【FastGrow厳選8社】拡大する市場で急成長するベンチャー/スタートアップvol.2
「伸びている業界、市場で事業経験を積みたい」──。当然だろう。
ここに、同じ能力を持った者同士が二人いたとする。一人は成長市場へ行き、もう一人は衰退市場へ。結果、数年後に事業家としての力が身についているのはどちらだろうか?いささか暴論であることには目を瞑ってほしいが、我々は、いつだって前者を志向してきた。
ただ、成長市場で経験を積めばなんでもいいなんてことは決してない。事業そのものが成長しなければ、もっと言えば“成長し続けなければ”、身につく力は「会社・事業を立ち上げる力」のみで限定的である。市場と事業、どちらも成長していることに価値があるのだ。
そこで今回は、拡大市場で急成長するベンチャー/スタートアップを昨年2022年に公開した第一弾に続く2023年版としてご紹介したい。読者もよく知るあのベンチャーから、これから間違いなく脚光を浴びるであろうスタートアップまで、一挙に8社をピックアップしてみた。
「それを言うならこのスタートアップも載るべきだ」「いやいや、あのベンチャーこそ今最もホットな企業だよ」など、通な読者からのコメントも期待しつつ、楽しんでもらいたい。
- TEXT BY TAKASHI OKUBO
- EDIT BY TAKUYA OHAMA
LIFULL senior──後発から業界トップに上り詰めた介護領域の最注目ベンチャー
株式会社LIFULL senior
介護領域のリーディングカンパニーと言えばLIFULL seniorだ。同社は「利他主義」を理念に掲げるLIFULLグループの一社であり、介護施設探しをサポートする『LIFULL 介護』や、介護事業者の業務を大幅に軽減する『買い物コネクト』をはじめとした様々なサービスを提供する企業だ。
利他主義の志のもと“老後の不安をゼロにする”というビジョンを掲げ、介護を必要とする高齢者を中心に業界、医療機関、行政など、ステークホルダー全ての人にその恩恵をもたらしている。
そんな同社が挑む介護市場は2000年に介護保険制度が始まってから年々拡大を続けている。2021年度の介護保険総費用は11兆円を突破。高齢化も進み、2025年には後期高齢者人口は2180万人に達する推計されていると。
市場としては今後も拡大を続けていくことは間違いない。だが一方で、需要があるにも関わらず倒産する介護事業者も増えているという事実を知らない読者も多いのではないだろうか?
「成長産業にいれば安泰」なんて甘いことはなく、そのことはこちらの記事で同社代表の泉氏も語っている。
超高齢社会を迎え、今後も介護・高齢者ビジネスは伸びるとよく誤解を抱かれます。しかし、そもそも若者が減り高齢者が増えている現在では、介護保険の財源である税収が厳しいため、このまま放っておけば業界自体が衰退の一途を辿ってしまうとも言えます。
というのも、介護施設の収入源となるのは“介護報酬”です。介護報酬は、介護保険が適用される介護サービスにおいて、事業所・施設に対価として支払われる報酬のこと。
つまり、少子高齢化が進めば進むほど、何も手を打たなければ税収減によってマーケットは衰退していく運命にあると言えるのです。
ただ一つポジティブな事実として言えるのは、“関わる層が増えている”ということ。それは、それだけ課題が大きく多岐にわたるということを意味します。なので、「マーケットの“ポテンシャル”は?」と聞かれると、間違いなく大きいと答えることができます。
当のLIFULL seniorは介護にまつわるあらゆる課題を総合的に解決する事業展開を行っている。介護のステージや、ユーザーの時間軸に応じてサービスラインナップをどんどん拡充し続けていることから、「拡大する市場のど真ん中にいるプレイヤー」と表現してなんら差し支えない。当たり前のことだが市場の課題を正しく理解しなければ、どれだけ魅力的な市場であろうと攻略などできるはずもないからだ。
そして、LIFULL seniorは既に業界最大級のサービスに成長したと言っても過言ではない。『LIFULL 介護』は、業界の立ち位置としては完全に後発組であるにもかかわらずだ。
立ち上げ当初は100~200件程度の掲載施設情報しかなく、これは競合サービスの10分の1程度。それが今や52,000件以上と、もっとも掲載情報数が多い媒体となった(2021年9月)。また情報掲載数だけでなく、利用ユーザーの満足度が高いことも後の調査で結果が出ている。
