連載あの執念の正体
金融業界の「歪み」を突く──テクノロジーを通じて人々の人生、新しい選択肢を。スマートバンクCOO・赤池氏の執念
AI家計簿と決済機能、さらに『ペアカード』や後払い、ファクタリングなどの多様な金融サービスを統合したアプリ『ワンバンク』を提供する株式会社スマートバンク。同社COOの赤池知隼氏は、前職のメガベンチャーにおける盤石なキャリアを手放し、この未踏の領域へと身を投じた。
既存の金融サービスは、必ずしもユーザーの課題やニーズに基づいて作られているものばかりではない──そんな状況に強い課題意識を抱く彼が目指すのは、ユーザーのインサイトとテクノロジーを駆使し、「こんなサービスを持っていたんだ」と思わせる金融サービスを届けることだ。。その強烈な思想の根底には、11歳で渡英した際に味わった「言語が通じない」という絶望と、一冊の辞書によって自らの可能性をこじ開けた原体験がある。
自らの思想を社会実装するため、スマートバンクは会社としてほぼ毎日、年間100件を超えるペースでユーザーインタビューを実施し、一次情報から歪みを特定する。現場のメンバーが顧客の事業継続のために審査に向き合う徹底したスタンスもいとわない。人間の進化を促すツールとしての金融を問い直す、彼の哲学と異常なまでのこだわりに迫る。
高金利のループに陥る構造を否定。テクノロジーで自立へと導く「卒業」の思想
既存の金融サービスに対し、強い課題意識を抱いていると伺いました。
赤池そうなんです。既存の金融サービスの多くが、本質的なN1の視点を欠き、事業者側の都合で作られている構造に問題を感じているからです。一つは、一部のお金を「貸す」サービスについて。これによってユーザーが高金利な借り入れのループから抜け出せなくなり、そのサービスに依存し続けてしまうリスクをはらんでいます。
もう一つは、海外では当たり前の「共同名義の銀行口座」が日本では開設できないこと。夫婦や同棲カップルが透明性を持って二人のお金を管理することが難しく、結果として日々の家計管理も、将来に向けて二人の資産をどう築くかも考えづらい状態に置かれています。
いずれも、ユーザーの成長やより良い意思決定を妨げてしまっている例だと考えています。
その課題に対して、スマートバンクのサービスはどう解決策を提示するのでしょうか。
赤池ユーザー一人ひとりの課題に向き合い、それを解決して次のステージへ進む手助けをすることです。
日々の生活資金に余裕がない方には、必要に応じて一時的に資金を貸し出しつつも、最終的には自らお金を管理し、長期的な資産運用ができる状態まで自立を支援する。共働きの世帯であれば、二人のお金の管理をなめらかにし、将来を一緒に設計できる状態へ導く。
こうしたサービスごとに形は違えど、共通しているのは、“今ある課題から「卒業」して、次のステップに進むことを支援する”ことです。誰もが長期的な資産形成のスタートラインに立てるよう、お金の悩みから解放する──これが我々の本質的なゴールです。
提供:株式会社スマートバンク
11歳の絶望から得た一冊の辞書。金融ツールで人間の可能性を拡張する原体験
ユーザーを自立させ、システムから「卒業」させるモチベーションの根源を伺います。
赤池11歳でイギリスに渡り、英語が理解できず周囲の言葉がただの音にしか聞こえない圧倒的な無力感を味わったことです。
そんな中、隣の席に座った友人が、日英の辞書を使ってなんとか僕とコミュニケーションを取ろうとしてくれたり、授業の内容を翻訳してくれたりしたんです。英語でカタコトでも会話できるようになるまでには1〜2ヶ月かかりましたが、その辞書というツールと、手を差し伸べてくれた周囲のおかげで、自分にできることや可能性が一気に広がっていきました。
この原体験から、リテラシーやノウハウがないために「できない」で止まってしまっている人に、テクノロジーを通じて手を差し伸べ、その可能性を拡張する支援をしたいと、強く思うようになりました。
現在の日本の金融課題は、当時のご自身が直面した「言語の壁」と同じ構造なのですね。
赤池その通りです。金融リテラシーの不足によって選択肢を失っている人々は、かつての「辞書を持っていなかった自分」です。イギリスの学生時代、現地では誰もがデビットカードを持ち、駅の改札もタッチ決済で通過するキャッシュレス社会が当たり前でした。
しかし帰国すると、ATMに長蛇の列ができ、市販の仕分けケースに現金を小分けにして管理しているユーザーが多く存在していました。イギリスでは当たり前だった夫婦や第三者と一緒に使える共同の銀行口座も、日本にはありません。このギャップを見た時、テクノロジーという現代の辞書を配ることで、人々の生活の自由度を劇的に引き上げなければならないと確信したのです。
