2年間で12の事業を創造。
Y Combinatorを踏襲した、
起業家的20代を輩出する仕組みとは

インタビュイー
一岡 亮大
  • ファウンダーズ株式会社 代表取締役 

2010年三井住友銀行入行。2011年株式会社MUGENUPを創業、代表取締役社長に就任。2015年ファウンダーズ株式会社(旧アンドディー株式会社)を設立、代表取締役社長就任。

西川 ジョニー 雄介

モバイルファクトリーに新卒入社。2012年12月、社員数3名のアッションに入社。A/BテストツールVWOを活用したWebコンサル事業を立ち上げ、同ツール開発インド企業との国内独占提携を実現。15年7月よりスローガンに参画後は、学生向けセミナー講師、外資コンサル特化の就活メディアFactLogicの立ち上げを行う。17年2月よりFastGrowを構想し、現在は事業責任者兼編集長を務める。その事業の一環として、テクノロジー領域で活躍中の起業家・経営層と、若手経営人材をつなぐコミュニティマネジャーとしても活動中。

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2011年に創業したMUGENUP社を離れ、事業投資法人を設立した一岡亮大氏が、Y Combinatorのモデルを踏襲するスタートアップスタジオを開始した。

その背景や事業創出にかける思いを、FastGrow編集長を務める西川ジョニー雄介が聞いた。

  • TEXT BY YASUHIRO HATABE
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
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「熱量はあるけど何がしたいかわからない」人には最適な環境

ジョニー今回、自ら起業売却経験もある一岡さんが、U-29を対象としたスタートアップスタジオを始められたということですが、そこに至った経緯を教えていただけますか。

一岡YJキャピタルの堀さん(同社代表取締役社長 堀 新一郎氏)から、AirbnbやDropboxを輩出したスタートアップスタジオ、Y Combinatorの話を聞いたのがきっかけです。彼らは、2カ月で1つ事業をつくることを2年、3年とやり続けるのだそうです。1週目でプロダクトをつくって、2週目以降、週次で7%以上成長させるというフレームワークが決まっているんですね。

さらに、1カ月目から2カ月目で30%以上成長したかどうかを見て、そのプロダクトがマーケットにフィットしているかどうかを判断する、それがルール化されているということなんです。

ジョニー2カ月経ってKPIが30%伸びていなければ、次の打席に立つ、すなわち事業を変える、ということですか。

一岡そうです。毎週、10人くらいの起業家が一斉にプログラムを始めるんですが、週次で進捗を発表し合うのだそうです。そこで何も進んでいなければ恥ずかしいので、皆が死に物狂いでやる。

毎週ブラッシュアップして、A/Bテストをやって、1週間でKPIを7%以上伸ばす。それを繰り返し2年なり3年やっていくと、事業をつくるということがもはや生活の一部になり「習慣」になる。

そういう「事業づくりが習慣化した」人材ってものすごく価値が高いはずですが、「事業づくり」だけでなく、そのような「人づくり」にも同時に焦点を当てている会社って、日本にはないなと思ったんです。僕は昔から、「自分より若い人が優秀かどうかで未来の社会は変わる」と思っていますから、「優秀な若者が生まれ続ける仕組み」を創ってみたかった。それと、自分の目標として、あと30年で1万回は事業創出に携わりたいので、必然的に1人では無理だから(笑)、仲間を増やしたかった、という想いも関係しているかもしれません。

そんなときY Combinatorの話を聞いて、その仕組みであれば、「人づくり」と「スピーディな事業たちあげ」の両方を満たしていくことができるんじゃないかと直感したんです。

ジョニーそれでその仕組みをうまく日本でもフィットするようにカスタマイズしながら、同じことをやろうと考えたわけですね。

一岡そうです。ただし、ウチの場合は、事業づくりに関わる期間を2年間に限定しました。2カ月間は1事業にコミットし、週次で7%、月次で30%成長させなければいけない、というところはY Combinatorを踏襲します。全事業うまくいかなかったとすると、年間6打席、2年で12打席立てるということですね。