高齢化が進む日本国内において、介護を含む高齢者向けの福祉サービスのニーズと重要度はますます増加することが予想される。成長する業界には、その成長を担う人間の数も増すということだ。
今この記事を読んでいる読者も、いずれは必ず高齢者になる時期を迎える。また既に、親族や近しい人間が老後にまつわる不安を抱えているケースも多いだろう。未来の自分、未来の家族が幸せ、かつ安心して暮らせる社会をつくりたいないなら、この介護業界に身を投じてみてはいかがだろうか。
X Mile株式会社──規模100兆円の超巨大市場を攻めるネクストユニコーン注目株
X Mile株式会社
市場規模100兆円──。このような巨大な産業は、世間的にも注目されている半導体やメタバースといった市場だけではない。物流、建設、製造といった、いわゆるブルーカラー産業といわれるノンデスク市場もその一つだ。
この市場には我々の生活を支える重要な産業が多く、日本の労働人口の約60%を占める約3900万人が存在している。
とはいえ、100兆円の市場規模という言葉があまりにもスケールが大きすぎるがゆえにいまいちピンとこない読者も多いかもしれない。
そこで、分かりやすいよう、巨額の資金が動いているイメージの強い広告業界と比較してみよう。広告費の国内の市場規模は年間7兆円。つまり、ノンデスク市場はその10倍以上といえば、この市場のポテンシャルをひしひしと感じられたのではないだろうか。
そしてこの超巨大市場に、参入こそ決して早かったとはいえないまでも、急速な成長を見せ、存在感を増しているのがX Mileである。祖業である『X Work』をはじめとした人材プラットフォーム事業、運送業にまつわる業務の生産性を向上させるSaaS事業『ロジポケ』といったサービスを展開している、ノンデスク業界のDXを推進するスタートアップだ。
創業者はTerra Motors(テラモーターズ)にて海外事業の立上げを経験し、給与支払いサービス『Payme』を提供するPaymeにて取締役COOを務め、たった2年で評価額数十億円規模まで事業を牽引した野呂氏。
その手腕はX Mileでもいかんなく発揮され、2019年の総業以降、3年で組織を急拡大させ売上成長率も前年比500%を実現し続けている。また、X Mileの新規事業の立ち上げにおいても野呂氏の事業開発の知見は存分に発揮されている。直近1年間では、3つの新規事業立ち上げを行い、その1つは既に数十名の組織規模、そして数億円の売り上げに達しているというから驚きだ。
同社のユニークネスはその事業の推進力のみならず、組織・オペレーションの磨き込みにまで至っている。「Day1から1,000億円企業前提」で組織づくりを行ってきたため、「組織の壁」なんてどこ吹く風か、2023年現在、組織規模が100名を超えた現在において一度も大きな組織崩壊を起こしていないという。
X Mileの“仕組み化力”についてはこちら
ノンデスクワーカーは日本就業人口の60%を占めているが、一方で深刻な人手不足に陥っている。特に物流業界においてはその傾向が顕著で、倒産率は2022年上半期では前年同期と比べて1.5倍に急増している。そしてその要因の大半がドライバー不足だ。2028年度には約28万人のドライバー不足が見込まれている。人口の低下に伴い「働き手の数」は減少しているにも関わらず、ECの発展が「ドライバー需要」を圧迫しているのだ。一刻も早い「DXのメス」が求められている。
しかし、この領域におけるプレイヤーの数は多くない。レガシー産業特有の障壁である、根強い紙文化、デジタルシフトへの抵抗感を乗り越えることの難しさを物語っている。
そんな難解な領域にて、創業からわずか4年で急成長を遂げるX Mile。
一体どのようにして、0→1フェーズを乗り越えたのか、気になる読者は、ぜひ以下の記事を読んでほしい。
セーフィー株式会社──急成長でもまだ“筋トレ”期間。映像データがインフラ化した世界をおさえる
セーフィー株式会社
クラウド録画サービスやウェアラブルカメラをご存じだろうか。身近なものでイメージできるのは防犯カメラだろう。しかし、こうしたカメラの用途は安全を守るためだけでなく様々なシーンで活用されており、クラウド技術を組み合わせることでその可能性を広げている。