その強烈な思いが、大企業での盤石なキャリアを手放し、スタートアップへ身を投じる理由に繋がっているのでしょうか。
赤池前職では巨大な組織の中で事業を担当していましたが、既存の枠組みの延長線上での改善や、表面的な機能追加に留まってしまうことに限界を感じていました。自分が信じるものに深くコミットし、ユーザーと対話しなければ、社会の構造は絶対に変わりません。自らが最前線に立ち、困難な環境で事業を創り上げなければ、人々の可能性を広げる真のツールは生み出せないという切迫感が、私をスタートアップへと駆り立てました。
年間100件の対話と審査。N1の解像度で既存金融の死角を突く
自らの思想を社会実装し、構造を変革するために、事業の現場ではどう行動されているのでしょうか。
赤池会社として、年間100件を超えるユーザーインタビューを継続的に実施し、徹底的に一次情報を取りに行っています。大手金融機関が豊富な資金力で市場を獲得しようとする中、我々が勝つには、既存の金融ソリューションでは解決できていないユーザーの課題、いわば業界の「歪み」を、N1の圧倒的な解像度で特定しなければ勝てません。
例えば外国人向けのサービスを検討した際は、対象者とスケジュール感覚が異なり、約束をしてもそもそもインタビューに来てくれないことが頻発しました。それでもリサーチャーは前日と当日に必ずリマインドの電話をかけ、「絶対に声を拾い上げる」という異常なまでのこだわりで向き合っていました。
その深い観察から生まれた具体的なプロダクトの事例を教えてください。
赤池夫婦やカップル向けに開発した『ペアカード』があります。事の発端は、家計簿アプリと一体化した個人向けのVisaプリペイドカードを展開する中で、同じ住所で異なる名義のユーザー登録が頻発しているという違和感でした。そこでインタビューを実施した結果、銀行の共同名義口座が作れないために、レシートとLINEを使って月末に生活費を精算している方々の潜在的なペインが浮き彫りになったのです。この構造的な課題を突くことで、彼らの悩みを直接解決する新たなプロダクトが生み出されました。
また、後払いサービスを利用するユーザーの中には、手数料を払ってでも「自分の貯金には絶対に手をつけたくない」という、我々とは異なる金銭感覚を持つ層が存在することもわかりました。自分たちの常識を手放し、彼らの思考プロセスに深く潜り込むことでしか、本質的なプロダクトは作れません。
徹底的に顧客に向き合うスタンスは、組織全体の働き方にも影響を与えているのでしょうか。
赤池はい。B2B向けのファクタリング事業では、月末に「今日中にお金が必要だ」という依頼が集中します。その際、担当メンバーは当日中の送金が可能なギリギリの時間まで、一件一件の最終審査を行い、「なんとかこの人たちにお金を届けよう」と徹底的に向き合っています。顧客の事業継続という死活問題にそこまで深くコミットできる姿勢こそが、既存金融が取りこぼしてきた層へ価値を届ける唯一の力になります。
今後、スマートバンクとして、どこまでこの領域を押し広げていく覚悟ですか。
赤池私たちが目指すのは、単に便利な決済手段を提供することではありません。お金の悩みから解放されることで、誰もが人生の新しい選択肢を手にし、長期的な資産形成のスタートラインに立てる世界を作ることです。既存の金融システムが手を差し伸べなかった無数のN1に向き合い、泥にまみれてでも彼らに「自立のツール」を配り続ける。社会の巨大なシステムを書き換え、あらゆる人が可能性を拡張し続けられる状態を作り出すこと。それこそが、我々の最大の野望です。
提供:株式会社スマートバンク
FastGrowの見解
ユーザーをシステムに依存させる構造への課題意識が、彼の視座を極限まで高めている。その根底には、11歳での無力感と一冊の辞書という原体験があった。巨大な組織の枠組みに安住せず、N1の解像度で死角を突き続ける異常なこだわり。すべては「金融からの卒業」のためだ。だが、この圧倒的な熱量を、彼らはいかにビジネスモデルに落とし込み、持続可能な事業としてスケールさせているのか。強靭な事業基盤の裏に隠された「合理的なハック」の全貌については、追って紐解く機会を持ちたい。
こちらの記事は2026年06月29日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
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