スタートアップが協業先を選ぶ時代に──「スタートアップ×大企業」のオープンイノベーション&提携事例6選

数年前に比べれば、スタートアップ・ベンチャーへの注目度は年々高まっているのは間違いないだろう。社会課題を解決する期待の企業であり、求職者にとって魅力的な働き先として多くの人が意識する存在となった。そして昨今は、大手企業✕スタートアップ・ベンチャーによるオープンイノベーションも活発になっており、ますますスタートアップ・ベンチャーへの期待度が高まっている潮流を感じずにはいられない。

オープンイノベーションとは、企業同士が互いのアイデアや技術、これまで蓄積してきた研究やデータをオープンに共有することで、1社ではできないイノベーションを実現することだ。性質の異なる大手✕スタートアップ・ベンチャーがWin-Winな関係を築けば、そこから生まれる価値には無限大の可能性があるといっていい。

そこで今回、大手✕スタートアップ・ベンチャーのオープンイノベーションについて考察し、具体的な事例6件も取り上げてまとめてみた。各社の共創の背景や内容、目指す姿から、ぜひ一緒に未来を考えたい。

  • TEXT BY TAKASHI OKUBO
  • EDIT BY TAKUYA OHAMA
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eiicon、LayerX、プレイド……オープンイノベーションの代表的な担い手のスタートアップといえば?

FastGrowは以前から、オープンイノベーションに関する取材と記事制作を進めてきた。

たとえばeiicon。「オープンイノベーション」という市場を日本で新たに生み出すことを目指し、前例のない事業創造プラットフォームを創出してきた。

eiiconによると昨今、スタートアップ側からコラボレーションしたい大手企業を逆指名するといった傾向も増えているという。従来、この手のイノベーション創出プログラムは、大手企業が主催しスタートアップからの応募を募る、といった形が主であったのだが、必ずしもその構図だけではなくなってきているのだ。

これはすなわち、スタートアップが以前よりも市民権を得て、大手企業とも対等に向き合えるようになってきたというポジティブな変化と言えるだろう。

また、大企業とスタートアップのわかりやすい事業競争事例としては、三井物産LayerXによるジョイントベンチャー、三井物産デジタル・アセットマネジメントの例が挙げられる。過去に対談形式のロングインタビューをしているので紹介しよう。

三井物産はほかにも、上場SaaSベンチャーの代表格プレイドとのジョイントベンチャーとして立ち上げたドットミーがある。博報堂から第三者割当増資による資金調達を実施したり、味の素と共同で商品開発をしたりと、共創の輪を広げている。この事例に触れたプレイドのインタビュー記事も掲載しておこう。

そしてもう一つの観点。オープンイノベーションの担い手と言えば、大企業によるCVCだ。その中でも、協業の考え方に特徴がある三菱地所と三井不動産での事例を聞いた記事を紹介したい。

このように、FastGrowが触れてきただけでも多くの取り組みがある。と言っても読者の多くはまだ、「日本では、大企業とスタートアップによるオープンイノベーションで、世の中を大きく変えたような取り組みは思い当たらない」と感じているところなのではないだろうか。

そんな感覚を打破するような新たな事業が、ここまでに紹介した事例、もしくは以下に詳述する事例の中から出てくることを期待して、この記事をまとめていきたい。

ここからは個別の共創・協業事例5件に、詳しく迫っていく。

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ソルブレイン✕三井物産──本質的なデジタルシフトを牽引する理想の提携

データとテクノロジーを駆使して顧客利益最大化を追求するソルブレインと、ICT・テクノロジーによる事業改善に注力する三井物産。2023年4月に資本業務提携を発表した両社は、デジタルシフトの本質的な進展に重要な役割を果たしている。

昨今、DXの必要性は盛んに叫ばれているが、多くの企業では部分的な取り組みにとどまり、本質的なデジタルシフトは遅れているのが現状だ。この状況の中、テクノロジー・データ分野に強みを持つソルブレインと三井物産の提携によって、デジタルシフトの課題解決への期待が高まっている。

