非連続成長へ避けられぬ道「エンプラ展開」の攻略法とは?急成長スタートアップ4社の実践に学ぶ

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エンタープライズ(大企業や官公庁)への展開なくして、非連続成長や社会変革などなしえない。そうわかってはいても、創業間もないスタートアップには至難の業だ。ノウハウは落ちていないし、聞きかじった知識では実践が心もとないし、経験豊富な人材は市場にほとんどいない……そんな悩みを抱える経営者が多いことだろう。

だが、それをあえて、立ち上げ期から力強く推し進めている事業もある。そんな事例を紹介する。これを読んだからと言って、悩みが解決するわけではないかもしれない。だが、新たな施策を考えるきっかけにはなるはずだ。切り口は、事業開発(BizDev)、セールス、CSなどさまざま。自身の課題感に合った部分を確認し、学びを得てほしい。

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「イネーブラー」となり、価値提供せよ──
インフキュリオン、コカ・コーラやマネフォとの事例

電子マネー『Coke ON Wallet(コークオン ウォレット)』を搭載した自動販売機が、実は街中でかなり増えている。全国で約46万台もの数だ。

誰もが知る世界的なエンタープライズ企業の、日本におけるマーケティング活動を、スタートアップであるインフキュリオンが行っているのだ。その事例から見ていこう。

世界を代表するドリンクである『コカ・コーラ』を代表に、『い・ろ・は・す』や『綾鷹』といったさまざまな清涼飲料水を展開する日本コカ・コーラ。小売店や飲食店にその製品を卸すだけでなく、日本全国に自販機を設置し、日常のあらゆるシーンにおいてそのブランドを訴求していく。まさに「お手本」と言えるマーケティング戦略をとっているというイメージを持つ読者も、中にはいるはず。

そんな同社が2022年に新たな展開として始めたのが先述の『Coke ON Wallet』だ。従来から取り組んでいた『Coke ON』というモバイルアプリサービスに、Fintechを付加したかたちである。

そのパートナーとして、システム開発から運用まで力強くサポートしているのが、インフキュリオンである。

Fintech協会を立ち上げ、初代会長にも就任していた丸山弘毅氏が創業。その事業は多岐にわたり、さまざまな社会価値を創出している。その中で、今回注目したいのは「エンタープライズを対象に、事業のFintech化を実現できる」という点だ。

丸山氏が過去の取材で語っていた通り、Fintechはあらゆる業種・業界に入り込み、事業を非連続的に進化させる概念として捉えられる。

さあ、その『Coke ON Wallet』の例に戻ろう。単純化すれば、日本全国に広がるコカ・コーラの自販機約46万台で、一気に電子マネーが使用可能になったわけなのだ。わかりやすいかたちで、その大きなインパクトがイメージできるのではないだろうか。

こうした支援をインフキュリオンが担うことのできる秘密が、「イネーブラー」という考え方にある。単に電子化のシステムを提供するのではなく、金融ライセンスの提供や運用、業務オペレーションの設計、組織の構築に至るまでワンストップで提供しているのだ。言い換えるなら、Fintech化を実現し、継続拡大させる(=イネーブル)まで、徹底的に伴走していく。

Wallet Station』というプロダクトが、Coke ON Walletの裏側で躍動している(提供:株式会社インフキュリオン)

これらを下支えするものとして、決済に関するビジネス構造や法令面、セキュリティ面などにおける専門的な知見を有している点も、エンタープライズの信頼を勝ち得ている重要な要素である。全国にチェーンが広がる大手スーパーや大手コンビニエンスストア、さらに金融機関での導入が進んでいる背景には、こうした競争優位性があるのだ。

さらに、マネーフォワードの新規事業『マネーフォワードビジネスカード』や、LayerXの『バクラクカード』の基盤をつくっているのも、実はインフキュリオンだ。

次世代型カード発行プラットフォーム『Xard(エクサ―ド)』という事業で、大規模なシステム開発を必要とすることなく、ローコスト、スピーディーに国際ブランドカードを発行できるようにしている。また、オープンAPIにより、 バーチャル/リアルカードの即時発行、利用可否設定、利用明細照会などをリアルタイムで行うことができるため、ユーザー企業やエンドユーザーに対し、さまざまなFintechの恩恵をすぐに届けられるのだ。

現場でこうした仕事を担うBizDevは、IT業界においてtoBソリューションセールスを経験してきたメンバーが中心となっている。サービス提供だけでなく、導入後のグロース支援までがスコープに入る高難度の仕事で、やりがいも大きそうだ。

エンタープライズとの共創(BizDev)を当たり前のものと考え、大きな社会インパクトを常に実現しようとするインフキュリオンの事業モデルに、学ぶことは多いはずだ。

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創業2期目にして、パナソニックやオープンハウスに導入実績──ゼロボード

創業2期目のスタートアップが、パナソニックやオープンハウスをはじめとした国内最大手のエンタープライズ企業への導入実績を持つ、と言われて信じられる読者はいるだろうか?

