連載私がやめた3カ条

ロジカルシンキングなんて捨ててしまえ!──UPSIDER宮城徹の「やめ3」

インタビュイー
宮城 徹

東京大学を卒業後、2014年にマッキンゼー・アンド・カンパニーに新卒で入社。東京支社・ロンドン支社にて、銀行オープンAPI等のデジタル戦略策定、手数料体系や店舗配置の最適化等、大手金融機関の全社変革プロジェクトに携わる。同領域への課題意識と知見・経験をもとに、取締役COOの水野(株式会社ユーザーベースの元マーケティング責任者)と、2018年に株式会社UPSIDERを共同創業。

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起業家や事業家に「やめたこと」を聞き、その裏にあるビジネス哲学を探る連載企画「私がやめた三カ条」略して「やめ3」。

今回のゲストは、成長著しいスタートアップ企業向けの決済サービスや法人カード『UPSIDER』を提供する、株式会社UPSIDER代表取締役、宮城徹氏だ。

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宮城氏とは?──論理と直感の狭間で着想する“逆張り”起業家

「規則に則った行動が苦手なんです」。この発言が、東大卒、マッキンゼー勤務を経て、金融領域で起業した人物の口から出た言葉であると聞いて、どのような思いを抱かれるだろうか。「とても信じられない」というのが普通の反応だろう。現代の“王道エリート”とも言っていいその経歴には全くそぐわない発言なのだから。

宮城氏が代表を務めるUPSIDERは、成長企業向けの法人カード事業を展開している。SaaSの支払いなどで法人がカード決済をしなければならない場面は増えてきているが、立ち上げたばかりのスタートアップが契約できる法人カードの中には利用限度額が低く使いづらいものもある。限度額に達して支払いが止まってしまうと「ウェブ広告がストップした」「サーバーがダウンした」といったアクシデントが起こりうる。成長速度と限度額の引き上げがかみあわず、投資のアクセルを踏めないこともありえる。

そんな「資金面の成長痛」を取り除くのが、UPSIDERが提供する法人カードだ。利用限度額は最大1億円以上まで引き上げられる上に、スタートアップでも気軽に利用可能だ。UPSIDERには他にも、ポイント還元率の高さや不正利用の補償など、さまざまな魅力がある。一般的な感覚からすれば、東大・マッキンゼー卒のエリートが徹底的にロジカルに考えて編み出された事業であるように思えるUPSIDERだが、「直感を信じた結果生まれてきた事業」であるというから驚きだ。

宮城氏自身、「『何かをやめること』自体をすごく重要視している」と語っている。なぜやめることが重要なのか、そして宮城氏は具体的に今まで何をやめてきたのか。一つひとつ丹念に見ていきたい。

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王道の中で努力することをやめた

東大卒からのマッキンゼー。現代のビジネス系キャリアでは、花形とも形容できる。しかし宮城氏にとって、それは決してベストとは言えない選択肢だったという。

宮城「マッキンゼーに就職する」ということを友人に伝えたら、「やめておいたほうがいいんじゃない」と言われました。当時の私はその言葉の真意を理解できずにいましたが、マッキンゼーで働き出すと、その意味を痛感しました。

私はルールに則った行動が苦手なんです。どうしても嫌なことは嫌で(笑)。だからマッキンゼーではかなり苦労しました。例えば、PowerPointでスライドを作る際には「1スライド1メッセージ」という原則を徹底的に指導されるのですが、何度指導されても、1スライドに3つくらいのメッセージを入れたくなってしまう(笑)。周囲の同僚たちには自然とできているようなことが、私だけできなかった。

マッキンゼーって、もともと優秀な人たちの集まりじゃないですか。最初から能力が高い人たちが、さらに努力を続けることでようやく勝てる環境。それがマッキンゼーでした。私の場合、上司の指示に従う形での努力ができない。それはマッキンゼーでキャリアを築いていく上で致命的でしたね。

「努力ができなかった」という当時の宮城氏は、オフィスから帰宅する時間も早かったという。もちろん、同僚や上司はまだ働いている時間帯にも関わらず、だ。端的に言えば、「組織の一員としての会社員に向いていない」ということになるのだろう。宮城氏は「努力ができないことを半年で悟り、1年くらいで確信しました」と述べている。

しかし宮城氏は、そこで腐らなかった。「普通にしていたら、自分は“できないヤツ”と評価され、“おもろい”こともできない」と感じた同氏は、これまでの王道中の王道キャリアから少し「ズラして、逆張りで生きる」ことを意識するようになる。

意外なことに、当時のマッキンゼー日本支社においては、製造業やヘルスケア産業向けのいわば“花形”と呼ばれるチームに比べ、金融機関向け事業はそこまでプレゼンスが大きくなかったのだという。宮城氏は「社内の中でも、金融機関向けチームはいわばスタートアップ的な位置付けでした」と評す。一方、世界のマッキンゼーを見ると、金融機関向けコンサルティングこそが“花形”だったそう。「日本ではまだそこまで事業が育っていない、いわば“無風”の領域でしたが、そこにあえて飛び込むという“逆張り”を決行したわけです」。その戦略が、功を奏すことになる。

宮城当時の金融チームは小規模で上司もほとんどいなかったので指示されることもなく、自由に行動できました。

すると、ジュニアレベルでは評価されないけれども、そのさらに上位者のレベルで評価されるスキルが自分にはあることがわかっていきました。例えば、歳がだいぶ離れているクライアントに気に入られる力はあると思っています。“おじさんキラー”とまで呼ばれていました(笑)。他にも、思いついたアイデアをすぐに話にいく行動力などがありますね。

