連載あの執念の正体

「前に倣うな、偉人に倣え」──上場企業を経営しても私財ゼロ。Terra Charge代表・徳重徹が抱く“日本人への怒り”の真意

徳重 徹

1970年生まれ山口県出身、九州大学工学部卒。住友海上火災保険株式会社(当時)にて商品企画・経営企画に従事。退社後、米Thunderbird経営大学院にてMBAを取得し、シリコンバレーにてコア技術ベンチャーの投資・ハンズオン支援を行う。2010年にEV事業を展開するテラモーターズを起業、アジアを中心に年間3万台のEVを販売する事業に育て上げる。その後、2016年にはドローン事業を展開するテラドローンを設立し、2022年にEV充電インフラ「テラチャージ」を立ち上げ、世界で勝てる事業の創出へ挑んでいる。著書に『「メイド・バイ・ジャパン」逆襲の戦略』(PHP研究所)。

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日本経済の停滞が叫ばれて久しい。

「昔は政治が三流で経済は一流だったが、今は政治が一流になりつつある一方で、経済は三流に成り下がった」。Terra Charge株式会社代表の徳重徹氏は、そう警鐘を鳴らす。

最後の砦である自動車産業においてすら、EVのメインプレイヤーとなる日本企業が不在であるという危うい事実がある。そんな中、東京電力や関西電力、エネオスといった超大手が名を連ねるEV充電インフラ市場に最後発として果敢に参入し、わずか4年でシェアトップを獲得したのが、その徳重氏だ。彼は世界トップレベルのドローン企業であるテラドローンを率い、上場企業へと育て上げた日本を代表する起業家でもある。

月の半分は海外を飛び回り、本取材も彼が契約に向かうウクライナのバスの中からオンラインで行われた。戦時下の異国から激しい言葉を放つ彼を突き動かすのは、能力に蓋をする同調圧力への強烈な反逆心と、失われゆく「良い時代の日本」を知る最後の世代としての責任感である。数億円の損失を伴う裁量を若手に投げ与え、ひたすらに修羅場を渇望する徳重の思想の深淵に迫る。

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主役不在のEV市場への怒り。役員を呼び戻した「桶狭間の覚悟」

マンションや自治体などにEV充電器を設置する「EV充電インフラ市場」において、すでに強力な先行者が存在し、さらには超大手が圧倒的な存在感を示しています。あえてほぼ最後発のスタートアップとしてこの市場に参入した理由は何でしょうか。

提供:Terra Charge株式会社

徳重EV化という方向性が確実に訪れる中で、日本の自動車産業にメインプレイヤーが不在であるという強烈な危機感と、個人的な悔しさ、そして“怒り”です。私は2010年にテラモーターズを創業し、インドで2万台の3輪EVを製造・販売してきましたが、いざEVの波が来た時に4輪事業への参入は資金も時間も間に合わないと判断しました。だからこそ、清水寺から飛び降りる勢いで充電インフラという領域に飛び込みました。

提供:Terra Charge株式会社

具体的に、どのような覚悟で新規事業を立ち上げたのでしょうか。

徳重当時、テラモーターズではインドの3輪EV事業が好調でした。それでも私は、そのインド事業を担っていた役員2人をあえて日本に呼び戻し、社内の新規事業としてEV充電インフラ事業──現在のTerra Charge*を立ち上げたのです。

本来、インフラ事業は東京電力やエネオスのような超大手企業が担うべき領域です。しかし、現在の大企業は、四半期ごとの業績や、巨額投資が失敗したときの損失計上に縛られ、大胆なリスクを取りにくい構造にあります。我々のようなスタートアップがリスクを負って実行することにこそ、決定的な意義があるのです。

*徳重氏は2010年にEVメーカー「テラモーターズ」を創業し、2022年に社内の新規事業としてEV充電インフラ事業へ参入。2024年12月の新設分割で、インドの電動三輪・金融事業を新会社「テラモーターズ」へ承継させ、EV充電事業を担う本体を「Terra Charge株式会社」へ商号変更した。