ジョニーなるほど。半ば強制的に2年という期間限定で、12の異なる事業を試せるフレームワークは魅力的ですね。

例えば、どれだけスポーツが苦手だ、イヤだ、と言っている人でも、12種目やったら1つくらい好きなもの、自分に合う種目が見つかりそうじゃないですか。

それと同じで、12の異なる事業立ち上げに関われば、自分が本当は何が得意なのか、好きなのか、という自己発見にもつながりそうです。さらに、2年という縛りがあれば、「起業や新規事業なんて興味ない。でもそのスキルはほしい」と思っている人が、半ば騙されたと思って武者修行してみるのにもちょうど良さそうです。

一岡身体を動かして、本物に触れてこそ、はじめて気付くことってあると思うんですよね。世の中では「グローバルな視点で」とか「SaaSが熱い」って言われていますけど、実はローカルなコミュニティビジネスをスケールさせることが合っている人もいるかもしれない。デジタルマーケよりも人力、営業でグロースしていく事業が向いている人もいるかもしれません。

事業立ち上げを仕事にすると、営業、マーケティングから、事業開発や経理財務まで、あらゆる職種を一気に経験できます。そうやっていくつもの事業をつくる傍ら、いろんな職種と真剣に向き合っていくほうが、自分が情熱を傾けられる領域や職種も見つけやすいだろうとは思いますね。

ジョニーまさに、「熱量はあるけど何がしたいか、何が向いているかわからない」と嘆く学生や若手社会人にはうってつけの環境です。

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「事業づくり」と「人づくり」の両輪で人材価値を高める

ジョニー2年間限定というのは、若い人、特に学部卒で就職しようとしている学生の興味を引きそうです。そういう学生にとっては、ファウンダーズに2年間を費やしたとしても、大学院に進んだのと同じ年齢で就職できるわけですから。

もし仮に12回事業に失敗してしまってその後に就活するとしても、新規事業に12回失敗した人を採用したいと思う会社は、ゴマンとあるはずです。FastGrowという新規事業を統括する者として、少なくとも私は、そんな方がいたらぜひ採用したいですね(笑)。

一岡まさにそういったように、2年間で事業が1つもヒットしなくても市場価値が高い人材になれる、ということこそが、事業のインキュベーションに「人づくり」の視点を持ち込むことのメリットだと思っています。失敗しても転職市場で引く手あまたになれるから、リスクがない。だから、参加する29歳以下の方々にとっても、結構いいことやっていると思いますよ(笑)。

ジョニー基本的にY Combinatorを踏襲しているということですが、実際にファウンダーズがどのような枠組みでプログラム化されているのかを教えていただけますか。

一岡基本的に参画したいと思ってくれた方は、まずは社員として当社のファウンダー部門に所属してもらう形で、シード専門の事業開発を進めてもらいます。

事業構想初日にモックをつくり、1週間でMVP(Minimum Viable Product)をリリースして、その後週次7%伸ばすことを目指すのはY Combinatorと同じですね。A/Bテストを短いサイクルで繰り返しながら、2カ月後に継続かそこでストップするかを判断します。

継続しない場合は、次の新しい事業構想に入ります。継続の場合は事業部化ないしは子会社化し、当社が投資を行います。その後もP/Lは当人が責任を持って見ながらグロースしていく形です。

ファウンダー部門で事業開発をする方には、一律30万円の月給を出しています。ただし学生の場合は業務委託契約を結ぶ形にしていて、それぞれの事情に応じて給与を支給しています。
僕の立ち位置でいうと、、ファウンダーと一緒に手を動かして事業をつくっていくパートナーというイメージです。僕個人が今まで培ってきた人脈や、開発、デザイン、人事、広報、マーケティングといったスタートアップに必要な機能や人材は基本的に会社側が用意します。だから、ファウンダー側(ファウンダーズに参画して実際に事業をつくる側)としては事業の考案やKPI達成だけに集中できる。それがファウンダーズで事業をつくるメリットでしょう。