そしてこの市場で注目を集めるのがセーフィーだ。同社は「映像から未来をつくる」というビジョンをかかげ、クラウドカメラとクラウド録画サービスをつかって業界や社会の課題を解決する。2022年12月の時点でクラウド録画サービスカメラシェア56.4%で市場シェア1位を獲得し、今なおこの業界のパイオニアたる存在として成長し続けている。 また、創業者である佐渡島氏は、2020年11月に公開された『Forbes JAPAN』の「日本の起業家ランキング2021」において1位を受賞している。
そんなセーフィーが挑むクラウド録画サービス・カメラの国内市場は、2022年の段階でカメラ登録台数が31万台を超え、対前年比31%増と今なお力強く成長を続ける市場。それだけに世間の注目も高まり、このテクノロジーを活用し自社の課題を解決しようとする企業は後を絶たない。
実際、日本社会が直面している、労働人口の減少や人手不足の問題、物流業界や建設現場における2024年問題など、あらゆる産業・業界の課題解決の糸口として注目されている。
2014年に創業した同社は、2017年には9.7億円の資金調達を実施。そして同年、クラウド録画サービスシェア1位を達成し、2021年に上場を果たす。2023年現在、社員数は372名。ARRは2022年3月末から28.5%増加し77億円を超える成長率を見せる。(セーフィー社決算説明資料より)
ここまで既にSaaS企業としても十分な成長を遂げている同社だが、まだまだセーフィーが社会に与えうるインパクトはこんなものではない。全てはセーフィーが2030年までに確立すると標榜している未来「Video Data as a Service(VDaaS)」への通過点に過ぎない。「映像データがインフラ化した世界」つまり、今以上にクラウド録画サービスが普及し、各業界の企業がアプリケーションを付与することで、映像データの活用レパートリーが広がる未来だ。
「今はまだ“筋トレ”期間」。そう語る佐渡島は、来たる2030年の未来を、セーフィーが創業した2014年から緻密に描いていた。そんな佐渡島氏が語る2030年の社会から逆算した緻密なロードマップは一見の価値あり。こちらの記事をぜひご参照あれ。
FastLabel──AI開発の肝であるアノテーション領域における国内トップレベルのプラットフォーマー
FastLabel株式会社
ChatGPTをはじめ、AI市場の注目度は一層高まっている。リサーチステーション合同会社の調査によると、2022年に869億ドルであったAIの世界市場規模が、2027年には4070億ドル(日本円にして約58兆7321億円、2023年7月時点)へ達する見込みだという。
この成長市場に対して日本もアプローチしなければ、失われた30年と同じ経験を繰り返すことになりかねない。IDC Japan株式会社によると、日本国内のAIシステム市場は2022〜2027年の間で年間平均成長率23.2%、2027年には1兆1034億7700万円になると予測している。
そんな日本におけるAI産業が成長するための鍵を握っているのが、AI市場の“もう半分”と言われている「アノテーション」だ。
アノテーションとは、「AIに学習させるための教師(正解)データを作成する作業」だ。例えば、街中の写真から車や人をAIに検知させるサービスを作ろうと考えたとき、“これが車”、“これが人間”というように、データ一つひとつにタグを付けてAIに学習させる必要がある。アノテーションの精度が低いと、AIの精度も著しく低下してしまうため、AI市場が今後更に拡大していくために欠かせない重要な要素がアノテーションなのだ。
そんなAI開発の“肝”とも言えるアノテーション領域に着目し、事業として展開しているのが、AIデータプラットフォームやアノテーション代行サービスを提供しているFastLabelだ。「AIインフラを創造し、日本を再び『世界レベル』へ」というパーパスを掲げ、アノテーションを起点として、日本産業が世界に通用するサービスやプロダクトを開発できるよう貢献することを目指している。
共同創業者の上田氏は、AI後進国である日本においてAIの活用が広がらないボトルネックについて、AI開発を支援するためのアノテーションプラットフォームのような周辺サービスが充実していない面にあると考え、2020年にFastLabelを創業。
