連載あの執念の正体

トラクションよりも「思想」を選ぶ──「48時間ルール」で巨大な証券市場を切り拓く、ブルーモ証券代表・中村氏の執念

中村 仁
  • ブルーモ証券株式会社 代表取締役社長 

財務省で総合企画・税務調査・国際金融業務に従事した後、スタンフォード大学にMBA留学。帰国後、マッキンゼーでは主に金融機関の新規事業戦略をリード。東大法卒 / 同大学院経済修士 / スタンフォード大学MBA。

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高い信頼性と堅牢なシステムが不可欠な金融業界において、圧倒的なスピードと徹底した合理性で新しい価値を生み出す企業がある。代表の中村 仁氏が率いる、ブルーモ証券株式会社だ。

同社は、スマートフォン一つで米国株やETF(上場投資信託)にバランスよく投資できるサービス『ブルーモ』や、世界最大の運用会社ブラックロックと提携した自動運用サービスの『ブルーモコア』『ブルーモインカム』を展開している。

株式の売買や顧客の資産を預かるために不可欠な「第一種金融商品取引業」のライセンスは取得難易度が非常に高く、スタートアップが獲得したのは実に5〜6年ぶり(2023年6月取得)となる。この極めて高いハードルを越えた裏には、当局からの膨大な質問に「48時間以内に返す」という自ら課した過酷なルールがあった。

巨大なインフラを構築し、すでに世界的企業との提携も果たしている同社だが、驚くべきことに事業開発(BizDev)の専任担当者は現在「0人」だという。 常に論理的で物静かな中村氏だが、目先のユーザー増加よりも自らが信じる「正しい資産形成」という思想を優先して事業の舵を根底から切るなど、内に秘めた情熱は並々ならぬものがある。彼が率いるブルーモ証券は、未踏の領域をなぜこれほどの速度で駆け抜けることができるのか。その強靭な事業基盤の裏側に迫る。

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5年ぶりのライセンス取得を可能にした「48時間ルール」。圧倒的な手数で築く参入障壁

高度な信頼性が求められる証券業界において事業を展開されています。なぜ、この領域で起業しようと考えたのでしょうか。

中村日本の金融を、テクノロジーの力でさらに便利なものにしたかったからです。シリコンバレーにいた頃、現地のフィンテック企業が大きく成長し、投資が身近になっていくのを見てきました。

日本でもコンサルティング会社時代に金融機関向けの新規事業提案を多数経験しましたが、既存の堅牢なシステムの中で新しいものを生み出すことの難しさを実感しました。だからこそ、既存のシステムに依存するのではなく、自分たちでゼロから証券システムを構築できる会社を立ち上げなければ、本当に便利な金融体験は創れないと痛感したんです。

「第一種金融商品取引業」のライセンスを個別株の売買を行う独立系のスタートアップが取得したのは当時は5〜6年ぶりであり、貴社以降は1社も取得できていないと伺いました。それほどの高いハードルを、なぜ短期間で獲得できたのでしょうか。

中村当局からの膨大な質問に対して、「48時間以内に必ず返す」というルールを徹底したからです。

ライセンス取得のプロセスでは、100問近い質問が来て、それに答えてまた質問が来るという往復が何度も続きます。通常であれば、非常に慎重な検討を重ねて回答するため時間がかかるプロセスです。この期間を短縮するためには、我々が返答するスピードを極限まで上げるしかなかったんです。

提供:ブルーモ証券株式会社

非常に地道な作業に、経営陣自らリソースを投下したわけですね。

中村スタートアップを創業するような人材にとって、こうした実務のやり取りは、最も避けたい事務作業の一つかもしれません。しかし、我々はそれを他社が容易に真似できない「強力な参入障壁」だと捉え、ルールを厳格に遵守しながらも圧倒的な手数を出すことにこだわりました。経営陣が自ら現場に入り込み、割り切ってこの作業をやり抜いたからこそ、我々にしかできない事業展開が可能になったわけです。