ジョニー事業が継続となったら出資を行うということですが、出資比率はどうなるのでしょうか。

一岡最初は当社の一事業部になるので、当社が100%ということになります。その後、子会社化する場合は、会計のルール上、子会社認定される最低ラインの70%は少なくとも当社が持つ形になります。その時点で、残りの30%をその人個人として出資してもらう形でもいいし、第三者割当増資をするのであれば30%の一部を外部から募ることもできます。もちろん当社が100%出資ということも可能です。

もし、将来的に完全に独立してやっていきたければ、株式をその時の時価でファウンダーズから買ってもらっても構いません。そこまでには事業もある程度グロースしているでしょうから、銀行借り入れして株式を買い取ることも可能でしょう。僕やファウンダーズとしてのKPIは「投資の利回り」です。創業期のバリエーションと比較した利回りがその時点でよければ、保有する全株式を売ることもアリだと考えています。

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狙うのは「変化率」の大きい領域

ジョニー短期間で利回りが大きくなりそうな事業をつくっていくために、狙っていくビジネス領域は決まっているんですか。

一岡業界や分野は特に絞っていません。基本的には「変化率が大きい領域」を狙うようにしています。これは、僕が20代だった頃、上司であるVCの方が口を酸っぱくして言っていたことです。

ジョニー「変化率が大きい領域」というのは、これまで存在しなかったけど急激に伸びていく領域のほかに、旧態依然とした業界をディスラプトするという発想も含むのでしょうか。

一岡どちらともあり得ると思います。言うなれば、純粋に「ユーザーが増えている」領域であればOKです。

分かりやすい例を挙げると、今なら「仮想通貨」の領域。3年前に仮想通貨を持っている人と、今仮想通貨を持っている人の数って数百倍、数千倍違いますよね。この3年で増えた大勢の人は、何らかの共通の悩みや不便さを感じているはずなんです。そういった、「領域が急成長してしまったおかげで悩みを抱えている」人たち向けにサービスやプロダクトを提供するということです。

ジョニー市場規模や市場の課題を徹底的にリサーチして、「どの領域を、どういう風に、どのくらいのシェアをとればいくらの売上になりそうかか」、という発想はしないで、とにかく「変化している」領域で打席数を増やすということですか。

「イケそうな分野でとりあえず数打てばいい」というコンセプトの様に感じてしまう人もいるかとおもったのですが。

一岡市場を徹底的にリサーチするやり方を否定するつもりはまったくないのですが、人間、全知全能ではないので、見落としが必ずあると思うんですよね。

僕自身がMUGENUPを立ち上げて組織を大きくしてきた過程では、たくさん打席に立って、その中からものになる事業ややり方を見つけてきました。それが自分の根底思想に繋がっている部分はあると思います。どれだけ賢い人たちが、どれだけリサーチしても、市場は計算通りいかない、不確実なものである、ということですね。

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MUGENUPで身につけた、投資に対するシビアな視点

ジョニーその他にMUGENUPの創業から成長までを経験した一岡さんだからこそ、ファウンダーズに還元できている要素はありますか。

一岡細かい具体的な話はたくさんあるんですけど、1番は、1つの事業・プロダクトだけで売上1,000億円の企業をつくるのは難しいという「教訓」でしょうか。とりわけ日本市場だけを狙って1,000億円にいくのは相当むずかしい。1事業だけだとどうしても上限が見てしまうので、多事業化に堪えられる組織体系や組織運営手法を取り入れていかないとな、という学びがありました。

そうしていま、事業づくりに再現性を持たせるには、どのようなフレームワークが最適か。それを私なりに突き詰めて考え、形にしたものがファウンダーズだといえます。

1,000億円の売上を1事業でつくるのは難しいかもしれないけど、10億円の事業を100つくることは、自分の経験を振り返っても実現できそうだな、と考えたのです。

ジョニーそのように複数事業を有機的に成功に導くといったお考えの一方で、いま日本のスタートアップ界隈では、「バリエーションが上がっていれば赤字は気にしない」「調達額は大きければ大きいほど良い」といった風潮があるようにも思います。