三井物産ICT事業本部の小日山氏は、この提携を「業界の競争を勝ち抜く重要な鍵」と捉えている。三井物産が持つ、BPO分野で国内第2位の規模と、ソルブレインの専門知識・技術の組み合わせが、他社に対する圧倒的な優位性を生み出すと同氏は確信している。加えて、この提携を通じて自社の事業領域をさらに大きく拡張していけることにも期待を寄せる。

対し、ソルブレインのCEO櫻庭氏は、三井物産の提携に対するフェアなアプローチに尊敬の念を抱く。「三井物産は日本を代表する商社であり、多様な事業領域での展開があります。彼らはソルブレインの成長を考慮しながら提案をしてくれました。このようなフェアな取り組みは、我々の成長にとって非常に価値があります」と、まさしく三井物産の「人」の魅力が今回の提携の意思決定に大きく影響したと話す。

事業提携は、お互いのリスペクトに基づいて成り立つもの。大企業はベンチャー企業に不利な条件を提示すべきではなく、ベンチャーも大企業のカルチャーやガバナンスを無視すべきではない。お互いの強みと弱みを理解し、平等な関係で価値創造に取り組むことが重要である。

この度の三井物産とソルブレインの提携は、これらの原則を理解し、相互のリスペクトのもとに進められたものと言える。こうした良質な業務提携が増えることで、様々な業種の市場が刺激され、より活性化されることは間違いないだろう。

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Ubie✕中部電力──人々の生活に対する解像度を上げ、ヘルスケア業界を進化させる

AI・テクノロジーの力で医療業界の課題を解決するUbie。全国の医療機関の中から、近隣の医療機関を検索できる症状検索エンジン『ユビー』、患者の問診回答を事前に確認することができる『ユビーメディカルナビ』等を展開している。そんなUbieが2022年7月に中部電力を引受先とする第三者割当増資を実施した。日経新聞によると「出資額は非公表だが数億円程度」と、スタートアップの資金調達としては決して小さくない額だ。

中部電力は、電力事業以外にも手を広げつつあり、その戦略の中の一手だと言えよう。子会社であるメディカルデータカードがすでに、オンライン診察ツール『MeDaCa』の開発と提供を進めていた。

このように、医療業界のアップデートという思想が一致する2社が手を取り合ったかたちの、この業務提携。2023年度には、Ubieの問診データとMeDaCaの検査結果データなど、2社のデータを掛け合わせ機能向上を図るとしている。

また、中部電力グループが提供する連絡網サービス『きずなネット』や中部電力の管理アプリ『カテエネ』などのサービスとの連携もするという。医療という分野を軸に、日常の生活範囲のなかにより溶け込むことで、利便性を高めるのが狙いだろう。

プレスリリースの記述にも「医療・ヘルスケア分野での取り組みをさらに大きく発展させるとともに、生活者一人ひとりに寄り添い、暮らしを便利で豊かにするサービスをご提供することで、生活者や社会とともに持続的な成長を実現していきます」とあるように、医療業界のイノベーションを加速させるためにも、人々の基盤となる暮らしに密着していこうという意図が感じられる。

お互いが必要としているデータやネットワークを提供し合うことで、Ubieも中部電力も、そしてユーザーにとってもメリットがある提携になっていきそうだ。

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セーフィー✕セコム──スタートアップはビションの実現を加速させ、大手は新しいテクノロジーを得る

「映像から未来をつくる」をビジョンに掲げ、クラウドカメラとクラウド録画サービスによって人々の“第3の眼”をつくり、人々の生活や行動をアシストできる世界を目指すセーフィー。世界中のカメラ映像をクラウド化し、社会のために誰もがその映像を活用できるプラットフォームを目指す。2021年9月には東証マザーズ市場(現グロース市場)への上場も果たした