その成長速度は凄まじく、2022年の売上高は前年度比約475%、ARRは833%といった驚異的な実績をたたき出している。
同社の事業ポテンシャルは、創業後わずか数年というスピードでシリーズAラウンドにおける4.6億円の資金調達を実施したことに加え、ソニーやNTTグループをはじめとした国内最大手の企業群への導入実績が証明している。
今後の花形市場を席巻する可能性を秘めているスタートアップ企業の存在を、この機会にぜひ覚えておいてほしい。
より詳しい情報は、コチラを読みたい。
hacomono──チャーン数“実質ゼロ”。ウェルネス業界になくてはならない存在へ急成長したテックカンパニー
株式会社hacomono
FastGrowでもお馴染みALL STAR SAAS FUND前田ヒロ氏に「必ずユニコーン企業になる」と言わしめるのが蓮田氏率いるhacomonoである。
過去FastGrowにて蓮田氏の独占インタビュー記事を公開したのが2021年12月。その数ヶ月後の2022年3月にはシリーズBで20億円の資金調達を実施、その翌年2023年4月にはシーリズCにて総額38.5億円の資金調達を実施。その成長速度は同じミドルステージのスタートアップ群の中でも頭一つ飛び抜けていると言っても過言ではない。
hacomonoはウェルネス産業向けの会員管理・予約・決済システム『hacomono』を提供するバーティカルSaaSスタートアップだ。業界大手総合フィットネスのトップ10社のうち9社を顧客に抱え、その上でチャーンが“実質ゼロ”という圧倒的なプロダクトの強さを持つ。そして、その1社のチャーンですら、閉店や経営難というやむを得ない解約から生まれたもの。つまりプロダクトがフィットせず解約した企業はほぼいないのだ。その上で、2022年1月末時点では1100店舗だった導入店舗数が、2023年4月時点で約3倍の3000店舗に伸びているという。これほど理想的な成長っぷりは中々お目にかかれない。
そんなhacomonoが挑むウェルネス業界は日本の人口減少を視野に入れても、2030年には約89.6兆円の市場規模になると推計されている。
ウェルネス市場?そんなに大きいの?と感じた読者の感覚はある意味では正しい。一般的に想起されるような、“健康状態に直接的にアプローチする”ヘルスケアやメディカルの領域に止まらず、“心も身体も良い健康状態を保つ”といったウェルビーイングの領域までと、含有する範囲が非常に広いのだ。
また、個人の健康志向の高まりを受け、企業が自社の社員の健康状態を意識する傾向が強まっていることも追い風となっていると言える。この“産業ウェルネス”とも言うべき領域においては、もちろん実績や信頼のもと企業や行政との連携が欠かせない。
そんな中、民間のフィットネス領域にとどまらず、この産業ウェルネスまで一手に担うのがこのhacomonなのである。これは蓮田氏が創業期より、民間フィットネスの領域に留まらず、企業や行政に目を向け、社会全体の健康をアップデートすることを希求していたからこそだ。
「健康に無関心な人はいても健康と無関係な人はいない」。これはhacomonoの採用サイトに書かれたコピーだ。市場の成長、人々の健康意識の高まりというトレンドの追い風、そして巨大な市場に相応しいプロダクト。一見、“ジムの管理サービス”と見逃してしまいそうだが、hacomonoがここまで多くの市場参加者から注目を集めている理由、お分かりいただけただろうか。
より詳しい情報は、コチラを読みたい。
Sansan-Bill one──高い技術力をもって貪欲に社会課題に切り込むメガベンチャー
Sansan株式会社
続いて紹介するのは名刺管理システムのパイオニアであるSansanだ。ただ、今回のテーマで取り上げるのは名刺管理を起点とした営業DXサービス「Sansan」ではなく、インボイス管理サービス『Bill one』である。
2023年10月から始まるインボイス制度。企業、個人事業主への影響に限らず、電気代という我々の生活インフラにまで影響を及ぼすとも言われている。
なぜこれまで、名刺管理システム『Sansan』を運営してきた同社がインボイス管理サービスを提供するに至ったのか疑問に思う読者もいるのではないだろうか。