次にご紹介するゼロボードは創業2期目にして、先に挙げたエンタープライズ企業のみならず、導入社数2,200社を突破し、直近シリーズAにて約25億円の大型資金調達を実現した実績を誇る。

戦略的にエンタープライズにアプローチするスタートアップはいるが、ゼロボードのようにプロダクトリリース直後に“引くて数多”な事例は類を見ないと言えるだろう。

そんなゼロボードが提供しているプロダクトが、企業のCO2をはじめとした温室効果ガス排出量の可視化・削減プラットフォーム『zeroboard』だ。なぜ、ここまで多くのエンタープライズ企業に希求されるのか、その理由は「CO2排出量の可視化の難しさ」にある。

過去にはこのように、パナソニックとのイベントを開催している(提供:株式会社ゼロボード)

2022年4月4日より、プライム市場上場企業は投資家向けにCO2排出量を含む気候関連財務情報を提示することを求められるようになった。つまり、多くの企業が今「自社がどれだけ温室効果ガスを排出しているのか」という現状把握と先々の削減に向けた取り組みに躍起になっている。

しかし、単に「排出量の可視化」と言ってもそのプロセスには想像を絶する難題が待ち受けている。渡慶次氏の取材での言葉を見てみよう。

「可視化」と言っても、確かにものすごく難しいことです。「GHGプロトコル」と呼ばれる温室効果ガス排出量を算定・報告するための国際基準があるのですが、その基準では原材料の生産や流通、製品をつくるのに使った電力などのエネルギーをつくる過程で発生した温室効果ガス……つまりは取引先のCO2排出量まですべて、算定・報告の対象になります。

つまり、自社のCO2排出量を算定するためには、“取引先からデータを提供してもらう必要”が出てくるんです。そもそも取引先企業がデータをすでに持っていること自体が稀です。やり取りも非常に煩雑なものとなる、膨大な手間がかかりますよね。

──FastGrow『【ゼロボード渡慶次】2期目で2,200社導入、“事業の座組み”による「優位性のつくり方」』から引用

そう、「CO2排出量の可視化」のためには、自社が排出するもののみならず、サプライチェーンに存在する全てのステークホルダーが排出するものも算定する必要があり、そのプロセスは非常に複雑なものとなる。

もちろんサプライチェーンに存在する企業全てが大手企業ということは滅多にない。小規模の事業所に「データを出してください」と依頼しても、難しいことは想像に難くない。

そこで登場するのが、『zeroboard』というわけだ。取引企業それぞれが導入していれば、データをクラウド上で連携することができ、全体の合算や可視化を進めることができる。算定にかかる業務量が大幅に削減され、発信もスピーディーに進められるようになるのだ。もちろんそこから、排出量を実際に削減していくための道のりもスタートしていく。

なお、同社がこれほどまでのスピードで導入実績を積み重ねている理由は、プロダクトの強さのみではない。なぜなら、脱炭素というテーマ自体が新しいものであり、企業の中にはその方面に詳しい担当者が在籍していないケースが多く存在するのだ。つまり、「CO2排出量を算定できるツール」という触れ込みだけでは、導入が進まない。

そこで登場するのが、ゼロボードが抱える脱炭素領域のエキスパートチームだ。LCA(Life Cycle Assesment)の専門家や大手企業でサステナビリティの開示業務経験がある人材が揃い、まさにCO2排出量算定のエキスパート達による支援が可能なチームを創業初期から計画的に作り上げてきたのだ。

このエキスパート達が、顧客に伴走支援し、企業の気候変動対応で躓きやすい数々のシーン(Scope1-3の算定ルールの理解や解釈、カーボンフットプリントの算定、TCFDやCDPへの対応等)を全力でサポートする。

このように、プロダクトの優位性だけでなく、専門家による充実したサポート体制があることが、国内最大手のエンタープライズ企業をはじめ、多くの企業から支持を得ている要因なのである。

先に触れたパナソニック(導入事例)やオープンハウス(導入事例)だけでなく、化粧品や食品、自動車産業などの製造業、金融、サービス業、といったさまざまな業界のエンタープライズ企業で導入が進んでいる。

プロダクトだけで差別化できない時代において、成長のカギを握る“事業の座組み”。ここで語られたことは、ゼロボードの洗練された事業戦略のうちのほんの1割にも満たない。ぜひ、その凄みを肌で感じてみてほしい。

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「大企業流の新規事業創出」を、どこよりも知るスタートアップ──Relic

スタートアップも大企業も、等しく悩み、壁にぶつかる。それが、「新規事業の創出」だ。

構想を掲げるところまでは、むしろ楽しい。可能性が広がり、ワクワクしか感じない。だが実際の立ち上げフェーズにおいては、何もかもがうまくいかない。これは、経験したことのある人でなければわからない苦しさでもある。そして日本においては、新規事業創出の経験を持つビジネスパーソンが少ないため、どうしても失敗例ばかりが増える。それも、防げたはずの失敗で、だ。

