連載20代リーダーの教科書

リーダーは人真似するな!
新規事業を成功に導く組織論

インタビュイー

2000年、慶應義塾大学環境情報学部卒業。JTBを経て、2003年にリンクアンドモチベーション入社。執行役員として大手企業を中心に組織人事コンサルティングに従事した後、2011年、新機軸の経営コンサルティングファームであるフィールドマネージメントに参画し、ディレクターを務める。航空、Eコマース、食品等、多業界においてマーケティング/ブランド/組織開発/人材育成プロジェクトに従事した後、2015年、HR領域を主軸とするグループ会社として、フィールドマネージメント・ヒューマンリソースを設立し代表を兼任。

柴田  陽
  • ファンズ株式会社 共同創業者 / 取締役 
  • 株式会社フィールドマネージメント 執行役員 

東京大学経済学部卒業。戦略コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー出身。店舗集客サービス「スマポ」を展開する株式会社スポットライト、バーコード価格比較アプリ「ショッピッ!」、タクシー配車アプリ「日本交通タクシー配車」「全国タクシー配車」など、数々のヒットアプリを手がけ、3つの会社を創業・売却した経験を持つシリアルアントレプレナー。2016年11月に株式会社クラウドポートを創業。

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来店促進サービス『スマポ』運営のスポットライト社を楽天に売却後、ソーシャルレンディング比較サイトである『クラウドポート」を運営するシリアルアントレプレナー、柴田陽。

前回記事:2度のイグジット経験者が説く事業アイデアの見つけ方では、急成長する市場を見つけるためのヒントや立ち上げ直後のノウハウを中心に語った。

今回はスタートアップが軌道に乗ってからの組織・人材面について教えてもらおう。

  • TEXT BY KYOZO HIBINO
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
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人材はミッションドリブンで集める

小林新しい事業をつくるにあたっての“始め方”の部分についてはだいぶわかってきました。ここからは実際に事業が回りだし、組織化していくフェーズのお話を聞いていきたいと思います。たとえば起業して会社を設立したばかりのころ、多くの人が苦労するであろうポイントはどのあたりにあるんですか。

柴田いちばんは採用のところではないかと思います。学生で会社をつくった時のことを思い返すと、ただ「起業したい」というのが最大の動機で、世の中をどういうふうにしたいだとか、巻き込む人たちをどうしたいという思いがなかった。事業は何でもいいからとにかく起業して、「最年少上場記録を更新するんだ」と考えていました。そうやって組織をつくっていくうちに、「裏切られたな」と感じることが結構ありましたね。

 

小林裏切られた……?

柴田はい。ぼくとしては、一つのスポーツチームのような組織にしたいという思いがあって、それぞれがフラットな関係性を築き、互いに助け合い、プロフェッショナルとして結果を出す組織にしたかった。

そういう思いのもとに学生を集めて育成していくわけですけど、「戦力になってきたな」というころになって、転職しますだとか、普通の会社に就職しますという人がすごく多くて。当時は「何と恩知らずなやつだ」と思っていました。

その後、ぼく自身もマッキンゼーに入ったりしたことでいろいろな学びがあり、やっぱり「何をしたいのか」が先になければならないんだと気づくようになりました。

「何をしたいのか」という軸で集まっていない人材は、組織に対するバインディング(結束力)がないから、自分にスキルがついてきたらステップアップしよう、という思想になる。だから、まずは事業、やりたいことを先に描いて、それを達成するプランの中で、「何カ月目には、こういうスペックの人がこれだけ必要になるから、そういう人を集めよう」という順番で採用を考えるようになりました。

組織としてのあり方は2つに分けられると考えていて、1つは『ゴッドファーザー型』、もう1つは『オーシャンズ11型』とぼくは呼んでいます。『ゴッドファーザー』はコルレオーネ家というファミリーがみんなで一緒に末永く暮らしていくことがゴールになっていて、ファミリーを繁栄させるための仕事は何でもいいわけですよね。

かたや『オーシャンズ11』は明確なプロジェクトが先にあって、その遂行に必要な一芸に秀でた人たちを集めてくる。新規事業をつくるという文脈においては、この『オーシャンズ11型』のほうが成功確率が高いと思います。

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採用活動前に採用基準を必ず決める

小林そういう採用が実際にできるようになったのは、何社目ぐらいの時ですか?

柴田曲りなりにもそれを意識してできたなと思えたのは(起業4社目の)スポットライトですね。退職率も下がったし、退職するにしても、その理由がポジティブなケースが多くなりました。自分で何か事業をしたいから退職するとか。

まかり間違っても、ここでスキルアップできたので、このスキルを生かして別の会社に行って給料を上げたいという感じではなくなりました。そこはすごく健全だなと思いますね。

小林組織の採用活動をお手伝いする立場から言うと、人材を引きつけるための訴求ポイントはいくつかあります。

その会社のビジョンが魅力的であること、実際に行う業務内容が魅力的であること、魅力的な仲間たちと一緒に働けること、そして金銭等の条件がいいこと、という4つに大きく分けられるんですけど、その中でもビジョンや仕事の魅力を訴えていったほうがいい人材にめぐり会える、ということですか?