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目先の数字よりも「思想」を優先。痛みを伴うブランディングの根底変更

当初リリースされた米国株やETF(上場投資信託)の取引機能は広くユーザーに受け入れられたそうですが、そこからブランディングを根底から見直し、ブラックロックと提携した自動運用のサービスなどを追加されました。なぜそのような軌道修正を図ったのでしょうか。

中村確かにサービスは広まり、面白がって使っていただけました。しかし実態を見ると、個人のユーザーが個別株への集中投資など、非常にリスクの高い運用に走ってしまったんです。

我々としては「これだけ便利なツールがあれば、個人が適切にバランスを取って運用できるだろう」と考えていましたが、結果は違った。それは、僕らが実現したかった「正しい資産形成」という世界観とは明確にズレていたんです。

ユーザー数が順調に伸びている中で、自らの理念に合わないという理由で軌道修正を図るのは、勇気のいる決断だったのではないでしょうか。

中村ツールだけを配って「あとは個人が学んでどうにかしてください」というスタンスでは、本当に顧客のためにはならないと気づかされました。だからこそ、カジュアルだったブランディングを、プロの戦略に基づいた本格的な資産管理(ウェルスマネジメント)寄りに根底から変え、今のアプリを拡張する形で自動運用などを追加していったんです。

目先のユーザー増加(トラクション)よりも、私たちが本来やるべきだと信じる「思想」を形にすることに執着した結果です。

提供:ブルーモ証券株式会社

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「光の速さ」と「顧客への執着」が、未知の市場をこじ開ける

中村さんは一見すると非常に冷静で淡々とお話しされますが、お伺いしていると実行している手数の多さとスピードには圧倒的な熱量を感じます。社内ではどのような文化が根付いているのでしょうか。

中村リリース直前の1〜2週間前に、チーム全員でプロダクトを徹底的に触り倒し、大量のフィードバックを出すという文化があります。本当にこの画面操作(UI)で使いやすいのか、顧客の課題を解決できるのか。「こんな直前にこれほどの量を直すのか」という声が上がりつつも、それをフロントのエンジニアがリリースまでに意地でも修正し切るんです。最終的には最高のものを届けるという執着がチーム全体に根付いていますね。

すでに世界的企業との提携も実現されていますが、現在事業開発(BizDev)の専任担当者が「0人」だと伺い驚きました。経営陣の推進力でここまで進めてきた中で、今後もそのスピード感は維持されるのでしょうか。

中村金融という領域は、高い信頼性が求められるゆえに、どうしても慎重なプロセスが必要となります。だからこそ、我々の価値観(バリュー)の中心には「光の速さ」があるんです。

どんなに堅牢な業界であっても、思考と実行のスピードだけは絶対に落とさない。強固なライセンス基盤と強い技術チームという圧倒的な武器を手に入れた今、さらに事業の手数を増やし、次なる市場を切り拓いていくつもりです。

FastGrowの見解

一見すると常に論理的で冷静沈着に語る中村氏。だが、その奥底には、膨大な当局とのやり取りを「48時間」で打ち返し、目先の数字が伸びていても自らの「思想」に合わなければ根底から事業を覆すという、並々ならぬ情熱が煮えたぎっていた。

泥臭い実務作業すらも徹底した合理性で参入障壁へと変え、事業開発(BizDev)ゼロの状態で世界的企業との提携すら成し遂げてしまったその推進力には、圧倒されるばかりだ。

彼らが築き上げたこの強靭な事業基盤が、今後一体どのような化学反応を起こし、日本の資産運用市場に新たな価値をもたらしていくのか。この巨大な変革の全貌と彼らが描く次なる一手の裏側は、今回の対話だけでは到底図りきれない。我々はさらに深く解剖していく必要があるだろう。

こちらの記事は2026年07月09日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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