実際にマンションから全国の地方自治体に至るまで「無料設置プラン」を急速に浸透させ、わずか3〜4年でシェアトップを獲得できた戦略の核は何ですか。

徳重かつてソフトバンクがADSLモデムの無料配布で一気に普及させた戦略や、PayPayが大規模な還元キャンペーンで利用者を一気に獲得した手法と同じです。強い者同士が札束を投げ合うような、極めて激しい戦場になることは最初から見えていました。

私はこの事業を立ち上げる際、AmazonでかつてのADSL普及の軌跡を記した電子書籍(Kindle)を購入して読み漁り、1日目から事務所に「桶狭間の戦い」の屏風を買って飾りました。それだけの覚悟と狂気がなければ、先行者や大手を出し抜いてトップに立つことなど不可能。そして、勝ち目は結果が証明しています。2025年、我々は並いる大手を抑えてシェアトップを獲得しています。

提供:Terra Charge株式会社

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挑戦を笑う空気への怒り。7億円を溶かし「高杉晋作」を生む組織

国内での激しいシェア争いと並行して、日本、インド、タイ、インドネシアの4カ国同時立ち上げという意思決定を下していますが、その理由はなんですか。

徳重最初から世界で勝つことを前提としているからです。常識的に考えれば常識外れな判断でしょう。しかし、日本市場だけで事業をやることは、もはやディスアドバンテージでしかありません。とはいえ、インドとタイではそれぞれ5億円と2億円、合計で7億円の損失を出しました。しかし、それがどうしたというのでしょうか。失敗を恐れて動かないことの方が、よほど問題です。

テラグループの内部では、執行役員クラスの若手が1人あたり平均5,000万円から、多い者で7億円の損失を会社にもたらしています。しかも1度や2度ではありません。何度も大きな損失を出しています。

一般的なビジネス環境において、数億円単位の失敗をした若手をそのまま据え置くことはあり得ません。なぜ最前線での続投を許容し続けるのですか。

徳重世界で戦える本物の事業家は、修羅場でしか育たないからです。チャンスを与え、一度ダメだったからといって左遷して冷遇する。そんな会社がほとんどだから、挑戦する人間がいなくなってしまいました。

テラチャージの事業は、補助金の申請から日々のトラブル対応まで、毎回が修羅場の連続です。失敗による悔しさやエネルギーの蓄積、そして何度もトライアンドエラーを重ねることでしか、本物の知見や信念は手に入りません。だからこそ、ターミネーターのように、何度倒されてもすぐに立ち上がるメンタルタフネスを持った人材が育つのです。

数億円の損失という過酷な修羅場にもかかわらず、若手たちが折れずに挑み続けられるのはなぜでしょうか。彼らを惹きつけ、統率するテラグループの「核」は何ですか。

徳重私たちが強烈な「存在意義」を掲げているからです。私の机の前には「誰もなしてないことをやる」「無茶なことをやる」といったテラグループの存在意義を貼っています。HPでも「すべての人とEVにエネルギーを」と掲げていますが、インフラを無料で一気に張り巡らせ、スタートアップが社会のインフラを創るという無茶を証明することが我々の大義です。

その世界観のルーツには、高杉晋作の『功山寺挙兵』*があります。圧倒的に不利な状況でも、自らが狂い、決起することで歴史を動かす。そうした昔の偉人の狂気を、ただ知識として知るだけでなく、血肉にする必要があるのです。

*高杉晋作が幕末の長州藩で、圧倒的な劣勢のなか少数の手勢で挙兵し、藩を倒幕へと転換させた決起

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「前へ倣え」の同調圧力を打ち破る。
56歳で覚醒する私財なき挑戦者

徳重さんご自身は、周囲から見ればすでに相当な資産家であると認識されています。満足して歩みを止めるという選択肢はないのですか。

徳重全くありません。むしろ、私はお金なんて全然持っていませんよ。以前上場した際も、自社株を売っていません。だから手元に現金がなく、奥さんからは「家にお金を入れてください」と怒られているくらいです。

