MBOの実態とは?金融・ファッション・稟議に特化したスタートアップが登場──FastGrow Pitchレポート
「イノベーターの成長を支援し、未来社会を共創する」をミッションに掲げるFastGrowが、「この会社、将来大きなイノベーションを興しそうだ!」と注目するスタートアップをお呼びして、毎週木曜朝7時にオンライン開催する「FastGrow Pitch」。
登壇するスタートアップが目指すビジョンや事業内容、創業ストーリー、どんな仲間を探しているのかなどをピッチ形式で語るイベントだ。
今回は、MBO(会社の経営陣が自社の株式や一事業部門を買収し、独立すること)を経験したスタートアップ3社が登場。
本記事では、ピッチの模様をダイジェスト形式でお届けする。登壇したのは、株式会社400F、株式会社DROBE、株式会社kickflowの3社(登壇順)だ。ピッチの後半では、MBOの裏側に迫るパネルディスカッションも開催した。
- TEXT BY OHATA TOMOKO
- EDIT BY RYOTARO WASHIO
400F
“お金の相談相手”が見つかるオンラインプラットフォーム
最初に登壇したのは、お金のオンライン相談プラットフォーム『お金の健康診断』を開発・運営している、400F代表取締役社長の中村仁氏。
まず中村氏は、事業の背景にある課題やビジョンを共有した。
中村「やりたいをやる決断を」をビジョンに掲げています。一人ひとりが「やりたいことをやる」という決断をすることで、日本を豊かにしていける。
とはいえ、なかなかその決断ができないのが現状です。ボトルネックの1つにお金の問題があるのではないかと思い、「出会い」を起点にお金に関する悩みを解決に導く『お金の健康診断』を運営しています。
『お金の健康診断』は、「お金の悩み」にまつわる質問に答えることで、お金の相談相手を見つけられるサービスだ。
ユーザーは、年齢や年収、家族構成、家賃など、家計に関する30個の質問に回答。属性が近いユーザーの貯金額や投資額などとの比較を通して、家計に関する診断が受けられる。さらに、その結果を見た複数のお金の専門家がアドバイザーとしてコメントを送付。ユーザーは無料でチャット相談も可能だ。
さらに同社は先月、金融サービス仲介業の登録を完了し、楽天証券との業務提携契約も締結。今後は、楽天証券の商品・サービスを活用した資産形成アドバイスをチャットやビデオ会議などでユーザーに提供する、オンライン・アドバイザー業務を開始する予定だ。
中村ネット証券と同水準の手数料で、オンラインで金融アドバイスを提供する体制を整えていきたいと思っています。
大手金融機関やネット系金融機関などは富裕層・準富裕層の資産形成をサポートしていますが、サポートを必要としているのは、富裕層・準富裕層だけではありません。既存の金融機関がアプローチできてない、約5000万世帯のアッパーマス・マス層も資産形成のサポートを求めているんです。この層にオンライン・アドバイザー業務を提供することで、貯蓄や資産形成に悩む方を一人でも減らしたいと考えています。
「あらゆる金融資産のデータを集約し、最適なタイミングでファイナンシャルプランを提供する『自立型金融サービス』を確立したい」と中村氏は語り、ピッチを締めくくった。
採用情報
DROBE
ファッションの悩みを解決する、パーソナルスタイリングサービス
続いて登壇したのは、パーソナルスタイリングサービス『DROBE』を開発・運営している、DROBE執行役員コーポレート統括の中澤智彦氏。
『DROBE』立ち上げの背景には、多くの人が抱えるファッションに関する課題があると言います。
中澤お客様アンケートで約8割の方が「何を着たら良いかわからない」「自分に似合う洋服がわからない」と回答しています。また、ECや実店舗でファッションアイテムを購入し、失敗した経験を持つ方も多い。そんなファッションに関する悩みを解決するために、『DROBE』を立ち上げました。
『DROBE』は、ユーザー毎にパーソナライズされたファッションアイテムを、試着・購入できるサービスだ。
中澤ユーザーが好みのスタイルや体型、予算などを記入すると、AIとスタイリストによって8点の商品が選定され、着こなしポイントを記載したスタイリングカルテも合わせて提供します。
ユーザーはご自宅で試着したり、手持ちの洋服と合わせてコーディネートを確認いただけます。購入や着こなしに悩んだら、スタイリストにLINEで相談も可能。気に入った商品は購入し、その他の商品は返送すると共にフィードバックを送ることでレコメンドの精度が上がり、より自分に合った商品が提案されるようになります。
取り扱いブランドは、BEAMSやナノ・ユニバース、ユナイテッドアローズなど180以上。2021年12月時点で7万5,000人が会員登録しており、20代から50代までの幅広い世代に利用されている。
最後に中澤氏は「エンジニアを始め、スタイリストやマーチャンダイザーなどを募集しています。ご興味ある方はぜひご連絡ください」と参加者に呼びかけた。
採用情報
kickflow
企業の事業成長に伴走する、稟議・ワークフローシステム
最後に登壇したのは、クラウド稟議・ワークフロシステム『kickflow』を開発・運営している、kickflow代表取締役の重松泰斗氏。
『kickflow』は、稟議・ワークフローに課題を感じる300社を超える企業への調査・ヒアリングをもとに開発。購買や契約などの稟議の他、「GitHubアカウントを付与してほしい」「名刺を作りたい」など、社内で行われる幅広い申請・承認に利用できる。
重松稟議・ワークフローは2000年代から電子化が進んできました。その一方で、中規模から大企業を対象としたクラウド製品は少なく、ほとんどがオンプレミス型の製品。テレワークが一般化する中で、クラウド型のサービスが少ないことは大きな課題になっています。
その課題を解決するのが「kickflow」です。クラウドサービスでありながら、オンプレミス型のような柔軟性を備え、企業の業務効率化を後押しします。
正式リリースは、2021年10月。まさにこれから勝負の時を迎えるkickflowの魅力について、事業と組織の2つの側面からこう語る。
