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる」というビジョンのもと、複数の産業・業界へ参入してきたラクスル。「未来のソフトウエアを形にする」というミッションに向け、R&D/ソリューション/プロダクトを複合的に開発・提供するPKSHA Technologyだ。そして、「well-working 労働にまつわる社会課題をなくし、誰もがその人らしく働ける社会をつくる。」という新ミッションを掲げ、非連続的なプロダクト開発を進めるSmartHR。
スピンアウトも迷わず実施、多様な事業推進の形──ラクスル
ラクスルといえば、テクノロジーの力を適切に用い、レガシーな構造が残る産業・業界のDX(デジタルトランスフォーメーション)を図るスタートアップだというイメージが大きいだろう。まさにその広がりに注目し、この2023年前半までの状況を図示してみた。
あくまで中心にはそのビジョン「仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる」があり、大きく分けて四つの産業・業界で事業を展開しているということになる。
ハコベル事業とジョーシス事業は現在、社としては“スピンアウト”したかのような別の形をとっている。とはいえ、いずれもラクスルのビジョンに基づきつつ、事業推進の上で最適な形態をとっているということができよう。ハコベル事業はセイノーHDとのジョイントベンチャー(JV)として、そしてジョーシス事業は外部投資家からの大型資金調達を受ける一つのスタートアップとして。
もちろんこの2事業も引き続き「ラクスルグループ」として、レガシーさが残る領域で本質的なDXを進めていくわけだ。
この図を基に理解を深めていきたいという読者向けに以下、参考記事をいくつか紹介しよう。
“ソリューション”と“プロダクト”の融合で生み出す新たな社会価値──PKSHA Technology
先進的な研究開発により培ってきたAI技術を活用し、大企業向けにさまざまなソリューションを展開してきたPKSHA Technology。だが実は上場も経たこの数年間、SaaS型プロダクトの展開も急速に進めている。
そして、そもそもの競争優位性を生み出してきた研究開発(R&D)事業の存在も重要だ。やや複雑なこれらの事業構造の可視化を、今回は試みた。
プレスリリースやSNS投稿で、「PKSHA ○○」という名称のサービスを見たことがおそらくあるだろう。主要なものについて整理してみると、上図のようになる。
創業期から取り組んできた「研究開発(R&D)」事業が上部に位置し、さまざまな事業展開における基盤となってきた。「AIソリューション」事業は、同社が取り組む「AIの社会実装」を具体的に進める手段であり、かつ企業成長の主要エンジンとして価値を創出。そしてそこからさらに広く社会実装を進める手段として位置づけられているのが、プロダクト型の「AI SaaS」事業だ。
直近の企業成長を支えているのが「AI SaaS」だ。最新公表値である2023年9月期第3四半期決算によると、SaaSビジネスモデルにおける重要指標とされるARRは前年同期比+19%の54億円超、顧客数は前年同期比+342社の2,467社へと伸長を続ける。
また、これまでの取材を基に、事業創出におけるキーワード「共進化」を図示すると上図のようになる。多様なビジネスモデルを駆使してAIの社会実装を進めている様子が見て取れるのではないだろうか。
これからもこうした枠組みでの新規事業創出が見られるのだろうか。それとも、まったく新たな枠組みの創造も見せてくれるのだろうか。
ここでも、これらの図を基に理解を深めていきたいという読者向けに以下、参考記事をいくつか紹介しよう。
国内随一のユニコーンが描く「成長絵図」と「プラットフォーム構想」──SmartHR
日本でも、「評価額10億ドル以上、設立10年以内、未上場」が定義とされる“ユニコーン企業”がじわじわと増えてきた。その中でもピカイチの知名度を誇るのが、SmartHRだろう。同社は「マルチプロダクト」や「経営のサクセッション」といったいくつかのキーワードで、スタートアップ界隈の話題をたびたび席捲してきてもいる。
そんなこれまでの足取りを、メディアとしての目線で整理してみたい。おおよそ二つのフェーズをたどってきたと見ることができ、遠くない未来にフェーズ3が来るのではないかと感じられる。そしてさらにその後のフェーズもおそらく存在するだろう。
誤解を恐れずに言えば、この成長の軌跡は、日本のスタートアップにとって目指すべき道の優良事例となるだろう。先ほども「マルチプロダクト」という言葉を挙げたように、多くのプロダクトマネージャー(PdM)を育成・輩出しながら事業全体がより大きな価値を生み出すように進化を続けている。事業現場だけでなく経営層においても、CEOやCFOといった重要なポジションにおいて継承(サクセッション)が進められている。
もちろんこれだけでなくさまざまな面で前向きな変化が多く生み出され、事業・組織の両面を進化させ続けているスタートアップと言えそうだ。
そんな同社の事業展開においてこれから特に重要な意味を持つと思われるのが、プラットフォーム戦略だ。その現状についても、下図にまとめてみた(2023年夏ごろの状況を反映)。
上述の「マルチプロダクト」という文脈で言及したのはあくまで、この図の中心に位置する「株式会社SmartHR」が直接運営する事業における話だ。この事業を基に、まずはグループ会社とのシナジーを想定。そしてさらに関連事業領域では、グループ外の企業が展開するプロダクトとの連携を進め、より大きな範囲で社会価値を創出しようと試みているのだ。
今回のまとめでは、SmartHRと同じく「いわゆるスタートアップ」のプロダクトが目立つ形となったが、当然、今後はスタートアップ界隈に閉じることなく広がるプラットフォームとなるだろう。どのような展開が見られるのか、非常に楽しみだ。
こちらの記事は2023年10月13日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
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