防犯・犯罪防止といった安全面の強化や河川の氾濫を監視する防災機能から、飲食店の混雑状況の検出や駐車場の精算まで、映像プラットフォームの可能性は幅広い。そんな同社が2019年10月、警備業界の大手セコムと資本業務提携契約を締結したと発表した

提携の目的は、社会にさらなる安心と安全を提供すること。そんな両社の協力関係は、2019年6月にセーフィーがセコムのクラウド録画カメラに採用されたところから始まっている。そして提携後の2021年3月には、セコムの法人向けシステムセキュリティ「AZ」とも連携し、セキュリティ分野における眼を強化。提携時に掲げた目的を、早々に実現した。

セコムにとっては、シンプルにアナログカメラだけでなく、信頼できるクラウドカメラが自社のサービスに活用できるようになったのは大きなメリットである。またセーフィーにとっても、警備業界の大手のネットワークに入り込むことで、クラウドカメラへの信頼感を高め、その存在感を示すことができたのではないだろうか。

映像データの可能性はセキュリティだけに留まらない。セーフィーとセコムの業務提携は警備業界に大きなインパクトを与えたが、他の業界との提携も期待が高まる。セーフィーもそうした戦略を隠すことなく、実際に建設業界のメガベンチャー達と建設業界のDXを推進するために「建設DX研究所」を設立したり、キャノンマーケティングジャパンと共創を加速させると発表したりと各方面での連携や共創に力を入れている。日常の生活の中において、映像プラットフォームの真価を感じられる日はそう遠くないのかもしれない。

代表佐渡島氏へのFastGrowによる単独インタビュー記事はこちら。

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Hacobu✕BIPROGY──大手から受け取ったバトン。
30兆円規模の巨大な企業間物流の課題解決を加速させる

深刻化する物流業界の人手不足。特に「企業間物流」は30兆円市場と推計されており、2030年には約35%の荷物が運べなくなるという試算もあるという。そんな市場の課題に立ち向かい、物流のDXを推進するのがHacobuだ。トラック予約受け付けサービス『MOVO Berth』をはじめ、物流の一連の流れを一つのプラットフォームに集約し、業界に根付く古い慣習を改善すべく取り組んでいる。

そんなHacobuと資本業務提携をしたのが、大手ICTソリューションベンダーのBIPROGY(旧日本ユニシス)だ。BIPROGYはDX、セキュリティ、カーボンニュートラルなど、業界問わず様々なソリューションを提供しており、その中にトラック予約受付サービスで業界シェア4位の『SmartTransport(スマートトランスポート)』があった。今回の提携の目玉は、「本サービスのHacobuへの譲渡」である。BIPROGYは4.9億円の出資とともに、自社のサービスを『MOVO Berth』へと統合し、より大きな事業への急拡大を狙う。

こうした今回の協業のきっかけをつくったのはHacobu側だ。CEOの佐々木氏は、大企業の事業を引き受けることで事業成長を加速させることが狙いだったと話している。提携の内容は大きく4つあり、1つ目は先述の通り『SmartTransport』の譲渡、そして2つ目はBIPROGYが『MOVO』を販売すること。3つ目はHacobuが強みを持つコンサルティングサービスと、BIPROGYが強みを持つシステムインテグレーションサービスの相互連携・データ活用による新たな価値創造。4つ目がBIPROGYグループのCVCファンド運営子会社Emellience Partnersによる第三者割当増資の引き受けである

長きに渡って社会と産業を支えてきたICTベンダーから、期待の新興企業に成長するスタートアップへのバトンタッチとも取れる提携だ。「物流業界の課題を解決するためにベストな選択肢は何か」という問いに対し、長年培ってきた自社のサービスとノウハウをスタートアップへ託すという決断をしたBIPROGYの決断に、好感を抱くスタートアップパーソンも多いだろう。物流DXを担う企業として大きな力を得た分、その責任も重くのしかかるHacobu。企業間物流の未来を変えてくれると期待したい。