一岡個人的には大型の資金調達ニュースを見るたびに、「本当にそれだけ(赤字を)掘ったら儲かるの?」というのはいつも気になっていますね。例えば、SaaS型、法人向けのサービスやプロダクトをつくっている企業で、顧客獲得のウェブマーケティングに毎月数億円かけている企業もいるじゃないですか。そういう企業の担当者って、ものすごいCPA(1顧客あたりの契約獲得コスト)を気にしますよね。

でも、MUGENUP時代の僕の経験則でいうと、営業できる人材を1人採用したほうが、ウェブマーケティング専任の担当を雇ったり、広告費に数億円をかけたりするよりも、遥かにCPAが下がる、つまり顧客獲得の効率がいいこともあると思うんです。日本は米国と違って、端から端まで移動するのに飛行機で5時間以上かかる国ではありませんからね。

これは、スタートアップは広告費を使ってはいけない、と言っているのではありません。大型投資で成功した他社を無思考にマネるのではなく、本当に自社にとってもその選択肢が最適かどうかについて考える責任が起業家にはある、と言いたいのです。

ジョニーおっしゃる通りですね。経験ある起業家や投資家の方であれば、「この赤字が将来の飛躍への布石かどうか」をしっかり見極められていると思うのですが、そのような思考なしにして「スタートアップは広告ジャンジャンつかって赤字でもいいんだ」となんとなく思ってしまうのは、思考停止でしかありません。

一岡こういった、僕がMUGENUPの創業から成長を通じて体得してこれたようなノウハウ、もっというと、売上10億円のビジネスをしっかりつくるためのノウハウであれば、ファウンダーの方々に惜しみなく提供していけると思っています。

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ファウンダーズ・コミュニティから大きな事業を生み出せる未来へ

ジョニー変化率が大きな領域で、地に足ついた事業をつくり続ける構想のファウンダーズですが、今後3年間で、どれくらい事業をつくる予定ですか。

一岡最初は100個くらいやろうと思っていたんですけど、やり始めてみると僕のリソースが結構きつくて(笑)。僕だけが見るフレームワークだと最大10程度かなと思います。すでに6人が起業家、つまりファウンダーとして参画して事業開発を進めているので、そう考えるとあと4つしか事業をプラスできないんですけどね。だから、今後スケールさせるには、ファウンダーと僕の関わり方をブラッシュアップしないといけません。

ジョニーまだまだ一岡さん自身も発展途上ということですね。最後に、ファウンダーズに興味を持ってくれた29歳以下の、起業に興味がある若者にメッセージはありますか?

一岡繰り返しですが、僕は自分より若い人が優秀であればあるほど、世の中はハッピーになると思っているんですね。若い人がつくる新しいもののおかげで、われわれの生活が楽になったり便利になったりするはずなので。だから、若い人に活躍してほしいし、ガンガン成長するためにがんばってもらいたいなと。

あとは、日本はこれから消費人口が減少し、経済はどんどんシュリンクしていきます。その中で、会社に入って労働力を提供して対価をもらう以外に、自分で事業を考え、価値を生み出して稼いでいくという方法、生き抜く力を持つ人を少しでも増やしたいという想いが僕にはあります。

先ほど、まずは当社の社員として所属してもらうという話をしましたが、それもずっと雇います、雇われますという話ではありません。

今後10年、20年で、社会のいろいろなモノの所有や契約の縛りがゆるくなる、つまり「なめらか」になっていくといわれていますが、組織もそれは同じで、会社と個人の関係性はもっと柔軟になっていくのだろうと思います。だから、雇用関係とは別に、一定期間、ファウンダーズというフレームワークを利用してがむしゃらに成長してやろう、というスタンスで参画してくれればいいんです。

そのためにもまずは、何をしたらいいのか、自分が何に向いているか分からないけれども、とにかく「起業したい」「何かに没頭したい」「社会にとって貴重な人材になっていきたい」という強い想いがある29歳以下の若い人には、ぜひファウンダーズの門戸を叩いてほしいと思います。

こちらの記事は2018年07月27日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

畑邊 康浩

写真

藤田 慎一郎

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