特別連載SENSE MAKER 変革期のたばこ産業、未来の嗜好品のかたち

ビジネス変革の最前線は、山奥の畑だった。
葉っぱイノベーションが生んだ農家の新たなやりがいと、粘り強さが生み出す世界一の品質

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インタビュイー
上田 律夫
  • 日本たばこ産業株式会社 たばこ事業本部原料グループ 東日本原料本部 原料部 部長 

1994年、日本たばこ産業(JT)に入社。たばこの原料となる葉を調達する原料部門に配属され、長く調達に携わる。葉たばこ農家と二人三脚になり、栽培方法の検討から農薬使用などの安全管理、収穫後の葉の格付けまで広く担う。2005年には海外事業担当となり、世界各国に足を運び多様な葉たばこの調達を担った。現在は原料グループにもどり、調達現場近くで若手のマネジメントなどを推進する。

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数十年もの間「こんな作り方はしないでください」と言ってきた、その作り方を今、お願いしているんです──。

たばこの「葉」にイノベーションが起き、現場に混乱を生んだ。従来とは180度異なる耕作体系を導入し、新たな原料を調達する難しさをいかにして乗り越えたのか、そこにあるビジネス上の学びをFastGrowの読者にも伝えたく、日本たばこ産業(以下、JT)の原料グループに取材を実施。すると見えてきたのは、たばこの「葉」の革新に汗を流す挑戦の日々だった。

江戸時代より、庶民を中心に嗜好品として親しまれてきたたばこ。ナス科タバコ属の植物で、アメリカ大陸を中心に世界各地で栽培されている。日本でも江戸時代から在来種を生産、JTは、日本各地で契約栽培を実施。その長い歴史上最大の転換点を今、加熱式たばこの開発によって迎えている。

JTで葉たばこの調達を担う原料グループが、その変革の現場を動かす。葉たばこ農家との契約や品質管理、購買を担う部門だ。「ずっと否定されてきた栽培方法」や「あり得なかった“純度100%”の製品」をいかにして実現させてきたのか。たばこの品質向上のみならず、継続的な農家との関わりという観点から、原料グループの新たな挑戦と、知られていないやりがいについて、JTたばこ事業本部原料グループ・上田律夫氏が語った。

  • TEXT BY YUKI KAMINUMA
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農家の生活と理想の葉たばこ収穫。その狭間で揺れるチーム

葉たばこの畑を見たことのある読者はほとんどいないだろう。それもそのはず。主産地は沖縄や九州、東北などで、また、見つけるのも難しい山奥での栽培が多いからだ。

お米や果物など「実」の収穫が多い農業の中で、たばこは「葉」を収穫する。一枚一枚に熟れる時期が異なることから収穫時期が長くなり、また、その時期は暑さが厳しい6~8月となる。1つの畑に2,000本ほどある葉たばこの熟れ具合を毎日確認し、収穫する仕事は想像以上にタフだ。なおかつ、沖縄や九州地方は台風被害もある。被害の大きさによっては、収穫が激減することも。ただし、辛抱強く向き合ってくれる農家がいなければ、葉たばこは収穫できない。そんな農家と共に、日々葉たばこの調達に奮闘しているのが、原料グループの現場にいるチームだ。

JTたばこ事業本部原料グループ 東日本原料本部 原料部 部長 上田律夫氏 (※オンライン取材時の様子)

上田栽培の現場に寄り添いながら、収穫後にはその葉たばこの格付け・値付けまで担う、JT以外ではあり得ないでしょうね(笑)。

栽培時期には、畑を確認します。「農薬の量は適切か」「丁寧に作業をしているか」などが重要です。葉そのものを見るだけでなく、農家と細かくコミュニケーションをとり、変化を見逃さないようにしています。

のほほんとした農業の風景を思い浮かべてしまう。しかしそのあと、「格付け」は想像以上に神経を使う、重要な仕事だと教えてくれた。

上田農家の方々が生産した葉たばこの品質をチェックし、1つ1つ格付けします。適正かつ公平がモットーで、葉たばこについて特別なトレーニングを行なった社員が品質を判断しています。ただ、これが大変なんです。

品質の良いものは癖がなくて、吸いやすい。この格付けによって農家の収入額が決まるため、時に葉たばこ耕作組合と意見がぶつかることもあります。何年もずっと寄り添ってきた農家が相手だから、その家族や生活も見えているため、つい気を使いたくなってしまいます。しかし当然のことながら、厳格に格付けをしなければならない。

