連載事業家の条件
勝てるD2Cブランドをつくるなら、むやみなABテストはご法度。
「ダサい」サプリメントを変革するトリコの戦略
世界を変える事業家の条件とは何だろうか──。
この問いの答えを探すべく、連載「事業家の条件」が立ち上がった。数々の急成長スタートアップに投資してきたXTech Ventures・手嶋浩己氏が、注目する事業家たちをゲストに招き、投資家の目から「イノベーションを生み出せる事業家の条件」を探っていく。
今回は、ここ数年で一気に注目を集めるようになった「D2C」を取り上げる。国内外問わず、D2Cブランドが次々と誕生。アパレルを筆頭に、寝具や食品などさまざまな領域で勢いを増す。
ゲストに招いたのは、カスタマイズサプリメント「FUJIMI BEAUTY SUPPLEMENT(以下、FUJIMI)」を展開するトリコ代表・藤井香那氏。FUJIMIは、肌診断の結果をもとに、ユーザーに適切なサプリメントをカスタマイズし、定期的にデリバリーするサブスクリプションサービスだ。トリコは2019年10月、プレシリーズAラウンドで1.5億円の資金調達も実施し、手嶋氏もシードラウンドとあわせて2回投資している。
本記事では、「ブランドのアイデンティティを確立することが重要」と語る藤井氏にFUJIMIの成長戦略を聞いた。D2C事業の成功をドライブする、データ・ドリブンとデザイン思考のバランス、そして徹底したLTV(顧客生涯価値)最大化へのこだわりとは?
- TEXT BY RYOTARO WASHIO
- EDIT BY MASAKI KOIKE
「ダサい」サプリメントを、“おしゃれな化粧品”さながらに変革
藤井サプリメントって、胡散臭くてダサいイメージがありませんか?その印象、根本から変えていきたいんです。もっとスタイリッシュで、おしゃれなものをつくりたい。
取材の冒頭、藤井氏は屈託のない笑顔で、既存のサプリメントへの「宣戦布告」とも取れる言葉を放った。

トリコ株式会社 代表取締役社長・藤井香那氏
藤井海外では、おしゃれな化粧品を使うようにサプリメントが飲まれており、日本との違いに衝撃を受けました。だから、FUJIMIのデザインを考えるときも、THREEやSHIROといった、洗練されたデザインの国産化粧品を参考にしました。
デザインにこだわるのは、女性たちの「葛藤」を解消するためだ。藤井氏によると、女性は一定の年齢を過ぎると基礎化粧品だけでは不十分に感じ、スキンケアなどの外面だけではなく、身体の内側からのケアを求めるようになる人が多いという。
しかし、美意識が高いからこそ、パッケージに大きく「ハリ・コシ」「美肌」と書かれていると手を出しにくい。洗練された存在でありたい気持ちがありながら、美しくなるためのサプリメントを遠ざけてしまうのだ。

FUJIMIは箱の質感、開封後のビジュアルなど、細部までデザインにこだわる。
藤井FUJIMIはデザインからマーケティングまで一貫してインハウスで行っています。広告代理店などの外部パートナーに頼らず、LPからInstagramの画像に至るまで、ブランドとしての一貫性を保つため、こだわりを持って内製しているんです。
手嶋氏が「プロダクトを見ずに」投資を即決できた理由
海外では「Ritual」や「care/of」など、パーソナライズ可能なサプリメントブランドが大型の資金調達に成功している。
一方、日本ではD2Cサプリメントブランド市場は未成熟。FUJIMIは先駆けた存在だが、手嶋氏は「投資当時、D2Cという単語はここまで浸透してなかったし、先行者優位があるD2C企業だから投資をしたわけではない」と言い切る。

XTech Ventures 共同創業者兼ジェネラルパートナー・手嶋浩己氏
手嶋過去に一緒に仕事をしたときに、藤井さんには局面突破するために創意工夫するチカラがあり、仕事へのコミットメントも頭抜けて強いと知りました。加えて、藤井さんと数名のメンバーの間にトリコの会社としての色、企業文化が存在したことも決め手になりましたね。
手嶋氏が投資を決めたのは、プロダクトが存在しない段階だった。決断させた“色”とは、いったい何だったのか。
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こちらの記事は2020年02月21日に公開しており、
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連載事業家の条件
執筆
鷲尾 諒太郎
1990年生、富山県出身。早稲田大学文化構想学部卒。新卒で株式会社リクルートジョブズに入社し、新卒採用などを担当。株式会社Loco Partnersを経て、フリーランスとして独立。複数の企業の採用支援などを行いながら、ライター・編集者としても活動。興味範囲は音楽や映画などのカルチャーや思想・哲学など。趣味ははしご酒と銭湯巡り。
編集
小池 真幸
編集者・ライター(モメンタム・ホース所属)。『CAIXA』副編集長、『FastGrow』編集パートナー、グロービス・キャピタル・パートナーズ編集パートナーなど。 関心領域:イノベーション論、メディア論、情報社会論、アカデミズム論、政治思想、社会思想などを行き来。
1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。
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