『Bill one』が2020年4月にローンチされた当初の姿は、クラウド請求書受領サービスであった。サービスローンチの背景には、「名刺を99.9%の精度で取り込める技術力を他のアナログ媒体にも活用できれば、企業のDXを一層サポートできるのでは」といった考えからだったという。
流れが変わったのは2022年7月、翌年にインボイス制度の導入が確定的になってきた頃、企業側からの要望を反映する形で、オプション機能であった「請求書発行機能」をインボイス制度に対応すべく、単体サービスとして提供開始することを決めたのだ。
インボイス制度に対しては、常に賛否両論が巻き起こっている。だが、経理をはじめとしたバックオフィスの業務を支援するSaaSを提供するベンダーにとっては、サービスを展開するチャンスにもなっていることも忘れてはいけない。現に、マネーフォワードCSOの山田 一也氏は、とあるインタビューにて「2021年12月~22年2月のARRが前年同期比40%増だった」と語っている。
そして、Sansanが発表した2023年5月期 第2四半期決算によると、『Bill one』の売上高は前年同期比276.2%増の8億9,800万円、2022年11月時点のARRは21億2,400万円と20億円を突破。請求書受領サービス市場で確実にマーケットシェアをおさえている。
同市場は2021年度は約24億円、翌2022年度は56億円と驚異的な成長を続けており、2026年度には412億円規模になると予測されている。
『Bill one』は既存の会計管理システムとの連携もできるような機能を持っているため、未だテクノロジー活用が進んでいない企業が会計管理システムとの接点をつくりだすための、架け橋的なポジションも期待される。こうした嗅覚はさすがSansanと言うべきだろうか。
「請求書受領サービスの機能の違いは少なく、ポイントは請求書のデータをAI OCRで自動読取りする精度と読取スピードである」と、ICT/デジタル分野を主とした市場調査機関であるデロイトトーマツ ミック経済研究所も分析している。
まさにSansanのもつ技術力が求められているということだ。今後も『Bill one』の成長から目が離せない。
ゼロボード──“脱炭素”という新たな市場の開拓者。シリーズAラウンドで企業価値100億を超える注目株
株式会社ゼロボード
最後はサービス開始から約1年余りで2200社を超える導入実績。大手総合商社の長瀬産業や住友商事とパートナーシップを結び、既にタイやベトナムといった海外展開も果たしている新進気鋭のスタートアップを紹介しよう。それは「脱炭素」「カーボンニュートラル」の実現に貢献するゼロボードだ。
同社が提供するプロダクトはGHG排出量算定クラウドサービス『zeroboard』。企業活動全体のGHG排出量を算定し可視化するソリューションだ。
2023年にはいよいよ全ての上場企業の有価証券報告書に「サステナビリティに関する企業の取組み」の積極的な開示が期待される状況。つまり、企業は今「自社がどれだけ温室効果ガスを排出しているのか」という現状把握に躍起になっている。
国際基準であるGHGプロトコルによると、GHG排出量を算定するためには自社が輩出した分量だけでなく仕入れ先や取引先も含めた全ての輩出量のデータを集約する必要があり、特に、複雑なサプライチェーンを持つ製造業などにとって、そのハードルは非常に高いと言える。そこで登場するのが、『zeroboard』だ。
もちろん、これらの流れは、日本のみならず世界中で巻き起こっている。例えば令和2年に経済産業省が公開した資料によると、アメリカは2050年のカーボンニュートラルに向けて4年間で約200兆円、EUも向こう10年で130兆円を拠出すると表明している。
こうしたClimate Tech(気候テック)企業への投資額の増加は『zeroboard』にとっても追い風だ。事実、2023年2月15日にはシリーズAにも関わらず24.4億円という大型の資金調達を発表している。
とはいえ、発足したばかりのスタートアップの事業が、なぜ1年足らずで急速に広がったのか疑問に思うはずだ。その秘密は過去の取材にて、この事業戦略について代表取締役の渡慶次が余すことなく語ってくれている。同氏の思考回路とその慧眼の秘密を知りたくば参照されたし。
過去には「企業による環境問題への取り組み」と言えば、「一部の大手企業などがCSR活動の一環として取り組むもの──例えば寄付や、植林活動など」が想起された時代もあったかもしれない。