品質向上のためのフィードバックも細かく行う必要があります。本当に神経を使いますよ。基準があるからと言って、誰にでもできる仕事ではありません。

そもそも葉たばこは、作りたい人が作れるものでもない。JTと契約を結ぶ以前に、初期費用が高額。収穫しても、JTが定めた品質基準に達していなければ買い取りはなされない。それでも、家族で代々作り続けている農家が多いのが、日本の葉たばこ生産の風景だ。そんな農家の方々といかに良い関係性を築くか、これが原料グループにおいて重要なミッションとなってきた。

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業界に革新と混乱を生んだ国産葉「ゴールドリーフ」

他の産業と同じく、たばこ業界でも世界的にイノベーションが起きた。それがこの連載で扱っている、加熱式たばこを始めとしたRRP(Reduced-Risk Products)の誕生だ。なんと原料グループが長年培ってきた農家との関係づくりにまで、大きな影響をもたらしたのだという。

RRPの新ブランド『メビウス・プレミアムゴールド・レギュラー』は、JT葉たばこ研究所が開発した希少な純国産特別原料『ゴールドリーフ』を100%使用。燃えないたばこでありながら、濃い味わいが楽しめる。従来の葉たばこと生産方法が異なるため、新潟・岩⼿・⻘森・秋⽥の4県でのみと、厳選された畑で生産。

葉たばこの畑(JT提供)

この原料調達に「大変な苦労があった」と上田氏。最前線に立ち、農家とともに歩んできた中で、史上最大の革新の瞬間をいかにして迎え、調達を続けてきたのか。やはり、従来のやり方を大きく変える必要がある革新は、様々な苦労も伴うようで、滔々と語ってくれた。

上田ゴールドリーフは、収穫のタイミングや収穫方法が従来のものと大きく異なります。上の葉に養分をためるため、下の葉を未熟なまま収穫する必要があるんですよ。品質高い葉たばこをこれまで一枚一枚生産してきた農家にとって、葉の収穫に差をつけることは受け入れにくいこと。私だって、これまで何十年も「こんな作り方はしないでください」って言ってきたんですから、言いにくいですよ(笑)。だから当初は、「作りたくない」と否定的な声も聞こえました。

それに、未熟な葉を収穫するのは、葉が固くて収穫の疲労も大きいんです。家族経営が基本形態であり、限られた人財で取り組んでいる農家にとっては大きな負担となっていました。

しかし、ゴールドリーフは、限られた気候条件下の畑でしか生産できない希少なものであり、社運を賭けた新製品開発の挑戦でもある。私は焦りながらも、諦めることなく言葉を砕いて、新たな挑戦について何度も説明させてもらいました。

同社は、「燃やさずとも、濃くて旨い味を感じられるたばこを作りたい」という思いからゴールドリーフの開発を始めた。葉の一枚一枚に味が濃縮されるという品種は、数千種類ある葉たばこの中で、このゴールドリーフだけだ。ただ、その栽培は難易度が高い。栽培期間が⻑いだけでなく、病虫害・台風など天災のリスクも高い、おまけに上述のように手間がかかる。約30年前に試験的に育成するも、断念したという過去があった。

しかし「新しい挑戦」であることを諦めずに説き続けた上田氏の熱意に賛同する農家が少しずつ出て来るように。そうしてゴールドリーフづくりは始まった。「お客さんのために良いものをつくる」、職人としての基本に立ち返る農家が出てきたのだ。

上田うまくいかない時期が長く、「RRP開発はJTのエゴで始めた変革でしかない、農家の生活を巻き込んでいいのだろうか」と、そんな風に見えてしまう時もありました。ですが栽培を実現し、収穫して商品化したところで、意外にも、農家が新たにやりがいを感じる面が見えてきたんです。

笑顔を見せ、その理由を語り始めた。

上田基本的にたばこは、複数種類のたばこ葉をブレンドして商品化します。しかし、新銘柄で使われるのはゴールドリーフのみ。これは世界のたばこ製品の歴史でも初めてと言えるほど珍しいこと。

従来は、自分たちの作ったたばこ葉の使用を、たばこを見てもなかなか感じにくかった。しかしこの製品ならば日々、自分たちが生産したゴールドリーフの「味」を感じられる。これが大きなやりがいになったみたいなんです。結果的に「作ってよかった」と声をかけてもらえるようになりました。愛用している農家さんだって増えてきました(笑)。

以前はあり得なかったことにトライして苦労をした分、農家もわれわれの達成感も大きいですよ。

事務所での上田氏(JT提供)

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JT史上最大の「葉っぱの変革期」が到来

製品開発はもちろん、業界課題にも積極的に取り組んでいるJT。その課題の一つが、機械化の推進だ。アメリカのような広大な土地がない日本では、葉たばこ農家の機械化がなかなか進まない。他国と比較した時に、日本は丁寧な仕事が品質向上に役立っている一方で、購買コストの高さが目立つ。栽培をいかに効率化していくか。アナログな業界だからこそ今、若い人財の新しい発想や価値創造力が求められる。

