社員こそが最重要顧客だ。
急成長ベンチャーが実践する「スクラム採用」の仕掛けとメリット

メルカリ、Fringe81、PR Tableなど、急成長を遂げるベンチャーには、ある共通点が見られる。現場社員主導型の「スクラム採用」を実践しているのだ。

「スクラム採用」とは、採用プラットフォーム「HERP ATS」を提供する株式会社HERP代表取締役CEOの庄田一郎氏が提唱する概念だ。これまでのように人事部だけが採用活動を行うのではなく、社員の属人的な繋がりを生かし、リクルーティングを行う。チームを組成し、ソフトウェアを開発する「スクラム」を採用に応用したものだ。

では、スクラム採用を成功させるには、どのような要諦があるのだろうか。2019年4月23日、HERPと株式会社YOUTRUSTが共催した「Scrum Recruiting LABO #2 現代に適した採用の形『スクラム採用』を実践する企業の人事が語る」で、その一端を知ることができた。

登壇者は、庄田氏に加え、スクラム採用を実践する株式会社SmartHR代表取締役社長の宮田昇始氏、株式会社ミラティブ代表取締役CEOの赤川隼一氏。モデレーターはYOUTRUST代表取締役の岩崎由夏氏が務めた。スクラム採用を成功させるためのノウハウが余すことなく明かされた。

  • TEXT BY ERIKA MIZUOCHI
  • EDIT BY MONTARO HANZO

登壇者

宮田 昇始 (みやた・しょうじ)

株式会社SmartHR 代表取締役

宮田 昇始

みやた・しょうじ

株式会社SmartHR 代表取締役

大学卒業後、Webディレクターとしてキャリアをスタート。医療系を中心にWebサイトや、アプリケーションのディレクションを複数の企業で担当。 2012年に10万人に1人と言われる疾患を発症したが、傷病手当金(社会保険の一つ)を受給できたおかげで無事完治。社会保険のありがたみを身をもって感じる。その後、2013年に株式会社KUFU(現株式会社SmartHR)を創業。会社のなかで、経営者として社会保険手続きの煩雑さに課題を感じ、SmartHRを発案。2015年1月にシードアクセラレーターである Open Network Labに第10期生として採択される。公開後は、TechCrunch Tokyo、B Dash Camp、Infinity Ventures Summitなど様々なイベントで優勝。HRアワード2016最優秀賞、グッドデザイン賞2016、東洋経済すごいベンチャー100にも選出。

赤川 隼一 (あかがわ・じゅんいち)

株式会社ミラティブ 代表取締役

赤川 隼一

あかがわ・じゅんいち

株式会社ミラティブ 代表取締役

2006年DeNAに新卒入社。広告営業部署、サービス企画を経て、Yahoo! Mobageを新規立ち上げを経験。その後、同社執行役員として海外事業の立ち上げやゲーム開発を行う。2018年2月、株式会社エモモ(現 ミラティブ)を創業。

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スクラム採用で欠かせない5つの定義

冒頭、「スクラム採用」の提唱者である庄田一郎氏からその定義が説明された。スクラム採用とは、社員の属人的な繋がりを活用し、低コストで優秀な人材を得る手法を指すという。

背景には、スキルを身につけた「特化型人材」獲得の狙いがある。経営陣や採用担当者が判断するのではなく、現場で仕事をする社員が主導となってスキルを見定めることで、実際に即した人材採用を叶えるのだ。

庄田氏は社内で「スクラム採用」を根付かせるうえで、欠かすことのできない5つの定義を提示する。

庄田1つ目は、経営陣が採用にコミットしており、社員を巻き込む重要性を理解していること。2つ目は、採用活動のフローを分解し、それぞれの役割を社内の最適な担当者に権限移譲していること。自社の専門職メンバーたちがそれぞれの専門職に合った採用手法に主体性を持って取り組み、彼ら主導でPDCAを回している状態が理想です。

3つ目は、必要な情報と成果の可視化。特に採用活動へ参加することで得られた定量的な成果を定期的にフィードバックできなければ、活動への意欲そのものが薄れてしまいます。4つ目はオフラインでの関係構築。SNS経由での採用が増えたとはいえ、イベントやミートアップなど、顔が見える接点を持つことは、採用の確度を上げるうえで欠かせません。

5つ目に重要なのが、制度設計です。単に「人材を連れてきてほしい」と言うのではなく、社員が採用活動に対して前のめりになる仕掛けを作る必要があります。たとえば、佐藤裕介さんが代表を務めるヘイ株式会社では、採用活動での「会食費」を会社が負担しているそうです。

続けて、モデレーターの岩崎氏から、スクラム採用における自身の成功体験が語られた。

新卒でDeNAに入社した岩崎氏は、同社の採用をエントリーからクロージングまで担当。当時は面談数、イベント登壇数など採用に関する行動を全てKPIに落とし込み、成果を数値に現していた。しかし、数値に振り回されるなかで現場の社員は疲弊。最終的には士気が低下し、リファラル採用数がゼロになるまでに落ち込んでしまった。