「一風変わった存在」になることで、社内外に着実にファンを増やし、評価を高めていった宮城氏は、世界のマッキンゼーの金融事業の中心、ロンドンオフィスへ晴れて異動することになった。「ルールに則ることができない」という自分の弱みに向き合い、あえて“ずらす”戦略を取ったことで、道なき道を切り開いたのだ。

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ロジカルシンキングをやめた

宮城氏によれば、起業する際に事業領域を選ぶにあたっては、論理的思考ではなく「違和感からくる直感」を信じて企業間決済市場を選んだのだという。宮城氏が起業した当時の市場は「無風だったので、頭が良い人が論理的に考えて起業するなら、決して選ぶ領域ではなかった」そう。

「論理的に考えると、全ての人が同じ正解に行き着いてしまいます。だから私は、論理的に考えることをやめました」。マッキンゼー出身者の“専売特許”ともいっていいロジカルシンキングを捨てるとは何事か。なぜそのようなスタイルに行き着いたのか。

宮城マッキンゼーで働いていた当時から、論理的思考の有用性については懐疑的になっていました。論理的に考えても、“おもろい”答えは出てこない。でも、“おもろい”ことを考えることって、ビジネスにおいてはすごく重要だと思うんです。

金融機関の経営会議に出席していたときの話です。論理的に「重要だ」と判断された物事がトピックに上がるわけですから、確かに僕から見ても重要そうなものばかりでした。でも、僕としてはそこにお客さんに関する話が少ないように感じました。論理的な裏付けはないんですが、何か引っかかるものがあったんです。

そんな風に“違和感”を感じる出来事がいくつもあり、あえて論理的思考に対して距離を取るようになりました。今は自分が「ロジカルに考えているな」と思ったら注意するようにしています。採用基準を考えたりするときなど、深く思考している際には特に、です。ただ論理性も全く使わないわけではありません。“違和感”を感じ、直感的に「これだ」と思ったことを他人に説明する際に論理的思考を使っています。説明のためのツールのようなものですね。

論理的思考ではなく、普段から仕事をする中で感じた“違和感”がいくつも積み重なる中で形成されていく直感を信じる。UPSIDERの起業アイデアも、その独自の思考スタイルによって導き出されたものだ。

ただ、UPSIDERの事業が論理的に導かれた帰結ではないため、資金調達のタイミングでは苦労したという。論理で考えると「当たる」とは言えなかったため、全く相手にしてくれない投資家もいたそうだ。

宮城“おもろい”かどうかを大事にしたいので、万人が“Yes”と答える選択肢は取りません。論理的には間違っているように見えても、直感的に「イケそう」と判断したのであれば、とりあえずやってみる姿勢が重要だと考えています。

ビジネスにおいて、何が最適な意思決定なのかはわからない。論理的に考えても間違えることはある。ときには、宮城氏のような“逆張り”に市場が傾くこともあるのだ。

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飲みに行くのをやめた

ネットワーキングは、起業直後のフェーズでは仕事をすることと同じか、それ以上に重要と考える人もいる。ネットワーキングをする上で、飲み会を通じたいわゆる“飲み二ケーション”は仲間との距離を縮める手っ取り早い手段だ。宮城氏もその点については同意しつつも、飲みにいくのをやめたのだという。宮城氏自身、「必ずしも良い判断とは言えなかった」と振り返る。

宮城単純に、お金がなかったので、飲みに行くことをやめました。確かに、会社としては資金調達もしていたのでお金はあることにはあったのですが、コロナ禍でフィンテック業界全体に逆風が吹いていたこともあり、支出はなるべく減らしておきたかったんです。「お金がないから」と言えば断りやすくて助かりました。サービスリリースもしていなかったので、お金は減る一方で。実は当時、家もなくて、知り合いの家など転々としていました。

飲み会自体は好きで、マッキンゼー時代はよく飲んでいたという宮城氏。スタートアップを立ち上げるにあたり、生活水準を下げなければならなくなったわけだが、「マッキンゼーに戻りたいとは思わなかった」という。

宮城確かに飲み会は好きだし、「重要だ」とも思っていましたが、「お金がない」という現実があったので飲む習慣については諦めざるを得ませんでした。

スタートアップ立ち上げ当初は、顧客と1対1の対話を重ね、プロダクトを徹底的に磨き込むことが最優先事項です。フェーズが進んでいけばネットワーキングも重要になりますが、最初はそうではない。だから飲み会はやめたんです。

資金面で余裕が出てきてからは、必ずしも飲み会を禁じているわけではない。宮城氏曰く「状況が変わればやめることをやめても良いんです」。ただ、飲み会で営業をするわけでもないのだという。

宮城飲みの席で仕事を取ろうとは全く思わないですね。あくまで昼間のオンの時間帯に貴重な時間を割いていただけるかどうかが重要。飲み会を再開したのは、事業が回るようになってきて、飲めるようになったからですね。

「お金がない」ことが理由で2年半ほど飲むのをやめていましたが、結果としてはすごく良かった。ただ、それが最適な選択肢だったかというと、今でもわかりません。

何かを変えようとするときには、時間の使い方、お金の使い方、会う人、これらを変えなければなりません。今回の場合、私は飲みに行くのをやめることが、結果的に自分を変えるきっかけになりました。「何かをやめてみる」ということは、人生を変える上で大きなパワーになり得ます。

落ち着いた語り口ながら、飄々と型破りなことを言う。

「論理的に考えることをやめた」とはいえど、ときには論理にも依拠して思考しているようにも感じられる。おそらく、論理と直感の両極を自由自在に行き来する、そのバランス感覚こそが、“逆張り”起業家・宮城氏の真骨頂なのだろう。

こちらの記事は2022年05月13日に公開しており、
記載されている情報が異なる場合がございます。

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