上田原料グループの7割は20代を中心とした若手で構成されています。農学部出身の社員も多いですが、それ以外の様々な経歴を持つ人財も増えてきています。実はダイバーシティを推進しており、多様な人財が集まっている組織です。

そしてグループが至上命題として掲げているのは、「葉たばこ農業を通じた地域への貢献」と、「機械化・IT化推進による購買コストの引き下げ」。生産性を高めることで、グローバルな競争力をつけていかなければなりません。「日本でたばこ市場を独占しているから業績は安心」と思われているかもしれませんが、そんなことは一切ありません。

業界を変えていこうと考える人財がいなければ、産業の衰退は免れられない。今のJTには、若手が柔軟な発想力や知識・技術を活かして新しい価値を創造していくチャンスがあると思います。「農業」だけでなく、「地域貢献(ローカル)」や「競争力や品質の向上(グローバル)」に関心が高い方にとっても、面白い職場ではないでしょうか。

「JTのような大企業では革新的な挑戦はできない」、そんな先入観を覆すフィールドがJTには用意されているということだ。しかし、ダイナミックに業界を動かす実感が得られる一方で、容易にはいかない挑戦であることも確か。若手が特に気をつけるべきことや、ぶつかりやすい壁は何だろうか。上田氏に問うた。

上田葉たばこ農家は、JTと専属で契約しています。様々な出荷先を持つことが多い農業の中では珍しく、1対1で向き合う特殊な業界です。最初はどうしても、業界の昔ながらの考え方や文化に戸惑ったり、農家の方々と信頼関係を構築するのに時間がかかったりすることがあります。近年、他業界においてはIT活用等が浸透しつつありますが、葉たばこ業界はまだまだ後進的。伝統を守りたいと望む農家も多いので、面と向かって話し合い、将来に向けて議論することが必要な場面も多いです。

原料グループの仕事は、農家と二人三脚で実現していく。人の心を動かす難しさとやりがいを感じられる現場です。

畑で談笑する様子(JT提供)

上田数字だけの結果ではなく、人と信頼関係を築いて行う仕事はまさに人間にしかできない。「社会を変えていく変革」には、そういった役割も必要です。人間に真っ直ぐ向き合い、共に新しいものを作り上げていく仕事を誇りに思っています。

「国内だけを見ていればいいわけではない」とも付け足した。上田氏は自らの経験から、グローバル志向の人財も活躍の場があると語る。JTグループは世界130以上の国と地域でたばこを販売するとともに、世界30以上の国と地域から葉たばこを調達している。原料グループでの経験を活かして海外でグローバルに活躍する社員も多いという。

上田私自身も海外に出向し、世界中で葉たばこの調達に関わってきました。日本とは畑も農家もすべてが違うので、異文化の中で仕事を円滑に進めることは難しかった。でもスケールの大きな仕事に携わった経験が、今の自信につながっています。それに、国内で培ってきた経験を海外でも活かせた成功体験は、自身のキャリアに大きな手応えを感じさせてくれます。

世界を知って、新たに分かったこともあります。日本の葉たばこが世界のそれと比べ、丁寧に作られているというのは紛れもない事実。今、世界中のたばこメーカーが模索しているのが、濃くて旨い葉たばこです。そのために必要なのが、一枚一枚の葉っぱと向き合いながらの丁寧な栽培。これを行うのは、簡単なことではありません。だから既に「世界一の質を持つのが日本の葉たばこ」といえるかもしれませんよ。

要するに言いたいのは、「日本だからこそできる仕事や経験がある」ということ。高品質な葉たばこを作り続けることの難しさを、身をもって感じられる。そして、葉たばこ耕作に懸ける農家の想いやこだわりを知る。こうした経験を胸に、国内で培った知識やスキルを、海外で発揮する。こんなにやりがいのある仕事は他にないと思っています。

「業界にイノベーションを起こし、世界と戦える製品づくりを」。たばこ業界で人知れず、そんな革新に着手しているJT。変化が激しいこの業界において、変革に立ち合い、またその変革者の一人となる。そんな唯一無二の体験ができるのは、挑戦を恐れないJTだからこそだ。

こちらの記事は2020年11月30日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

上沼 祐樹

KADOKAWA、ミクシィ、朝日新聞などに所属しコンテンツ制作に携わる。複業生活10年目にして大学院入学。立教大学21世紀社会デザイン研究科にて、「スポーツインライフ」を研究中。

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