その後、DeNAを退社してフリーランスとしていくつかの企業の採用活動に取り組むなかでスクラム採用に出会った岩崎氏は、「採用担当の自分が動いて成果をあげようと思うのではなく、会社として採用を成功させることが重要」と、採用本来の目的を再認識。補助金制度の設計・実施や進捗管理など採用担当が「黒幕」に徹することで、社員一人ひとりが採用を「自分ごと化」できる仕組みを構築していった。最終的には、リファラルでの採用率が90%を突破したという。

岩崎スクラム採用を実践する際は、人事は「管理側」に徹してください。スカウトや求人票の作成など、一見すると人事がやるべきタスクでも、現場に任せる。すると、現場の「肌感覚」を持った社員たちが確度の高い人材を連れてきてくれます。これが、スクラム採用の醍醐味です。

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スクラム採用を実現する「ドリームチーム」と「性弱説」

スクラム採用を実現させるためには、岩崎氏がそうしたように、社員の採用へのモチベーションを高める必要がある。スクラム採用を実践するミラティブ赤川氏とSmartHR宮田氏からは、社員に採用を「自分ごと化」させるためのさまざまな施策が披露された。

赤川ミラティブでは社員一人ひとりに「サカつくシート」を作ってもらっています。ゲームの『プロサッカークラブをつくろう!』から取っているのですが、自分が考える「ドリームチーム」を構成し、ベストメンバーを具体的にイメージしてもらうんです。どのような人材を連れてきたらいいのか、採用に向けて考え始める第一歩として、非常に機能していますね。実際に理想的なメンバーを採用できると、社内がすごく盛り上がります。

SmartHRの宮田氏は、社員の採用モチベーションを考えるうえでの要諦として、2つの理解を挙げる。「人は易きに流れる」ことと、人の意志は弱いと認識する「性弱説」に立ち返ることだ。

宮田人間はメリットがなければ能動的に動けない生き物。弊社ではわかりやすいインセンティブを設けることで、社員のモチベーション向上に繋げています。たとえば、一緒に働きたい友人や元同僚と食事に行く際、会社から食事にかかった費用を付与しているんです。社員からすればラッキーだし、そこから採用につながれば低コストで人材を獲得できることになります。

また、制度設計以上に「社員が自慢したくなる会社にすること」が大事だと両氏は口を揃える。

宮田私は今まで、あまり「良い会社」に勤めたことがありませんでした。2007年に新卒入社した会社は、退勤時間が24時を回るのが当たり前な「ブラック企業」。2社目、3社目も、人に自慢したくなるような会社ではありませんでした。

一方で、良い会社に勤めている知人・友人は、自然に「会社へ遊びに来てみなよ」と話している。自分の会社を誇りに思い、周りにも薦められることをとても羨ましく感じたんです。過去に働いていた企業を反面教師に、社員がおすすめしたくなるような会社をつくりたいと思いながら日々働いています。

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現場には、命令しない。強制しない。

社員の採用モチベーションを向上させるための施策として、SmartHR、ミラティブに共通していたのが「命令も強制もしない」点だ。スクラム採用は、現場主導で動かなければいけない。経営や人事が命令しているうちは実践できているとは言えない。

自主性を促すために、導入期のみ強制力を働かせる手法もあるが、会社の都合を押し付けず、あくまで自発的に動いてもらう文化を醸成することが肝要だ。

宮田もともと弊社は「命令が少ない経営」をコンセプトにしており、バリューのひとつとして「自律駆動」を掲げています。ルールの構築だけでなく、入社前の段階から価値観のすり合わせを徹底しているんです。「バリューに少しでも違和感があれば入社しないほうがいい」と、必ず面接中に伝えるようにしています。

忠告したうえで入社してくれる社員は非常にモチベーションが高いですし、命令しなくても済む組織を組成することができます。実際、エンジニアの体験入社制度オンラインセールスの公開オンライン商談入社歓迎会の練習会inサイゼリアなど、弊社独自の採用企画は全て社員が自発的に実行してくれました。

赤川氏が理想として掲げるのは、規則ではなく「美徳」で動く組織。人としてどうありたいか、何を徳と捉えるかの美意識を共有していれば、自然と美徳に沿った言動が生まれる。簡単に言うと、「お互いを誇らしく思えるような行動をしよう」といったマインドセットだ。

赤川やはり人って褒められると嬉しいじゃないですか。双方で尊敬しあえる強みのあるメンバーを集めて褒め合う空気を形成すると、自発的に動きやすいのかなと思います。弊社の場合、全社の戦略共有に加えて、自分の価値観や会社に対する想いを共有する「プレミアムエモイデー」を定期開催しています。