佐々木氏らがその戦略について詳しく語った記事もあるので、最後に紹介しよう。

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エブリー✕味の素──Well-beingに貢献することを目指して協業。生活者の食と健康をより豊かに

「前向きなきっかけを、ひとりひとりの日常にとどける。」をミッションとし、レシピ動画アプリ『DELISH KITCHEN』など、人々のライフスタイルを豊かにするサービスを提供するエブリー。そんな同社が2023年4月に資本業務提携を締結したのが、100年以上に渡り日本の食と健康を担ってきた味の素である

味の素は2030年に向けて、「アミノサイエンス®で人・社会・地球のWell-beingに貢献する」ことを目標としており、その中でも「フード&ウェルネス」の領域では、CX進化を通じたWell-beingの実現を目指している。そんな「フード&ウェルネス」領域が目指すビジョンを実現させるため、エブリーが持つ「動画メディアを通じた生活者との接点」や「食品スーパー向けのデジタルソリューション」と、味の素グループが持つ「アミノ酸研究を通じた健康と栄養の知見」などを組み合わせるのが本提携の狙いである。

エブリーは2015年創業以来、生活者の「非計画購買」の課題を解消するため、『DELISH KITCHEN』を中心に情報提供を続け、2023年4月の段階で5万本以上のレシピと3,000万人以上のユーザーを要するメディアへと成長した。100年以上の歴史を持つ、味の素グループが提携先として選ぶのだから、エブリーが積み上げてきた生活者との接点やデータ、メディアを成長させてきた手腕は目を見張るものがあると言えよう。

大手が長い時を経て築き上げてきた土壌に、新しい芽を植えるスタートアップ。両社の強みを存分に活かし、生活者が生きるために欠かせない食と健康の領域においてどんな結果を見せてくれるのか、今後が楽しみではないか。

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PKSHA Technology✕「全国の金融機関」──“非競争”の領域に全国的な協業を生み出す

PKSHA Technologyが「全国の金融機関どうしの協業」を生み出すという、前代未聞の取り組みを急速に進めている。グループ会社であるPKSHA Workplaceが提供する『地域金融機関FAQプラットフォーム』の導入が全国47行に達したと、2023年11月に発表した

このプラットフォームは2022年5月にローンチされたもの。同8月には、十六銀行、三十三銀行、肥後銀行、名古屋銀行の4行と業務提携を結んだというリリースも発表していた。それから1年あまりで、関連プロダクトである『PKSHA AI SaaS』の導入も含めた金融機関が合計47行にまで拡大。月間アクセス数が2023年8月には480万回以上を数え、月間ユニークユーザーは約230万人にのぼるなど、急スピードでの拡大を見せている。

ポイントは、見出しにとったように「全国の金融機関」が同時に協業相手となるという点だ。いわばバーティカルSaaSのように、金融機関に共通するペインを同時多発的に集めては解決するプラットフォームを構築するというかたちとなっている。

財務省のサイトにまとめられている一覧では、日本全国の金融機関数は920。47行という数字だけを見ればまだ5%に過ぎないが、従業員数や取り扱いサービス数などを勘案した企業規模で見れば、小さくないシェアをすでに獲得していると言える。今後の広がりも期待でき、非常に興味深いオープンイノベーション事例として成長していきそうだ。

同社の事業戦略についてじっくり聞いた代表上野山氏インタビュー記事もあるので、合わせてぜひお読みいただきたい。

こちらの記事は2023年12月15日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

大久保 崇

編集

大浜 拓也

株式会社スモールクリエイター代表。2010年立教大学在学中にWeb制作、メディア事業にて起業し、キャリア・エンタメ系クライアントを中心に業務支援を行う。2017年からは併行して人材紹介会社の創業メンバーとしてIT企業の採用支援に従事。現在はIT・人材・エンタメをキーワードにクライアントWebメディアのプロデュースや制作運営を担っている。ロック好きでギター歴20年。

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