連載あの執念の正体

「信用」をベースに設計する金融サービス?──来日前費用を後払いに。Trust & Trust中山氏が外国人材の“最初の壁”に挑むワケ

中山 平祐
  • Trust&Trust株式会社 代表取締役 

三菱商事にて船舶・自動車事業に7年半従事。スペインIESE MBA取得後、「意欲ある人がチャンスを掴める世界を実現し、社会を変革する」を理念に起業を決意。日本各地・東南アジア各国の外国人材送出・受入の現場を訪問。外国人材、企業、送出機関へのヒアリングを重ねて得た現場起点の課題感をもとに2024年9月Trust & Trustを創業。

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「意欲のある人が、生まれた場所や家庭の経済状況で、挑戦そのものを諦めなくていい」。Trust&Trust株式会社の代表、中山平祐氏が変えようとしているのは日本で働きたいと願う外国人材がいちばん最初にぶつかる“入り口”だ。

特定技能や技能実習の在留資格で来日するには、来日前費用がかかる。金額は国によって異なるが、インドネシアでは約35万円が相場となる。これは送り出し機関での日本語教育などにかかるお金だ。だが対象になるのは、地方のマス層にあたる20歳前後の若者たち。世帯月収が3万円ほどという家庭も少なくない。Trust&Trustは、この来日前費用を「来日後の後払い」に変え、あわせて金融教育を届けるスタートアップだ。現在は事業性を確認しつつ、本格展開に向けた準備を進めている。

代表の中山氏は三菱商事で船舶・自動車事業に7年半携わり、スペインのIESEでMBAを取得して、2024年に起業。シードラウンドではEast VenturesとANRIから出資を受けている。

経歴だけ見れば、王道のキャリアである。だが、金融サービスでありながら、彼は「回収」という発想から事業を始めない。なぜ、回収率を担保する金融の常識を出発点に置かないのか。日本の人手不足という“一丁目一番地”に、信頼で挑む中山氏に迫った。

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世帯月収3万円、来日前費用──チャンスの前で諦める若者と、担い手の少なかったお金

まず、なぜ外国人材の来日前費用がそれほど大きな壁になるのか。事業の狙いから教えてください。

中山来日する方の多くは、地方のマス層にあたる20歳前後の方々です。高校や専門学校を出た後の進路として、海外で働くことを選んでいます。ご家庭の世帯月収が3万円ほど、というケースも少なくありません。そこに来日前の教育費などがかかります。インドネシアでは約35万円が相場です。家族や知人からかき集めるか、地域の金融機関から借りるか、その組み合わせとなります。これが相当な負担になっているんです。

お金を工面できずに、来日を諦める人も多そうですね。

中山はい。金銭面の目処が立たないまま、日本語の勉強や就職活動を進めることになるので精神的なプレッシャーが大きいです。家族から借りるのも、一見いいことのようで、実際に聞いてみるとかなりの重荷なんです。短期間で返さなければと、家族や知人への送金に追われる。だったら諦めようと、意欲のある人が入り口で止まってしまう。それをなくしたいんです。

仕組みは、来日後の後払いと、金融教育のセットですね。

中山来日後に分割で払えるので、自分で先に工面する負担がなくなります。やる気のある方がお金の心配なく日本に来られる。彼らの本当の目的は、しっかり稼いで貯金をし、それを元に現地で人生の可能性を広げることです。だからこそ、金融教育もあわせて提供しています。せっかく来日しても、全部使ってしまって何も残らなかったのでは、帰国後の人生にとって大きな損失になりますからね。

来日前費用は「コスト」ではなく「投資」だと捉えているわけですね。

中山そう考えています。インドネシアでは約35万円となる来日前費用が3年から5年で、200万〜300万円の貯金へと変わっていきます。家族への送金も含めてです。投資として見れば、極めて効率の高い人生への投資なんです。私たちはその入り口の資金を整え、出口の貯金まで見届ける。お金を「貸す」だけでは終わらせたくありません。

なぜ、これまでこの領域には担い手が少なかったのでしょう。

中山この領域はコロナ前まではかなりニッチなマーケットで、あえて事業として手がけるほどのニーズがなかったためです。コロナで一度ゼロになって、その後に市場が急拡大している。きちんとした事業者がお金を流していくのはまさにこれからのフェーズで、今はまだ非公式な手段が中心になっています。この領域をきちんとした事業者が健全にしていく。それは、受け入れる日本側にとっても意味が大きいんです。外国人材の方々は農業や食品加工,介護など、社会の基盤を支えてくれている。私たちが当たり前に受け取っているものの先に、彼らの働きがあるんです。

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シンガポールドルは60円から120円へ──「日本の価値が3分の1になった」という肌感覚

中山さんを、この事業に向かわせた原体験は何だったんですか。

中山日本のプレゼンスが下がっていくという問題意識が、ずっと根っこにあります。2012年に交換留学でシンガポールに行ったとき、1シンガポールドルは60円でした。2018年に仕事で行ったら、80円。今は120円以上です。当時の感覚で言うと、シンガポールで物を買うと留学時の3倍くらいに感じるんです。

数字以上に、肌で感じるものがあったと。

中山そうですね。日本の価値が、3分の1になってしまった——そのくらいの感覚です。海外で学び、働く中でそれが身に染みました。だからこそ、世界と日本をうまくつないで、日本がもう一度伸びていくところに貢献したい。それが、自分の原動力になっています。それと、自分自身が海外でマイノリティになる経験をしてきたので、言葉も文化も違う場所で働く心細さがよく分かります。日本に来る方々が抱える不安も理解しやすかったんです。