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経営者は、社員こそが最重要顧客と認識するべきだ

スクラム採用は現場主導で推進するからこそ、経営者の役割も問い直される。

宮田氏、赤川氏ともに「経営者が採用にコミットするのは大前提」とし、両者とも自身のリソースの半分以上を採用に当てていると語った。

宮田社長は「Chief Everything Officer」だと認識しています。簡単にいえば、会社のあらゆるボトルネックを見つけ、優先順位をつけて解決していく役割です。弊社の場合、今はプロダクトが成長し、人材も揃ってきているので、僕が事業に関わることが減ってきています。空いた時間は、ほぼ採用に投資していますね。

事業を立ち上げたばかりの時期は、当然に事業の成長が最優先になる。メンバーに任せられる領域が増え、リソースが空くタイミングで経営者が採用にコミットすれば、より事業にレバレッジをかけられる。良い循環が生まれるわけだ。

「出会う人全てが採用候補者に見えてくるんですよ」と発言した赤川氏は、経営者としてのコミュニケーション全てが採用活動だと捉えている。

赤川会社の代表って、一挙手一投足を全て見られていると思うんですよ。だからといって常に気を張る必要もなくて、時にはオフモードでくだらない話もしていい。いずれにせよ、全てのコミュニケーション、アウトプットが採用に直結する。だからこそ、言行不一致を起こさず、有言実行し続ける覚悟は必要です。

言動に一貫性があるかどうかは、採用候補者だけでなく全てのステークホルダーからの信頼に直結する。何気ないアウトプットが瞬く間に拡散される今、赤川氏のように発言するたびに覚悟を決める姿勢は見習いたいところだ。

宮田氏が経営者として持つべきマインドセットで提示したのは「企業にとって一番の顧客は社員だと理解する」ことだった。

宮田「社員は、自分自身の貴重な時間を会社に提供してくれている。だから、会社はそれ相応の対価を提供しなければいけない」

新卒時代の上司に言われたこの言葉を、いまでも大事にしています。採用は最重要顧客をとりにいく営業活動だと思って動いていますね。

土地や金は失っても取り戻せる余地があるが、時間だけは不可逆だ。社員や候補者に「貴重な時間を投資してでも働きたい」と感じてもらえる事業や組織の構築は、スクラム採用を実施するにあたり、経営者こそが取り掛かるべき仕事といえる。

スクラム採用に早くから取り組んだSmartHR、ミラティブは、短期間で目を見張るような急成長を遂げている。その大きな要因は、優秀な人材を獲得し続けてきたからに他ならない。人口が減少し、労働人口も比例して減り続ける日本において、人材獲得競争は激化する一方だ。競争に打ち勝つための一手として、スクラム採用は試す価値があるのではないだろうか。

登壇者

宮田 昇始 (みやた・しょうじ)

株式会社SmartHR 代表取締役

宮田 昇始

みやた・しょうじ

株式会社SmartHR 代表取締役

大学卒業後、Webディレクターとしてキャリアをスタート。医療系を中心にWebサイトや、アプリケーションのディレクションを複数の企業で担当。 2012年に10万人に1人と言われる疾患を発症したが、傷病手当金(社会保険の一つ)を受給できたおかげで無事完治。社会保険のありがたみを身をもって感じる。その後、2013年に株式会社KUFU(現株式会社SmartHR)を創業。会社のなかで、経営者として社会保険手続きの煩雑さに課題を感じ、SmartHRを発案。2015年1月にシードアクセラレーターである Open Network Labに第10期生として採択される。公開後は、TechCrunch Tokyo、B Dash Camp、Infinity Ventures Summitなど様々なイベントで優勝。HRアワード2016最優秀賞、グッドデザイン賞2016、東洋経済すごいベンチャー100にも選出。

赤川 隼一 (あかがわ・じゅんいち)

株式会社ミラティブ 代表取締役

赤川 隼一

あかがわ・じゅんいち

株式会社ミラティブ 代表取締役

2006年DeNAに新卒入社。広告営業部署、サービス企画を経て、Yahoo! Mobageを新規立ち上げを経験。その後、同社執行役員として海外事業の立ち上げやゲーム開発を行う。2018年2月、株式会社エモモ(現 ミラティブ)を創業。

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執筆

水落 絵理香

フリーのライター・編集。CMSの新規開拓営業、マーケティングポータルサイト「ferret」のライター・編集、スタートアップでの編集・集客を経て独立。

編集

姓は半蔵、名は門太郎。1998年、長野県佐久市生まれ。千葉大学文学部在学中(専攻は哲学)。ビジネスからキャリア、テクノロジーまでバクバク食べる雑食系ライター。

デスクチェック

1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。

こちらの記事は2019年07月08日に公開しており、記載されている情報が異なる場合がございます。