ゲーム感覚で上場して株を売り、個人として上がりになる。そんなものはつまらないし、世界を変える「Change the World」の基準からは程遠い。

普通はテラドローンのように自社を1つ上場させたら一息つくとかあるじゃないですか。でも私は、上場してからの方が休むどころかさらに猛烈に働いています。テラモーターズ、テラドローン、そしてこのテラチャージと、テラグループ各社を同時並行で経営し、どんどん覚醒していっているんですよ。私は現在56歳ですが、スポーツと違い、ビジネスは明石家さんまさんのように70歳になってもバリバリやれる。だからこそ、満足して止まる理由がありません。

日本の若手が「無難なゴール」に収まってしまう根源はどこにあると考えていますか。

徳重「前へ倣え」の同調圧力でしょう。日本人は本来、能力も高く信頼もできる、ビジネスにおいて最強の資質を持っているはずです。なのに、幼少期から「周りに迷惑をかけてはいけない」と教え込まれ、学校教育でも皆と同じ行動を強いられる。空気を読んで勝手に個人の能力に蓋をして使い切っていない。それが本当にもったいない。

昔は『プロジェクトX』のように頑張る人を応援する空気があったのに、今は過度に頑張ることを避けるような風潮すらある。別にワークライフバランスを重視してゆっくりやりたい人はそれでいいんです。でも、そんな人ばっかりだったら日本は沈んでしまいますよ。私はその空気感に対する強烈な危機感と反逆心を持っています。

徳重さんご自身も、やはり幼少期から「前へ倣え」の同調圧力に反抗してきたのですか。

徳重いえ、幼少期は真面目だったので前に倣いまくりでしたよ。

私自身、初めから今の狂気を帯びていたわけではなく、「九転十起」の浅野総一郎*や本多静六*など過去の偉人から徹底的に学び、自身でも何度も大きな挫折や失敗を経験し、修羅場を耐え抜いたからこそ今がある。だからこそ、人は環境次第でいくらでも変われると確信しています。若い時ほど苦しい極限の環境に身を置き、それを乗り越えた経験があれば、より難しい世界に挑めるようになるのです。

*浅野総一郎:度重なる失敗を乗り越え浅野財閥を築いた実業家。「九転十起」は七転び八起きを超えて立ち上がり続ける精神を指す

*本多静六:日比谷公園などを手がけた林学者にして、独自の蓄財法で巨富を築いた人物。徹底した努力の哲学で知られる

徳重さんの考える「世界の基準」とは、具体的にどのような水準を指すのでしょうか。

徳重イーロン・マスクやジャック・マーのような存在です。あるいは、かつて誰も通用しないと言われた大リーグに単身で挑み、道を切り拓いた野茂英雄のような人物。今なら大谷翔平選手もそうですよね。彼はビジネス界で言えばイーロン・マスクのような化け物ですが、彼も同じ日本人です。ベンチマークにすべきはこういった人物たちです。

日本人の大筋は保守的な方向に流れていますが、AI時代になり、一部には私たちの時代よりもさらに尖った若手がたくさん出てきているはず。彼らには小さな成功に甘んじず、もっと世界を見てベンチマークにしてほしいですね。

私は自分自身をまだ「ひよこレベル」だと思っていますが、国内市場だけではスケールに限界があり、日本だけで事業をやることはもはやディスアドバンテージでしかない。思考の枠を外し、もっと広い世界を見て戦う。理屈抜きで諦めずに頑張り抜けば、最後には必ず“神風”が吹くのです。

FastGrowの見解

圧倒的な熱量と狂気とも呼べる執念。徳重氏の言葉には、現代社会が失いかけている「野性」が宿っていた。三流に堕ちたともいわれる日本の産業構造への怒りを抱き、数億円の損失すら肯定し、私財を持たずに「すべての人とEVにエネルギーを」という大義のために世界の頂点を獲りにいく姿勢は、上場をゴールと見定める起業家への痛烈なアンチテーゼだ。

しかし、本稿で触れたのは、Terra Chargeの「思想」のほんの上澄みに過ぎない。7億円の損失をいかに血肉に変え、いかなる「非常識な戦術」で全国の自治体にまでインフラを張り巡らせトップシェアを獲得したのか。未だベールに包まれた極限組織の“狂気のマネジメント”や、イーロン・マスクを射程に捉える男の深淵へ踏み込むには、我々自身も次なる深い対峙の場が必要だ。

こちらの記事は2026年07月16日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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