柴田スタートアップは原則としては採用力が低いので、実際問題として、面接をする段階では、その4つの軸を駆使して口説いていくということはしています。

ミッションの魅力だけを材料にして働いてもらうというのは、やりがい搾取みたいで健全な組織だとは思えないし、その人の市場価格に合った条件を提示すべきだし、業務内容や働いている人たちの魅力も当然アピールすべき。

組織としてのミッションをきちんと反映させておくべきは、採用基準ですよね。面接に至る以前に、「こういう人が欲しい」という採用基準をしっかりとつくっておく。

そうでないと、「どういうふうに役立つかはすぐには判断できないけれども、もとから知り合いだし、いいやつだし、とりあえず雇おう」といった採用をしてしまいがちです。これでは、雇われた人のタメにならないことはもちろん、組織全体にとっても有益なことだとは言えないですよね。

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20代リーダーは人真似をするな

小林そうやって少しずつ人を集め始めると、リーダーシップが重要になってきますよね。リーダーのあり方についてはどう考えていますか?

柴田ぼくは、リーダーシップというものをわかりやすく言うと“キャラ”だと思うんです。だから十人十色だし、自分のキャラにないリーダーのスタイルをとってもワークしない。リーダーとしてのキャラを見つけることが、20代とかの年代ではすごく大事なのかなと思います。

小林自分のキャラを生かしたリーダーのスタイル。どうやって見つけていくものですか?

柴田入社した会社に、自分がリーダーになった時に応用できそうなロールモデルがたくさんいる、要は自分のキャラに近い人がたくさんいるという幸運な人もいるでしょう。

逆に、マネジャー陣のキャラを見渡した時に、ちょっと自分とは違うなと。マネしろって言われてもなかなか難しいなという状況に置かれている人もいるでしょう。自分に合っていない型をいくら研究してもあまり意味がないと思うので、自分がやれそうだなというタイプの人を見つけ出して、研究していくのがいいのかもしれません。

小林自分のリーダーとしてのキャラは、当然、採用にも影響してきますよね。

柴田引っ張る側だけではなくて、ついていく側にもキャラがありますし、慣れているスタイルがありますからね。リクルート出身の社長の周りを見てみると、やっぱりリクルート出身の人が多かったりするのは、お互いのスタイルがわかっていて仕事がやりやすいからだと思います。

モノカルチャー化して排他的になっていくのは問題ですけど、社員数10~15人ぐらいのフェーズではダイバーシティとかっていうことを考える必要はなくて、むしろ自分らしいリーダーシップを確立して、組織に色をつけていくことのほうが大事だと思います。

小林わざわざ毛色の違うメンバーを集めたりせずに、リーダーシップを発揮しやすい風土をまずはつくったほうがいい。

柴田もちろん、先ほど申し上げたように、そもそも何をやりたいからこういう人材が必要なんだっていうプロファイルが最優先なのは間違いないんです。そのうえで選択肢があるんだったら、お互いのスタイルが合致しそうなほうを選ぶ。

起業するということは、一緒に働く人を自分が選べるわけですから。同じ能力の人が2人いて、仕事のしやすさが劣る側を選ぶ意味はまったくない。

小林さんも、フィールドマネージメントの中にグループ会社をつくって、そのリーダーを担うお立場ですから、共感する部分があるのではないですか?

小林本当によくわかりますね。少しずつ人数を増やしてきていますが、柴田さんの言うスタイルが合っているかどうかの凝集性はかなり大切にすべきものだと実感しています。

そのほうが圧倒的に仕事がしやすい。ちなみに、柴田さんはどういうスタイルのリーダーシップなんですか。

柴田ぼくはやっぱり、マッキンゼーの影響をすごく受けていると自分では思っているので。アウトプットでお互い認識し合うっていう大前提だったり、あくまで役割であって肩書じゃないっていうことだったり、自分のキャリアは自分でデザインするよねっていう共通認識だったり。そういうところは捨てきれない部分のような気がしますね。

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新規事業と起業。必要なスキルは全く違う

独立して起業することのほかに、いま所属している会社の中で新規事業を立ち上げるという選択肢も、一応はありますよね。

小林最初の立て付けがすごく大事ですね。その会社がどういう位置づけで新規事業を始めようとしているのか。誰が最終的な責任を負うのか。そういう部分が曖昧なままだと、たぶん何をやってもうまくいかないと思います。

もし自分が会社の中で新規事業をやる立場になったなら、事前にしっかりと会社のスタンスを確認してからでないと、後になってひっくり返されるということが往々にして起こりうる。

柴田起業するのと違って、ポリティクス(社内政治)の部分は大きくなりますよね。別の言い方をすると、そのポリティクスをうまく使える人、大きい会社の中でも立ち居振る舞いが上手な人ならば、上層部をちゃんと味方につけて、いいリソースを寄せてもらって、いろんな人からもブロックしてもらえる。そういう能力があるのなら、ピンでやるよりも有利だと言えます。

 

小林いろいろ使えるものがすでに揃ってますからね。

柴田スタートアップは、「3億円調達しました!」とかって喜んじゃうんですけど、大企業のキャンペーン予算、1本30億円とか普通にありますから。それを持ってこられるんだったら、断然こっちのほうが有利です。

ただ、そうやって上の人をうまく動かすことの難易度は、起業して成功するのと同じくらい難しいとは思います。適性はまったく別ですけど。

もし自分に自信があるなら起業してみればいいと思いますよ。いわゆるダウンサイドのリスクってそんなにないですし、絶対に学びもあると思いますから。仮に、起業して失敗したとしても、その経験を含めて自分を買ってくれるところがあるはずだと思える人なら、なおさらリスクはないはずです。

こちらの記事は2018年03月21日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

日比野 恭三

写真

藤田 慎一郎

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