その実感が、起業の原動力になっているんですね。もともと、起業は志していたんですか。

中山いえ、当時は起業という選択肢をほとんど知りませんでした。地方大学の出身で身近に起業家がいなかったんです。ただ、仕事を通じて社会を良くしたい、という思いは強くありました。商社を選んだのも、ビジネスを通じて、特に海外でインフラのようなプロジェクトに関わりたかったからです。個人として色々動いていく中で、起業という選択肢があるんだと知っていった感じです。

社会を良くしたいという思いから、外国人材の領域にたどり着くまでに、どんな道筋があったんですか。

中山商社を経てMBAに進みました。その期間中、本当に色々考えたんです。最初はヘルスケアなどいろんな業界に興味があった。ただ、どの業界の大きな課題を見ても、どうしても「人手不足」に行き着くんです。私は最先端の医療を開発するより、必要最低限のサービスを、まだ届いていない人にきちんと届けるほうに力を使いたかった。そんな時、知人を通じて、外国人材の方が地方に来てすごく感謝されているという話を聞きました。自分が全然知らなかったところで、彼らが日本を支えている。そう思い、夢中にこの事業について調べ始めたんです。

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「顧客の声を聞いていない」──突き返された案を捨て、東南アジアの現場を駆け回る

いまの事業の形に行き着くまで、最初からうまくいったわけではなかったそうですね。

中山そうですね。最初は日本側で受け入れ企業や支援機関から課題を抽出して、ビジネス案を作ったんです。それを信頼する先輩起業家に持っていったら、「顧客の声を聞いていない」と一蹴されたんです。その時、私は当事者である外国人材の声をまったく聞けていなかった。日本側の都合だけで、絵を描いていたんです。

そこから、その本人たちの声を聞きに、現場へ入り直したわけですね。具体的に、どう動いたのでしょうか。

中山法人化する前の1年は、東南アジア各国と日本の受け入れ企業、現地の送り出し機関を足で回りました。すでに来日した方や、これから来ようとしている外国人材に、40〜50人、1人あたり1時間ずつ話を聞いたんです。どういうプロセスで日本に来て、お金をどうしたのか。そこを、一人ひとりに聞いていきました。

インタビュー風景

話を聞くために東南アジア各国を自分で回ったとのことですが、その移動も、楽ではなかったのでは。

中山LCCの深夜便を乗り継ぎ、空港で寝たりドミトリーに泊まったりしながら、東南アジアを2週間で5〜6カ国回ったこともありました。でも、それがすごく面白かったんです。ゼロから自分の体ひとつでやっていく。この事業は国内に閉じず、常に海外の現場とつながっています。現場には行った方がいいではなく、行かなければならない。そこを面白いと感じられるかどうかは、この事業に関わるうえで大きいと思います。

その現場主義は、サービスの設計にも表れていそうですね。金融は普通、いかに回収するか、という発想から設計すると思いますが、Trust & Trustはどこから設計しているんですか。

中山私たちはそこが通常と違うんです。金融は普通、回収をどう担保するかという守りの発想から設計する。それも大切です。ただ、私たちが向き合っているのは挑戦する人たちです。日本に行くという挑戦を、後押ししたい。彼らの可能性を信じるというスタンスから設計しています。彼らが一番お金を必要とするタイミングで、最小限の手続きで適切な額を届けようと。

一方で、「信じる」というのは事業上の観点ではリスクではないですか。

中山私はそうは思いません。自分のチャレンジを信じてくれる相手を、人はそう簡単には裏切らないものなんです。それに、ただ信じるだけではありません。金融教育をあわせて届け、来日後は無理のない分割で返せるようにし、現場で一人ひとりと関係を築く。その積み重ねが、結果的に回収を支えます。私たちの社名は、Trust & Trust。こちらが相手を信じ、相手にも信じてもらえるように振る舞う。その上に事業の経済性を成り立たせていくんです。現在は事業性を確認しつつ、本格展開に向けた準備を進めている。

最後に、この事業を通じてどんなビジョンを実現したいですか。

中山意欲のある人がチャンスを掴める世界です。生まれた場所や家庭の経済状況で、挑戦そのものを諦めなくていい。来日前費用という入り口の壁を外せば、その先には日本に来てからの課題も、帰国した後の課題もある。そこにも幅広く取り組んでいきたい。私たちの事業領域は社会の関心が高く、丁寧さが問われる領域です。だからこそ、声高に何かを主張するより、確かな実績を淡々と積み上げていく。これが結局は一番強いと思っています。

FastGrowの見解

「外国人材への後払い」という金融に、多くの人はまず貸し倒れのリスクを思い浮かべるだろう。だが中山氏が突きつけるのは、その常識への静かな反証だ。金融は普通、いかに回収するかという守りから設計する。ところが、彼はそこを「挑戦を信じる」という一点から組み立てている。中山氏にとって、これは「お金を貸す」事業ではない。意欲のある人が、生まれた場所や家庭の経済状況で挑戦を諦めずに済む──その一点のために、金融という手段を選んだに過ぎない。

そして、この「信じる」は、机上では決して作れない確信だ。要領のいい成功の延長線上に、この確信はない。机上の仮説は、現場の前ではもろい──その事実を引き受け、丁寧さが問われる重い課題に、一人ひとりの言葉から向き合えるか。声高に主張するのではなく、確かな実績を淡々と積み上げる。社会の関心が高く丁寧さが問われる領域を、彼は煽らず、確かな一例として積み上げていく。その積み重ねが国の入り口そのものを変えていく続きを、見届けたい。

こちらの記事は2026年07月15日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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