重松稟議・ワークフローを効率化することは、意思決定スピードの向上に繋がります。そのため、利用企業の事業成長に貢献できる、非常に意義のあるプロダクトだと自負しています。さらに市場規模が大きいことも特徴です。
また、現在10名ほどの小さな組織なので、一人ひとりが大きな裁量と責任を持って事業成長にコミットできるのが面白いポイントです。
重松氏は「採用に力を入れています。ご興味ある方はお声がけいただけたら嬉しいです」と語り、ピッチを締めくくった。
採用情報
事業成長を加速させた、三者三様の“MBO事情”
ピッチの後は、MBOによって誕生した登壇企業3社によるクロストークセッションを開催。
まず初めに、MBOを実施した背景について語られた。
400Fは資産運用のロボアドバイザー『THEO』を展開するお金のデザインの100%子会社として立ち上げられ、事業を運営してきた。中村氏は2020年7月にお金のデザインから400Fの株式を100%買い取る形で、MBOを実施した。
中村お金のデザインは、『THEO』の証券口座をSMBC日興証券に継承しました。私はBtoC領域で金融業界を変えていきたいと考えていたので、会社と自分のやりたいことが一致しなくなったんです。
実際にMBOの交渉をスタートして、決定までに約7ヶ月かかりました。とはいえ、私自身は親会社と400Fを共に経営をしていたので、それほど大変ではなかったです。むしろ、100%の買取を目指すのが大変で、権利関連の交渉に時間がかかりましたね。
DROBEは、三越伊勢丹ホールディングスとボストン コンサルティング グループのBCG Digital Venturesが、共同プロジェクトとして出資し立ち上げた企業だ。中澤氏は「MBOを意識して事業を運営していたわけではなかった」と振り返る。
中澤設立当初の計画では、2年間は保有している資金で事業を運営し、3年目から第三者割当増資をする予定でした。しかし、新型コロナウイルスの影響もあり、割とドラスティックに考えないとで資金調達が難しい状況になってしまったため、複数ある資金調達方法の1つであるMBOという形も視野に取組みを開始しました。
経営陣がMBOを実施したものの、創業株主である三越伊勢丹ホールディングスとボストン コンサルティング グループには、マイナー株主として今もご支援いただいています。
kickflowは、SmartHRのグループ会社として2020年2月12日に設立。事業の内容を見ると、SmartHRグループに留まり他事業とのシナジーを事業成長に結びつける選択肢もあったように思えるが、なぜMBOの実施に至ったのだろうか。
重松SmartHRの経営陣と未来についての議論を行う中で、どういったリスクを許容しどのような資本政策を取っていくか、といった成長戦略に関する考え方の違いが見つかりました。SmartHRは「親会社目線でグループ全体の最適化」を、kickflowは「子会社目線で自社事業の最適化」をそれぞれが考えた結果、利害が一致しない点がいくつかあったという感じです。
この点に関しては議論を重ねても平行線をたどるようになり、そのタイミングで「スタートアップ2社が同じ話で議論し続けるのは時間がもったいないよね」とMBOの選択肢が出てきた次第です。
MBO前後の変化について、3人はこう語る。
中村400Fは、親会社のお金のデザインによる貸付金で事業を運営していました。MBO時には当然、親会社がそのお金を回収するため、400Fは株を100%持つ一方で、借金を抱えることになった。事業が立ち上がっていない段階で借金がある、債務超過の状態だったわけです。その中で資金調達するのは大変でしたね。先輩経営者からも「そんなことやるんだったら、ゼロからやった方が良い」と言われるくらいでした。
一方で、中澤氏と重松氏は「社外からの見られ方が変わった」と語る。
中澤MBO前は、大企業の子会社という立ち位置だったので、採用の場面で苦戦することが少なくなかった。実際に「将来IPOできるんですか?」と聞かれることもあって。もちろん、子会社がIPOを果たす例もありますが、そこには様々な制約がある。一方、MBO後の現在では、独立した会社として堂々とIPOを目指していることを表明できるので、採用候補者からの見え方が変化しているように感じています。
重松SmartHRグループの一員だったころ、グループ会社であることのメリットは強く感じていました。
しかし、他の採用候補者から言われて気付いたのですが、独立心が強くスタートアップが好きな方は、グループ会社であることに対して「自由な経営判断ができないのではないか」という懸念を抱いているそう。もちろん、グループ会社時代も経営の自由度は担保されていましたが、より自由度が高い環境で働くことを欲する方々からの見られ方は変わったように思いますね。
MBOにまつわるディスカッションは、この後も盛り上がりを見せ、イベントは終了した。
今後も毎週木曜朝7時の「FastGrow Pitch」では、注目スタートアップが登壇し、自ら事業や組織について語る機会をお届けしていく。ぜひチェックしてほしい。
こちらの記事は2022年02月03日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
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執筆
大畑 朋子
1999年、神奈川県出身。2020年11月よりinquireに所属し、編集アシスタント業務を担当。株式会社INFINITY AGENTSにて、SNSマーケティングを行う。関心はビジネス、キャリアなど。
編集
鷲尾 諒太郎
1990年生、富山県出身。早稲田大学文化構想学部卒。新卒で株式会社リクルートジョブズに入社し、新卒採用などを担当。株式会社Loco Partnersを経て、フリーランスとして独立。複数の企業の採用支援などを行いながら、ライター・編集者としても活動。興味範囲は音楽や映画などのカルチャーや思想・哲学など。趣味ははしご酒と銭湯巡り。
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