そんな状況に、風穴を開けようとしている「新規事業創出専門集団」がいる。Relicだ。しかも、大企業の新規事業創出を幅広く支援してきている。

サービスの一つ『THROTTLE』の事例ページを見ると、電通や東京メトロ、三井不動産、三菱地所、京セラといった著名な大企業が並ぶ。

その中から京セラの事例を見てみよう。国内外の社員23,000名から事業アイデアを募集し、その中から事業化するものを決め、立ち上げを進めていく「新規事業アイデアスタートアッププログラム」。その基盤となっているのが、Relicの『THROTTLE』なのだ。企業規模が大きくなればなるほど、アイデアの創出や実現へのハードルは高くなると感じる読者が多いだろう。それを仕組みで解決していくのが、このサービスだ。(詳細は事例ページから資料請求して確認してほしい)。

このように、新規事業、言い換えるなら「企業活動におけるイノベーション」を徹底して化学し、実践的な支援を積み重ねているのが、Relicというスタートアップ。2019年のFastGrowの取材で、創業代表の北島氏は大企業における新規事業創出の課題について力強く指摘した。

大企業とスタートアップでは、「新規事業の定義や目線」が大きく異なります。大企業の場合、既に大きな収益を生んでいる本業が複数あることも珍しくないなか、新規事業は既存事業とのシナジーの有無などがチェックの対象。とりわけ上場企業では短期的な成果をシビアにチェックされることも多く、求められる事業規模の水準も高くなりがちです。数十億円〜百億円以上の規模になり、かつ利益を生んで初めて事業としての価値を認められるという企業も少なくありません。結果として、そこに至る可能性が低い、もしくは時間がかかりすぎると判断された場合は、事業化を諦めたり撤退を余儀なくされてしまうことが多いんです。

(中略)

しかし、日本の大企業にはスタートアップには無いアセットやリソースが山のように眠っています。徐々にトレンドは変わりつつありますが、先進国のなかでも未だにこれだけ大企業に経営資源が集中しているのは日本しかありません。

そうした特性を理解し、スタートアップ的な事業立ち上げのアプローチは参考にしつつも、大企業ならではの、自社の現状や特徴にフィットする考え方や手法を確立していくことが、大企業の新規事業責任者や新規事業開発をミッションとする部署・部門には求められるのではないでしょうか。

──FastGrow『「スタートアップの真似事が大企業の進化を止める」DeNA出身のRelic北嶋氏が提唱する、大企業に必要な新規事業開発のメソッドとは?』から引用

北嶋氏が指摘するように、大企業では大企業流の新規事業立ち上げが必要になる。だが一方で、そのノウハウやアセットを蓄積できている企業はほとんどない。

そこへ価値を提供するのがRelicというわけだ。ほかのどの企業よりも、大企業における新規事業創出時の課題を的確に捉え、手を差し伸べ、実行支援まで一貫して行う。そうすることで、これまでに3,000社以上・15,000以上の新規事業を支援してきたのだ。

あなたの知っている大企業においても、その裏にはRelicの支援があったかもしれない。そんな想像が尽きなくなる。今後、象徴的な支援事例が出てくるのが楽しみだ。

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教育事業や消費財メーカーへ、新たなマーケティングを──Natee

かなり一般化し始めたインフルエンサーマーケティング。たとえばTikTokを開けば、メイク動画や家事製品の使用動画を筆頭に、販促目的で制作されているように見える事例が頻繁に目につく。TikTok for Businessの事例ページを見ると、そうした動画の裏側を知ることができ、特にtoC事業を手掛けるビジネスパーソンなら必読の内容とも言えるだろう。

そんな事業領域で、エンタープライズとの協業事例を増やし始めているのがNateeだ。同社の事例ページには、教育大手企業のベネッセコーポレーションの『進研ゼミ』の入会促進を支援した事例が紹介されている。

制作した動画を大まかに説明すれば、中高生の私生活に密着し、親近感を覚えるような内容だ。この企画力やTikTokでの運用ノウハウなどを駆使し、想定をはるかに超える再生回数を記録。結果として、『進研ゼミ』のアプリインストール数は、投稿翌日から10倍以上に伸びたという。

このように、アプリインストール数という成果を残しつつ、その企画・制作過程でも丁寧なやり取りを進めてきたNatee。その後、ベネッセホールディングスとの資本業務提携にまでその関係性は発展し、クリエイタースクールの新規事業共創にも取り組む構想を掲げている。

また、ショートムービーによるマーケティングをさらに広めるべく、2023年2月には電通や花王、ユニリーバ・グループといった著名大企業のマーケターを招いたカンファレンスイベントも実施。領域の先駆者としてのブランディングも着々と進めている。

「インフルエンサーマーケティングの代理店」というビジネスモデルから、エンタープライズからの発注を獲得するのが難しそうだという印象を抱く読者が多いかもしれない。だが、エンタープライズこそ、インフルエンサーマーケティングを活用していく必要性に迫られているとも言える。Nateeのように、まずは少数でも成果を積み重ね、さらに資本業務提携という大きな動きも実現させることで、信頼を勝ち得ていく戦略に、学ぶことは多いはずだ。

今後も注目すべき支援事例が生まれてくることだろう。

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こちらの記事は2023年05月26日に公開しており、
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