しかし、そんな「ブランドイメージ向上のためのアクション」という認識は時代遅れと言える。昨今、環境問題への取り組みは“CSR活動”から、“重要な企業戦略”に変化しつつあるのだ。誤解を恐れずに言えば、もはや環境問題に取り組まなければ、二流企業の烙印が押されるような時代なのだ。
前述した取材の中で渡慶次氏は「CO2排出量の可視化ツールとしては、世界でも一番新しいことをやっているという自負があります」と語っている。プロダクトだけで差別化できない時代において、“事業の座組み”の力により2期目で2,200社導入を達成したゼロボード。この勢いがどこまで続くのか、今後最も目が離せないスタートアップの一つだ。
マキヤマブラザーズ──クリエイターエコノミー領域の新星、現る
マキヤマブラザーズ株式会社
スタートアップの世界において、次なる急成長企業が現れた。その名も「マキヤマブラザーズ」。同社はデジタル広告市場を中心に、新たな風を巻き起こしている急成長企業だ。
同社が手掛ける『DeLMO』とは、縦型ショートの動画広告に特化した動画素材を収集し、広告業界にSNS用の動画素材を提供するプラットフォームである。個々のクリエイター(インフルエンサーではなく、一般人)が撮影したショートムービーを活用し、これまでにない広告クリエイティブの可能性を解き放つ。その結果、インスタグラムやTikTokなどのSNS広告のCV数がなんと1,230%に拡大した事例もある。また、100以上のブランドがすでに『DeLMO』の動画素材を広告に活用しているのだ。
本当にここ最近の『DeLMO』の成長度合いは目を見張るものがありますし、導入している企業がどんどん成長していく様子を目の当たりにしています。 この縦型ショート動画の市場において、『DeLMO』の導入率が更に高まることで、間接的にTikTok for Businessの売上拡大にも繋がっていくので、引き続き注目していきたいと思います。そして今後も動画クリエイティブの制作パートナーとして、『DeLMO』との連携は強化していきたいですね。
このマキヤマブラザーズが開発・運営する『DeLMO』は2つあり、複業サービス『DeLMO』は0歳から91歳まで、1,000人以上のクリエイター(インフルエンサーではなく、一般人)が参加。一方、『DeLMO for advertiser』は50,000本以上の動画素材を提供し、マキヤマブラザーズは昨対比で300%以上の売上成長を実現している。
そんな同社は2022年7月にシードラウンドで総額5,000万円の資金調達に成功。ベクトルを中心に投資を引き付け、プロダクトの認知拡大や採用強化を進めてきている。現在は複業も含めた20名前後の組織として、2017年の創業から継続的な黒字経営を続けてきているのだ。
2023年に市場規模が1兆円を超えると見込まれる国内SNS広告市場。その中で既にSNS広告の主戦場は「動画を主とした」クリエイティブ制作に完全シフトしている。この流れに乗る『DeLMO』が属する事業ドメインは、間違いなく急成長産業に位置していると言えよう。そして、マキヤマブラザーズはこの成長産業を支える「無くてはならない存在」になることを目指し、また、着実にその存在感を高めてきているのだ。
直近ではビジョンやミッションを刷新し、「すべてがアイデンティティになる時代をつくろう」(VISION)、「複業の一歩目となり、伴走者であり続ける」(MISSION)と掲げるマキヤマブラザーズ。広告業界の未来を創造し、広告業界に新風を巻き起こす同社の進化に、今後も注目が集まるだろう。
こちらの記事は2023年07月31日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
執筆
大久保 崇
編集
大浜 拓也
株式会社スモールクリエイター代表。2010年立教大学在学中にWeb制作、メディア事業にて起業し、キャリア・エンタメ系クライアントを中心に業務支援を行う。2017年からは併行して人材紹介会社の創業メンバーとしてIT企業の採用支援に従事。現在はIT・人材・エンタメをキーワードにクライアントWebメディアのプロデュースや制作運営を担っている。ロック好きでギター歴20年。
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